328 猫の街がパニックにゃ~


 猫の国に来たアイ達は、一番の見所は王様であるわしの仕事だったようで、とても王様とは思えない仕事をしていたと情報を仕入れ、受けていた仕事の期日を迎える。

 わしが送って行こうかと聞くと、キャットトレインのチケットは往復で買っていたようなので、せっかくだからキャットトレインの旅を楽しむと言って帰って行った。



 アイ達が帰って一週間、わしも王様の仕事に精を出している。そうしてせっせと働いていると、役場の手伝いをしていたリータとメイバイが走ってやって来た。


「シラタマさ~ん。また土をいじっているのですか?」

「今度は街の外ニャー?」


 そう。最近では街の緑化計画も、水質管理もそこそこ目処が立ったので、内壁から出て、農場にする予定ではない外壁の近くで作業をしている。


「またアイさんに、変だって言われちゃいますよ」

「コリスちゃんにまで手伝わせて、何してるニャー」

「それにせっかく切った木も、なんで植えているのですか」

「えっと……日陰があったほうがいいかにゃ~っと……」

「そんなこと聞いてないニャー!」

「それより、ジョスリーヌさんが連絡が取れないって怒っていましたよ」

「にゃ? あれ?? 首輪の魔力が切れてたかにゃ?」

「知りませんよ!」

「さあ、行くニャー!」

「にゃ~~~」


 わしが首輪を触って確認していると、メイバイが首根っこを掴み、凄い速さで走る。リータもその速度に合わせ、コリスも追いかけっこが始まったのかと追いかける。

 リータ達も走りが速くなっていたので、外壁から役場まで五分ほどで着く事となった。そうして双子王女の元まで連行されたわしは、ポイッと投げ捨てられる。


 扱い雑じゃね? わしが王様のはずなんじゃが……すみません!


 心の中で文句を言うと、双子王女、王妃二人に一斉に睨まれた。なので、わしは正座をして、沙汰を待つ。


「まったく……ただでさえ王様らしくない仕事ばかりしているのですから、連絡ぐらいは、すぐに出てもらわないと困りますわよ」

「ごめんにゃ~」

「もういいですわ。それより、大変な事態が起きていると、お母様から連絡が来ましたわよ」

「大変にゃ事態にゃ?」

「お母様は……」


 双子王女はリレー方式で女王からの連絡を伝える。なのでわしは、右へ左へと顔を交互に向けながら話を聞く。出来れば、首が忙しいから一人で喋って欲しい。


 どうやらキャットトレインの運行について、東の国で、他国の王との話し合いを行ったそうだ。

 そこで、東の国が主導権を持って話をしていたのだが、「西の国」と「南の国」の王が、ゴネ出したのこと。それに加わり、何故か関係ないのに同伴していた西の小国や南の小国の王達も、ふたつの大国に乗っかったらしい。

 ゴネた内容もたいした事でもなく、猫の国が来ていないと話が出来ないとの一辺倒で、女王が一任されていると言っても聞いてくれなかったそうだ。


「それで、ただいま向かっているのですわ」

「ふ~ん……にゃ!? 誰が向かっているんにゃ?」

「聞いてましたの? 運行会議に出席していた者、全員ですわ」

「にゃ、にゃんでこんにゃ事に……て言うか、こんにゃ遠くまで来るって、王様って暇にゃの?」

「「シラタマちゃんが言うセリフなのかな~?」」


 双子王女が妖しく目を光らせるものだから、わしは恐怖を覚える。ここは平謝りで土下座をし、危機を乗り越えた。


「と、言う事は……」

「忙しくなりますわよ!」

「最短で、三日しか猶予がありませんわよ!」

「にゃんで~~~!」



 突如、迫り来る王の襲来。期限も迫り、猫の街は慌ただしくなる。

 双子王女には、ラサとソウの街に連絡してもらい、使える人材の確保を頼み、わしは猫の街の建設班と街の警備上層部を集める。

 そこで、各国の王が集まる旨を説明し、建設班には屋敷の手入れの指示、ケンフとシェンメイには街の警備プランを提出させる。


 一通りの指示を出すと、わしは猫耳の里に走り、代表のセイボクから酒や味噌、出来ている加工品を猫の街に多く送るように指示を出し、手元にある物は、帳簿に数字を書き足して買い取る。


 そうして猫の街に戻ると、建設班と話し合い。


 使えそうな屋敷が足りないじゃと? 寮を使え! 住んでる者は狭くなるけど、何軒かくっつけてしまえ!

