307 猫の国に出発にゃ~


 騒がしい祝勝会がお開きになると、バーカリアンにからまれたが軽くあしらい、トーケルにはちゃんと別れの挨拶をする。ノエミとはお別れをしていなかったので、わし達マスコットは最後のモフッと別れの挨拶をした。

 そうしてコリス達はさっちゃんに預け、わしは女王の元へ連行される。双子王女の件で話があると聞いたが、膝に乗せて撫で続けるのはやめて欲しい。

 それと英雄もやめて欲しい。とりあえず、文句の続きをやんわりとしてみる。


「あの~……称号も勲章も、返却したいんにゃけど……」

「どちらもたいして力のない物だから、貰っておきなさい」

「力がないにゃらなおさらにゃ~」

「じゃあ、大々的に国中に宣伝してあげるわ。それで称号の力を発揮するわよ」

「それは脅しにゃ~」

「だから称号にしたのよ。爵位も嫌がるでしょ? 食べ物じゃ残らないし……」


 そもそも王様だから、爵位は貰えないんじゃないのか? いや、貴族なら、他国の爵位を持ってたりするって何かで読んだ事があるな。

 王様が爵位を持てば、お忍びで来た時に、それで他国を歩きやすくなるのかな? いや、わしは猫じゃった。猫の国と王都以外、歩きやすくない。


「それにゃら、賠償金を安くしてくれたらよかったんにゃ」

「無理に決まっているでしょ。アレがギリギリなんだから」


 まぁ戦争の被害者で出費をしているんだから、女王としても、貴族やなんやとうるさいのじゃろう。

 称号も勲章も返せないのなら致し方ない。明日の予定を聞くとしよう。


「双子王女の準備は整ったにゃ?」

「明日には間に合うはずよ」

「そうにゃんだ。連れて行く人数を確認しておきたいんにゃけど」

「人数は……」


 女王が言うには、双子王女と、その世話係りに侍女が各一名。護衛の女騎士も各一名。それと、料理人を合わせて五人とのこと。しかし、料理人の選定で悩んでいるらしい。


「それにゃらエミリを雇ったから、使ってくれたらいいにゃ」

「あの子を……エミリなら、二人も満足してくれそうね」

「まぁいまは、食材が乏しいから我慢してもらう事になるだろうけどにゃ」

「あの二人も、それぐらい承知しているわよ。エミリの移住の手続きは、私のほうで手配しておくわ」

「にゃ……移住って、手続きがいるにゃ?」

「どうしたの?」

「実は……」


 わしはリータ家族を移住させたい旨を伝えると、こちらも女王が手配してくれる事となった。

 わし達はどうしたらいいかを聞いたら、国籍を二重発行していいと言われた。きっとわしを、猫の国だけのモノにしたくないのであろう。

 心配事がなくなれば、女王から逃げ出そうとするが止められて、王のオッサンが部屋に入って来ても、まだ撫で回された。


「まだ話があるって言ってるでしょ!」

「撫でまくっていたにゃ~」

「夫が来るのを待っていただけよ!」

「オッサンが、にゃにか関係あるにゃ?」

「貨幣の話よ。作りたいって言っていたでしょ?」

「あ~。忘れていたにゃ」

「まったく……」


 どうやら貨幣を作るには、それなりの手続きがいるようだ。

 東の国で使われている貨幣は、西の国と南の国、それと東の国で協同管理をしているとのこと。

 小国では使われていない所もあるらしく、そういった小国が作りたいとなった場合、三カ国の内、ひとつの国の立ち会いが必要になるらしい。


 そのお目付け役として、オッサンと、二人の職人を連れて行かなくてはいけないようだ。


「にゃるほどにゃ~。オッサンは、堂々とスパイしに来るんにゃ」

「調査だ!!」

「品質の酷い物しか作れないのならば、許可は出せないから気を付けなさい」

「テストでもあるんにゃ。金型だけしっかりしているのがあれば、あとは金の使用量だけにゃろ?」

「そうだが、それが一番難しい。酷い国なら、削って小さくしたりするからな。その査察も毎年あるからな」


 耳を揃えてってヤツか。江戸時代でも、小判のギザギザを削って売ったりしていたもんな。異世界でも考える事は一緒なんじゃな。


「帰ったら、その辺の法整備もするにゃ~。となると、三人追加かにゃ?」

「いや、イサベレも連れて行くから四人だ」

「わかったにゃ」


 話し合いも終わり、ようやく女王の膝から解放されたわしは、双子王女の準備が出来ている荷物だけは受け取る。服だけでなく、高そうな家具一式と馬車もあったから、かなりの大荷物だ。

 それらを仕舞ったら、料理長にエミリの件の挨拶に行く。かなり悲しそうな顔をしていたところを見ると、自分の子供のように思っていたみたいだ。なので、必ず立派な料理人にすると言って、その場をあとにする。


 城での用事が終わると、さっちゃんの部屋にコリス達を迎えに行く。

 リータ達もさっちゃんに慣れていたみたいで、緊張せずに優雅にお茶をしていた。そのかたわらでは、だらしない顔でコリスを撫でまくるさっちゃんがいたけど……


 さっちゃんには、国が落ち着いたら必ず連れて行く事と、出来るだけ遊びに来る事を約束して、今日はおいとまする。



 家に帰り、アダルトフォーにエミリを連れて行く事を伝えると、かなりガッカリしていた。どうやらわしが居ない間、ちょくちょく呼んでいたみたいだ。

 しかし、エミリを連れて行く事は決定事項。孤児院には、エミリの弟子のような者がいっぱい居るんだから、その子で我慢してもらうしかない。

 スティナには、また家の管理をお願いし、庭の水撒きに、井戸だけでは孤児院の子供が苦労していたと聞いたので、池を作って水の魔道具も少し足しておく。


 そして、しばらく会えなくなるので、最後の撫で回しをアイパーティと共に受ける。昨日、一日中寝ていたからいいものを、いつまでも撫で続けられたから困ったものだ。

 翌朝は朝が早かったので、リータ達に叩き起こしてもらえるように頼んでいたけど、本当に叩き起こさなくてもいいと思う。


 素っ裸でフレヤと抱き合って何をしていたか? 寝ている時に、脱がされたんじゃ! だから、もう少し優しく起こしてくださ~い!!



 二人にスリスリしながら朝の挨拶と準備、ロランスへの連絡を済ませると、わしは王都から出てリータの村に転移。

 リータの家族は準備が済んでいたので、持ち物は次元倉庫に入れて、家族は飛行機に積み込む。離陸すると、もちろんうるさい。

 「ギャーギャー」うるさい家族を宥めながら王都近辺に着陸すると、ここで待っているように強く言う。王のオッサンと双子王女が乗り込む旨を伝えたら、さすがに静かになった。


