284 猫会議 その?にゃ~


 猫会議一日目を終えた翌日、朝食会議を終えたシラタマは、コリスの散歩で内壁の外に消えて行った。残された猫会議参加者の、センジ、ウンチョウ、セイボク、ホウジツは、シェルターの食堂でシラタマ抜きの会議を執り行う。

 シラタマが居ないので、議長はセンジ。各街との細かい決め事を話し合うみたいだ。


「皆様……昨日の猫陛下の話は、どう思いましたか?」


 いや、議題はシラタマだった模様だ。そのセンジの発言に、ホウジツが真っ先に手を上げる。


「商人の僕より、商売に詳しくてビックリしました!」

「ですよね。私も多少は街の管理をしていたのですが、私よりも詳しく見えました」


 ホウジツとセンジが項垂うなだれる中、ウンチョウが手を上げる。


「山向こうは、それほどの文化レベルという事なのでは?」

「可能性はありますね。それも猫陛下は国の要職についていたのかもしれません」


 なるほどと皆が頷くが、セイボクが否定する。


「シラタマ王は、生まれてから三年と言っておったが……」

「「え!?」」


 センジとホウジツが驚愕の表情をする中、ウンチョウもシラタマの言葉を思い出したようだ。


「あ……たしかに言ってた!」

「それが事実なら、三歳で我々より優れた知識を持った事になりますぞ?」


 セイボクの発言に、皆、頭を抱えてしまった。謎が増えるばかりでは仕方がない。


 皆が静まり返ってすぐに、リータとメイバイが食堂に入って来た。二人は頭を抱える皆の姿を不思議に思い、質問する。


「皆さん。どうしたのですか?」

「いえ……お二人は猫陛下と付き合いが長いのですよね?」

「まぁそうですね」

「猫陛下の山向こうでの暮らしを教えてください!」

「え? 別に普通でしたよ?」

「その普通が聞きたいのです!」


 リータはセンジの圧力と、皆の見つめる目に何事かと思いながら、シラタマとの暮らしを話し始める。

 シラタマから聞いた森での暮らし、王都での暮らし。それらを簡単に話すが、皆はさらに頭を抱える事となった。


「どうしたニャー?」

「メイバイさんは、猫陛下が三歳なのに、頭が良過ぎると思いませんか!」

「あ~。シラタマ殿のやる事に、いちいち考えちゃダメニャー。センジさんも、街でのシラタマ殿の戦いを見たニャ?」

「お強いのは見ましたけど……それが何か?」

「あんなの序の口ニャ。山のような化け物相手にも、ひるまず戦って倒していたニャー」

「山? ……ちなみにどうやってですか?」

「魔法とネコパンチニャー!」

「はい??」


 メイバイの説明に、皆は混乱する事となった。その姿に、リータとメイバイは苦笑いだ。

 そんな中、散歩を終えたシラタマが会議場に入って来た。


「おはようにゃ~……にゃ? みんにゃ頭を抱えてどうしたにゃ?」

「それが……」


 シラタマが質問すると、リータがこれまでの経緯を説明する。


「あ~。そんにゃ事より、会議をしようにゃ」

「そんな事って……山ですよ。山!」


 興奮して詰め寄るセンジを、シラタマは迷惑そうに宥める。


「声が大きいにゃ~。いまは国の事より、大事な事があるのかにゃ?」

「……そうですけど」

「さっさとやろうにゃ。昨日、決めるのを忘れていたんにゃけど、軍のトップを決め忘れていたにゃ。……にゃ? 残りのみんにゃはどうしたにゃ?」


 シラタマの質問に、申し訳なさそうにセイボクが答える。


「昨日の参加者は、話が難し過ぎてついていけなかったので辞退しました。申し訳ありません」

「あ~。みんにゃ発言がなかったもんにゃ。途中、消えていた奴も居るしにゃ……まぁいいにゃ。でも、コウウンをトップにしようと考えていたんにゃけど……」


 セイボクとシラタマの会話に、ウンチョウが入って来る。


「コウウンは戦場では役に立つと思いますが、管理には向かないかと」

「そうにゃんだ。軍のトップは猫耳族に就いて欲しいんにゃけど、誰か出来る人は居るかにゃ?」

「でしたら、俺がやりましょうか?」

「ウンチョウがにゃ? ウンチョウはラサで忙しいにゃろ?」

「ラサはセンジさんが居るから大丈夫ですよ。昨日の会議でも、街の運営は、俺では力不足に思えました」

「それでも猫耳族の暮らす街にゃ。猫耳族が上層部に居ないと、わしが許可できないにゃ」


 シラタマの発言に、ウンチョウは前もって用意していた案を述べる。


「そこには俺の息子を入れようと思います。戦闘は苦手ですが賢い子なので、センジさんの元で習えば、次の代表候補になれるでしょう」

「にゃるほど。先を見据えた配置だにゃ。……うん! いいにゃ。許可するにゃ」

「ありがとうございます」

「それじゃあ、ウンチョウの役職は……大将にしようかにゃ。軍は基本、専守防衛にゃ」

「「「「専守防衛?」」」」


