420 どうしてバレたにゃ?


 わしはエルフの里に戻ると、さっちゃん達に揉みくちゃにされる。どうやら白銀猫の話を聞きたいらしいけど、撫でたいだけじゃなかろうか?

 ゴロゴロと喉を鳴らしながら白銀猫の話を少しして、写真を撮って来たから皆の容姿はその時のお楽しみと言っておいた。


 それから玉藻に、三ツ鳥居はどうなったかと聞くと、わしが出した白い木は、早くに部品は完成していたとのこと。これで三対の三ツ鳥居が作れるので、わしと玉藻は予期せぬ成果に喜びあった。

 あとは、切り倒した全ての白い木は外壁の外に出して、設計図通り仕立てるように言っておけば、エルフの里での用事が終わる。


 時間も時間なので、帰ると言うと、ヂーアイの泊まって行け猛烈アタックにあった。

 だが、急ぎの用があると言いながら、仕事の対価で黒い獣を五匹支給したら、猛烈アタックは無くなった。どうやら支払いが無かったから引き止めていたみたいだ。

 ただ、保管が難しいと言われたので、氷魔法を教えて、氷室を作るように指示しておいた。魔法の得意な一族だ。簡単に氷室も作れるだろう。


 そうして別れの挨拶をするのだが、リンリーがわしの首根っこを掴んで離さない。なので、どうしたものかと聞いてみる。


「にゃんかまだわしに用があるのかにゃ?」

「猫さんの国に行きたいのですけど……ダメですか?」


 リンリーをか……。留学生の募集はもうちょっと先だし、お試しで連れ出すのはいいかもな。


「別にいいけど、親御さんは大丈夫にゃ?」

「たぶん……」

「じゃあ、すぐに家に行って説得するにゃ。もしも反対されたら、連れて行かないからにゃ」

「はい!」


 リンリーが、わしをポイっと投げ捨てて凄い速度で消えると、ヂーアイに連れて行く旨を伝えて了承してもらう。そうしてバスに皆を乗せたら、ヂーアイの案内でリンリーの家に行き、わしからも挨拶しておく。

 リンリーの両親は何やら渋っていたようだが、わしとヂーアイの説得で、すぐに賛成に変わった。王様とおさの手前では、反対できないのだろう。

 なので、リンリーもバスに乗せて外壁に向かう。ちなみにリンリーの荷物は着替え程度。猫の街で必要な物は用意すると言っておいた。


 だって、なんでもかんでも持って行こうとしたんじゃもん。猫の置物なんていらんじゃろ?


 外壁に着くと、ここでヂーアイとお別れ。またすぐ来ると言って、里から少し離れた場所で、リンリーに転移魔法は秘密にするように言い聞かす。

 確約が取れれば転移して、猫の街に帰った。



 役場に帰ると、双子王女にいろいろ聞かれたが、全部さっちゃんと女王に丸投げ。わしは口裏合わせしてないから当然だ。

 とりあえず新しい客がやって来たと説明し、歓迎の宴。帰宅は遅くなってしまい、夕食が終わっていたので、庭でバーベキューだ。

 エミリ特性タレを塗っただけだが黒い獣の肉なので、リンリーも満足してくれたようだ。


 騒がしい宴が終われば、これまた騒がしい入浴。時間短縮で大人数で入り、わしが魔法で洗いまくる。そうして綺麗になったら、リンリーは我が家のゲストルームを使って寝てもらうが、一人で寂しいようなので、黒猫を放り込んでおいた。


