421 ちゃんと仕事するにゃ~
ノエミ達を猫の街に連れて帰った翌日、わしは忙しく働いていた。
三ツ鳥居を作る事と魔道具の研究には場所が必要だ。そこは大きなお屋敷が空いていたので即解決。
かと言って、三ツ鳥居は組み立てると大きいので、広い庭に作業場を土魔法でちょちょいと作ってやった。ついでにテーブルやベンチ等があれば使い勝手がいいだろう。
そうこうしていたら、ソウの街や猫耳の里で働いている魔法の達者な者が集まって来た。ここは玉藻先生と助手のノエミ先生にお任せ。先に始めていた三ツ鳥居製造講習に加えてもらう。
もちろんわしも見学している。猫型に戻ってコリスと共に、日当たりのいい芝生でゴロゴロ。気持ちがいいので二人でコロコロ。そしてうとうと。いい匂いがして来たと思ったら、ズーウェイが昼食を用意してくれたようだ。
なので、わしとコリスも席に着いてモグモグ。コリス専用、黒い獣肉で作った高級串焼きの支給は忘れない。
お腹がいっぱいになると、また芝生でゴロゴロ。だが、玉藻とノエミがわしの元へやって来たので、何か用事があるのかと思って質問してみる。
「にゃに?」
「「邪魔!!」」
どうやら王様のわしが、猫又の姿のままゴロゴロしている事が目障りのようだ。
「別に邪魔になるようにゃ事してないにゃ~」
「しておるわ! コロコロコロコロ芝生を転がり回っておったじゃろ!!」
「そ、それは……コリスと遊んでいただけにゃ~」
「それが邪魔だと言っておるんじゃ!」
玉藻のクレームに言い訳していると、ノエミもクレームを言ってくる。
「見学するなら、せめて人型になりなさい。何よだらけきって……」
「見るだけにゃんだから、いいにゃろ~」
「みんな目が行って集中できないのよ! 真面目にやらないなら出てって!!」
「え~~~!!」
「ほれ、行くぞ」
「にゃ~~~!!」
こうしてわしは、玉藻に首根っこを掴まれ、魔道具研究所からポイっと投げ捨てられてしまうのであった。
むう……せっかくサボる口実に持って来いの場所を、放り出されてしもうた。ここに居れば、リータ達に仕事をしていると思ってもらえるのに……さて、どうしたものか。
ここに居ても、住人が集まって来たら拝まれて恥ずかしいし、役場に帰るしかないか。
コリスは三ツ鳥居製造の見学は面白くないようで、わしについて来てくれた。なので、背に乗せてもらって役場に帰る。
どこかリータ達にバレない場所でお昼寝できないかと探しながら庭を歩いていたら、訓練場に人だかりが出来ていたので、わしも見学。だが、リータとメイバイに捕獲されてしまった。
「三ツ鳥居の製造を手伝うって言ってたのに、こんな所で何してるんですか!」
「しかも猫のままって、王様の威厳はどこに行ったニャー!」
「ゴロゴロゴロゴロ~!!」
叱られて、めちゃくちゃ撫でられたけど、これは罰なのか? なんか
とりあえず、二人は叱る事はせずにモフモフ言っていたので、何をしているのかと聞いたら、注目を集めている三人の元へ運ばれた。
「猫陛下!」
「猫王様!?」
「あ! 猫さ~ん」
そこには、ボロボロのケンフとシェンメイ、にこやかに手を振るリンリーの姿があった。なので、念話を使って話し掛けてみる。
「ケンフ……まさか喧嘩してたんじゃないだろうにゃ?」
「ち、違います! エルフの里は強者揃いと聞いたので、胸を借りていただけです」
「シェンメイもにゃ?」
「ええ。ここまで相手にならないとは思わなかったわ」
リンリーは、エルフの里で一番子供と言われていたけど、それでもイサベレ級の戦力じゃ。二人がかりでも無理なのに、一対一では勝負になるわけがない。
まぁ訓練ならば
「それじゃあ訓練にもならないにゃろ? 肉体強化魔道具の使用を許可するにゃ」
「「はっ!」」
「リンリーは、もうちょっとだけ付き合ってあげてにゃ~」
「何度やっても同じだと思うんだけどな~」
リンリーの言う通り、肉体強化魔道具を使っても敵うわけがない。しかし、わしお手製魔道具は、そんじょそこらの物とは違う。リンリーの予想を大きく上回り、ケンフとシェンメイの速度が上がる。
