404 押し付け合いにゃ~
フレヤの店で、無理矢理押し付けられた請求書の代金を渋々払ったわしであったが、気を取り直して店を出る。
ガシッ!
だが、さっちゃんに尻尾を掴まれて出れなかった。
「にゃ、にゃんですか?」
「これからキャットランドに行くんでしょ? ドレスのまま遊んだらお母様に怒られそう……」
「うんにゃ。遊ばなければいいですにゃ~」
「ええぇぇ!? 買ってよ~~~!!」
「揺らすにゃ~~~!!」
こうしてぐわんぐわんと揺さぶるさっちゃんに負けて、無駄な出費が増えるわしであったとさ。ちなみにフレヤは「王女様に私の作った服なんて……」とか言ってたけど、言葉とは裏腹に、ノリノリで選んでいた。
フレヤの仕立屋を出ると、庶民の動きやすそうな服を着たさっちゃんをお姫様抱っこして屋根を飛び交う。車移動が面倒という理由もあるが、これ以上さっちゃんに、ペットみたいに散歩されたくない理由もある。
もちろんさっちゃんには大好評。お姫様抱っこより、わしの顔に頬擦りするのが気持ちいいらしい。移動の邪魔だからやめて欲しい。
そうして兄弟達と一緒にぴょんぴょん飛んでいたら、キャットランドに到着。さっちゃんを降ろして、洋服に着替えた日ノ本の者や、それを見ようとする人だかりが出来ているフードコーナーに近付く。
「やっと追い付いたにゃ~」
「あ、シラタマさん」
「待ってたニャー」
わしを視界に入れたリータとメイバイは走り寄る。
「待ってたにゃ? どうかしたにゃ??」
「それが、みんな多く食べるので、お金が足りなくて困っていたんです」
「貴族街に行ったのは失敗だったニャー。あんなにちょっとじゃ、全然お腹が膨らまないニャー」
どうやらお城の食事は、皆、遠慮していたらしく、エンマに先に軽食が食べたいとお願いした高級店で、コリスとオニヒメと玉藻がバカ食いしたらしい。
それでわしが渡したお金は底をついて、ツケの利く店を中心に回っていたらしい。だからって、服屋はおかしくない?
「シラタマさん……これを……」
「にゃ~??」
わし達が話し込んでいると、エンマが請求書を手渡す。
「にゃ!? にゃにこの額!?」
「リータさん達の手持ちでは足りなく、全額渡して、あとは私の顔で、なんとか後払いにしてもらったのです。シラタマさんの口座から、支払いしていいですよね? ね? じゃないと、私の給料三ヶ月分が吹っ飛んでしまいます~」
おお~。エンマの泣き言は珍しいな。しかし、エンマの給料ってそんなに高いのか。さすがサブマス。高給取りじゃな。って、バカな事を考えている場合ではない。わしもこんな大金、払いたくないんじゃ~!
「そもそも、高級店に連れて行くのが間違いなんにゃ……」
「そもそも、こんなに食べるなんて聞いてないんで……」
「「そもそも……」」
わしとエンマが請求書の押し付け合いをしていたら、リータ達がわしの味方をして……くれない。
「私も値段に気付かずに、いっぱい食べてしまいました……」
「私もニャー。ごめんニャー……」
こうなっては仕方がない。エンマの勝ち誇った顔は気になるが、お金の心配を妻にさせるほど、わしのケツの穴は小さくない!
「いいにゃいいにゃ。わしは王様でお金持ちにゃ。気にする事ないにゃ~」
うぅぅ。また出費じゃ。せめて貴族街じゃなければ、ゼロがふたつほど少なかったのに~!!
