330 一番ホールにゃ~


 ホウジツの元でゴルフを習っていた各国の王は、練習を終えるとゴルフが気に入ったのか、動きやすい服装になってからコースに出る。

 人数が多いので、東、西、南の大国組プラスわし。六人の小国の王と、ホウジツが接待しながら回る。クラブは四組しか作ってなかったので、交代で使ってもらう。


 ティーグラウンドに大国組がそろうとくじを引くが、わしが一番を引いてしまった。


「では、わしから行かせてもらいますにゃ。チャ~シュ~にゃ~ん!」


 わしは一声かけてからドライバーを振るう。すると、ゴルフボールは快音を響かせ、かっ飛んで行った。


「あ~。やっちゃったにゃ~」


 わしの打ったボールはワンオンどころか、ノーバウンドでグリーンを遥かにオーバーしてしまった。すると、さっちゃんが不思議そうな顔をして寄って来た。


「シラタマちゃん。いまのは合ってるの?」

「大失敗にゃ~。OBで、一打のペナルティにゃ~」

「あはは。猫の国のゲームなのに、なんでそんなに下手なのよ~」

「力加減が難しいんにゃ。次は西の王だったにゃ。どうぞですにゃ~」


 わしに呼び込まれた西の王はドライバーを振るい、ボールを飛ばす。わしは拍手をパチパチと……肉球のせいでぶにょんぶにょんと鳴らして褒め称える。


「ニャイスショット! 初めてにゃのに、上手いですにゃ~」

「そ、そうか?」

「あの位置にゃら上手く行けば、次の一打でグリーンに乗せれますにゃ~。では、南の王もどうぞですにゃ~」


 南の王は力強くドライバーを振るい、ボールをかっ飛ばす。だが、ボールは真っ直ぐ飛ばずに左に曲がってしまった。


「なっ……ボールが曲がったぞ! 誰か魔法を使っただろ!!」

「いえいえ。いまのはフックボールと言うテクニックですにゃ。球に回転が掛かってしまったみたいですにゃ」

「なるほど……たしかに打った時に、さっきと違うところに当たった気がする」

「ボールが止まっていると言えども、平常心で打つのは難しいですにゃ。でも、西の王よりも遠く飛んだですにゃ~」

「お、おお」

「次は、東の女王ですにゃ~」


 わしに呼び込まれた女王はアイアンを振り、まっすぐ飛ばしてフェアウェイのど真ん中に落とした。


「おお! 女王は堅実だにゃ~。いい位置に付けたにゃ~」

「そう? 全然飛んでないわよ」

「このホールは五打で決めればいいんにゃ。もう一度、同じだけ飛ばせばカップを狙いやすい位置に落とせるにゃ」

「ふ~ん。そうやって遊ぶのね……」

「さて、わしの第三打にゃ。だいぶ離されてしまったし、次はさっちゃんにいいところを見せなきゃにゃ」

「シラタマちゃ~ん。がんばって~」

「おうにゃ! わいは猫……プロゴルファー猫にゃ~!!」


 さっちゃんに応援されたわしは、よけいな事を口走りながらドライバーを振るう。そのボールは快音を響かせ、グリーン手前に飛んで行った。


「にゃ!? 左にゃ! 左に行けにゃ~~~! ……にゃ~。バンカーにゃ~」


 わしは身振り手振りでボールを誘導したが、願いは届かず、バンカーに落ちる。するとさっちゃんが、落胆しているわしに質問して来た。


「あれは砂場? 砂場に入ったらダメなの?」

「そうにゃ。足場も悪いし、出しにくいにゃ」

「そんなの作らなければいいじゃない?」

「にゃはは。邪魔にゃ物があるから面白いんにゃ」

「そんなものなの?」

「そうにゃ。では、飛んだボールの元まで行きましょうにゃ。歩きたくなかったらわしが荷車を引っ張りますにゃ。でも、コースは自分で歩いて確認したほうがおすすめにゃけど、どうしにゃす?」