 人手も足りないじゃと? 明日になったら応援が来るから頑張って!

 猫の手も借りたいじゃと? わしの事を言っておるのか? あ、そうですか。手が空いたら手伝いま~す!


 建設班との話が終わると、次は警備担当者との話し合い。


 ケンフとシェンメイは、やり直しじゃ! なんで全員でわしを守っておるんじゃ! これ以上思い付かないじゃと? もういい! ウンチョウを召喚する!!



 と、各国の王が到着するまでの三日間、猫の街はパニックとなり、慌ただしく準備をするのであった。



 そうして突貫工事で猫の街は王を迎える準備を整え、わしとリータとメイバイは、正装で外壁西門で待機する。


「にゃんとか間に合ったにゃ~」

「他の街からも手伝いに来てくれてよかったニャー」

「本当にゃ~」

「それにしても、どうして猫の国にまで来るのでしょう?」

「さあにゃ~? 偉い人の考えている事はわからないにゃ~」

「シラタマさんだって、偉い王様じゃないですか?」

「それを言ったら、リータとメイバイだって、王妃様で偉いにゃ~」

「うっ……そうでした」

「そんな事を言われたら緊張するニャー!」

「まぁいざとにゃったら、王様を殴ってやれにゃ」

「出来るわけないじゃないですか!」

「にゃはは。冗談にゃ。……さて、来たみたいだにゃ。開門するにゃ~」


 と言って、わしみずから西門を大きく開ける。普段はキャットトレインの到着時間に合わせて警備の者が開けているのだが、VIPの揃うこの数日は街の警備で手いっぱいなので、わしがやるしかない。

 しばらくして、キャットトレインが西門で停車すると、リータとメイバイを運転車両に乗り込ませ、運転手にはゆっくり進むように指示を出す。わしは通り過ぎるのを待ち、門を閉めると走って追い付き、キャットトレインに乗り込む。

 この日の為に、線路も役場まで引き、警備にも道を開けるように命令してある。あとはノロノロと走らせれば、内壁の門を開ける者もいるので、ノンストップで役場まで辿り着ける。



 キャットトレインにわしも乗り込むと、リータ達と共に隣の車両にお邪魔する。


「シラタマちゃん!」

「にゃはは。さっちゃん、いらっしゃいにゃ~」


 隣の車両は東の国が占領していると聞いていたので、気兼ねなく入ると、さっちゃんに抱きつかれた。


「もう! ぜんぜん連れて来てくれないから、こっちから来ちゃったじゃない」

「いや~……観光する場所がにゃくて、面白くないかにゃ~っと……」

「シラタマちゃんが居るだけでいいのよ! モフモフ~」


 さっちゃんは何かモフモフ喋り出したが、理解できないので、女王に話を振る。


「女王もいらっしゃいにゃ~」

「ええ。でも、ごめんね。抑え切れなかったわ」

「もう大変だったにゃ~。しかし、にゃにが目的なんにゃろ?」

「おそらく、利権でしょうね。均等に配分すると言っても聞かなかったから、シラタマの運賃を狙っているんじゃない?」

「そんにゃちょびっとをにゃ!?」

「確かに安いけど、移動する人数や物の数を考えると、バカにならないわよ」

「え~! 開発費用もあるし、女王も納得してくれたにゃ~」

「私はね。人が増えれば考え方も、人それぞれよ。もっとひどい取り分を要求して来るかもしれないから、覚悟しておきなさい」

「こういう面倒ごとを女王にやってもらいたかったのににゃ~」

「だから謝ったでしょ! 私も想定外の出張なんだからね!!」


 その後、女王の愚痴が始まり掛けたので、一旦止めてもらって、キャットトレインが役場まで着く短い時間で各国の王の人となりを聞く。

 そこで各国の王の呼び名や敬称なんかをどうしたらいいかと尋ねたら、話し合いの場では、本名のあと、もしくは、国の名前のあとに王を付ければ失礼がないと教わった。


 さっちゃんとも話したいけど、撫でるだけで勘弁してね?


