402 世界は広いにゃ~
「「「おお~~~!!」」」
飛行機初体験の、玉藻、キツネ店主、タヌキ少女つゆは感嘆の声を出し、質問の嵐となった。
今日の日ノ本接待は、空の旅。上空から世界は広いと教えてあげる事にした。
日ノ本以外は、新婚旅行に行ったメンバーに加え、ワンヂェンとオニヒメがついて来てしまった。なんでも最近忙しかったから、息抜きがしたいんだとか……
まず始めに向かった場所は、ビーダールから南にある猫の国の領地、旅館を建てた無人島に転移した。
玉藻達は暑さに驚き、他国に来たのだと実感できたが、暑すぎて、キツネ店主とつゆがグロッキー状態。ひとまず皆には暑さ対策の魔道具を支給して、飛行機で飛び立った。
その機内では、一番前の席を譲ろうとしない玉藻のせいで、イサベレを後ろに待機させ、アイラーバの探索を開始する。
「どうかにゃ? わかるかにゃ?」
「ん。あっち」
あっさりと方向を指示するイサベレの案内で飛行機を飛ばし、これまたあっさりとアイラーバを発見して、その近くの森の中、昔わしが発見した神殿の辺りに飛行機を降ろす。
「これが象か……デッカイのう」
玉藻達がアイラーバの大きさに驚いているので、わしは補足する。
「白い象は特別にゃ。あっちの灰色の象が、通常サイズにゃ」
「白象を見てからだと小さく見えるが、あれでもかなり大きいな。人が襲われたらたまったものじゃないぞ」
「怒らせたら危険だろうにゃ。でも、ここの国の王とは、良好な関係だと聞いてるにゃ。ちょっと話してみるにゃ?」
「ああ。頼む」
わしはアイラーバに玉藻を紹介し、世間話に花を咲かせる。その間、他の者も象を撫でたりしながら各々楽しむ。
あとで聞いた話では、つゆは森の中の神殿や象のスケッチを取っていたようだ。でも、絵が下手すぎて、何を書いているかさっぱりわからなかったとメイバイが教えてくれた。
それを知らずに、わしは集合写真まで撮ったので、つゆに他の写真も欲しいと言われたので了承する。現像をするのはつゆなのだから、何枚でも写真にしてくれたら、わしは何も問題はない。
アイラーバの紹介を終えると、飛行機を離陸して次なる目的地に向かう。今回は戦闘機では無いので高い位置を飛び、鳥との遭遇を避けて空を行く。そのほうが、土地が広々と見れて、玉藻達には喜ばれるだろう。
「凄いのう……永遠と続く黒い森にも驚いたが、砂も永遠と続いておる。
「ここは暑いからにゃ。植物が育たないんにゃ」
「これでは生物も生きられないじゃろうな」
「いんにゃ。環境に適応した生物はいるにゃ」
「あの環境の中をか……」
隣に座る玉藻の質問が途切れると、わしは物思いに
ビーダールはインドみたいじゃと思っていたけど、本当にインドだったんじゃな。カレーにクスクス。チャイにモンスーンコーヒー。ドーナツが甘いのも、インド土産物じゃ。
いま思えば、南に行けば行くほど暑くなっていったのは、赤道に近いせいだったんじゃな。
そう言えば、アイラーバって、インド神話にいたかも? 四本の牙と七つの鼻を持つ真っ白な象……名前はアイラーヴァタじゃったか? 伝説の白い巨象とかなり似ておるから、ひょっとしたらこの世界の者が、わしの世界に伝えたのかもな。
そうして空を行くことビーダール王都が見えると、バスに乗り継いで貴族専用の門に向かう。ここでは、王様効果と白猫効果でフリーパス。無事に王都内をバスで走る。
「のう?」
「……にゃに?」
玉藻の質問の内容は想像できるので、わしは面倒臭そうに返事する。
「象にまじって猫の石像があるんじゃが、どうしてじゃ?」
「知らないにゃ~」