リンリーはケンフの徒手空拳を必死に捌き、シェンメイの大斧も辛くも避けていた。まぁ一回こっきりのドーピングだったけど、これだけ追い込めば、リンリーを驚かせる事に成功しただろう。
肩で息をするリンリーを見て、頃合いだと感じたわしは、メイバイの胸から飛び降りて人型に戻り、念話を使って声を掛ける。
「どうだったにゃ? 我が国の者も、なかなかやるにゃろ?」
「はい……武器の対戦もそうだけど、あの男の人の拳法も面白かっです」
「いい経験になったみたいだにゃ」
「それに、ケンフさんと言いましたか……」
「ケンフがどうしたにゃ?」
「この街の警備隊長と聞きましたけど、それって偉いのですか? 家は何部屋ありますか? 結婚してますか!?」
「質問が多いにゃ~」
どうやらリンリーはここで暮らしたいらしく、白馬の王子様を探していた模様。午前中も観光そっちのけで、男を物色していたとメイバイが教えてくれた。
そこで、抜擢されたのがケンフ。実力も肩書も申し分ないので、嫁ぎ先として持って来いの良物件だと思ったようだ。
「残念にゃけど、ケンフは妻帯者にゃ」
ケンフは昨年、ズーウェイと結婚している。もちろんわしが仲人になってあげた。ただ、どちらからも夜の営みの件でわしに相談して来るから迷惑だ。そんなSM趣味、わしにはないからな!
「うぅ……じゃあ、他をあたります……」
「にゃんでそんにゃに焦っているにゃ?」
「だって……うちの里に、男の人が足りないんですもん! みんな恋人や夫婦なのに、私一人だけ
あ……野人のせいで子供が作れなかったから、そこでカップルが全て成立してしまって、最後に生まれたリンリーには相手がいなかったのか。おそらく百年近くも……
「うちもフリーの成人男性が少ないからにゃ~」
「そんな~~~……それならいまの内に、子供に唾を付けておこうかしら??」
「不穏にゃ事を考えるにゃら、口に出すにゃ~!!」
このあとリンリーは、男の子を見付けては優しく振る舞って、お姉さんと呼ばせている姿を何度も見掛けた。
その都度わしが112歳と訂正したので、お婆ちゃんと呼ばれるようになって、めちゃくちゃ恨まれた。なので、オンニとお見合いでもさせてみようかと考えるようになった。
とりあえずケンフ達の訓練は終わったようなので、リンリーはリータ達と観光に戻るようだ。これなら我が家の縁側でコリスとゴロゴロしていてもバレないと思い、役場に入ろうとしたら、リータに捕まった。
街を見て回るのも、王様の仕事なんですか。そうですか。
ベアハッグをされては仕方がない。若干苦しいが、リンリーの観光に付き合う。ちなみにコリスは、オニヒメの監視役で残ってくれた。
わしもそっちがよかったんじゃけど……。ついて来ないとわしの内臓を
脅されて怖くなったので話を変える為に、どこに向かうかと聞くと、工房とのこと。写真がどうやって出来るか見てみたいそうだ。
リータとメイバイも現像しているところを見た事がないので、わしを捕まえた事は、ガイドをしてもらう為らしい。
そんなもん、工房の職人にでも聞けばいいのに……仕事の邪魔をしたくないのですか。そうですか。
工房に着くと皆で暗室に入り、簡単な説明をしてあげる。詳しく説明しても伝わらないので当然だ。ついでに時計製造の練習も見学しておいた。
職人も子供達も、何度も組み立てて分解をさせたので、かなり様になっている。なのでランクアップ。鍛冶師と協力して歯車や部品、外装も木工職人に頼むように指示を出す。これは商品になるから、出来るだけ綺麗に作るように念を押した。
わしの指示に渋い顔をされるかと思ったが、時計作りは楽しいみたいなので、
でも、その職人も妻子持ちだから、リンリーは口説かないでくれる? 子供もじゃぞ? 節操ないのう……
ついでのついでで、茶タヌキつゆ専用の作業場にも顔を出す。ドアの隙間からずっと覗いていたから当然だ。
「研究は進んでるにゃ?」
「はい! レコードは仕上げておきました」
「おお~。ちょっと聞かせてにゃ~」
つゆがレコードに針を落とすと、わしの鼻歌が「にゃにゃにゃにゃ~ん♪」と聞こえる。しかし、長く伸びたりする箇所が多々あった。
「アレ? おかしいです……す、すみません!」