 これで今日の仕事はおしまい。すぐに寝てしまおうと、リータ達と布団に潜り込んだのだが、寝付きが悪い。仕方がないのでもう一杯お酒を飲もうと縁側に向かった。


「にゃ?」


 縁側には先客が居て、夜空を見上げていた。


「猫さん……」


 暗くて近付くまで誰かわからなかったが、先客はローザだった。とりあえずわしは隣に座って、ローザの分の麦茶を差し出す。


「ありがとうございます」


 ローザは麦茶にさっそく口を付け、わしも水割りを喉に通す。


「この味……王都で猫さんと再会した時の事を思い出します……」

「そう言えば、そんにゃ事があったにゃ~。にゃははは」

「あの時は、まさか王様になるなんて思いもしなかったですよ」

「わしもにゃ~。にゃんでこんにゃ事になってるか、いまだに信じられないにゃ~」

「うふふ。猫さんもでしたか」


 わしが嫌そうに言うと、ローザは笑う。


「それにしても、こんにゃ夜中にどうしたにゃ?」

「たいしたことじゃないですよ」

「にゃ~?」

「たった二日で、いろんな場所に行ったじゃないですか? 虹の山、真っ青な湖、大きな白い生き物、古代文明に、エルフの里……。その思い出を噛み締めていたのです」

「にゃはは。楽しかったんにゃ」

「はい! もう、一生分の旅をした気分です!」


 ローザは大袈裟じゃな。いや……普通の人間じゃ、一生かかっても無理か。強い生き物がいなくても、距離だけでここの人間では、数年はかかりそうじゃな。


 そうしてしばらく、ローザに秘密にしていた転移魔法の追及や感想を聞いていると、わしへの質問に変わる。


「猫さんも眠れないのですか?」

「まぁにゃ~……」

「どうかしたのですか?」


 わしはローザに言うか悩んだが、以前、求婚を断った事と、それでも笑顔で友達として残ってくれた事もあり、心内を吐き出す事にする。


「白銀の猫の話をしたにゃろ?」

「はい……」

「みんにゃには言わなかったんにゃけど、そこで実の父親だという者に会ったんにゃ」

「猫さんのですか!?」

「今まで会った事も、おっかさんからも聞いた事がなかったから、どう受け止めていいかわからにゃくてにゃ~」

「猫さんは、お父さんに会って、どう感じたのですか?」


 どう感じたか……か。実感はまったくないな。せいぜい似てるぐらいじゃ。それに、わしが思い浮かべるのは、元の世界の父親の顔ぐらいじゃから、いきなり現れてもな~。


「これが、にゃにも思わなかったんにゃよ」

「会った事もないんじゃ、仕方ないですよね」

「まぁルーツを知れたのは、よかったかもにゃ~。とりあえず、この話はローザの胸にしまっておいてくれにゃ」

「はい! 二人だけの秘密ですね」


 そうして話し込んでいたら眠気がやって来て、わしはローザに抱かれたまま居間で寝てしまうのであった。



 翌朝……


 何やらポカポカ叩かれている気がして目が覚めた。


「なんで私とは、そうやって寝てくれないのですか~」


 わしを叩いていたのは、タヌキ少女つゆ。まったく痛くないので二度寝しようとしたけど、殺気を感じて眠れなかった。


「シラタマさん……」

「シラタマ殿……」


 リータとメイバイだ。わしを抱いているのは貴族様のローザなので、強く言えないからか睨んでいる。なのでわしは、モソモソとローザの胸から這い出し、二人の前で土下座と足にスリスリする事で許してもらった。


 それから朝ごはんを食べ終わると、玉藻と転移。日ノ本の御所にある蔵に飛んで、伏見稲荷神社にお邪魔する。ここは神職が多数いるので、三ツ鳥居作りがスピーディーに進むらしい。

 とりあえず二対の三ツ鳥居パーツを渡すと、御所に戻って猫の街に転移。玉藻の魔力を吸収したので、ストックを使わずに済んだ。


 それからランチを食べていたら、頼んでいた写真の現像が終わったと子供がやって来た。とりあえず受け取って、感謝とお弁当をあげる。急ぎだったので、お昼休憩まで働かせてしまったのだから当然だ。