 シラタマの発言に、皆、首を傾げる。


「えっと……これから他国と隣接する事になるにゃ。帝国のように、こちらから他国に攻めたりしにゃいで、攻められたら反撃しようって事にゃ」

「と言う事は、守るだけですか?」

「そうにゃ。侵略にゃんかしても、いい事がないからにゃ」

「王が、それでいいのなら従います。しかし、軍は戦わなければ仕事が無くなるのではないですか?」

「そんにゃ事ないにゃ。森はすぐそばまで来ているにゃ。街を守るにも、森を押し返すにも、軍でやったほうが早いにゃ。昨日話した商隊の護衛も仕事だからにゃ」

「なるほど」


 シラタマの説明にウンチョウだけでなく、一同納得した表情を見せる。


「軍にはそれらをやってもらい、獣も持ち帰って欲しいにゃ。帝国の三人の将軍は契約魔法で縛っているし、コウウンを入れたら、防衛と森の押し返しが出来るにゃろ?」

「はい。その仕事の割り振りは考えさせていただきます」

「頼んだにゃ~。あと今日話す議題は、各街の足りない物の話し合いかにゃ? 猫の街は……」



 このあと話し合いは続き、お昼が来るとシラタマはリータ達を連れて、会議場から出て行った。その後、ズーウェイが会議参加者の元へ食事を運び、皆は口に運ぶ。


 皆の食事が終わると、シラタマの話をコソコソとする。


「やっぱり賢すぎますよ。軍にまで精通していましたよ?」

「専守防衛でしたか……民主主義に市場原理。お猫様からは聞いた事の無い名称が出て来ますね」

「でも、説明を聞くと、理に適っているな」

「我等が王は、とんでもないお方なのかもしれませんな」


 センジの質問にホウジツが答え、猫耳族のウンチョウとホウジツは「ウンウン」と頷いているが、それでも不思議に思っているようだ。国の会議よりも、シラタマ会議が長引く猫会議参加者であった。



 シラタマ会議を行ってしばらく経つと、お茶を持ったリータとメイバイが会議場に入って来た。


「シラタマさんが、先に始めているように言っていました」

「何かあったのですか?」

「う~ん……本当のこと、言っていいのかニャー?」

「いいんじゃないですか?」


 二人のやり取りに、不思議に思ったセンジが心配する声を出す。


「街に大変な事でも起きたのですか?」

「お昼寝中ニャー」

「「「「え?」」」」

「センジさんが、家が無いのはおかしいって言ったじゃないですか? 休憩時間の間に、仮住まいを作っていたのです」

「ソウから持って来たベッドに横になったら、寝てしまったニャー」

「えっと……起こしたらいいのではないですか?」


 二人のトンでも発言に、なんとか持ち直したセンジは真っ当な質問をした。


「起こしたのですけど、休憩中に働いたんだから、少し寝かせてくれてもいいと拗ねまして……」

「いまの議題なら私達でも大丈夫って、任されたニャー」


 唖然、呆然。皆、開いた口が閉じない事態。あれほど感心していた王の我が儘っぷりに、言葉を失う事態となった。


「あの……大丈夫ですか?」

「ひとまず、さっきの議題を話し合おうニャー」


 リータとメイバイの言葉に、我に返った皆は話し合いに集中する。しばらくして、起こすには頃合いと見たリータが外に出て、腹をさすったシラタマを連れて戻る。


「お腹を殴られると息が止まるから、もう少し優しく起こしてくれにゃいかにゃ~?」

「起こしましたよ。それでも起きなかったシラタマさんが悪いんです」

「もう少しだけにゃ~」

「無理です」

「そんにゃ~」


 シラタマとリータの痴話喧嘩を見た皆は、同じ事を考える。


 三歳の猫だ!


 と……


 皆の生温い目を感じたシラタマは、咳払いをして席に座る。そして、黙って資料に目を通す。


「「「「………」」」」


 皆も黙って見つめ続けるで、シラタマはいたたまれなくなって声を出す。


「あの~? にゃんですか?」

「「「「………」」」」


 皆は大きな声でツッコミたいが、王様に対して失礼だと思って声を出さない。


「言いたい事があるにゃら言ってにゃ~」

「猫ですか!?」

「なんで商売に詳しいのですか!」

「その知識はどこで手に入れたのですか!」

「ご先祖様ですよね?」


 シラタマが許可を出すと、センジ、ホウジツ、ウンチョウ、セイボクが、各々矢継ぎ早に質問を口走る。


「そんにゃにいっぺんに言われたら、答えられないにゃ~~~!」


 初日の再現。いや、溜まりに溜まった疑問が破裂し、初日よりも酷い質問攻めにあい、この日の猫会議は質疑応答で終わるのであった。


「「「「猫??」」」」

「猫だにゃ~~~!」


 猫会議が終わってもしつこく質問されて、逃げ回るシラタマの姿があったとさ。

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