329 無理難題にゃ~
猫の国が、各国の王の為に用意した電動バスを見たさっちゃんと女王は、くれくれと我が儘を言う。
「「ケチ~!」」
どっちがじゃ! バスもキャットトレインと同じく高いんじゃぞ!!
「うちでも三台しか無いにゃ。これを取られると困るにゃ~」
「え~! キャットトレインだって、いっぱい持ってるんだから、一台ぐらい、いいじゃない~」
「キャットトレインも四台しか無いにゃ。東の国には五台納品予定なんにゃから、作っている余裕もないんにゃ」
「少しぐらい遅れてもいいわよ?」
「女王までにゃ~! 他国にも売らにゃいといけないのはわかっているにゃ~」
さっちゃんと女王の我が儘は「にゃ~にゃ~」と反論し、電動バスに積み込む。双子王女も、今日は女王達と過ごす予定なので、電動バスに乗り込むと発車させる。
電動バスの目的地は旅館。東の国組は、滞在期間をここで過ごしてもらう。
「うわ~。いい雰囲気の宿ね」
「ここは、報告にあった宿ね」
さっちゃんは褒めてくれるが、女王は不穏な事を言い出したので、わしはジト目で見つめる。
「やっぱり女王の差し金だったんにゃ……」
「シラタマちゃん。差し金ってなに?」
「こにゃいだ、アイ達が押し掛けて来たにゃ。商業ギルドとハンターギルドの仕事で来たって言ってたけど、黒幕は女王だったんにゃ」
「お母様。そうなのですか?」
「違うわよ。両ギルドが気を使って、私に報告を上げたのよ」
「本当かにゃ~? 信じられないにゃ~」
「何よその顔は! そもそもジョジアーヌ達から聞いて知ってたわよ!」
「髭を引っ張るにゃ~!」
また暴力に訴えるよ……これが他国の王様にする事なの?
「それよりシラタマちゃん。コリスちゃんとワンヂェンちゃんはどこにいるの? 会いたい!」
「うちでおとなしくしているにゃ。変にゃのは、わし一人で十分にゃろ?」
「自分で変って……」
「モフモフの掛け算は捨てがたいよ!」
なにその掛け算……モフモフは掛けられるものなの?
「じゃあ、さっちゃんはうちに来るかにゃ?」
「え……どうしよう……お姉様と久し振りに会ったからお喋りしたいし……」
「滞在期間はまだあるんにゃし、今日は双子王女と過ごすといいにゃ。もし足りにゃかったら、帰りはわしが送ってやるにゃ」
「シラタマちゃん! ありがとう!!」
さっちゃんは感謝して、わしに抱きついて撫で回す。
「にゃ!? ゴロゴロ~。女王はあとで話があるからにゃ。ゴロゴロ~」
「はなし?」
「ゴロゴロ~。バハードゥから呼び出しがあったにゃ。大切な話にゃら、報告しに来るにゃ」
「なるほど……イサベレを待機させておくわ」
「ゴロゴロ~。と言う訳で、撫でるのはやめてくれにゃ。ゴロゴロ~」
「「はっ」」
さっちゃんが撫で出したら女王まで撫でるので、止めてからわしは逃げ出す。ひとまず家で、コリスやリータ達とゴロゴロし、皆が寝付くと、わしは闇夜に紛れて屋根を飛び交う。
そうしてバハードゥの滞在している屋敷に忍び込み、二階の窓の開いている部屋に飛び込んだ。
「シラタマか?」
「邪魔するにゃ~」
バハードゥは驚く事もなく、わしを席に着かせる。テーブルには、水差しはあったが、密談には少し足りないかと酒を取り出し、グラスを合わせる。
「それで、話ってなんにゃ?」
バハードゥに渡された紙には、話があるから夜に会いたいと書かれていたので、念話で了承し、会いに来たのだ。
「まずは、南の国の王を止められなかった事を謝っておこう。すまなかったな」
「あ~。女王でも制御しきれなかったみたいにゃし、もういいにゃ」
