309 猫の街の改革にゃ~


 お葬式が終わると、街の者をバスに連結させた車両に乗せ、ピストン運行で街へと送る。それでも街の者全員を送り届けるには時間が掛かり、完全に終わる頃には夜になってしまった。

 なので住人には光の魔道具を配布し、夕食をとってもらう。わしは東の国組にまざってシェルターの食堂で食べていたら、オッサンや双子王女に、演説について褒められた。恥ずかしいからやめて欲しい。

 ちなみにズーウェイは、帰りを待っていた子供達に、泣き付かれて困っていたらしい。でも、どちらもすぐに笑顔に変わったと聞いたので、わしは安心した。



 そうして、今日も慌ただしく夜を乗り越え、朝になった。



 今日は朝から飛行機に乗って、オッサン一行をソウの街にご案内。ついでにラサの街に寄り道してウンチョウ達を送り届ける。

 少し遠回りになったが、オッサンはスパイも兼ねてやって来ているので、特に文句は言って来なかった。


 ソウに飛行機が着陸すると二号車に乗り継ぎ、そのまま宮殿まで直行。揉み手のホウジツが登場すれば、オッサンを紹介し、他国の王様なので丁重にもてなすように念を押す。まぁホウジツの接待術があれば、なんとかなるはずだ。