「じゃあ、ここの民が、このバスに向かって土下座をしているのは何故じゃ?」
「知らないにゃ~」
「……リータ。説明を頼む」
「それはですね」
玉藻はわしがとぼけ続けるので、何かを感じ取って、リータに質問しやがった。
その説明では、体高50メートルの象を殺した事から始まり、白猫教なる新興宗教が席巻して、街の中に猫の石像が増えているとのこと。
もちろんわしも、うっすらとは知っていたが、詳しく知りたくなかったから耳を塞いでいたのに……
うぅぅ。やっぱりわしの宗教が出来ておったのか……嘘だと信じておったのに~! これはもう、この国に来てはいけないという暗示じゃな。
「コンコンコン。シラタマは猫の
「笑うにゃ~! そんにゃに笑うにゃら、
「「「「あはははは」」」」
「にゃははは」
「「コンコンコン」」
玉藻のせいで、笑うなと言っても大爆笑。現猫神と罰を与えるが、ツボに入ったようだ。
そうしてぷりぷりしながら運転していると王宮に到着し、皆の感嘆の声を聞きながら、整列してカメラをパシャリ。
記念撮影を終えると、わしの指定した玉座の間でバハードゥ王とハリシャ王女と
「急に時間を作らせてしまってすまなかったにゃ」
「ああ。シラタマならかまわない。それに、俺もこの土地以外の者と会ってみたかったからな」
「そちらの方が、東の果てで会われた人?ですか?」
「そうにゃ。こっちは玉藻……」
ハリシャの「人?」発言にわしも引っ掛かったが、全員、ちゃんと紹介してあげた。もちろんモフモフ好きなハリシャは、キツネ店主とつゆ、玉藻の尻尾をお触りしたいと言って来たので、軽く許可してやった。
玉藻は断るかと思ったが、王女様と紹介したからか触らしてくれたけど、ハリシャの巨乳に挟まれて迷惑そうにしていた。
キツネ店主は、服の中まで手を入れられてモフられてわしに泣き付き、つゆはずっと抱き締めらて、悲しい目でわしを見て来る。
もちろん無視して、玉藻と一緒に、バハードゥと世間話だ。
そうして挨拶を済ませたわし達は街に繰り出し、買い食いする。
玉藻達が異国を味わうには持って来いの配慮だったのだが、めちゃくちゃ拝まれて、わしは居心地が悪い。なので、コリスに埋もれて移動する。
コリスも、ビーダールに何度も連れて来て歩いているから怖がれる事はないので、迷彩には持って来いだ。そのせいで、黒猫ワンヂェンと茶タヌキつゆが拝まれていたけど、どうやったら白猫と間違えるのか、さっぱりわからない。
わしへの信仰心が足りないのでは? 別にいらんけど……
買い食いで腹を満たしたわし達は、ビーダールをあとにして、玉藻達の感想を聞きながら空を行く。
「ビーダールは辛い食べ物が多かったのう。まだ口が辛いわ」
「お国柄にゃ。暑い土地は、辛い料理を食べて汗を掻き、体温調整してるんにゃ」
「なるほどのう。そちの話は勉強になるのう」
「ほい。甘い飲み物でも飲んで、口直しするにゃ~。メイバイ。回してあげてにゃ~」
「はいニャー」
メイバイがわしの出したジュースを運び、南の国に入ると、また物思いに耽る。
南の国王都には何度か足を運んだけど、いま思うと西洋とアジアの文化がまざった建物が多かったから、トルコに近かったかも?
西の国は、完璧に西洋様式じゃったな。さらに西に行けば、イギリスやフランス、ドイツもあったんじゃろうな。アカシックレコードでイタリアを見たんじゃから、確実じゃろう。
その辺は早い時期に大戦が行われ、東に東に、人々が流れて行って、白人が原住民を排除したか、混じり合ったのじゃろう。黒い森が少ないところを見ると、戦争で奪ったわけではないのかな?