 皆はわしの質問に、ひとまず歩くと言ってボールの元へと進む。当然、仲良しの者どうしに別れて歩くので、わしは女王とさっちゃん、それと護衛のイサベレと共に歩き、西と南の王は自国の護衛と共に歩く。


 そして、各々の策略を話し合うのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 南の王と西の王は、隣り合って歩き、何やら喋っていた。


「いまのところ、私が一歩リードですな」

「南の……ここには遊びに来たわけではないぞ」

「あ……そうでしたな。しかし、特許権は意外でしたな。もっと抵抗して来ると思っていましたが」

「抵抗していない振りをしているだけかもしれん」

「そこまで、あの猫は考えていますかね?」

「わからん。だが、多数決を邪魔して来ているところを見ると、何か考えがあって遊びに連れ出したんじゃろう」

「あれほど、失敗に一喜一憂しているのに、そこまで考えているとは思えませんが……」


 二人の王は、シラタマの背中を見ながら、先ほどの王らしからぬ慌てようを思い出す。


「たしかにな。だが、警戒だけはしたほうが得策だ。東の女狐がバックにいるのだからな」

「東の女王は厄介ですな」

「いまのところ動きは無いが、何をしでかすか……」

「まぁ多数決を断られたところで、連れて来た小国の王を使えば、応じざるを得ないでしょう。皆、剣も扱える猛者ですしな」

「それは最終手段じゃ。まずは特許権。これを手中に収める事が先決じゃ。金の成る木を、必ず我らの物にするぞ!」

「おう!」


 西と南の王は、決意を持ってゴルフに打ち込むのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 一方、わしはさっちゃんと手を繋ぎ、ゴルフバッグを積んだリヤカーを運びながら女王と喋る。


「それで、特許権を手離すつもりなの?」

「にゃんで?」

「何も反論しなかったじゃない。設計図も送ってもらうんでしょ?」

「まっさか~。送ってもらわにゃくても、持ってるにゃ」

「え……」

「あれは演技にゃ。手の内は、全てさらけてもらったほうがいいからにゃ~」

「なるほどね……。でも、似たような技術を使っているなら、難癖付けて来るわよ」

「あ~……まぁマネ出来るにゃら、とっくに走っているにゃろ?」

「そうだろうけど……」

「考える事は、みんにゃ一緒にゃ。おそらく、東の国でもそんにゃ実験をした事があるんじゃないかにゃ?」


 女王は思い出すかのように、頬に手を持っていく。


「魔道具で乗り物を作る実験は、した事はあるわね」

「にゃ~?」

「でも、シラタマの車のように、出力が安定しなかったから、研究は下火になったわ」

「わしも同じ失敗をしたにゃ。だから違う方法で作ったにゃ。あ、国家機密にゃから、製造法は秘密にゃ」

「知りたいのは山々だけどね~。車両を作る権利だけでも、かなりの利益を上げられるし、聞かないでおいてあげるわ」

「にゃはは。さすが女王にゃ」

「でも、乗車料はどうするのよ? このままでは多数決で負けて、かなり高くなってしまうわ」

「そっちは、わしの腹心が切り崩しているにゃ」

「練習に付き合っていた男のこと?」


 ホウジツの顔を思い出した女王は何やら怪訝な顔をするので、わしも同じ顔で説明する。


「胡散臭い奴にゃろ?」

「ええ。とても、街を束ねる人種には感じなかったわね」

「元、商人だからにゃ。ホウジツの口車は天下一品にゃ~」

「商人……だからあの軽さなのね。王が猫で変わっているのに、街にも変わった者を使っているのね」

「そこは、わしの事は言わにゃくていいんじゃないかにゃ~? わしだって傷付くんにゃよ?」

「「無理!!」」

「さっちゃんまで、にゃんでにゃ~!」

「「あはははは」」



 二人に笑われながら歩いていると、女王のボールに辿り着く。そこで女王は、アイアンで刻み、グリーン手前に落とす。三打目でグリーンに乗せたが、かなり奥に行ってしまった。