「そうか」
「しかし、前に聞いた時には、南の国は乗り気だったにゃろ? にゃんで今になってゴネてるにゃ?」
「西の王に
なるほど。南の王は、流されやすい性格ってスサノオも言っていたもんな。
「まぁ国力の差があるもんにゃ。でも、計画の内容は教えてくれるんにゃろ?」
「お前は察しがいいな。とりあえず、俺が情報を流したとは言うなよ?」
「わかっているにゃ」
「計画と言うのは……」
わしはバハードゥから計画の内容を聞くと、礼を言って女王の元へ走る。そこで、少し話し合ってから役場に戻り、リータとメイバイの眠る間に潜り込み、朝を迎える。
「ワンヂェン。コリスの事を頼むにゃ」
「わかったにゃ~」
「コリスも、ワンヂェンの言う事を聞いて、頼むにゃ?」
「うん! まかせて!!」
朝食を済ませたわしは、ワンヂェンとコリスにお願い事をしてから、ホウジツの滞在している役場の部屋にお邪魔して、もしもの時の対応を話し合う。
話が終われば階段を降り、大会議室で腕を組みながら、戦いの始まりを待つ。
「ゴロゴロ~」
リータとメイバイとエミリに、代わる代わる撫でられながら……
そうして、各国の王を乗せた電動バスや馬車が到着したと聞くと、リータとメイバイを出迎えに向かわせ、エミリにはキッチンで作業を開始してもらう。
王達が大会議室に入って来ると、昨日と同じ席に座ってもらい、物々しい雰囲気の中、運行会議の開始を宣言する。
「とりあえず、議長は必要だと思いにゃすので、発起人の一人のわしが務めさせていただいてもよろしいですかにゃ?」
わしの問いに、各国の王は頷いてくれたので、話を続ける。
「キャットトレイン運行に伴う各国の仕事と利益は、東の女王と話し合って決めにゃしたが、問題があるみたいですにゃ。みにゃさんに平等に行き渡るように考えたんですが、どこに不満があるんですかにゃ?」
わしの質問に、小国の王は、西と南の王に目をやる。すると、西の王が咳払いしてから口を開く。
「まずは東の国と猫の国には、素晴らしい計画を発案した事には感服する」
「滅相なお言葉ですにゃ」
「だが、このキャットトレインに関しては、言いたい事がある」
「にゃんですかにゃ?」
「このキャットトレインには、我が国の技術が使われている。特許侵害に伴い、慰謝料として販売額の八割を支払ってもらおう。これから作る物にも同額を要求する」
おおう……大きく出たな。西の王は思ったより強欲じゃな。そんなわけのわからない要求が通るとでも思っているのか? まさかその為に、南の王を唆したのか?
あ、スサノオの見た未来では、裏で暗躍してたとか言ってたから、今回も同じ事をしておるのか……
南の王に続き、西の王まで同じ事をするなんて、なんだかスサノオの予想に近い未来だから、ますますキャットトレインが大戦の火種に見えて来たな。
さて、どうしたものか……
バハードゥの情報では、多数決でゴリ押しするとしか聞いていなかったんじゃが……バハードゥはわしと繋がっているから、計画の全容は教えられておらんかったのかな? それにわしに向けられる殺気も、計画のひとつかもしれん。
まぁやるだけやってみるか。
わしは笑顔を崩さず、西の王の要求に返答する。
「特許侵害ですにゃ……。それでは、そちらの設計図か乗り物を、直に見せていただけにゃいでしょうかにゃ?」
「そんなもの必要ない。そちらが見せればいいだけじゃ」
「それじゃあ、話が進まないですにゃ~」
「なら、設計図を見せろ。
完璧に、キャットトレインの独占販売権を奪いに来ておるな。やるわけないじゃろ!