南の国は、空からの観光だけで終わらせ、少し西の国もかすらせてから、最後の目的地、東の国王都近辺に着陸する。
そして貴族専用の門からバスを走らせ、一直線に城へ向かう。その道中では、道行く住人に玉藻達は驚いていたので、猫関係以外はわしが簡単な説明をしてあげる。
「要は、四種類の人種がいるにゃ。肌の黒い人種に肌が褐色の人種にゃ。日ノ本と猫の国は肌が黄色いにゃ。そんで、ここは白い肌が多いにゃ」
「ほう……土地によって言葉が違えば、人間も違うんじゃな」
「日ノ本も同じにゃろ?」
「そうじゃな。人間だけでなく、キツネもタヌキもいる。言葉も少し違うのう」
「猫の国には、猫もいるにゃ~」
「そうじゃったな。コンコンコン」
しばらくして城門を潜り、城の前で皆を降ろすと、大きくて荘厳な城を見上げる事となった。
「これが城か……日ノ本と形が違うな」
「ビーダールも違ったにゃろ? これもお国柄にゃ」
「それに大きく立派じゃ……シラタマの城とは大違いじゃな」
「うちと比べにゃいでくれにゃ~。わしはこんにゃ大きにゃ建物で暮らすのは、性に合わないだけにゃ。それじゃあ、ここでも一枚撮ろうかにゃ?」
「ああ。頼む」
わしが皆を集めて土魔法の土台にカメラを乗せていると、聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「シラタマちゃ~~~ん!」
さっちゃんだ。ソフィ達を連れて、息を切らしてやって来た。
「さっちゃん! 久し振りにゃ~」
その声に、わしも走り寄って抱き合う。いや、さっちゃんに抱きかかえられてしまった。
「やっと帰って来てくれた~」
「にゃはは。長い間、留守にして悪かったにゃ」
「今回は長かったから、心配してたんだよ~」
「心配してくれてありがとにゃ。出会いがあったから、予定より遅くなったにゃ。さっちゃんにも紹介するから、こっちに来てくれにゃ」
さっちゃんを連れて皆の元へ戻るが、何やら興奮してしまった。
「キツネ! タヌキ! 尻尾!? なに、このパラダイスぅぅ!! 触っていい? 触っていいよね?? ハァハァ」
「落ち着けにゃ~!!」
さっちゃんを落ち着かせる為に、ひとまずキツネ店主に犠牲になってもらった。尻尾を抱いて、お婿に行けないとか言っていたけど、何歳なのかわからないので、いつか行けるだろう。
それでもさっちゃんの興奮は収まらないので、つゆにも犠牲になってもらった。尻尾を抱いて、お嫁に行けないとか言っていたけど、女どうしだから、そっちの趣味に目覚めなければいつか行けるだろう。
玉藻の尻尾を撫でる頃には正気を取り戻していたが、九本の尻尾で顔をわさわさされて、さっちゃんはあっちの世界に旅立ってしまった。
「落ち着いたにゃ?」
「も、もうダメ……」
「これから面白い事をするから、しっかりするにゃ~」
「面白いこと!? なになに~?」
さっちゃんが復活したところで、ソフィ達も誘ってパシャリと記念撮影。さっちゃんは何が面白いかわからないと苦情を言って来たが、あとで説明すると言って、玉座の間に移動する。
玉座の間には騎士や貴族が立ち並び、中央の玉座に女王と王のオッサンが鎮座していた。
案内役が、わし達を立ち位置に並ばせて下がって行くと、少し緊張した玉座の間に女王の声が響く。
「よく戻った」
「ただいまにゃ~」
「それで、そのほうらが……」
「そうにゃ。こちらにおわすは日ノ本の王の名代……玉藻様にゃ~! 者ども、ひかえおろうにゃ~~~!」
わしの紹介に、この場にいる全員は「へへ~」と……
スパーン!