わしは見栄を張って、ホッと胸を撫で下ろしているエンマの差し出した請求書にサインする。そうしていると、玉藻がわしのそばにやって来た。
「何やら金で揉めておるみたいじゃな」
そうじゃよ! わしが出すと言ってしまった手前、玉藻には言えないけど……
「リータ達に渡した額が、ちょっと少なかっただけにゃ。わしは王様だから、こんにゃのへっちゃらにゃ~」
「ほう……天皇家は倹約に努めておるのに、豪気じゃのう」
倹約に努めているなら、玉藻さんも倹約しておくれ。バカ食いしやがって……
「そう言えば、ここに来たという事は、玉藻も遊具で遊んだにゃ?」
「少しだけな。昼食を食べてから、また遊ぶ予定じゃ」
まだ食うのか……これは先に手を打たねばならんな。
「みんにゃに食べられたらキャットランドの食べ物が無くなるから、わしが出すにゃ~」
ひとまず肉の串焼きを大量に取り出して、テーブルに山積みにする。すると、コリスを筆頭に皆は手を伸ばし、ガンガン減って行く。
わしも何本か手に持って食べながら、グッズ販売を見ているキツネ店主のそばに寄って声を掛ける。
「質屋は食べないにゃ?」
「もうお腹いっぱいで食べられまへん。皆さん食べ過ぎですがな~」
「まぁ食も旅の醍醐味にゃ~」
「たしかに……ここの料理を日ノ本で売れば、儲かりますな~」
「にゃはは。金勘定が早いにゃ~。でも、そんにゃに手広くやっても、手が足りないにゃろ」
「そうでんな。まずはナマ物以外で稼いで、飽きた頃に飲食店を……」
ふ~ん……さすが商売人。いろいろ考えているんじゃな。まぁ質屋が頑張れば頑張るほど、輸入先の猫の国が潤うから頑張って欲しいものじゃ。
「それで売店にゃんて見てたって事は、にゃんか欲しい物でもあるにゃ?」
「へえ。この一番人気のぬいぐるみを、見本用に持ち帰りたいのですが……シラタマさんから預かったお金を、その前の店で取られてしまいまして……」
え……質屋にも、サンプル品の購入用に、けっこうな額を渡したと思ったけど、全部、皆の腹の中に消えたじゃと? どんだけ飲み食いしておるんじゃ!?
いや、ここはラッキーだと受け取ろう。日ノ本にまでわしのぬいぐるみが普及したら、ダメージが半端ない。やんわり売れないと言っておこう。
「それは売れないんじゃにゃいかにゃ~? 似たようにゃの、いっぱい歩いているにゃろ~?」
「そんなことないです!」
「絶対、売れるニャー!」
わしが販売を阻止しているのに、リータとメイバイが割り込みやがった。だが、わしも引けない!
「そうかにゃ~? いっぱい輸入して在庫が余ったら大損しちゃうにゃ~」
「いいえ。旅館の女の子も、シラタマさんを撫でてたじゃないですか。シラタマさんも、売れると思って猫の国に権利を寄付しなかったんでしょ?」
「そうニャー。これが売れればシラタマ殿にロイヤリティが入るから、家計に役立つニャー!」
いや、わしがぬいぐるみの権利を手放さないのは、どれだけ普及しているかを確めるためなんじゃけど……増えたら恥ずかしいんじゃもん!
「必要経費です」
「早く出すニャー」
「はいですにゃ」
こうしてわしは、リータとメイバイのカツアゲにあって、キツネ店主にお金を渡すのであった。だって目が怖かったんじゃもん!