 オッサン達は、貨幣の視察で来たから数日滞在する予定なので、案内はホウジツに丸投げし、オッサン用の高級食材とイサベレ用の大量の食材を置いて猫の街に帰宅する。



 帰宅すると、リータ達に集めてもらっていた街の主要メンバーと、リータの両親、双子王女を交えての会議だ。


 まずは自己紹介から始まり、双子王女の役割を説明する。


「二人は、猫の街を取りまとめてくれる代表として雇いましたにゃ。以上にゃ!」


 と言ってみたら、リータとメイバイに短過ぎると怒られた。なので、街をより良く運営するプランを説明して締める。


「まぁぶっちゃけ、今までわしがやっていた事を引き継ぐだけにゃ。それと、近々貨幣を使って行くから、街のお金の運用も二人の仕事にゃ」


 双子王女の詳しい説明が終わった頃に、リータの両親が恐る恐る手を上げた。


「俺達は、なんの為に呼ばれたのでしょうか?」

「ああ、そうだったにゃ。お義父さんとお義母さんの二人には、農業関係の仕事をして欲しいにゃ」

「農業関係?」

「いま、猫の街では、四種類の作物を生産しているにゃ。各々担当者は居るけど、その担当者から聞いた話を調整するのが、お義父さん達の仕事にゃ」

「と言う事は、重要な役職……」

「そうだにゃ。責任重大だし、これから作物も増えて行くだろうから、難しい仕事になると思うにゃ」


 わしの説明を聞いた二人は、顔を青くして声を重ねる。


「「む、無理です!」」

「え~! メイバイの両親にも断られたんにゃから、やってくれにゃ~」

「そう言われましても、どうやっていいかわかりません」

「わしか、双子王女が方針を決めて伝えるから、農業組の人数を調整すればいいんにゃ。村でも村長の仕事を手伝っていたと聞いたし、出来るにゃろ?」

「少人数だったら……」

「よし! 決定にゃ~」

「いやいやいや! ここは大人数でしょう!!」


 リータの両親はなかなか首を縦に振ってくれないので、説得を繰り返し、一度やってみて、様子を見てから、続行するかの意思を聞く事で納得してもらった。

 まぁ数ヵ月やらせてから聞くので、その間にスキルアップさせて、離れられなくする予定だ。


 街の話し合いはほどほどで終わると、エミリの昼食が目の前に並ぶ。美味しい料理を皆でわいわいと食べていたら、ヨキが暗い顔で話し掛けて来た。


「あの……」

「どうしたにゃ?」

「みんなで話し合ったのですが、シェルターを出ようと思っています」

「にゃんで~?」

「だって、王様と一緒に暮らしているのはおかしいし、シラタマさんはいつも狭い所で寝てるじゃないですか」


 ヨキの話では、これ以外にも理由があるらしい。街では同じ境遇の子供が多くいるのに、自分達だけいい暮らしをしているのも気が引けるとのこと。


「あ~……そろそろ家を建てようと思っていたから、わし達が出て行くにゃ」

「なんでそうなるんですか!」

「ここは、ヨキ達の為に建てた家だからにゃ~」

「街で一番大きな建物だし、立地だって、街のほぼ中央なんですから、シラタマさんが使うべきです!」

「え~~~!」


 と、ヨキの強い要望に負けて、近々、子供達がシェルターから出て行く事となった。そのせいでわしに仕事が増えて、せかせかと働くのであった。



 まず最初に取り組んだ事は、子供達の家。大通り南側に、二階建ての和風の家を建てる。部屋は四人部屋なのでプライベート空間は少ないが、トイレ、お風呂、食堂完備。寮母さんのズーウェイも付いて、至れり尽くせりだ。

 これは、次の段階を視野に入れたモデルルーム。


 現在、猫の街では大規模な炊き出しで食事を賄っているので、雨になるとどうしても食事が質素になる。

 なので、多く居る子供を寮暮らしに変更させ、人数を区切って、建物の中で食事をさせようという考えだ。

 モデルルームなので建設班には間取りを見せ、屋敷の改築に活かしてもらう。水と火の魔道具が多く必要になるが、それもソウの街の地下空洞を使えば格安で出来るはずだ。

 そして寮は、子供達が巣立ったあとは、宿として使う予定だ。将来どれだけ観光客が訪れるかわからないが、いざとなれば、なんとでも使えるだろう。



 子供達の寮が完成すると、次はシェルターの改築。ここを我が家とする事が決定してしまったので、役場を兼ねた三階建てにしてみた。


 一階は、お風呂と食堂を取り払い、完全に仕事をする場所に変更。そこを大会議室、小会議室、資料室、双子王女の職場と作り変える。トイレとキッチンは残すので、長い会議になったとしても支障がない。

 ちなみに地下はそのまま残し、氷室は食糧の備蓄場所。もうひとつの地下室は、階段を二階の奥にまで伸ばし、宝物庫として堅く施錠する。


 二階は、双子王女の生活空間と来客用の数部屋。食堂とお風呂、トイレ完備。水回りに少し手こずったが、建設担当ダーシーの手助けのもと、かなり住みよい空間になった。

 一階に職場があるので、双子王女は移動の手間が減って仕事がはかどるはずだ。

 ここのキッチンがエミリの基本的な職場となり、数人の手伝いの子供も雇う予定。一階のキッチンでも、街の料理部隊に講習を行ってもらう予定もある。


 増築した三階は、わし達の新居。王都で作った家の平屋版で、広い屋上に作ったから部屋数は変わらず、不自由のない生活が出来る。猫の必需品の畳と縁側も完備。南向きに庭も作ったので、寝るには心地いい。

 屋根は、全体を瓦屋根風にしたので見る場所によっては、二匹の猫シャチホコの乗った和風のお城のようだ。ただ、屋上を家と庭にしたので、角度によって凹んで見えるのが少し残念だ。


 元々、子供達が外に出なくとも暮らせるように、大きく作っていた事が幸いして、広々とした空間を維持しつつ工期を短縮して、役場兼、我が家は完成となった。



 こうしてここ数日は、家の建築と畳の製作講習、ソウの街での仕事で、わしは忙しく動いていた。


 しかし、またしても、わしは思う事がある。


 これって王様の仕事なの?


