604 第二回建国記念日 二日目にゃ~
「「「「「サンバ!!」」」」」
「「「「「キャアアァァ~~~!!」」」」」
大量のウサギがリズムに合わせて踊るサンバカーニバルが始まると、観客が湧き上がる。
体に色を塗って頭や肩に羽を付けたウサギ族は、小刻みにステップを踏み、腰をフリフリ、体をクネクネ、腕を回し、踊りながら前進。観客が並ぶ大通りを
このサンバカーニバルは、ウサギ族に伝わる民族舞踊だ。
と言っても正式なサンバカーニバルではなく、ウサギ族の踊りがサンバっぽかったので、わしが勝手に名付けただけだ。
各国の王族が集まるのに、二日間の盆踊りだけでは味気ないかと思い、ウサギ族に何か祭りをやっていなかったかと聞いたら、体にペイントして踊る民族舞踊を教えてくれた。
これは使えるかと思って詳しく聞くと、選ばれた者しか踊れない踊りとのこと。神事のように神聖な物かとわしは思ったが、たんにクリフ・パレスが狭いから人数制限があっただけ。
遊びでは打楽器を鳴らして踊っていたからほとんどのウサギ族は踊れるらしいが、極一部の者しか参加できないので、ここで踊ってみないかと言ったら大量に集まったのだ。
ウサギだけでもサンバカーニバルは成り立つだろうが、そこはわし。何台ものバスの屋根を改造してお立ち台も作ってやったから、元の世界のサンバカーニバルに近い物となっていると思われる。ウサギしかいないけど……
『みんにゃも踊れにゃ~! サンバにゃ~!!』
「「「「「サンバにゃ~!!」」」」」
祭り
サンバカーニバルの目的地は、内壁南門の外。内壁の屋上にはVIP専用観覧場が作られており、踊るウサギが近付くと歓声があがっている。
『サンバにゃ~!』
「「「「「サンバにゃ~!」」」」」
『サンバにゃ~!』
「「「「「サンバにゃ~!」」」」」
煽りまくるわしが乗るバスが南門を潜ると、そこは踊るウサギの大群。円を何重も描き、中央には数台のバスが集まる。
そこでウサギ達は踊りまくり、観客が外に出て来て輪を作ったところで締め。
『サンバにゃ~!』
「「「「「サンバにゃ~!」」」」」
いつの間にかウサギ族も語尾に「にゃ」が付いているが、この声を最後にサンバカーニバルは止まるのであった。
『にゃはは。みんにゃ~? ウサギ族のダンスはどうだったにゃ~??』
わしが笑いながら問うと称賛の嵐。英語を理解できていないウサギは多数居るが、その割れんばかりの拍手の音を聞いて抱き合って喜んでいる。
それから観客はもっと見たいと残念がる声に変わるので、わしは音声拡張魔道具を握り直す。
『にゃはは。その願い、わしが叶えてやるにゃ~! アンコールゥゥ……いってみようにゃ!!』
わしの合図でまた軽快な音が流れると……
「「「「「サンバにゃ~!」」」」」
ウサギ族から掛け声があがり、さっき通った道でサンバカーニバルのおかわり。ぶっちゃけ、行って来いする予定だったので、予定通りだ。
予定と違うのは、観客までもがサンバカーニバルに加わり、ウサギ族の間で踊るものだから、阿波踊りみたいになってしまった。
『にゃはは。サンバにゃ~! サンバにゃ~!!』
しかし、楽しければそんなもの関係ない。踊りゃなそんそん。わし達は「サンバにゃ~!」と叫びながら、踊りながら、笑いながら盆踊り会場に戻るのであった。
「まだやっぢゃっだに゛ゃ……」
盆踊り会場VIP席に戻ったわしは、声がガラガラ。ウサギも観客も踊り疲れてしばらくの休憩を余儀なくされた。
「あはは。ひどい声ね~」
わしがぐで~んとテーブルに突っ伏していると、さっちゃんに笑われる。なので、念話で反論。
「あまり喋らせないでくれにゃ。このあと、まだわしの出番があるんにゃ」
「あ、念話? じゃあ私も……」
さっちゃんは声を出さずにわしと喋る。
「サンバカーニバル凄かったね。シラタマちゃんの世界でもウサギが踊っていたの?」
「ウサギや猫が歩いているのはこの世界だけにゃ。本場はもっと大人数の、半裸の男女が踊っていたにゃ」
「何その恥ずかしい格好……そんなことしていいの??」
「暑い地域の祭りだからにゃ。服を着てなんてやってられなかったんじゃないかにゃ~?」
「あ~……だからウサギ族も、今日は服を着てなかったんだ。それならモフっておけばよかったな~」
「それはやめてあげてにゃ~」
さっちゃんはてっきりわしの話が聞きたいと思っていたが、興味がウサギ族に移った。
「あ~あ。ウサギ族をうちで引き取っておけば、この景色が毎日見れたのにな~」
「苦情は女王に言ってくれにゃ~」
「何度も言ったわよ。でも、お母様がどうしても許してくれなかったの。ウサギ族なんて王都に放ったらパニックになるからって」
「だから拒否ってたにゃ!?」
「あははは。シラタマちゃんは毎日大変そうだったよね~」
「女王のヤツ~~~!!」
さすがは女王。先見の明があるから、ウサギ族が住人にモフられる未来が見えていたようだ。なので女王とさっちゃんは、双子王女からわしが右往左往している報告を笑いながら聞いていたらしい……
しばしの休憩と昼食を挟むと、盆踊り大会の再開。わしは喉を
『今年も楽しかったにゃ~』