 役場に着くと皆を降ろして、偉そうな人と、どうしても連れて入りたい人だけは、大会議室に入室させ、残りは庭で待機してもらう。

 各国の王の移動だったので護衛や従者は多数居るが、広い庭にはテーブルや椅子を多く配置したから、余裕を持って入る事が出来た。

 そこには夕食のビュッフェも用意したので、勝手につまんで休んでもらう。もしも従者が滞在先を知りたいと言うのなら、それを案内する者も居るので、なんとかなるだろう。



 大会議室では、各国の位があると双子王女から聞いていたので、用意してあった円卓へ、ヤーイー達に各国の王を席に案内させ、従者はその後ろのテーブル席に案内させる。

 円卓に着いた出席者は、猫の国を代表してわし。東の国からは女王。いちおう発起人なので、隣り合って座る。その後ろのテーブルには、リータとメイバイ、さっちゃんとイサベレが席に着く。

 その対面に西の国と南の国の王が座り、円卓の両側を埋めるように、西と南の小国の王が三人ずつ座る。


 皆が席に着くとわしは立ち上がり、言葉を掛ける。


「え~。みにゃさん。遠い我が国までご足労いただき、ありがとうございにゃす。話をしたい事は山ほどあると思いにゃすが、難しい話は明日にして、今日は楽しく飲みましょうにゃ」


 わしの合図で食事が運ばれ、各国の王に酒が注がれる。


「ではみにゃさん。歓迎の宴の開始ですにゃ。かんぱいにゃ~!」


 わしの乾杯の音頭に、王達はグラスを上げて、静かに応える。


 う~ん……盛り下がっておる。ジシイやおっさんだらけだと、花が無いのう。花は我が国の王妃と、東の国の女王達と護衛でついて来たイサベレぐらいじゃ。

 先にメインを持って来させるか。その間、わしが場をつなごう。


 わしは給仕をしてくれているズーウェイを呼んで、キッチンにいるエミリにメニューの出す順番を変えるようにと頼んで来てもらう。

 そうして、リータとメイバイを立たせ、わしと共に各国のテーブルを回る。


 まずは隣に座る発起人の女王。清酒をリータにお酌させる。


「ささ、ぐいっといってくれにゃ」

「………」

「どうしたにゃ?」

「王のする事じゃないでしょ……」

「そうかにゃ~?」

「まぁいいわ。ん。美味しい」

「ちょっと味が上がったにゃ。まだまだ美味しくなるように頑張るにゃ~」


 女王と話し終わると、メイバイに減ったグラスにお酌をさせて、次の王に向かう。

 次は西の王。一番年配のじい様なので、こちらを立てるのが無難だと双子王女からアドバイスをもらっている。

 なので、髭を触っている西の王に近付くが、周りから殺気が飛んで来た。


 ん? わしが何かすると思っているのか? 警戒するのはいいんじゃが、気分がいいモノではないな。

 しかし、数が多い。小国の王までもが、わしに殺気を放っておる。王様ってわりにはがたいもいいし、腕に覚えありか? まさかこいつらは、わしに喧嘩を売りに来たのか? 勘弁しとくれ。わしが何をしたと言うんじゃ。