ならずに、玉藻がわしの頭をハリセンで叩く、気持ちいい音が響き渡った。
「にゃにするにゃ~!」
「だから調子に乗るなと言っておろう!」
「ブッ……」
「「「「「アハハハハ」」」」」
わし達の漫才がおかしかったのか、女王が吹き出すと、玉座の間に居る者は大爆笑となった。
しばらくして笑い声が無くなると、玉藻が挨拶をする。
「妾はここの言葉を話せないから、じゅ……魔法を使って話させていただく。先ほどシラタマから紹介にあがった玉藻じゃ。どうぞ名を覚えてくれ」
「ええ。私は東の国、女王、ペトロニーヌだ。初めての……いや、新天地の者と接見するのは二度目か。歓迎するぞ。これより宴を催すから、その場でお互いの国の事を話し合おう」
女王は立ち上がり、わしを見て
その後、場所を変え、宴が行われる会場にはたくさんの料理や人が並び、わし達の冒険談や、玉藻達の日ノ本談義に花が咲く。
その証明に、わしが日ノ本で撮って来た写真やお土産を見せて、さっちゃんや女王達の驚く顔を見ながら説明し、日が落ちても宴は続くのであった……
今日は遅くなったので、女王に泊まって行くように言われ、猫の国組も寝室を用意してもらった。だが、わしだけさっちゃんの部屋に拉致されて、兄弟達と共に、ベッドに横になっている。
「シラタマちゃんは、凄い大冒険をして来たんだね……すっごく面白かったよ!」
「にゃはは。それはよかったにゃ」
「写真も凄かったね! 私も、あんな風に絵になってるの?」
「そうにゃ。現像……まだ絵にするにはひと手間必要にゃから、出来しだい持って来るにゃ」
「楽しみだな~……はぁ」
わしの隣で横になっているさっちゃんは楽しみと言いながらも、天井を見つめてため息を吐いた。わしはどうしたものかと、さっちゃんの横顔を見つめる。
「世界は、私が思っているより、ずっと広かったんだね……」
「にゃはははは」
さっちゃんの呟きに、わしはあの日の事を思い出して笑ってしまった。
「どうして笑っているのよ~」
「いや、ようやくさっちゃんとの約束を果たせたと思ってにゃ」
「約束?」
「海で、世界を見て来てくれと言われていたにゃ~。それが戦争や王様なんてしてたから、ずいぶん遅くなっちゃったにゃ。ごめんにゃ~」
わしが謝ると、さっちゃんはキョトンとした顔をしたあと、体を起こしてわしの頭を優しく撫でる。
「ううん。シラタマちゃんは、いっぱい世界を見せてくれてるよ」
「にゃ~?」
「猫の国もそうだし、たまにこっそり他国に連れて行ってもくれた。それにサッカーやゴルフ、変わった料理もいっぱい教えてくれた。さらに飛行機や車やキャットトレイン! シラタマちゃんと出会って、私は、い~~~っぱい、世界を知ったよ!!」
さっちゃんは身ぶり手振りで大きさを表現し、わしに抱きついて横になる。
「シラタマちゃん……ありがとう」
「にゃははは。まだまだわしの見た世界は極一部にゃ。さっちゃんの表現では足りないにゃ~」
「じゃあ、これぐら~い?」
「ぜ~んぜんにゃ~。こ~~~れぐらいでも足りないにゃ~」
さっちゃんが両手を広げて見せるので、わしも両手を広げて反論する。
「あははは。わたしより小さいよ~」
「にゃははは」
「あははは」
こうしてわしとさっちゃんは、笑いながら眠りに落ちるのであった……
その深夜……
「あ~~~!!」
さっちゃんは叫びながらガバッと起き上がり、わしも驚いて目を覚ます。
「ふにゃ~……こんにゃ夜中にどうしたんにゃ~?」
さっちゃんは体を半分起こしてわなわなとしていたので、目を擦りながら質問すると、大声で答える。
「日ノ本に連れて行ってくれるんだよね!?」
「にゃ~?」
「わたし言ったよね!? シラタマちゃんの行った場所に連れて行ってって!!」
「揺らすにゃ~~~!!」
激しく揺さぶるさっちゃんに、日ノ本旅行を固く約束させられるわしであったとさ。
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