わしが音声拡張魔道具で語ると、住人や観客の視線が集まる。
『今回見た通り、立って喋るウサギが猫の国の国民となったにゃ。ウサギだからと言って、獣じゃないにゃ。みんにゃ意思を持つ人間にゃ……』
わしは一呼吸置くと頭を下げる。
『猫の国のみにゃさん……各国のみにゃさん……撫でたいと思う気持ちはわかるんにゃけど、ウサギ族を人間として扱ってくださいにゃ。差別をしないでくださいにゃ。ウサギ族だけじゃないにゃ。差別を受けて苦しんでいる人はいっぱい居るはずにゃ。人間、等しくみにゃ平等にゃ。どうか見た目や生まれだけで、人を見下す事はやめてくださいにゃ。お願いしにゃす』
わしのお願いに、拍手が意外な方向からパチパチと聞こえたので目を向けるとさっちゃんだった。そのさっちゃんに続いて東の国王族、猫の街の住人、ウサギ族、観客、各国の王族が手を叩き、押し寄せるような拍手となった。
『にゃはは。ありがとにゃ~。それじゃあ建国記念日の締めはこれで終わりとするにゃ。でも、祭りはもう少し続くから楽しんでくれにゃ~!!』
「「「「「にゃ~~~!!」」」」」
こうして振り出しへ……わしがまた太鼓を「ドーン!」と鳴らして盆踊りが始まる。祭り櫓の下では、王族、観客、ウサギが入り乱れて渦巻いている。
ここには種族も地位も無い世界が広がっている。
もう踊りなんてぐちゃぐちゃ。
自由な世界だ。
一曲が終わればわしもダイブし、笑顔の渦巻きに飲み込まれ、盆踊り大会は続くのであった……
太陽が落ちても続いていた建国記念の祭りは、そろそろクライマックス。
王族が退場してキャットタワーの空中庭園に集まったら、わしの登場。
「「「「「ぶっ……わはははは」」」」」
「にゃんで笑うんにゃ~」
どうやらわしが真面目な話をしたから、こいつらはわしの顔を見て思い出し笑いをしているようだ。そして……
「「「「「ね~こ屋~~」」」」」
「「「「「キャット屋~」」」」」
「「「「「ぶっ……わはははは」」」」」
「だからにゃんで笑うんにゃ~!!」
フィナーレの猫花火を見て、変な屋号でわしをバカにしていたと思ったら、また思い出し笑い。わしの顔が空に描かれているので、さっきの真面目なわしを思い出したようだ。
「にゃったく……」
バカにされまくったわしは、猫花火も見ないで晩酌。しばし一人で飲んでいたら、さっちゃんがニヤニヤしながらやって来た。
「にゃに~? 顔が気持ち悪いんにゃけど~」
「まぁっ! レディに対して失礼ね。普通に笑っていただけでしょ~」
いや、どう見てもわしをバカにしようとする顔をしておった! 許可なくモフッて来るし……
「今年も楽しかったね~」
「だにゃ。準備は大変だったけど、みんにゃから多くの見返りは貰えたにゃ~」
「ウフフ。まるでいっぱしの王様みたいなことを言うのね」
「いっぱしじゃにゃくて、完全に王様だからにゃ?」
「あ、そうだった! あはははは」
さっちゃんにバカにされながら感想を聞いていたら、冒険の話に変わった。
「いつ行くと言われても……ウサギ族の移住が終わってにゃいから、もう少し先になるにゃ」
「まぁモフモフが増えるんじゃ仕方ないわね」
「モフモフじゃにゃくて、ウサギ族だからにゃ?」
「あ、そう言えばさあ……」
「にゃに?」
「シラタマちゃんって私と冒険する前、訓練してなかった? いまも順調に強くなってるの??」
「にゃ……忘れてたにゃ~~~!!」
わしのうっかりミス。さっちゃんと冒険したドタバタとウサギ族移住のドタバタのせいで、ここ一ヶ月以上、訓練を中断していた。なんなら狩りもしていない。
やった運動と言えば走っただけ。それもここ最近は徒歩が多かった。なのでポポルを軽くあしらった事を訓練のひとつに加えるわしであった。
「やっぱ太ってるんじゃない?」
「丸いだけにゃ~~~」
さっちゃんには言い訳したものの、本当に太っていたらショックなので、体重計に乗るかどうか悩むわしであったとさ。
「さてと……これで建国記念日はおしまいにゃ。忙しいにゃかお集まりくださり、有り難う御座いにゃした」
猫花火が終わると、猫の国王族でお辞儀。各国の王族から拍手を受けて解散を言い渡すわしであっ……
「にゃに!? ウサギを寄越せにゃと?? いつににゃるかわからないにゃ~~~!!」
建国記念日は終わったのだが、ウサギ族を寄越せと押し寄せる王族が勝手に世界会議を始めやがった。
「だからまだにゃにも決まってないんにゃ~~~!!」
世界会議改め、ウサギ会議はわしが拒否っていては終わらず、長時間の説得に負けて「善処する」と言ってようやく終わりを告げるので……
「だから善処するって言ってるにゃろ! 泣くにゃ! 確約してくれるまで涙は止まらんわけないにゃろ!!」
力で勝てないのならば、泣き落とし。王族はマジで泣きしながらいつまでも懇願して来るので、「ウサギ族を絶対にレンタルします」という誓約書にサインさせられるわしであった。
こうして建国記念日後夜祭はウサギ会議に変わり、翌朝近くになって幕を下ろしたのであったとさ。
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