 あ! ひょっとして、これがスサノオの言っていた大戦のくすぶっている火種か? 嘘じゃろ? ちょっと便利な乗り物を作っただけなのに……

 ひとまず、リータとメイバイが殴り掛からないように念話で止めておこう。さっき言ったのは冗談だからね~? よし。頷いておるし、これでいいじゃろう。



 わし達は殺気を無視して西の王に近付くと、にこやかに声を掛ける。そうして自己紹介を終わらせるが、いまいち反応が鈍い。


「西の王様。酒が減っていますにゃ。我が妻に注がせますにゃ~」

「あ、ああ……」


 わしは目配せすると、リータは酒を注ぎ、西の王はわしをガン見しながら、その酒を飲み干す。


「いい飲みっぷりですにゃ~。メイバイ、お注ぎするにゃ~」

「はいニャー」

「どうですにゃ? 我が国の特産品の酒は」

「悪くはないんじゃが……」

「にゃ~?」

「猫が喋ると聞いていたが、この目で見たのに信じられんのじゃ」


 あ……だから、この場のほとんどがわしをガン見しておるのか。猫である事を忘れておったわ~。殺気もこのせいかな?


「変わった王ですが、以後、お見知りおきのほどをお願いしにゃす」

「ああ。こちらこそ」


 わしが両手を出すと、西の王は渋々だが、右手で手を取ってくれた。


「それでキャットトレインの件なのじゃが……」

「ま、ま、今日は仕事の話はやめましょうにゃ。これから美味しい物もたくさん出て来にゃすから、楽しんでくださいにゃ~」



 西の王に挨拶を済ませると、次は体の大きな中年男性、南の王にお酌をしに向かう。こちらでも殺気を向けられるが、軽く挨拶をし、猫の件を無難に流して、キャットトレインの件に触れられるとごまかして去る。

 小国の王にもお酌をして回り、最後の一人、バハードゥにお酌をする。


「パハードゥまで来たんだにゃ。長旅、お疲れ様にゃ~」

「ま、まぁな……」


 バハードゥは、わしの言葉に口を鈍らせるので、どうしたのかと顔を見ると、円卓の下で紙を渡して来た。わしはさっと目を通すと、会話を続ける。


「巨象の肉を用意しているけど、違う肉でもよかったかにゃ?」

「ああ。そうしてくれ」

「それじゃあ、楽しんでくれにゃ~」


 最後の一人にお酌をすると、ちょうどメインディッシュが運ばれて来たので、わしも席に戻る。


「ささ、どうぞですにゃ~」


 皆に食べるように促すと、一口頬張ってから、ガツガツと食べ出した。何の肉かと質問が飛び交い、おかわりを求める者も現れるので、ズーウェイを走らせて対応する。

 そうして、皆の腹が膨らんで落ち着いたところで、お開きを宣言する。


「さて、我が国の料理も堪能していただいた事ですので、そろそろお開きにしたいと思いにゃす。外に乗り物を用意していにゃすので、滞在先まで送らせにゃす。どうぞ長旅の疲れをとってくださいにゃ~」



 各国の王は、わしの宣言で立ち上がり、外へと向かう。外には、猫の国に三台しかない電動バスを停めている。

 電動バスの使い道は、列車の運行が二日に一便と少ないので、急ぎの用件がある時用に作っておいた。もちろん動力は電動なので、誰でも運転できる。

 ただし、キャットトレインと比べて小さく作っているので、徒歩五日分の距離しか進めない。街はほとんどが三日程度の距離なので、片道には十分だから重宝している。

 名称で揉めたが、ここだけは譲れない。「キャットバス」なんて、訴えられかねないからな。


 その電動バスには西の国と南の国の王達が乗り込み、軍隊から派遣された運転手が運転する。それで足りないならば、サスペンション搭載馬車も多数用意しているので、小国を含め、問題なく滞在先の屋敷へと送られて行く。



 各国の者を見送っていると、東の国は最後まで残り、さっちゃんと女王が神妙な顔で話し掛けて来る。


「シラタマちゃん……」

「にゃ? にゃんですか?」

「シラタマ……」

「女王まで……にゃんですか? 怖いにゃ~」

「「このバス、ちょうだい!!」」

「せめて買ってくれにゃ~~~」


 当然、さっちゃんと女王は、そんな便利な物を知ったのならば、欲しがるのであったとさ。

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