そうしていると皆の食事も終わり、遊具に向かう玉藻達。さっちゃんも兄弟達も加わり、滑り台を楽しそうに滑っている。ちなみに、他の子供も滑っているので、さっちゃんはコースアウトしなかったから、わしの出番はなかった。
わしはというと、滑り台で遊ぶような子供ではないので、フードコーナーでリータとメイバイ、エンマと共にまったりしながら、滑り台で遊ぶ皆を見ている。
さっちゃんに抱かれて滑っている子は、オニヒメかな? 食事の時に居ないと思っていたら、気付かんわけじゃ。
洋服を着て、なんかキノコみたいな帽子を被っておるもん。いや、ベレー帽かな? 角を無理矢理隠しているって感じじゃな。じゃが、似合っていてかわいらしい。周りともさほど違和感が無いし、さすがフレヤ。いい仕事をしておる。
わしが微笑ましくオニヒメを見てから視線を戻すと、つゆが一人で突っ立っていたので、気になってそばに寄ってみた。
「どうしたにゃ? みんにゃと一緒に遊ばないにゃ?」
「い、いえ……遊ばなくてすみません!」
「いや、怒ってないにゃ。どうしたのかと気になっただけにゃ~」
「あ、いえ……ちょっと気になったので、外から見ていたんです」
「にゃ~?」
「あんなに長い距離を滑るなんて、摩擦が少なくないと出来ないので……」
どうやらつゆは、科学の話をしているようだ。ブツブツと「速度、角度、摩擦力」がどうのとか言っている。
「作ったわしが言うのもなんにゃけど、そこまで考えて作ってないにゃ。実験と修正……設計図だけでは、こうも上手く作れなかったにゃ。物作りって、そんにゃもんにゃろ?」
「……わかりません」
「にゃ?」
「私は一から作った事がないので……設計図を渡されて、部品を作るだけだったので……」
あ~。つゆはたしか、劣等生だから時計工場で働いていたんじゃったか。それじゃあ、一から作る楽しみは知らないんじゃな。
「まぁ部品を作るのは大事にゃ仕事にゃ。つゆが作る歯車が無ければ、時計は動かないからにゃ」
「え……」
「つゆも一緒にゃ。時計工場の歯車のひとつにゃ。つゆが居なければ、工場が止まってしまうにゃ~」
「そんな……私なんて居なくても、工場は動いています……」
「代わりが入ったからにゃろ? いまはきっと、製造速度が遅くなってるはずにゃ。代替えが利く仕事でも、人が代われば手順は変わるにゃ。わしだったら、育てた人に抜けられるのは困るにゃ~」
わしが元の世界の、会社での事を懐かしみながら話をしていると、つゆは両手を目に持って行く。
「うぅ……そんなこと言われたの初めてです~。わ~ん」
はて? この子はなんで泣いておるんじゃ? わしは一般論を言ったつもりなんじゃけど……。いや、銀行員がわしの逆の事を言っていたか。それで息子が感化されて、賃金の安いアルバイトを大量に雇って会社が傾き掛けたんじゃった。
その頃はわしも息子に会社を譲ろうとしていたから口出しは控えておったけど、それがあって、銀行に殴り込みに行ったな。
会社にとって、人は宝。特に我が社は技術力でもっていたんじゃから、息子も反省して従業員を大事にするようになったのう。懐かしい思い出じゃ~。
つゆが泣きじゃくる横で、わしは遠い目をして瞳を潤ませていたら、危険が迫っている事に気付かなかった。
「シラタマさん! ツユちゃんを泣かせて何してるんですか!!」
「ツユちゃんに何したニャー!!」
危機の正体は、リータとメイバイだ。わしは何もしてないのに、何やら怒っている。
「にゃにもしてないにゃ~」
「じゃあ、なんで泣いてるんですか!」
「知らないにゃ~。つゆに聞いてくれにゃ~」
「すみません、すみません」
「ほら~。シラタマ殿に怯えて謝ってるニャー!」
「怯えてないにゃろ~?」
「泣いてすみません。うぅぅ」
わしが優しく語り掛けても、つゆは謝るだけ。リータとメイバイも信じてくれず、わしは理由もわからず謝るのであった。
「すいにゃせん!」
「謝らせて……うぅぅ。すみません」
「「何した(ニャー!!)の!!」」
「もう謝らないでくれにゃ~~~」
あとで聞いた話だと、つゆの謝罪はただの癖だった。なのにわしは、リータとメイバイに責められ、謝り続けるのであったとさ。
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