 そして皆にも写真を配布して感想を聞くのだが、みんなしてわしを見て声を合わせる。


「「「「「お父さん??」」」」」

「にゃ……にゃんでそう思うにゃ?」


 白銀雪だるま猫を見た皆に、いきなり当てられたからには、わしは慌てて質問してしまった。


「だって……丸いじゃない?」

「「「「「そうそう」」」」」


 さっちゃんがそんな事を言うと、皆は物凄く深く頷く。しかし、わしはそんなに丸くないはずだ。


「失礼にゃ~。わしは太ってないにゃ~」

「太ってるとかじゃなくて、何から何までそっくりって言ってるの。違うのは色だけよ。ほら、このとぼけた顔を見なさい」


 わしの反論に、さっちゃんがぐいぐい写真を押し付ける。それでも反論すると、メイバイが何枚も撮っていたわしの写真を隣り合わせて見せてくる。

 そんな中、ローザがよけいな事を言い出した。


「これだけ似てて、よく秘密にしろとおっしゃいましたね……」

「にゃ!? まだバレてないにゃ~~~!!」

「「「「「やっぱり……」」」」」

「にゃ……」


 ローザのせいで、結局バレてしまい……


「私のせいじゃないですからね! 似すぎてるのに、写真に撮るから悪いんです!!」


 いや、わしが写真なんか撮ったせいで、白銀雪だるま猫は父親だとバレてしまうのであった。


 ……これでいいですか。ローザさん? 怖いので怒らないでください。


 バレてしまったものは仕方がない。母猫の耳に入ると世界が滅ぶかもしれないので、口に出さないようにお願いしておいた。


 いや、マジで。あの二匹の夫婦喧嘩は、白い巨象の比じゃないから。イサベレさんと玉藻さんからも言っとくれ。これ、マジじゃからな?


 危険察知能力の高い二人の説明のおかげで、なんとか納得してくれたが、わしってそんなに信用ないのか? 親子揃ってとぼけた顔をしているから、危険に見えないのですか。そうですか。


 ひとまず人間は納得してくれたが、エリザベスとルシウスが「にゃ~にゃ~」うるさい。母猫がおっかさんに似てるから会いたいんですか。そうですか。いつまでもマザコンですね。


 マザコンなんて言ったら、エリザベスにネコパンチされた。文句を言いたかったが、ルシウスがわしの足にしがみついてうるさかったので、文句は言えず仕舞いに終わった。



 騒がしいランチが終わると、東の国一行を家に送り届ける。魔力が不足気味だったので、今回は飛行機だ。

 先にローザを屋敷まで送り届けようとしたが、女王達を待たせるのは申し訳ないと泣き付いて来たので、門兵に預けてお別れした。

 それから王都に着くと、バスに乗り継ぎ城まで直行。旅の感想は飛行機とバスで死ぬほど聞いたので、さっちゃんと兄弟とはここでお別れ。

 さっちゃん達は旅のアルバムを持って、走って行った。きっとソフィ達に、早く見せてあげたいのだろう。


 女王とはまだ話があったので、応接室に入ると見知った人物と、知らない女性が二人立っていた。見知った人物は、わしを見ても女王の御前だから口を開けないみたいなので、わしから声を掛けてあげる。


「ノエミ、久し振りだにゃ~。いつ振りかにゃ?」


 見知った人物とはノエミ。ノエミは女王を見て、頷いた姿を確認すると、挨拶を返してくれる。


「久し振りね。前に会ったのは新婚旅行に出るちょっと前に、一緒に飲んだ時かしら? そこまで久し振りってほどでもないわね」

「ああ。わしはいろいろあったから、長く感じていたみたいにゃ~」


 簡単な挨拶が終わると、女王と一緒に席に着く。わしは定位置の、女王の膝の上じゃけど……


「この者達が、我が国では魔法や魔法陣に精通している者だ。好きに使ってくれ」

「ゴロゴロ~。話が早くていいにゃ~」


 どうやら女王は、昨日の夜には連絡を取って、ノエミ達を集めてくれていたようだ。この人選は、三ツ鳥居を作る上に必要な人選。猫の国だけでやってもいいのだが、文字を変えて作れないかもと思ったから、専門家を要請した。

 三ツ鳥居は漢字で書かれていたので、こちらの国の者が作るには手間が掛かる。魔道具の件もあるので大量に生産するには、英語で使えるようにしたほうが絶対いいはずだ。猫の国が手数料を懐に入れれるようにするけど……



 こうしてノエミ達を飛行機に乗せて、トンボ返りするわしであった。

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