「あ~。それ、レコード盤が悪いにゃ。録音機もあったにゃろ? それを調整してから音を刻んだら、たぶん大丈夫にゃ」
「あ! なるほどです!」
「あとは……クオーツ時計はどうなったにゃ?」
「これです」
つゆが差し出す置時計を、わしは左手につけている腕時計の針と見比べて確認する。
「うんにゃ。なかなかいいんじゃないかにゃ?」
「いえ……24時間を計ったのですけど、5分ほど誤差があるので、完璧とは言いがたいです」
「たしかに大きい誤差だにゃ~。販売するにゃら、せめて誤差5秒ってところに収めたいにゃ。出来るかにゃ?」
「クオーツ時計なら、たぶん機械時計より誤差が少なく出来るでの、シラタマさんの期待に答えるべく、0秒目指して頑張ります!」
「いや、5秒でいいんにゃよ?」
わしは止めるが、やる気に火がついたつゆは聞く耳持たず。なので、つゆを口説こうとしていたリンリーを引っ張って工房をあとにする。
だから、アレは女じゃと言っておろう? わしと似ているから男だと思っていたのですか。そうで……わしは猫だと言っておろう!!
タヌキと猫の区別がつかないリンリーは置いておいて、次はどこを見学するかと聞いたら、学校とのこと。どうやらリンリーに、言葉を教えるようだ。それなら先生から学べばいいので、猫の一声で入学を決定する。
しかし、校長のトウキンにも話を通しておかないといけないので、ズカズカと校長室にお邪魔した。
「あ、はい。リンリーさんですね。わかりました」
「たぶん近日中に、日ノ本からも留学生が来ると思うから、リンリーを使って勉強方法も考えておいてくれにゃ」
わしの注文は難しいかもしれないが、念話の魔道具もあるからなんとかなるだろう。言葉は聞き取れるのだから、覚えるのは早いはずだ。
そうしてトウキン校長も妻帯者だとリンリーに説明したら、他の用事も思い出したので、トウキンに虹色の山などが写ったアルバムを手渡す。
「綺麗な絵ですね。これが写真ですか……」
「トウキンは初めてだったにゃ。これを元に、挿し絵にゃんかも入れたら、本を読む人も分かりやすいにゃろ?」
「なるほどです……ただ、色のある本なんて製造が難しいので、数を作るのは……」
「あ、白黒でいいにゃ。カラーは、今後の課題にするから気にするにゃ」
まだカラー写真集を売り出すには、時期尚早。写真展で荒稼ぎしてからやるつもりじゃからな。これで噂を呼んで、本も売れるって寸法じゃ。そのあとに写真集を売れば、三度美味しいからのう。
「わかりました。それと娘達からのお願いなのですが、料理の写真も用意してもらえないでしょうか?」
「料理の写真にゃ?」
「コリス様の日記も本にしたいらしいのですが、料理がよくわからないらしいのです。本当は実物を見て食べたいらしいのですが……それはさすがに迷惑なので、写真にしてくれたら助かります」
写真も食べさせるのもかまわないけど……コリスの日記? あんなもん、食べた物と食べたい物しか載っておらんぞ? 娘達は、料理雑誌でも作ろうとしておるのか……
しかし、コリスの日記まで本にしようとしてるところを見ると、嫌な予感がする。わしの渡した日記は四種類。わしと、リータとメイバイ。ついでのコリス。
わしの日記は感想がないから味気ないかと思って、参考文献にしてもらおうと思ったけど、早まったかも?
リータとメイバイの日記は、わしが虫から逃げ回ってかわいかったとか情けなかったとか書いていたから、途中から読んでなかった。
三人の日記から書かれた本は、絶対、変な本になりそうじゃから止めておこう。
「もう、わしの日記だけでいいんじゃないかにゃ~?」
「え……娘達は、ほとんど出来ていると言っていたのですけど……」
「じゃあ、わしが読んでから、印刷するか決めるにゃ~」
「私も読みたいです!」
「私もチェックするニャー!」
わしが丸く収まったとウンウン頷いていると、リータとメイバイも校閲作業をしたいようだ。まぁ自分の書いた物だから、恥ずかしいのであろう。なので、軽く許可を出すわしであった。
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