603 第二回建国記念日 一日目にゃ~
急遽行った輸出法案のせいで、もうお昼。ブツブツ言いながら盆踊り会議に戻ると、そこには……
踊る阿呆に食う阿呆。
出店で遊ぶ阿呆にウサギに痴漢する大阿呆。
ついでにキツネやタヌキに痴漢する大大阿呆。
同じモフモフならモフらなきゃそんそん!
猫の街は音楽と笑い声に包まれているが、その音にまじって「ドントタッチミー!」が聞こえている。
いちおう日ノ本から遊びに来ているキツネやタヌキには、天皇家から注意するように言っておいたのだが、忘れてたっぽい。
そんな騒ぎの中、各国の王族がしばらくわし達を見ていなかったから「何をしていた」と聞いて来たので、ラビットランドを案内していたと嘘をついた。
「ほれ! VIPルームのチケットにゃ~~~!!」
「「「「「キャアアァァ~~~!!」」」」」
当然疑って来たので、VIPルームのチケットをバラ蒔いてやった。王族男性陣は興味のない人も居たのだが、女性陣がすんごい群がって来たので、わし達が消えていた問題はうやむやになるのであった。
VIP陣がラビットランドのチケットを拾っている間に、またわし達は消える。と言っても、さっちゃん達と食べ歩きをするだけ。
さすがに女王とちびっこ天皇は、はしたない的な事を言っていたが「今日はお祭りなんだから」とゴリ押しして食べ歩く。
ちなみに玉藻は、世界を回っている時に食べ歩きもしていたので抵抗はなくなっていたようだ。
そんな皆を連れて歩き、とある出店でわしの忠告を無視したさっちゃんが騒ぎ倒す。
「か、辛い! ヒィ~~~!!」
「だからちょびっとにしておけと言ったんにゃ~。ほれ、牛乳にゃ~」
「ゴクゴク……」
さっちゃんが食べた物はタコス
「さっちゃんには、カレーにゃら食べやすいかもにゃ」
タコスの生地であるトルティーヤはまだ実験段階なので王族には出せず、屋台で試している。その事もあっていまいち自信がないので、カレー味も用意しておいた。わし的には、こっちがお勧めだ。
「うん。こっちは食べられるわ。でも、変わった生地を使っているのね」
「昨日トウモロコシを食べたにゃろ? そのトウモロコシから作った生地を使ってるんにゃ」
「へ~。あの粒々がパンみたいになるんだ」
さっちゃんと喋っている間に、女王達もタコス擬きを食べて感想を言い合っていた。概ね好評だったが、やはりタコス味は辛かったようだ。
そしてその隣の屋台では……
「ちょびっとだからにゃ? それも辛いからにゃ??」
「わかってるよ~……ん? いけるかも……あ、やっぱ辛い!!」
お隣はエルフの里の郷土料理……と言いたいところだが、わしの趣味に走って麻婆豆腐丼。香辛料はエルフ産だから嘘ではないのだ。
「日ノ本の豆腐が使われておるのか。
「お~。玉藻も辛うまに慣れて来たんだにゃ~」
「南の国は辛い料理が多かったからのう」
玉藻だけでなく女王からも高評価をもらえたが、ちびっこ天皇もお子様の口なのでやはり合わなかったようだ。
「なんでこんなに辛い物ばかり食べさせるんだよ」
「たまたまにゃ。たまたまここに辛い物を集めていただけにゃ」
「こんなの売れるのか?」
「好きな人は好きなんにゃ。けっこう食べてる人は居るにゃろ~?」
周りを見れば、我慢して食べている者も居るが、辛い物が好きな者は嬉しそうに食べている。ちびっこ天皇はあまり信じていないようなので、食べてる人に質問してみたら、もっと辛くていいとのこと。どうやら南出身の人だったようだ。
けっこうレアな人を引き当ててしまったが、これでいちおう皆は納得してくれたので、わしだけ麻婆豆腐丼をモグモグしながら次へ。
「日ノ本の天ぷら……」
「こっちは何かのフライかしら?」
次もどんぶり物。玉藻は天丼が気になり、女王はカツ丼が気になるようだ。
「麻婆丼みたいに、ごはんの上に具が乗ってるんにゃ。江戸の屋台で売ってたけど、玉藻は知らないにゃ?」
「そちと違って買い食いなんかせんからのう。じゃが、妾は塩派なんじゃがな~」
「いらないにゃらわしが食べるにゃ~」
「食わんとは言っておらんじゃろ!」
天丼も高評価。玉藻はあっと言う間に食べ切り、カツ丼を追加注文していた。
「女王もどうにゃ?」
「美味しいわ……でも、お腹に来るわね」
「いらないにゃらわしが食べるにゃ~」
「ひー君食べる? はい」
「あ~ん。モグモグ……ママ上、美味しいです!」
女王もわしにくれないので、また丼をふたつ注文。さっちゃんに一口ずつあげてモグモグ。
「よく食べるわね……だから太るんじゃない?」
「太ってないにゃ~。丸いだけにゃ~」
「まぁ太っているほうがモフモフしてるか」
「だから太ってないにゃ~。失礼にゃ~」
さっちゃんはわしのボディーをディスるので、ちょうどホポル親子を連れたリータ達が歩いていたから呼び寄せ、近くに居たウサギをポポルの隣に立たせる。
「これが、太るということにゃ」
「うっわ~! モフモフしてる~!!」
「いや、モフモフしてないで、わしが太ってないと言ってくれにゃ~」
さっちゃんが話を聞いてくれないので、わしに絡み付いて来たルルを取っ捕まえてモフモフしている女王に聞いてみる。
