394 京と言えばにゃ~


 わし達はキツネ店主に連れられて、次の目的地である蔵に足を踏み入れ、わいわいと喋っていたら爆音が響き渡って耳を塞ぐ事となった。


「にゃ、にゃんだこの音は~~~!!」

「何か言いました~~~??」


 わしがキツネ店主に問うが、蔵中に響く音が大きすぎてお互いの声が届かないようだ。なので念話に切り替えて話を聞く。


「このうるさい音は、なんにゃ?」

「最近、若者に人気のある爆音団の演奏でっせ。切符も飛ぶように売れているので連れて来たのですが……お気に召さなかったようですね」

「う~ん……せっかくにゃし、もう少し見て行くにゃ」


 わしはリータ達に不快なら外で待っているように言ったが、こんなに大きな音はリータ達も物珍しいらしく、残る事となった。

 そうしてわし達は舞台に目を向け、白塗りの男達の激しい演奏を眺め続ける。


 要するに、ここはライブハウスってヤツじゃな。娘が一時期ハマっていたのう。どうしても見たいバンドの出るライブに一人で行けないと泣き付かれて、一度だけ見た事があった。あの時も、音に驚いたもんじゃ。

 しかしあいつらの持っている楽器って、三味線しゃみせんじゃよな? どうやったらエレキギターみたいな音が出るのじゃ? 謎じゃ……。いちおうはスピーカーもあるけど、魔道具か電気か、どっちで動いているんじゃろう? 電気なのかな?

 よくもまぁ西洋文化の伝わらない世界で、ここまで同じ文化を作り出せたものじゃ。このまま行くと、パソコンやスマホまで作り出しそうな勢いじゃな。まぁ進化速度から行くと、あと百年以上は掛かりそうじゃ。


 わしが文化レベルを思案しながら見ていると、ノリノリになったメイバイとコリスが、ピョンピョンと飛び跳ねて前に進んで行った。

 なので、絶対に力を出し過ぎないように念話で伝え、わし達は後ろのバーカウンターのような場所で、抹茶や緑茶を飲みながら眺める。

 リータ達と感想を念話で喋っていると、ダイブをする若者にまじって、コリスが人の上をコロコロと転がり、メイバイは頭を踏んで飛び跳ねていた。



「「あはははは」」


 音が途切れて奏者が下がると、メイバイとコリスは笑いながら戻って来た。


「楽しかったみたいだにゃ」

「音楽を聞きながら騒ぐって面白いニャー!」

「うん! おもしろかった!!」

「それはよかったにゃ。さてと、そろそろ次に行こうかにゃ」

「次はどんな娯楽かニャー?」

「たのしみ~!」


 二人の楽しそうな顔とは他所に、リータとイサベレはそうでもなかったようだが、文化の違い自体が面白いのか、満更ではない顔をしていた。





「待たれよ」


 キツネ店主の案内で、皆と和気あいあいと喋りながら蔵を出たら、侍風のタヌキ達がわし達を囲むように立った。

 わしは何事かとキツネ店主の顔を見ると、焦っているように見えたので、何者か予想をしながら話を聞く。


「お前達が異国の者か?」

「そうにゃけど、にゃにか用かにゃ?」

「城主様が呼んでいる。ついて来い」

「今日、明日と立て込んでいるから、そのあとでもいいかにゃ?」

「は? 城主様の呼び出しだぞ?」


 なんじゃこのタヌキどもは……偉そうな奴らじゃな。これでもわしは王様じゃぞ? あ、そう言えば国賓とはなっていたけど、地位は秘密にするように、玉藻に頼んでおったな。


「別に会わないにゃんて、言ってないにゃろ」

「この京を歩くのならば、城主様の呼び出しはすぐに応えるものだ。それとも、力尽くで連行してもいいのだぞ」

「わしの後ろには天皇家がついているけど知らないにゃ?」

「知っているが、それがどうした」

「玉藻に怒られても知らないからにゃ~」

「いいからついて来い」


 そう言ってタヌキ侍達は歩き出したので、わし達も歩き出す。すると、キツネ店主があわあわしてわしを止めようとする。


「あの~……お侍様と逆に歩いているのですが~」

「にゃ? 次はこっちじゃないにゃ?」

「道は合っているのですけど、城主様の召喚には応えたほうが~」

「わしは応えたにゃ。にゃのに、強引に事を進める態度が気に食わないにゃ」

「いやいや……あ!」


 わし達が逆に歩いていると気付いたタヌキ侍は、焦って走り、わし達は回り込まれてしまった。


「貴様ら~~~!!」

「うっさいにゃ~。にゃに~?」

「ついて来いと言っただろ!」

「わしは明後日にゃら行くと返事したにゃ」

「ふざけやがって……」


 タヌキ侍の一人は、怒りに任せて刀に手を掛ける。


「抜くにゃ? 抜くにゃら、この国の全てを賭けろにゃ?」

「国の全てだと……?」

「わしは一国の王にゃ。王のわしに刀を向けると言う事は、宣戦布告を意味しているにゃ」

「えっ……」

「城主が呼んでるにゃと? どっちが偉いかわからにゃいのか! 頭が高いにゃ~~~!!」


 わしが怒鳴り付けるとタヌキ侍達はポカンとした後、顔を見合せて、全員で土下座をする。


「も、申し訳ありませんでした。数々の非礼、お詫び申し上げます」

「もういいにゃ。散れにゃ!」

「は、はは~」


 タヌキ侍は立ち上がると、もう一度深々と頭を下げて走り去って行った。すると、キツネ店主はため息を吐きながら寄って来た。


「はぁ……あんな撃退方法があったから、余裕だったんでんな~」


 侍は縦社会じゃから、城主より偉いと聞けば引くかと思ったが、上手くいってビックリじゃわい。まぁ失敗しておったら、殴って玉藻に後始末は頼んだけどな。


「まぁにゃ。てか、あいつらは京言葉を使ってにゃかったけど、にゃに者にゃ?」

「徳川の息が掛かった者ですわ。徳川の天下はとうに終わってますのに、いまだに態度が大きくて嫌になりますわ」

「ふ~ん。天皇家にもひるまにゃいとは、タヌキは全員そうにゃの?」

「いえいえ。いい人もいっぱい居ます。江戸からこちらに来ている人だけが、横柄なんです。それにケチなんですわ~」


 ああ。人力車の人も、タヌキはケチとか言っていたな。見分けがつかないから、タヌキ全般がケチだと思われているのかな?


