第十五章 日ノ本編其の一 異文化交流にゃ~

403 懸案事項の相談にゃ~


 我輩は猫又である。名前はシラタマだ。ガイドさんではない。


 新婚旅行を終え、日ノ本で出会った玉藻達を連れて、わし達の住む土地を見せてあげたら大好評。最後の観光地、東の国では、玉藻と女王の話が弾んでいたようだ。

 それから夜になり、わしたち猫の国組も城で一夜を明かし、朝になったら食堂にてリータとメイバイに睨まれる。どうやらさっちゃんと二人きりで寝た事を怒っているみたいだ。

 昔はそんな事で怒らなかったのに、さっちゃんが双子王女に似た美人さんになっているから気になるらしい。なのでわしは二人にスリスリし、兄弟達も一緒だったから何も無かったと弁明し、怒りをやり過ごす。


 そうして食事を終えると日ノ本組は、リータ達ガイドさんに頼んで、王都観光に連れ出してもらった。

 わしはというと、女王に呼び出されているので、執務室にお邪魔する。まぁわしも話があったからちょうどよかった。さっちゃんは何故か、わしの尻尾を握ってついて来てしまったが……ペットの散歩のつもりか?


 執務室に入ると、そこには女王とイサベレが豪華なソファーに座っていたので、わしとさっちゃんは促されるままに女王の対面に座る。


「それで話ってなんにゃ?」


 わしも話したい事があるのだが、先手を女王に譲る。


「イサベレから聞いたんだけど……」


 女王の話の内容は、エルフの里と三ツ鳥居。どうやら、このふたつが欲しいようだ。


「シラタマが、エルフの里を国に入れないなら私にくれない? 悪いようにはしないわ」


 しまったな~……イサベレが喋ってしまったか。わしの秘密は黙っていてくれてるようじゃけど、エルフの里の口止めをすっかり忘れてたわい。ひとまず、使い道を聞いてみるか。


「にゃにをたくらんでるにゃ?」

「たいした事じゃないわよ。最近、森の押し返しが順調だから、土地が広くなって来ているの。森の深い位置に近付いているから、強い獣が現れるかも知れないじゃない? ハンターだけでは厳しいと思って、戦力を確保しておきたいのよ」


 まぁ筋は通っておるな。キャットトレインやバスのおかげで森にすぐ行けるようになって、土地が広くなったと、他の国からも感謝の手紙を何通か貰ったから、理由としては納得できる。じゃが……


「本当にそれだけにゃ? 軍備の増強じゃないかにゃ~?」

「そう受け止められても仕方ないわね」

「にゃはは。認めるのが早いにゃ~」

「シラタマには通じないからね。それならば、先に言っておいたほうが早いでしょ?」


 女王はわしを褒めながら、他の理由も付け足す。


「もしも他の国が知ったら、絶対欲しがるから先に手を上げたのよ。三ツ鳥居があれば可能でしょ?」


 なるほどな。未来に起こる不安の芽を摘み取ろうってわけか。そりゃ、イサベレ級の集団は誰でも欲しがるじゃろうな。


「まぁにゃ~。女王の言いたい事はわかるにゃ。でも、エルフの里の者は、あまり外に出したくないにゃ」

「どうして?」

「ひとつは、各国の戦力バランスが崩れるからにゃ。十人も確保したら、一国を落とせるはずにゃ。女王だって、頭によぎるにゃろ?」

「いえ……と、言いたいところだけど……」


 女王は自信なさげに呟くので、わしは腹を割って話してくれてると受け取る。


「それにイサベレが十人も増えたら大変にゃ~。うちでも、コリスとオニヒメ、シユウの食費で大変なのににゃ~」

「食費?? ……あ!!」


 どうやら女王は、わしがエルフの里の住人を外に出したくない理由がわかったようだ。


「十人にゃらまだいいにゃ。移住したいとか言い出したら、さらに大変にゃ。それを拒否したらどうなるにゃ?」

「食糧をめぐっての戦争……それも一方的な……」

「ご明察にゃ。無暗やたらに三ツ鳥居を繋いでしまったら、収拾がつかなくなるにゃ~。てか、イサベレも、説明するにゃらデメリットも説明してにゃ~」

「うっ……まったく気付かなかった……陛下。申し訳ありません」

「いいのよ。私も浮かれていたわ」


 二人がしゅんとする中、わしは相談を持ち掛ける。


「東の国と日ノ本とを、三ツ鳥居で繋ぐのも迷っているにゃ」

「それはどうして?」

「玉藻の尻尾を見たにゃろ? 見た目はかわいらしい幼女にゃけど、ああ見えて、わしと同等の力を持ってるにゃ。玉藻がその気ににゃったら、この国ぐらい簡単に落とせるにゃ」