 と……


 これでは、いつかのあの時を思い出してしまう。修行するとか言って、森の我が家で行ったDIY……。懐かしい思い出じゃ~。


 わしが縁側でお茶を飲みながら遠い目をしていると、リータ達がやって来た。


「なんだか王都の家を思い出してますね」

「そうだにゃ~」

「でも、山が綺麗に見えて、見晴らしがいいニャー」

「たしかににゃ~」


 わし達は山を眺めながらお茶を飲み、お喋りを楽しむ。


「そう言えば、コリスはどこに行ったにゃ?」

「ワンヂェンさんと一緒に、寝室でお昼寝してますよ」

「また来てるにゃ~?」

「畳が気に入ったみたいニャ。コリスちゃんも、気に入ったみたいニャー」

「ベッドがあるのに……撤去したほうがいいかにゃ?」

「まだしばらくいいんじゃないですか?」

「まぁ追い追い考えるかにゃ。さてと、わしは出掛けて来るにゃ~」


 わしはお茶をくいっと飲み干すと、立ち上がって歩き出す。だが、リータとメイバイに尻尾を掴まれてグンッとなる。


「にゃ、にゃんですか?」

「行き先はどこニャー!」

「ソウですにゃ~。離してくれにゃ~」

「最近、よく、ソウに出掛けてますよね?」

「仕事ですにゃ~」

「なんか怪しいニャー。帰りも遅いし……」

「怪しくなんかないですにゃ~」

「こないだ、女の匂いがしたニャー!」

「お酒も飲んでましたね……」

「たまたまお酒に誘われただけにゃ~。そこで、たまたま女性に撫でられただけにゃ~」

「「たまたま……」」

「そんにゃに疑うにゃら、ついて来たらいいにゃ~」

「はい!」

「わかったニャー!」


 わしは疑いを晴らす為に、ついて来ていいと言ったら、ふたつ返事で了承される。「そこまで言われたら信じるしかない」と言う言葉を待ってたんだけど……にゃろめっ!

 迂闊うかつな事を考えて針で刺されてしまったが、コリスを起こしてソウの街に向かう。ちなみにワンヂェンはお留守番。猫の街に職場と家があるのだから、起きたら勝手に出て行くだろう。



 飛行機でソウの街に着くと、バスで城まで直行。今日は揉み手のホウジツが現れなかったので、オッサンの居場所を聞いて案内してもらう。

 オッサンは貨幣の製造現場にいるらしく、その建物に入ると、金貨を手に取り眺めている姿があった。


「どうにゃ?」

「ああ。猫か……まぁ合格ってところだな」

「にゃ! それじゃあ、量産していいにゃ?」

「これなら許可を出そう」

「やっとにゃ~」


 細かい文字もあるから、職人の金型作りが難航して、思ったより時間が掛かったな。

 わしが鉄魔法で作ったらすぐだったんじゃけど、数年単位でデザインを変えるらしいし、わしの力を頼られるのも、職人の為にならんしな。


「これでオッサンの仕事はおしまいかにゃ?」

「そうだ。国に帰るとしよう」

「じゃあ、今日は猫の街に泊まって、明日、出発って事にするにゃ~」


 ようやくお目付け役が出て行ってくれる。オッサンが居るせいで、研究がやり難くてしょうがなかったんじゃ。バレたくないからのう。



 オッサンとの会話が終わり、わしも金貨や銀貨、銅貨を確認していたら、揉み手のホウジツが、大きな声を出しながらやって来やがった。


「これはこれはお猫様。今日も綺麗所を用意しておりますので参りましょう! アンブロワーズ閣下のお気に入りのあの子も、予約を入れておきましたよ~」

「ホウジツ! にゃに言ってるにゃ~!!」

「あ……王妃様方……」


 わしはゴゴゴゴ聞こえる後ろを振り向けず、ホウジツの震える顔を見ながら恐怖する。


 ヤバイ……殺される……


「シ~ラ~タ~マさ~~~ん……」

「シ~ラ~タ~マどの~~~……」


 うぅぅ。怖い!!


「ホウジツ、オッサン! 助けてにゃ~」



 わしは二人の男に泣き付くが、二人の鬼に恐怖していて、当然、役に立たず。ボコボコと床に減り込まされる。

 さらに帰りの機内でも怒りは収まらず、ガミガミと言われ続け、わしは泣きながら操縦するのであったとさ。

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