「わし、太ってないにゃろ?」
「出会ってから体型は変わっていないけど、元々太っているように見えるから、なんとも言えないわ」
「だから丸いだけなんにゃ~」
「それよりウサギって、丸々太らせて大丈夫なの?」
女王はわしのボディーをスレンダーと言ってくれないので諦めて、仕方なくその話をしてあげる。
「まだ調査中にゃんだけど、食べ物が少なかったから痩せていたみたいにゃ。本人に聞いても体調がいいから、これが適正体重かもにゃ」
「なるほど……じゃあ、このサイズのウサギを百匹発注するわ」
「食べ物みたいに言うにゃ~」
女王が怖い事を言うので、ポポル親子はプルプル震えてわしに売らないでくれと懇願して来た。なので、ポポル親子はクリフ・パレスで重要な任務があるからと言って守っておいた。
「ほ、他の人は??」
「まさか食べるのですか??」
「我が国の国民を食べさせるわけないにゃろ!!」
女王のせいで変な誤解が生まれてしまったので、ウサギ族は他国に移動させないとわしは説明するのであっ……
「約束が違うわよ!」
「百人くれるって言ってたじゃない!」
「そんにゃ約束してないにゃ~~~!!」
女王とさっちゃんが嘘を言うので、わしの信頼がポポル親子の中で揺れるのであったとさ。
どんぶり以外にも食べ歩きを続け、お腹が膨らめば遊技系の出店で楽しく遊び、盆踊り会場に戻ってひと踊り。さっちゃんが太鼓を叩きたいと言い出したので、わしと一緒に合わせ叩く。少しズレていたが、わしも適当なのでお構いなし。
こうして夕方頃まで騒ぎ散らして、建国記念日の一日目は終わりを告げるのであった。
その夜……
空中庭園で各国の王と酒を酌み交わしていたわしは、少し酔いを覚まそうと一番端まで行き、柵に腰掛けて猫の街をボーッと見ていた。
「ふぅ~。妾も少し休憩じゃ」
すると玉藻がやって来て、わしの隣で柵に肘をつく。
「にゃったく、あいつらはバカ騒ぎし過ぎにゃ~」
「本当にのう。日ノ本ではあんなにはっちゃけておらんかったぞ」
「にゃんでわしの国では静かに出来ないんにゃろ?」
「それはそちのせいじゃろう」
「にゃ~?」
各国の王がバカ騒ぎしている理由は、わしには思い付かない。
「そちが王らしくないから、あやつらも肩に乗っている荷を下ろせるんじゃろう」
「別にわしのマネする必要ないにゃ~」
「そちは、もう少し各国の王をマネたほうがよいぞ。これは本心じゃからな?」
「え~! 面倒にゃ~。わし、農家の生まれだったんだからにゃ~」
「ほう……農家から成り上がるとは、サルみたいな奴じゃな」
「にゃ! 玉藻は会った事があるんだったにゃ! ちょっと昔話してくれにゃ~」
玉藻の豊臣秀吉談は面白かったのだが、わしにも思うところがある。
マジで猿だったのか、豊臣秀吉……でも、猿が農業してたって、どゆこと??
どうやらこの世界の秀吉は黒い猿だったらしい。農家の畑を漁った時に芋のうまさに感動して養子になり、そこから天下を取ったんだって。しかし人間と子を成す事が出来なかったので、猿の血は日ノ本に残らなかったらしい。
わしが驚きと感動で昔話を聞き終わると、玉藻はわしの顔をジッと見て来た。
「そう言えば、そちは転生の秘密を妾に隠せと言っていたな」
「そうにゃけど……それがにゃに?」
「いや、こんな日ノ本出身だとわかるような祭りなんかして、隠す気があるのかと思ってのう」
「だってこの世界に日本があるなんて、これっぽっちも思ってなかったんにゃも~ん」
日ノ本出身の玉藻ならではのダメ出しを受けながら、夜が更けて行くのであった……
翌朝は、各国の王の男性陣と共に、離れで目覚めた。どうやら飲み過ぎて帰るのが面倒になったので、うちに泊まって雑魚寝してたっぽい。
こんなのでいいのかと思ったが、わしはリータとメイバイに怒られていたから、他人の事にかまっていられない。
はい。はい。わしの仕事しない病を王様にうつしたらダメなんですね。でも、こいつらが……はい。はい。全部わしのせいです。ごめんなさい。
口答えしようとしたら二人のおでこから角が生えたので、すぐに謝罪。とりあえず王達もうちで朝メシを食わせないといけないので、手配してくると言って逃げ出した。
急だったので、ほとんどわしの次元倉庫に入っている物を出してやったら、こんなにうまい物を毎日食っているのかと質問の嵐。なので、エミリを紹介して逃げ出した。
だって、わしは忙しいんじゃもん!!
各国の王の事はリータ達に任せ、わしは仕事。我が家で各国の王が寝たせいで少し開始時刻が遅れたが、盆踊り会場でアナウンスを始める。
『さぁて、今回の目玉はこれにゃ! ウサギ族ぅぅ~……スタンバイにゃ~~~!!」
わしの合図と共に、軽快な笛の音と様々な打楽器の音が鳴り響き、大量のウサギ族が盆踊り会場に雪崩れ込んで大声を出す。
「「「「「サンバ!!」」」」」
頭や肩に羽を付けた多種多様な柄のウサギ達は、小刻みにステップを踏み、腰をフリフリ行進し、サンバカーニバルが始まるのであった。
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