「友好的に見えたけど……」

「玉藻はにゃ」


 わしの意味深な言い方に、女王は驚いた顔に変わる。


「まさか、他にも居るの??」

「わしも会っていないから正確にはわからにゃいけど、強いタヌキが居るみたいにゃ」

「たしかに脅威ね……」

「そうにゃ。エルフの里、日ノ本、どちらもわししか抑えられないにゃ。三ツ鳥居を繋ぐとしたら、猫の国だけが候補になるんにゃけど、それで他国がわかってくれるかがにゃ~」


 わしの悩みに、女王も悩む。すると、黙って聞いていたさっちゃんが口を開く。


「そんなの、シラタマちゃんの国と同じように、条約を結んだらいいじゃない? それに、心配し過ぎで何もやらないのはもったいないよ。攻めて来るとは決まってないんだからね」


 性善説か……さっちゃんらしい考えじゃな。しかし、言うなればわしは核兵器。日ノ本にふたつ、エルフの里に複数、猫の国にも複数。拡散されては取り返しがつかなくなる。

 かと言って、国どうしが交わらない事には世界の発展が止まってしまう。……わしが抑止力になるしかないのか。


「たしかににゃ。日ノ本の技術力は捨てがたいにゃ。しばらくは猫の国にだけ三ツ鳥居を置いて、様子見って事でどうかにゃ?」


 わしの案に、女王は頷く。


「それしかないわね……」

「あとは、女王に仕事を頼みたいんにゃけど……」

「何をやらせるつもり?」

「他国の不満を押さえ込んでくれないかにゃ? わしが全てを独占してるように見えるにゃろ?」

「そうね。一番危険をさらしているのだから、出来るだけ協力するわ」

「まぁ三ツ鳥居は各国に回す予定にゃから、それを説得材料にしてくれにゃ~」


 それからも様々な話をして、終わったらわしは部屋から出ようとするのだが、イサベレが肩を「バシッ」と叩いた。


「にゃに?」

「いや……」

「にゃんで叩いたんにゃ~」

「よくわからない……誰か居た?」


 イサベレは何を言っておるんじゃ? 誰か居たからって、わしを叩くものかね?


「気のせいかも??」

「にゃ~??」

「あはは。イサベレが冗談なんて珍しいわね」


 さっちゃんが笑うと、イサベレは首を傾げたままだったので、わしも何か引っ掛かるものを感じたが、それよりも大事な事を思い出したので女王を見る。


「あ、そうにゃ。双子王女から、イサベレの子供の件、聞いたにゃ?」

「ええ。これで私も、ようやく肩の荷が下ろせるわ。やっぱり、シラタマの旅に同行させて正解だったわ」

「詳しくは説明できないから、身ごもったらわしに言ってくれにゃ。必ず、母子共に、無事、出産させてあげるからにゃ」

「ええ。シラタマとの子を楽しみにしてるわ」


 は? なんでそこでわしが出て来るんじゃ? 解決したんじゃから、オンニでもバーカリアンでも、好きにヤリまくったらいいんじゃ。だからイサベレさんも、わしを見て舌舐めずりしないでください。

 こうなったら、エルフの里の男でも、お見合いさせてやろうか……



 妖しい目で見る女王とイサベレを置き去りにし、わしは城から出る。


「にゃんでついて来るにゃ?」


 しかし、さっちゃんが尻尾を離してくれないので、わしは質問する。


「お母様から許可をもらってるから、私もタマモさんの観光に付き合うよ!」

「いや、勉強とか、誕生日会とかの準備で忙しいにゃろ? それにソフィ達はどうしたにゃ?」

「だからお母様に許可をもらったから大丈夫なんだって~。護衛もシラタマちゃんが居れば大丈夫。エリザベスとルシウスも居るもんね~?」

「「にゃ~ん」」


 はい? 兄弟達が護衛なの? それはソフィ達がかわいそうじゃないか?? 兄弟達は……さっちゃん専属の騎士に任命されたのですか。そうですか。


 それからさっちゃんを歩かせるわけにもいかないので、車を取り出して走らせる。王都ではバスが数台走っているので、ノロノロ運転ならわしも許可をもらっているので、何も問題ない。