「それじゃあ、つぎ行こうにゃ~」

「へ~い」


 タヌキ侍にからまれるトラブルはあったものの、わし達は次なる目的地へと向かうのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 シラタマ達が京観光をしている最中、五条城に大声が響き渡っていた。


「なんだと!? 異国の王だっただと!!」


 城に戻ったタヌキ侍から、事の顛末を聞いたタヌキ城主の声だ。その声に、タヌキ侍は土下座をしながら申し開く。


「は、はい。連れて来る事は相手に失礼になると思い、戻って来た所存です」

左様さようか……」


 タヌキ城主も初めての経験で、どうしていいかわからず考えてしまうが、すぐに次の手が浮かんだようだ。


「ならば、宴を用意するからと言って呼び寄せよ」

「すぐにですか?」

「そうだ。天皇家が異国の王と接触しておるのに、徳川家が何もしていないわけにもいかないだろう」

「しかし、立て込んでいるとおっしゃっていたのですが……」

「夜なら時間が取れるだろ! いいから伝えて来い!!」

「は、はい!!」


 タヌキ城主に怒鳴られたタヌキ侍は急いでシラタマの探索にあたり、タヌキ城主は庭を眺めて独り言を呟く。


「異国の王ならば、すぐに将軍様に連絡をしなくてはならんな。その後、面会まで迅速に持って行かねば……。しかし千年もの間、異国の者は現れなかったのに、どこから来たのだ? いや、いまは宴の準備を急がねば」


 そうしてタヌキ城主は城内に居る者に指示を出し、様々な食材を買いに行かせ、宴の準備を着々と進めるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「「「「うわ~~~」」」」


 わし達がキツネ店主に連れられて入った通りは、何軒ものお店が立ち並ぶ商業通り。人も多く賑わい、店先には綺麗な和菓子やお土産品が目に映え、リータ達は感嘆の声を出した。


「人がいっぱい居ますね~」

「綺麗な食べ物がいっぱいあるニャー」

「ん。すごい」

「モフモフ~。アレかって~?」

「にゃはは。エミリにもいっぱいお土産を買って帰ろうにゃ」


 リータとメイバイに続き、イサベレも若干興奮してキョロキョロしている。コリスには釘を刺したが、買ったそばから頬袋に詰め込みやがった。なので、一点に付き一個までと決めて、多くの店を回る事で納得してもらった。

 リータ達も和菓子をちょくちょくつまみ、口が甘くなると漬け物屋に入って口をリセット。そして甘い物を食べると無限に入りそうだ。


 お土産の和菓子は次元倉庫行き。和菓子だけでなく、漬け物や浮世絵、髪飾りや仏像、なんとなく木刀も買ってしまった。

 まるで修学旅行のようになってしまったが、リータ達も満足しているので何も問題ない。皆の笑顔が見れて、わしは満足だ。

 買い食いや物色を続けていると、キツネ店主に何度も早く行こうと言われ、あとをついて歩くが、また道をれてキツネ店主が走って戻る。引率の先生も大変だ。


 そうしてようやく商業通りを抜けると、立派な朱色しゅいろの門が見えて来た。


 坂を登っているから予想がついておったが、やはりか……清水寺じゃ。神社しか無いかと思っていたが、仏教もちゃんとあったんじゃな。

 そう言えば、仏教は千年より昔に日本に伝わっていたか。ならば、何も不思議はないな。


 わし達はキツネ店主に続いて仁王門を潜り、三重塔や境内の建物や仏像などを見て回る。

 ここでカメラを借りていた事を思い出したわしは、パシャリパシャリと撮って、建物や石像を写真に収めて行く。

 リータ達は、仁王像や観音様のマネをしていたのでカメラで撮影。キツネ店主に頼んで、全員の集合写真も撮ってもらった。


 写真撮影をしながら奥の院に着き、順路を進んでいると大きな鉄の棒、元の世界では「弁慶の鉄の錫杖しゃくじょう」と呼ばれていた物が現れ、キツネ店主に持ってみろと言われたので、軽々と持ち上げてやった。


「はい? えっ……なんでリータさんも!? わ! メイバイさんまで……いやいや、全員なんで持てるんでっか~~~!!」


 軽いからだ。黒い森を抜けて来たわし達に掛かればこんな物、ちょっと持ちづらい棒にしか過ぎない。元の世界では、ピクリともしなかったけど……


 キツネ店主が騒ぐので、わし達は民衆の注目の的となってしまい、足早に離れて舞台に足を踏み入れ、緑豊かな山々の絶景を楽しむ。


「綺麗な山ですね~。緑でいっぱいです~」

「ここも、シラタマ殿の元の世界にあったニャー?」


 メイバイの質問に、わしは涙を浮かべて答える。


「グスッ……元の世界のままにゃ~~~」


 清水の舞台から見える懐かしい景色、懐かしい山並み……その光景に、家族との思い出がフラッシュバックしたわしの目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

 わしの泣き顔を見たリータ達は気持ちを汲んで、「よしよし」と撫で続けるのであった。

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