306 祝勝会にゃ~
ビーダールでの仕事が終わった翌日、アダルトフォーは朝から仕事に向かい、アイパーティも買い物に出掛けた。わしは宣言通り休みをとり、居間でゴロゴロしている。
「ゴロゴロ~」
当然、リータとメイバイの膝の上で寝ているので、撫で回されて喉は常にゴロゴロ鳴っている。
コリスも慣れない事をしたせいか、今日は丸くなってゴロゴロしている。猫の街と違って驚く人が多いので、少し疲れたようだ。
ワンヂェンは暇なのか、遊びに行きたいと「にゃ~にゃ~」うるさい。「そんなに外に出たいのなら一人で遊んで来い」と言うと、嬉しそうに外に出て行ったが、しばらくして戻って来た。
なんでも、大通りに出たら取り囲まれて、撫でられたとのこと。そりゃそうだ。だってワンヂェンは黒猫じゃもん。
悲しそうに「にゃ~にゃ~」うるさいので、変身魔法を使って、リータとメイバイに連れ出してもらった。
家には、コリスとわしだけになって静かになったところで、コリスベッドに埋もれて熟睡する。
それから数時間が経つと、リータ達が帰って来た。お昼になっていたので、コリスと一緒にボケーっと餌付けされながら、リータ達がして来た事を聞く。
三人で王都の台所、露店の集まる広場に行って来たらしい。ワンヂェンは目に見える物が珍しいのか、買って買ってとせがまれたとのこと。
まるで子供のように振る舞うワンヂェンに、リータ達は困ったらしい。でも、お金の話をすると、素直に引いてくれたようだ。
ワンヂェンが落ち着いたところでお金を渡し、軽くアドバイスをして、自分の髪飾りとヤーイーへのお土産を買わせたらしい。
ワンヂェンはお金を使った事がなかったので、勉強を兼ねた、はじめてのお使いが成功したとのこと。
しかし、広場で変身魔法が解けたらしく、けっこうな騒ぎが起こったみたいだ。まぁリータとメイバイがついていたので、わしと勘違いして事なきを得たらしい。
どうやったら白猫と黒猫を間違えるのかツッコミたくなったが、連日の疲れのせいで眠気がやって来て、コリスにもたれてお昼寝継続。
その数時間後、どうやらわしは夕方まで寝ていたらしく、リータとメイバイに叩き起こされた。本当に叩き起こされた。
驚いて目覚め、「にゃ~にゃ~」文句を言うと、時系列にそって話をしてくれた。
コリスもお出掛けがしたくなったらしく、リータとメイバイに、変身して連れ出してもらったようだ。
コリスも広場に行って、はじめてのお使いをさせたらしいが、言葉も文字も計算も出来ないのでは、失敗は必至。
結局、コリスの食べたい物を買い与えたとのこと。あまり長くは滞在できないので、足早に観光を終わらせて戻って来たらしい。
そこで帰って来ると、わしとワンヂェンが抱き合って寝ていたので、怒りに任せて叩き起こしたらしい。だが、最後のほうはうつらうつらしながら聞いていたわしは、相当お疲れだと逆に謝られた。
そのまま餌付けされ、お風呂に連れ込まれて揉み洗いされると、コリスと一緒に寝室に放り込まれる。
この日も、アイパーティとアダルトフォーが馬鹿騒ぎしてうるさかったと、次の日聞かされるが、わしは何をされても起きなかったらしい。
さすがに一日眠り続けたわしは、朝から頭がハッキリしていたので、顔が青くなる。
な、何をしたんじゃ? リータとメイバイが何かしたのか? 起きたら素っ裸じゃったけど、何したんじゃ~!!