 しかし、皆がどこに居るのかわからない。なので、リータ達には玉藻達を、エンマと会わせるように頼んでいたので商業ギルドに寄ってみる。


 そこでギルド職員に話を聞くと、貴族街を中心に回ると言っていたので、さっちゃんとドライブ。ぺちゃくちゃと喋りながら移動するが、貴族街に入っても人だかりは出来ていないので、情報を手に入れる為にガウリカのお店に入った。


「邪魔するにゃ~」

「いらっしゃいま……なんだ、猫か」

「久し振りに会ったのに、にゃんだとはにゃんだ~!」

「あははは。そう言えばそうだったな。久し振り」


 ガウリカがわしの顔を見てあからさまにガッカリするので、文句を言ってしまった。


「それで、何か買いに来たのか?」

「いんにゃ。エンマが来なかったか聞きに来たにゃ」

「あ~。日ノ本の者は変わった者が多いんだな」


 どうやら玉藻達は、ここに立ち寄ったらしい。そこでタヌキ少女つゆを見て、ガウリカはわしと勘違いしていたらしいけど、白猫と茶タヌキを間違えるって、どゆこと? 黒猫も居たから、わしと久し振りに会った感がなかったらしい……

 とりあえず世間話はそこそこにして、エンマ達の動向を聞くと、お高い商品の多い貴族街では商品が少ないので、王都の台所、中央広場に向かう事になったようだ。


「にゃるほど。わかったにゃ~」

「あ、先にフレヤの所にも寄るって言ってたから、急いだらまだ居るかもしれないぞ」

「じゃあ、寄ってみるにゃ。ありがとにゃ~」

「待て!」


 わしがきびすを返すと、ガウリカに肩を掴まれので振り返る。


「にゃに?」

「これを払って行け」

「にゃ~?」


 ガウリカが用紙を渡すので、目を通してみると、請求書だった。


「にゃにこれ?」

「コリス達が食って行ったんだ。金が無いから、夜に猫が払うとリータが言ってたぞ」


 金が無いじゃと? わしはリータ達にけっこうな額を渡したはずなのに……。どうしてこんな事になっておるんじゃ??


 食ってしまったものは仕方がないので渋々支払いを済ませると、店内を物色していたさっちゃんを車に放り込み、ドライブ続行。

 フレヤの店は大通りから外れているので路地では徒歩に変え、さっちゃんに尻尾を握られて歩く。だから散歩じゃないぞ?


 そうしてフレヤの仕立屋に、挨拶しながら入る。


「久し振りにゃ~」

「久し振…り? 猫君とはなんだかさっき会ったばかりな気がするんだけど……」


 どうやらフレヤも、黒猫と茶タヌキをわしと勘違いしていたようだ。なのでブーブー……「にゃ~にゃ~」文句を言ってから、本題に入る。


「エンマ達が来たにゃろ? どこに行ったかわかるかにゃ?」

「ええ。キャットランドに向かったわよ。それにしても、日ノ本って国には、いろいろな毛並みが居ていいわね~」


 どうやらフレヤは、服を選ぶとか言いながら、玉藻達の毛並みを堪能したそうだ。そこでモフモフしながら服を選び、尻尾が痛くないようにその場でリメイクしていたらしい。


 でも、わしの毛並みが一番好きって言いながら、服に手を入れないでくれる?


「にゃるほど。早く合流したいから、行ってみるにゃ~」

「あ! 猫君待って!!」


 わしがフレヤのセクハラから抜け出すと、フレヤは制止を求めてからカウンターに入る。そして一枚の用紙を渡して来た。


「リータちゃんが手持ちが無いからって、ツケて行ったのよ」

「にゃ……」


 ここもか……てか、何その勝ち誇った顔!? まさか、無理矢理売り付けたのか? うっ……四人分も買ってやがる。一着多いけど、オニヒメの分かな? あ、帽子は嬉しい。ひょっとしたら、角が隠れてるかも?

 いやいや、こんなに売り付けられるなんて……日ノ本で散財したから、しばらく倹約に努めようと思っていたのに~!!


 王様になっても金銭感覚は昔のままで、ケチ臭いわしは、泣く泣く請求書通りの金額を支払うのであった。

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