 西の王の第二打は、グリーンの右に行ってしまい、三打目でグリーンに乗せるものの、カップからは遠い位置に付ける。

 南の王も二打目はグリーン奥に外してしまい、三打目は慎重に打つが、弱すぎてグリーンに乗らず。四打目でなんとか乗せて、カップから3メートルの位置に付ける。

 わしはと言うと、力加減に気を付け、集中して打ったので、四打目でバンカーを脱出。しかもベタピン。1メートルの位置に付けた。


「やったにゃ~!」

「シラタマちゃん。すご~い! がんばって~」

「にゃはは。ありがとにゃ~」


 さっちゃんから激励の声をもらい、わしはボールまで近付いて銅貨を置き、マークする。皆には何をしているかと聞かれたので、ボールが見えると集中できないからどけたと説明する。


「次は~……西の王が遠いですかにゃ? グリーンは若干の傾斜や、芝の目があるから真っ直ぐ進まないですからにゃ。気を付けて打ってくださいにゃ~」


 わしの忠告を聞いた西の王は、パターを振り、ボールを転がす。するとボールは、蛇のようにクネクネと動き、カップから1メートルの位置で止まった。


「よし!」

「おお~。ベタピンにゃ! すごいですにゃ~!!」

「ふふん。芝を読みきってやったぞ!」

「西の王は筋がいいですにゃ~」


 よしよし。ガッツポーズが出るなら、ゴルフにハマっておるな。これで、ゴルフの普及も目処が立つかも?



 次に打つのは女王。慎重に長いパットに挑むが、半分の距離を残して止まってしまった。まだ一番遠い距離だったので、再度打たすと、ボールはカランとカップに落ちた。


「やったわ!」

「お母様! すごいです!!」

「おめでとうにゃ! パーにゃ~!!」

「パー?」

「見事、五打で入れたって事にゃ。上手いにゃ~」

「フフ。ありがとう」


 わし達が盛り上がっていると、南の王が慎重に芝を読んでいたのが見えたので、静かにして下がる。

 静かになったところで南の王はパターを振り、ボールを転がすが、カップから数センチ手前で止まる事となった。


「くそ~!」

「ちょっと弱かったですにゃ。もうその距離なら続けて打ってくださいにゃ」

「わかった……」


 南の王は残念がりながら、ポンっとボールをカップに落とす。


「これで、一打プラスのボギーですにゃ。でも、気を落とす事はないですにゃ。初めてで、この数字だけでもすごい事ですにゃ」

「そ、そうか?」

「南の王の強打があれば、練習したら、マイナスだってすぐですにゃ~」

「ほ、ほう」


 うん。嬉しそうじゃな。こちらもハマってくれそうじゃ。



 最後は、わしと西の王の距離がほぼ同じだったため、早く打ちたそうにしていた西の王に先手を譲る。


「入ったぞ! 余もパーってやつじゃな」

「すごいですにゃ~。うかうかしていたら、みにゃさんに置いていかれそうにゃ~」

「では、次のホールに行こうか」

「にゃ! わしの番が残っていますにゃ~」

「あ、すまんすまん。忘れておったわ」

「では、わしもちゃっちゃと入れて、みにゃさんに追い付きますにゃ」


 わしはマークしていた銅貨とボールを入れ換え、パターを構える。そして、息を整えてから、慎重にパターを振る。


 よし! もらった!!


 わしは真っ直ぐ転がったボールを見て、入ったとガッツポーズをするが、ボールはカップからすんでの所で曲がってしまった。


「にゃんで~~~!」


 わしが地面に手をついて項垂うなだれていると、カップの手前に小石を発見する。


「こ、小石が邪魔しやがったにゃ~!」


 わしがムキーっと怒りをあらわにしたら、さっちゃんがニヤケた顔で質問して来やがった。


「邪魔があるから面白いんじゃなかったの~?」

「これとそれとは話が違うにゃ~!!」

「「「「あはははは」」」」



 心底悔しがるわしを見て、皆は大笑いし、次のホールに向かうのであった。

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