395 別行動にゃ~
清水の舞台から見える景色にわしが涙していると、リータ達に撫で回されて慰められ、キツネ店主には感動の涙だと勘違いされた。リータ達とは英語で喋っていたので、そう受け取られても仕方がない。
そうしてしばらく景色を堪能し、写真撮影をしていたわし達であったが、空が赤くなって来たので移動する。
時間もあまり無いので「音羽の滝」だけ写真に収め、その道中に売店があったので、キツネ店主に説明させてから、お守りや御札、大黒天の木彫りの人形まで買ってしまった。
そのついでに皆でおみくじも引いて、わしが読み上げる。
「わしは吉で、リータは末吉だにゃ」
「私はなんニャー?」
「メイバイは……中吉にゃ」
「これで何がわかるのですか?」
「運勢……運の良し悪しがわかるんだけどにゃ~」
「そんなのわかるのですか!? 凄いです!!」
「にゃはは。占いみたいなもんにゃから、当たるかどうかは神のみぞ知るにゃ」
「そうなのですか……」
リータの反応が面白かったので笑っていたら、メイバイが質問して来る。
「それで、どれが一番いいニャー?」
「中吉、吉、末吉の順にゃ」
「ニャ! 私が一番ニャー!」
「メイバイさん、いいな~」
わし達が盛り上がっていると、イサベレとコリスもおみくじを引いて戻って来たので、わしが受け取る。
「イサベレは、わしと一緒で吉だにゃ」
「ん。ダーリンと一緒なら、一番運が良さそう」
「それとこれとは……にゃ!? コリスは大吉にゃ~!!」
「それっていいの~?」
「文句なしの一番にゃ。コリスは運がいいにゃ~」
「やった~! ホロッホロッ」
コリスがご満悦になり、リータ達が残念そうな顔になっていると、もっと残念そうな顔をしているキツネが居たので、腰を叩いて声を掛ける。
「にゃにが出たんにゃ~?」
「え……ええでっしゃろ!」
キツネ店主がおみくじを隠そうとするので、わしは一瞬で取り上げて、皆に教えてあげる。
「にゃははは。大凶にゃ~! 一番最悪を引いてるにゃ~。にゃははは」
「うっ……こんなん出たの初めてなんですわ~」
「商売……にゃにも上手くいかずって、なってるにゃ。
「そ、そんな殺生な~~~」
「「「「あはははは」」」」
「にゃはははは」
わし達が笑っているとキツネ店主は泣き付いて来たので、仕方なく慰めてあげる。
「こんにゃの信じなくていいにゃ。たぶんわし達の中で、一番運がいいのは質屋にゃ」
「で、でも、大凶が……」
「わしと出会って、大大大吉を引いたんにゃから、今回は大凶が出ただけにゃ。だから気にするにゃ」
「お、おお! たしかにそうでんな。これからの商売の事を考えると、シラタマさんほどの大吉はありまへんわ~」
「……いちおう、もう一回引いておこうにゃ。その結果で、番頭を任せるかどうか決めるにゃ」
「そんな意地悪言わんといてくだされ~」
「「「「あはははは」」」」
わしは本当にもう一度おみくじを引かせ、キツネ店主は祈るように木の箱を振って、末吉を引いていた。元々冗談で言っただけであったが、微妙な結果だったので、キツネ店主に心配事が増えたようだ。
何度もクビにしないでくれと言われたので、からかうのはやめてあげた。
だから「ホンマでっか?」って、うるさ~い! ホンマにクビにするぞ!!
少し脅してキツネ店主がおとなしくなったところで、わし達はおみくじを木に結び付けて帰路に就く。
キツネ店主には明日の約束だけして、街灯に光が灯り始めた京を歩き、池田屋に到着すると、またタヌキ侍にからまれた。
「お待ちしておりました」
「またお前らにゃ……今度はなんにゃ?」
「異国の王と聞きまして、城主様が是非とも宴の席に出席して欲しいとおっしゃっております。お手数ですが、ご足労いただきたく参った所存です」
ふ~ん……態度が豹変したな。王様が効いたか?