「わかりましたにゃ。ただ、まさか特許侵害があったとは思わにゃかったので、設計図が手元に無いですにゃ」
「話し合いの席に、何も用意していないのか……これだから、新米の王は困る。ハハハ」
南の王がわしを馬鹿にするかのように笑う。それに釣られて各国の王も笑う。わしは苛立ちを覚えるが、笑顔を崩さない。内心は……
イラッ! 王で笑われたのなんて初めてじゃ。せめて猫が王様をしている事で笑わんか!! ……うん。それもやめてね。
キレてはみたものの、ブーメランのようにして返って来たので、少し落ち込むのであった。それでも笑顔を崩さないわしは、出来る猫だ。
皆の笑い声の中、わしはリータには耳打ちし、一度会議室から出てもらい、しばらくして戻って来たら、西の王に向けて話を再開する。
「申し訳ありにゃせん。にゃにぶん国家機密にゃので厳重に保管し、製造場所も秘密にしていますにゃ~。これから送らせるように指示を出しにゃしたので、一日お待ちしてくださいにゃ」
「フンッ。わかった。今回はそれで不問としてやろう」
「ありがとうございますにゃ。ところで、不満はそれだけですかにゃ?」
「そんなわけがなかろう。この各国の税金の均等や……」
西の王は、それからペラペラと
止まらない西の王の演説で、わしと女王は激オコ。笑顔は崩さないが、眉間には青筋が浮かぶ。わしは毛で隠れて見えないからなんとかバレずにすんだが、女王は……怖いから顔を見れない。
そうして西の王の演説が終了すると、各国の王から拍手が起こり、西の王は拍手が収まるのを待って声を出す。
「では、各国の王よ。これより決議をいたす。賛同の者は……」
いつの間にお前が議長になってるんじゃ! と、ツッコンでいる場合じゃない。女王がわしの足をゲシゲシ蹴っておる。は~い、止めま~す。
「その前に休憩にしましょうにゃ。もう、お昼を大きく回っていますにゃ~」
「もうそんな時間か。時の鐘も無い田舎国家では、時間がわからなくて困るな。ハハハ」
各国の王が笑い声で賛同する中、メイバイに耳打ちして料理を運ばせる。今回は、エミリ特性チャーハンとギョウザセット。
箸は使える者がいないので、ギョウザはフォークで突き刺して食べる事になるが、どちらにも白ペリカンの肉を使っているので、うまいの一言しか聞こえない。
うまい物を食べて少し空気が和らいだところで、西の王が多数決を取り出そうとするので、次の余興に連れ出す。
皆を電動バスや馬車に乗せると、全てわしのバスに繋いでしまって発進。内壁から出て、北の外壁近くまで移動する。
何も無い場所に、一同困惑しているところを、わしが説明を始める。
「え~。みにゃさん。設計図が届くまで話が進まにゃいと思いますので、待つ間に楽しいゲームをしましょうにゃ。ホウジツ、みにゃさんに説明してあげてくれにゃ~」
「はい~。お任せあれ~」
ホウジツは揉み手で王達を褒めながら、ゲームの練習をする。玉がまっすぐ飛べば大袈裟に拍手をし、玉が穴に入れば大袈裟に褒め称える。
王達がやっている事とはお察しの通り、ゴルフだ。
最近わしは暇だったので、コリスと一緒にゴルフコースを作っていた。
街の外のお散歩で芝生を見付けては持ち帰り、グリーンとティーグラウンドに移植し、魔法でバンカーやクリークも作り、障害物の木も配置した。
コリスも庭いじりをしたかったようだが細かい作業が向かなく、わしと一緒に街の外から木を持ち帰って植える作業を楽しそうにやっていた。
残念ながら、まだ作り始めたばかりなので4ホールしかなく、フェアウェイも土のままで、ラフも
このゴルフコースを使って各国の王を楽しませ、交渉を円滑に進めようと言う腹だ。いや……大国をフルボッコにしてやろう。
う~しゃっしゃっしゃっしゃっしゃ~。
わしは泣き叫ぶ王達の顔を思い描き、心の中で高笑いを続けるのであった。
「シラタマちゃんは、また変な事をしているのね」
「変って言うにゃ~!」
高笑いは、さっちゃんに止められるのであったとさ。
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