二人に聞きたいが、ビビってやめた。おそらく撫でられただけだと強く言い聞かせて仕事に向かう。
今日の予定は、昼から女王に呼び出されているので、それまでにやれる事はやってしまいたい。
まずはハンターギルドへ、マスコット三匹、リータとメイバイ、アイパーティで向かう。朝早いので擦れ違う人は少なく、驚く人も少ない。
大通りを抜ければ、込み合う時間のハンターギルドに入る。コリスの登場でハンター達は一瞬固まるが、さすがに三度目とあって、すぐに依頼の取り合いに戻った。
その中を、わし達はズカズカと買い取りカウンターに向かう。おっちゃんに白タコと触手を数本見せると、どれだけ買い取れるかの相談。
胴体は四分の一を買い取ってくれるが、触手が悩みどころらしい。悩んでいる理由は、魔道具を作れる箇所がわからないそうだ。
それなら、魔力を見る魔道具を使えばわかるのではと、素人考えを言ってみたら、胴体の近くに集中しているらしく、胴体の割増料金が決定した。
触手も高く買い取ってもらえたので、邪神もわし達も、ホクホク顔で買い取りカウンターをあとにする。そして、ティーサにも仕事の報告をし、ハンターギルドを出る。
アイ達は家でやる事があるらしいので、リータ達と共に、コリスとワンヂェンを連れて帰ってもらった。
人が増えていたから変身魔法を使わせたので、トラブルは起きないだろう。
皆と別れると、わしは商業ギルドに向かい、エンマに頼んでいた物を買い取る。多少の割り増しはされたが、時は金なり。時間が短縮できたのだから、文句はない。
ただ、セクハラには文句があるので、振り切って孤児院に向かう。
孤児院では、エミリの料理修行の許可をもらおうとしたら、院長のババアに、いっそ養子にしたらどうかと言われた。
わしはそれは有りかと思えたが、エミリが大反対するので、正式に料理人として雇う事にした。
エミリはきっと、お母さんの娘じゃなくなるのが嫌なのだろう。一瞬、邪悪な顔が見えたが、きっと気のせいだろう。
料理長にも挨拶しに行かなくてはならない事を思い出したわしは、エミリに一緒に行こうと言ったら、すでに挨拶を済ませていたらしい。
昨日、誘いに来たらしいが、誰からも返事が無く、中に入ったらわしが爆睡していたので、一人で挨拶して来たとのこと。
それは悪い事をしたと謝罪し、城に行く用事があるので、その時にわしからも挨拶して来る事と、明日は我が家に集合するようにと告げて別れる。エミリは、これから送別会をするのだとか。
今日、やる事はほとんど消化できたが、女王の呼び出し時刻に遅れそうになり、屋根を飛び交い急いで戻る。すると、家の前には豪華な馬車が二台止まっていた。
わしは何事かと御者を探すと、ソフィ達が居たので質問する。どうやら、わし達を迎えに来たとのこと。コリスも車も目立つからの処置だろう。
そう思いながら家に入ったら、振り袖を着たリータとメイバイに出迎えられた。
「にゃ~? にゃんでリータ達まで正装になってるにゃ?」
「聞いてないのですか? 今日は戦争の祝勝会が開かれるのですよ」
あ……オッサンがそんなこと言ってたな。今日じゃったのか。それならそうと言ってくれたらいいのに。
「そんにゃの聞いてなかったにゃ~」
「そうなんニャ。私達もさっき聞いて、急いで準備したニャー」
「シラタマさんも、早く準備してください」
「う~ん……わかったにゃ」
わしは女王の策略に引っ掛かるものを感じるが、居間で猫(紋)付き袴に着替える。すると二階から、ドタドタと階段を下りる音が聞こえて来た。
「アイ達まで、にゃんでドレスを着てるにゃ?」
「女王様から祝勝会の招待状が来たのよ! フレヤさんに借りてみたけど、これでいいかな?」
「いいんじゃないかにゃ? みんにゃ綺麗になったにゃ~」
「そう? よかった~」
「せっかくだし、これ貸してあげるにゃ。好きなの選んでにゃ~」
わしは帝都の城で没収して来たアクセサリーを、テーブルの上に広げる。
「いいの!?」
「貸すだけだからにゃ? エレナは見張っておいてにゃ?」
「わかってるわよ~。それじゃあ、遠慮なく……。あ、そうそう。猫ちゃんにも、招待状が届いていたわよ」
「にゃ……」
いまさらかよ! もしかして、アイ達が招待状に焦って、わしに渡し忘れていたのか? まぁ今も焦っているようじゃし、お
それよりも、アクセサリーのアドバイスをしておかないと、ゴテゴテでケバくなっておる。全員、全身キンキラキンって……
わしは皆のアクセサリーレンタルは二個までと決めて、残りは取り上げる。そして、コリスもリボンだけではかわいそうかと、ティアラも付けてあげた。
わし達は準備が終わると馬車に乗り込み、城に向かう。その車内では、少し遅れているらしく、ソフィに怒られた。ひとまず、謝罪とスリスリで事なきを得る。
城に着くと、わし達は大広間に案内され、女王の登場を酒とつまみを食べながら……いや、
大広間には、かなりの人数が居て、皆、わし達を注目しているので恥ずかしい。だからこれ以上恥ずかしい思いをしたくないから、言う事を聞いて!
コリスはわしのお願いを聞いてくれたけど、食欲の権化はしらんがな。アイ達でなんとかしてくれ!