「だから立て込んでいると言ったにゃろ?」
「はっ! ですので、夜の会食にしたまでです。どうか五条城にお越しください」
「いやにゃ」
「え……何か不都合でも?」
「もう女将に夕食を準備してもらってるから行けないにゃ」
「こ、こちらは豪華な料理を……」
「わしは腹がへってるんにゃ! どっか行けにゃ!!」
「は、はは~」
わしが怒鳴り付けると、タヌキ侍達は道を開けて小走りに消えて行った。すると、リータとメイバイがこれでよかったのかと聞いて来た。
「会ってあげてもよかったんじゃないですか?」
「そうニャー。シラタマ殿の好きな美味しい料理も出るって言ってたニャー」
「わしは会わないにゃんて言ってないにゃ~。ちゃんと日付を指定してくれたら会いに行くのに、それを来い来い言われたらムカつくにゃ~」
「また我が儘を言って……」
「我が儘じゃないにゃ~。先にケンカを吹っ掛けておいて、手のひら返しするあいつらが悪いにゃ~」
「シラタマ殿は、男に厳しいニャー」
「礼儀をわきまえない奴に厳しいだけにゃ~。ほれ、さっさと入って、ごはんにしようにゃ~」
そうしてわし達は池田屋に入ると、キツネ女将やキツネ少女に心配される。どうやら、タヌキ侍から城主の使いだと言われていたのに、断ったから驚いているようだ。
なので何も心配する事はないと安心させてから、食事とお風呂をいただくわしであった。
* * * * * * * * *
その夜、五条城ではタヌキ城主が
「なんだと! 宴の準備もしているのに断っただと!!」
「は、はい。会うとはおっしゃってくれているのですが、立て込んでいるの一辺倒でして……」
「いまは誰と会っているんだ!」
「あの、その……宿で食事をとっているかと……」
「はあ!? どうしてここで食べないんだ!」
「先に準備をさせていたとかで……」
「ふざけた事を……明日には必ず連れて来い!」
タヌキ城主の言葉に、土下座をしていたタヌキ侍は、顔を上げて進言する。
「失礼を承知で申し上げます! 明後日なら時間が取れるとおっしゃっていましたので、その日に招待状を送ってはいかがでしょうか?」
「私は、明日、連れて来いと言ったんだ……」
「は、はは~」
タヌキ城主にひと睨みされたタヌキ侍は、土下座をしてから、宴の準備の整った座敷をあとにする。残されたタヌキ城主は苛立ちを抑え切れずに、豪華な食事を残さず食べ尽くすのであった。
* * * * * * * * *
翌朝、池田屋で目覚めたわし達は、朝食を食べ終えてから今日の予定を話し合う。
「今日は、みんにゃと別行動しようと思うけど、どうかにゃ?」
「シチヤさんと製造業を見学するのですよね? 私もついて行きますよ」
「私もニャー! ……まさか、いかがわしい店に行こうとしてるニャ?」
メイバイの発言で、リータまでもがわしに疑いの目を向ける。
「にゃんでそうなるにゃ~!」
「じゃあ、どうしてですか?」
「コリスがつまらないかと思ってにゃ。みんにゃには、昨日行った寄席に、コリスを連れて行って欲しいんにゃ」
コリスの為ならばとリータ達は頷いてくれた……いや、寄席に行けるならばと頷いてくれたところで、心配事も解決しておく。
「問題はタヌキどもだにゃ。またちょっかいかけて来そうにゃ」
「たしかにありそうですね。どうしましょうか?」
「強引に来るにゃら、ぶん殴っていいにゃ。ただ、リータ達のほうが強いから、やりすぎが心配にゃ~」
「そんな心配必要ないニャー!」
「本当にゃ~? 念の為、イサベレの指示を聞いてから行動してくれにゃ。それと万が一怪我をさせてしまったら、コリスの回復魔法で治してくれにゃ」
「ぜんぜん信用が無いのですね……」
「万が一にゃ~。コリス、もしもの時は頼むにゃ?」
「うん! なおす!!」
リータ達の服装は今日は町娘風で、コリスは浴衣。お弁当や武器等は収納袋に入れて持ち運んでもらう。それと、お金の入った袋と寄席の値段を説明すると、わし達は池田屋を出る。
すると、待ち構えていたタヌキ侍にからまれた。
「朝っぱらからなんにゃ~?」
「今日こそは、今日こそは来ていただけないでしょうか!」
わしとタヌキ城主に板挟みとなったタヌキ侍は懇願して来るが、わしの答えは決まっている。
「面倒臭いにゃ。逃げるにゃ~!」
「「「「にゃ~~~!!」」」」
わしとリータ達は別方向に走り出し、あっと言う間にタヌキ侍を置き去りにして振り切ってやったのであった。
タヌキ侍を振り切ったわしは、待ち合わせをしていた時計台でキツネ店主と合流すると、醤油や味噌、酒や豆腐、アンコの製造を見学する。
どこまで秘伝を教えてくれたかわからないが、基礎的な事は教えてくれただろう。全てをメモっておいた。これで猫の国でも、そこそこの物は作れるはずだ。
そうして味見で腹を満たし、工場見学を続けるわしであった。
工場見学の帰り道は、たまたま、たまたま色町を抜ける事となり、桃色の雰囲気の漂う街並みを見て歩く。
家の外観は格子状になっている家ばかりで、そこから遊女が手を振っているのだが、わしには物足りない。
これが遊郭というヤツか……街並みは色気があっていいんじゃけどな~。なんでキツネばかりいるんじゃ! 質屋の趣味か? 鼻の下を伸ばしておる……
どうやら通りによって遊女の種族が違っているらしく、それを聞いたわしは、一通りの通りを見てみたいと提案する。
とりあえず次の通りに入ったのだが、わしのテンションはもう一段下がる。
タヌキ……タヌキが化粧しておる。て言うか、デブですやん! あそこのタヌキ侍達は……なんかめっちゃ興奮しておる! 美的感覚が種族によって違うのか?
次の通りは二種混同。キツネ耳とタヌキ耳のお姉さんが、わし達を誘惑する。
おお! これはグッと来るものがあるな。これぞ異世界って景色。いや、平行世界じゃった。
お姉さん達はエロく見えるし、耳がピクピク動いて愛らしい。キツネ尻尾もタヌキ尻尾もふさふさで、撫でてみたいのう。そんな事をしたら、リータ達にバレてしまうからやめておこう。メイバイは匂いに敏感じゃからな。
しかし質屋は物足りない顔をしておるな。さっきより人も断然多いし、こっちが本道じゃろ? マニアックな趣味しやがって……
そして最後は、人間の通り。
うん。美人揃いじゃ~! じゃが、客が少ない。これほどの器量よしなのに、キツネやタヌキと客の数が変わらんとは……これもマニアック路線に入るのか? 質屋はそっぽ向いておるし……
それからキツネ店主が、またキツネ通りを見たいと言うので、今日の観光はここでおしまい。お別れする。
一人で帰るな? 大門で袋叩きにされる? そんな落語の「
涙目で袖を掴むキツネ店主は置き去りにして、わしは遊郭をあとにする。
そうして平賀家で現像を頼み、御所にお邪魔して、玉藻と雑談してから池田屋に帰るのであった。
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