 それから走って家に帰るとエミリも合流していたので、アダルトフォーとアイ達に別れを告げてバスを走らせる。しかし、先導の騎士が居なかったので、道を塞がれてしまった。

 どうしたモノかと考えていたら、待ち合わせの東門に向かっていたオッサン達が登場。ガミガミ怒られたが、オッサン達のおかげで無事王都を脱出する事が出来た。



 東門からは全員バスに乗せて発進。バスには猫の国組しか乗っていなかったので、十人増えたぐらいならなんとかなる。オッサン達が我慢すればいいだけだ。

 飛行機で待たせていたリータ家族は、王族登場で固まっていたので、ダメージが少ない後部座席に指定してあげた。


 コリスが真後ろにいるけど、大丈夫かな? リータ兄弟がモフッとしているから大丈夫か。


 例の如く、前列は王族で独占しやがったけど、離陸するとオッサンが「ギャーギャー」うるさい。だが、双子王女の「情けない……」のシンクロ攻撃で、黙る事になっていた。


 その後、空の移動はローザの街に着いたら終了。時間短縮で、街の目の前で降りてやった。そこで全員降ろしていると、ローザとロランスの乗った馬車がやって来た。

 二人は慌てて馬車から降りると、オッサンと双子王女に挨拶をしてから、わしに声を掛ける。


「もう! 王殿下が来るのなら、もっと早く連絡してよね!!」

「本当です。食事の手配が間に合いませんでした」

「すまないにゃ。昨日の夜はいろいろあって、すっかり忘れていたんにゃ。だから、昼食はわしのほうで適当に出すから気にするにゃ。それより、猫耳族を……にゃ?」


 わしがロランス達と話していると、女の子に抱きつかれた。


「ねこさ~ん」

「フェリシーちゃん、久し振りだにゃ~。それにリスさん?も久し振りにゃ~」

「モフモフ~」

「ええ。久し振り」

「長く話していたいんにゃけど、ちょっと忙しいにゃ。コリスとワンヂェンを貸してあげるから、遊んでもらってにゃ~」


 と、二人に言ってみたら、ローザもコリスと遊びたいようなので、ワンヂェンに頼む。そして、キッチンとテーブルを取り出して、料理をエミリとリータ達に頼み、王族はテーブルに待機させる。

 それからロランスさんと街の門に向かい、ズーウェイと合流。捕虜だった猫耳族は、全員、門のそばに待機していたので連れ出し、焼き魚パーティーにご案内。


 予想通り猫になってしまったので、「ニャーニャー」うるさくなってしまった。人手が足りないので猫のままのズーウェイに、自分達で料理しろと言って、リータとメイバイを送り込む。見本があれば、なんとかなるだろう。

 王族達には、白タコの触手の串焼きを食べさせてやれば、手抜きでも問題ない。超高級食材なんだから、うまいの一言しか聞こえなかった。



 ようやく手の空いたわしは、串焼きを片手にコリスを餌付けしているフェリシーちゃん達の元へ行く。そこで聞いた話では、どうやらフェリシーちゃんは、ローザから連絡を受けて、わしに会いに来てくれたようだ。


「フェリシーちゃん。あげてばっかりいにゃいで、ちゃんと食べようにゃ」

「うぅぅ」

「コリスは自分で食べられるから大丈夫にゃ」

「わかった~。パクッ! おいし~い」

「にゃはは。それはよかったにゃ」


 フェリシーちゃんの処理が終わると、わしはリスさんの格好をツッコム。


「今日は毛皮がないんだにゃ」

「まぁ騎士になって、かしこまった場所に行く事が多くなったから、脱ぐしかなかったのよ」

「そっちのほうが、断然いいにゃ~」

「そ、そうかな?」

「にゃ~? フェリシーちゃん?」

「う~ん……どっちもすき~」

「フェリシー様……」


 リスさんは感動しているっぽいけど、なんでじゃ? ここは着ぐるみを脱いで、紫色のロングヘアーをなびかせているほうを褒めるべきだと思うんじゃが……

 まぁリスの着ぐるみ好きのフェリシーちゃんらしい答えじゃな。いまもリスさんの、二本の尻尾をニギニギしておるしな。これは攻撃手段じゃから、外す事は出来んのか。

 あ、そうじゃ。サービスで、それも見せてやるかのう。それに、フレヤの作った服の性能もみたいしな。



 わしはコリスに、変身魔法を使ってくれるように頼む。わしのお願いを聞いたコリスは、ふたつ返事でリス耳と二本の尻尾が付いたさっちゃん2の姿に変わった。


「わあ! リスさんみた~い」


 フェリシーがコリスの尻尾をニギニギする中、リスは驚きながらもわしに質問する。


「本当……コリス様も、私と同じ戦い方をするの?」

「だいたいそうかにゃ? でも、桁違いに強いにゃ」

「そうよね。キョリス様の娘だもんね」


 これで、無理に着ぐるみを着なくとも、敬愛するキョリスをマネている事になるじゃろう。

 しかし、フレヤの服は聞いていた通り、サイズが変わっても着れるんじゃな。リス型の時は前掛けのように見えたが、さっちゃん2になるとワンピースになるのか。

 でも、ゴムではないから、首元の紐を調整しないといけないんじゃな。いまはワンヂェンが整えてくれたけど、コリス一人でも出来るようにしておかないとな。



 こうして、予期せぬ懐かしい人達との話が終わると、わしは王族とロランスの集まる場所へと戻るのであった。

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