わし達がルウから離れようかとコソコソ話をしていたら、突然ファンファーレが鳴り響き、王族が壇上に登場して来た。
皆、いつにも増してきらびやかな衣装で歩き、その
王族の女性陣が席に着き、王のオッサンが前に出ると、ファンファーレは止まった。
その静まり返る会場に、オッサンの声が響く。
「皆の者。よく来てくれた。戦争が終わり、遅くなったが祝勝会を始める。今日は思う存分楽しんで行ってくれ」
オッサンの開会の挨拶が終わると同時に、両脇の扉が一斉に開き、酒や料理が運ばれる。
宴の始まりだ。
こういう場の礼儀がわからないので、貴族っぽい人が食べる姿をジッと眺め、わし達もそれに
「久し振りだな」
「あ! あんちゃん。久し振りにゃ~。モグモグ」
声を掛けて来たのは、北の街で有名だと言われていたトーケルパーティだ。当然、コリスを変な目で見て来るので、注意してから近況を聞く。
「それで、Bランクに上がれたかにゃ?」
「ああ! フェンリル討伐の評価は十分だったからな。ようやくだ」
「にゃ~? 前は期限がどうのって言ってなかったにゃ?」
「そ、そんなわけないないだろ!」
この焦りようは、わしの記憶が間違いではなさそうじゃ。やっぱり嘘ついておったんじゃな。
「ま、昇級おめでとうにゃ~」
「これも猫のおかげかもな。副大将に任命されていなければ、もう少し掛かったかもしれない」
「いんにゃ。あんちゃんの実力にゃ。あんちゃんがいなければ、まとまる物もまとまらなかったにゃ~」
「ははは。褒め言葉と受け取っておくよ」
わし達が和やかに話をしていると、割って入って来る者が現れる。
「ハーハッハッハッハッハー」
馬鹿だ。いや、バーカリアンが女性三人を引き連れて、
「あ、バカさん。久し振りにゃ~」
「世界ナンバーワンハンター、バーカリアン様だ!!」
「そっちの彼女達も、元気にしてたにゃ?」
「無視するな!」
わしはバーカリアンには挨拶したので、女性から頭を撫でられながら近況を聞いた。
「そうにゃの? バカさんはAランクになったんにゃ~」
「そうだ! これで俺様が一歩リードだ!!」
だからわしは、誰とも競っておらんのじゃけど……
バーカリアンと話すのは時間の無駄だから、さっちゃん達の元へ逃げようかと考えていると、オッサンがまた何かを話し出したので、耳を傾ける。
「これより、勲章を授ける。名を呼ばれた者は、壇上に来るように」
オッサンの指示で初老の男が名を読み上げると、貴族、騎士やハンターが壇上に、ひとりひとり上がり、勲章を受け取っていく。
イサベレから始まり、オンニやノエミ、見た事のない貴族や騎士。そして、バーカリアンやトーケル、アイと続く。皆、女王の前まで背筋を伸ばして進み、
あらら。イサベレとオンニ以外、ガチガチに緊張しておるな。特にハンターがひどい。いや、バーカリアンだけは変わらないか。アイは……手と足が同時に出ておるのう。がんばれ~。
わしはその光景をモグモグ見ていたら、何故か最後にわしも呼ばれた。なので、リータとメイバイに押されて、渋々、女王の前で跪く。前にやっていた人がいるので、見よう見まねだ。
「またあなたは、嫌々来たわね……」
わしが跪くと、女王がコソコソと声を掛けて来た。
「だってにゃ~。わしはたいした事してないにゃ~」
「いいえ。あなたのおかげよ。ありがとう」
女王はわしの言い分を否定し、礼を述べてから声を大きくする。
「このシラタマは、フェンリル討伐に参加し、さらに東の街でも戦争に貢献してくれた。ここに、その貢献を称え、勲章を贈る。さらに、
は? 爵位じゃと? わしを貴族にしようとしておるのか? そんなもんいらん! 止めねば!!
「まっ……」
「授けようと思ったが、猫に爵位は似合わないだろう」
わしが止めようとすると女王はニヤリと笑い、冗談のように振る舞う。そのやり取りが面白かったのか、笑い声が響く。
猫に
女王は笑い声が減ると、言葉を続ける。
「なので、
は? 今度は、称号? わしの耳が悪いのか、英雄がペットに聞こえた!
「そんにゃのいらないにゃ~~~!!」
このあと、厳かな雰囲気の式典が、わしの文句で台無しとなったが、強引に英雄の称号と勲章を授けられる事となったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます