422 御開帳にゃ~


 トウキン校長の娘の執筆作業はもう少し掛かるらしいので、リンリーの入学だけは詰めておく。その話が終われば、昼と夜に、トウキン家族で我が家の食事を食べに来るように指示を出す。

 おそれ多いと断って来たので、執筆作業に役立つのだからと命令に変えた。こうでもしないと、来てくれないんじゃもん。


 それから学校を出たら、空が赤くなっていた。なので役場に帰り、エミリに事情を説明して、さっそく作る量を増やしてもらう。

 今日の夕食も旅で食べた物だったので、次回からはトウキン家族にリクエストを出させれば、すぐにコリスの食べたメニューは網羅できるだろう。


 夜になると、大会議室兼食堂に人が集まり、玉藻とノエミから三ツ鳥居の進捗状況を聞く。なんでも、この地の者は魔力量が多いので、少ない人数でも早く進んでいるようだ。

 漢字で手間取るかと思っていたが、書く時に魔力を注入するから、どちらにしても一字書くのに手間取るらしい。魔力量が多いとすらすら書けるから、早くなるとのこと。

 完成予定日時を聞くと、明日には完成するらしい。明日は休みなので、ちょうどいい。でも、わしが玉藻達から詳しく聞いていた姿を見たリータ達に、午前中サボッていた事がバレてしまった。


 なので、明日の休みが無くなった……元々休ませるつもりはなかったのですか。そうですか。


 仕方がないので、お風呂に入って晩酌。ちなみにノエミは屋敷に部屋を用意したのに、ワンヂェンの部屋で寝るらしい。ちびっこどうし、通じるものがあるようだ……


 わ! 巨乳になってる! でも、わしの目の前で胸を露出するって、変態にしか見えんぞ? だから早くしまえ! リータ達が睨んでおるんじゃ~!!


 どうやらノエミは、変身魔法で大人な女性になった事を自慢したくてわしに御開帳したっぽい。スティナの胸をそっくりそのままトレースしたと言われても、覚えていないからわかりかねる。

 一日中、変身を維持するのが目標らしいけど、魔法部隊副隊長が、そんな無駄な魔力消費していいのかどうかもわかりかねる。その事に今ごろ気付いて orz になってもしらんがな。おやすみ~。


 こうしてノエミをほったらかして、わし達は眠りに就くのであったとさ。



 翌日は、リータ達に仕事をしろと言われて、コリスと一緒に散歩。猫の街で散歩するとサボッているのがバレるので、ソウの街まで追いかけっこだ。

 ここで揉み手のホウジツと、揉み手のキツネ店主と雑談。キツネ店主はホウジツの癖がうつったようだけど、堺の方言といい、流されやすくね?


 とりあえず、キツネ店主からは京で捌く物を受け取る。一般的な食器セットや服飾服関係が多いので、こんなのでいいのかと質問すると、大名達に暴利で販売するらしい。その後、高級品に移って、さらに吹っ掛けると悪い顔で笑っていた。

 ホウジツまで悪い顔で笑っていたところを見ると、同じ事をしようと考えているようだ。まぁわしも写真で似たような事をしようとしているので、「お主も悪よの~」と言いながら、一緒に悪い顔で笑う。

 でも、コリスまでマネして悪い顔で笑っていたので、教育面でよろしくないかも。ホウジツとキツネ店主が揃っている時は、商談しないと心に誓った。


 キツネ店主には、明日、日ノ本に一度戻るかと聞いたら即答。ホウジツに用意してもらった商品と似たような物を、対価で支払う約束をしていたらしく、わしについて来るとのこと。

 なので、あとで迎えに来ると言って、わしとコリスは地下空洞に移動。ここでまた、黒い獣肉の串焼きの発注。ランチとお昼寝をコリスと楽しみ、大量の高級串焼きを次元倉庫に入れると、ホウジツ達の元へ行く。

 黒い獣を解体した時に、魔道具の素材が手に入ったので、ホウジツに値付けの相談。この素材は、玉藻から作り方を教えてもらった呪具の使用料に変わるので、その支払い料金の相談もしておいた。


 これでソウでの仕事はおしまい。ほとんどコリスとダラダラしていたが、キツネ店主を拾って、猫の街に転移した。



 猫の街に帰ると、コリスとキツネ店主は役場でゆっくりしてもらい、わしは三ツ鳥居の製造工場にお邪魔する。

 そこで作業が遅れていると聞いたので役場に帰ろうとしたら、玉藻とノエミに尻尾を掴まれてグンッとされた。わしも手伝えって事らしい。

 なので、「にゃ~にゃ~」文句を言いながら手伝う。「どうせどこかでサボッていただろう?」と言われたからには、文句も言いたくなるもんだ。サボッていたけど……


 それから夕食を挟み、リータ達が差し入れの夜食を置いて帰って、ようやく完成した頃には、時計の針は深夜二時を回っていた。


 これでよくもまぁ、今日中に完成すると言ったな? 終わると思っていたって、最後のほうは、わしと玉藻とノエミしか残っておらんかったじゃろ! こんな事なら、明日に回せばよかったんじゃ!!


 どうやら玉藻は早く開通したいらしく、ノエミは早く完成品が見たかったらしく、テンションが上がっていたっぽい。わしが怒っているのに、なんか巨乳で挟んで喜んでいるし……


 とりあえず完成したので、さっさと就寝。シャワーだけ浴びて、リータとメイバイの布団の中で眠りに就いた。



 翌朝は寝坊。だから玉藻に叩き起こされた。持ち上げられて、尻尾の往復ビンタで叩き起こされた。


 玉藻の攻撃は、マジで痛いからやめてくれる? 役場が壊れないように浮かしていたらしいけど、マジで痛かったんじゃからな?


 頬を腫らしたわしは、涙目で朝食をとる。九尾のキツネの攻撃は、それほど重かったんだから、リータとメイバイは頬を擦らないでくれる? 痛いの痛いの飛んでいかないんじゃ!


 それから時間をおいて腫れが引いて来たので、三ツ鳥居の製造していた屋敷にぞろぞろと移動する。ぞろぞろついて来たのは、双子王女含む役場職員全員と、我が家で寝泊まりしている者全員。こんな大イベント、見過ごせないらしい……

 その面々の前では、わしの転移魔法は見せられないので、ひと芝居。わしの影武者ぬいぐるみをリータに抱かせ、玉藻も分身の半分はこの場に待機。皆には、日ノ本が製造した三ツ鳥居と繋がると、嘘の説明をしておいた。


 準備が整うと、わしと半分玉藻は日ノ本の蔵に転移。玉藻の隠し財産が隠されている地下からダッシュで出ると、三ツ鳥居が並んでいる空間に、次元倉庫から出した猫の街で作った三ツ鳥居を設置する。

 それと、キツネ店主から預かった商品はここに出しておく。今日は、わしは猫の街に残るので、あとの事はキツネ店主と玉藻に任せているからだ。



「これでどうやったら、三ツ鳥居が繋がるにゃ?」

「触れて鍵となる呪文を唱えたら繋がる。芝居をしている手前、向こうから繋げたほうがいいんじゃろうが、こちらから……」

「にゃ~~~?」


 町娘に変身して喋っていた半分玉藻が急に黙るので、わしが質問すると、頭を振って会話に戻る。


「いや、なんでもない。繋がるぞ! わらわの後ろに隠れろ!」

「にゃ?」


 わしは半分玉藻の意味深な言い方に気になったが、それよりも芝居を優先して、半分玉藻の後ろに隠れ、横からこっそり三ツ鳥居を覗く。

 すると三つ鳥居は光を放ち、集束した瞬間、壁だった場所が透き通り、ぬいぐるみを抱くリータが目の前に立っていた。


「シラタマさん……向こうが見えますよ!!」


 リータは台本通り、三ツ鳥居の真ん前に立っていたのだが、興奮して次の行動を忘れている。なので、向こうにいる半分玉藻がリータの背中を叩く。


「ほれ、通ってみよ」

「あ……はい!」


 半分玉藻のファインプレーで台本を思い出したリータは、半分玉藻と共に三ツ鳥居を潜った。そこでわしはぬいぐるみと入れ替わり、玉藻に声を掛ける。


「じゃあ、いまから十分後に、こっちから繋ぐにゃ~」

「ああ。こちらも補給しておくな」


 わしが三ツ鳥居を通り過ぎると、猫の街の景色と皆の驚く顔。そこでカメラ係のメイバイに撮影してもらい、わしも皆と同じく閉じる瞬間を眺める。

 そうして時計の針と三ツ鳥居を交互に見ていると、三分より少し前に、向こう側の景色が、こちら側の景色へと変わった。


「やった! 成功ね!!」


 ノエミは喜びのあまり飛び跳ね、一緒に三ツ鳥居を作った魔法使いと抱き合っている。双子王女や役場職員も不思議な光景に驚き、お喋りが止まらないようだ。


 なるほどな。制限時間が三分なのに、どうりで二分で使うのをやめるわけじゃ。予告も無しに、あんなにぷつりと閉じるんじゃ、怖くてギリギリまで使えん。やはり体が挟まったら、半分こになるんじゃろうか……こわっ。

 しかし、本当に距離制限が無くてよかったわい。もしもの場合はエルフの里を考えていたけど、訪れる人が増えるから、出来ればやりたくなかったからな。



「どうじゃ? そちの転移魔法も驚きじゃけど、三ツ鳥居も驚いたじゃろう?」


 一通りの機能を確認してから三ツ鳥居に触れて魔力を注いでいると、わしの頭の中に玉藻の念話が聞こえて来た。


「ん? ……玉藻か? どこにおる??」

「ここじゃ」


 わしが念話で答えると、胸元がごそごそするので見てみたら、ミニ玉藻が顔を出した。


「なんでここに……」

「どうも、分身の術での思考のやり取りにも距離制限が無い事に気付いてのう。これで離れていても、日ノ本とやり取りが出来るぞ」

「ほう……でも、体を割って、そっちの魔力補充は大丈夫か?」

「なあに。こっちは一割程度じゃ。あと、二、三回は余裕じゃ」


 玉藻と話をしていると魔力補充は終わり、日ノ本側も終わったとのこと。さすがはわしと玉藻。巫女十人がかりで一週間も掛かる作業を、五分程度で終わらせた。

 ノエミ達がどうやってやったのか聞いて来たが、単純にわし達が化け物なだけだ。


 だからって、怖がらないでくれる? 妖怪猫又じゃけど、人に化け物と呼ばれるのは傷付くんじゃよ?


 そうこうしていたら十分が経ち、次の三ツ鳥居開通はノエミに任せる。わしは開けゴマの呪文を知らないので当然だ。

 ノエミが三ツ鳥居に触れながら呪文を唱えると、日ノ本の蔵の景色と、リータとビッグ玉藻の姿が確認でき、再度歓声があがる。

 だが、急がないとすぐに閉まってしまうので、リータをこちらに呼び寄せ、キツネ店主も日ノ本へ走らせる。そうして閉じるのを待つのだが、わしは双子王女の顔を見る。


「二人は、ちょっと見て来るかにゃ?」

「「いいのですの!?」」

「仕事が溜まっていいにゃら好きにするにゃ。まぁ昼には繋げるようにするから、御所見学しか出来ないと思うけどにゃ」

「「それでかまいませんわ!!」」

「玉藻、二人をよろしくにゃ~」

「ああ。任せておけ」


 双子王女が駆け足で三ツ鳥居を通り過ぎると、わしはビッグ玉藻に向かって念話の入った魔道具を二つ投げる。そうして待っていると、三つ鳥居はプツリと閉じた。



「さあ、ノエミ達は、新型魔道具の研究でもしててくれにゃ~」

「それも楽しそうね!」


 ノエミ達、魔法使い班が動くと、肉球をブニョンブニョンと叩いて役場職員に解散の指示を出す。


「みんにゃは、仕事に戻るにゃ~」

「「「「「にゃ~!!」」」」」


 役場職員は変な掛け声を出し、にこやかに去って行った。


 双子王女の時はそんな掛け声出さないくせに、なんでわしの時だけ……


 若干、納得できない事はあったが、わしは三ツ鳥居に魔力を補充して、今日の仕事を終えるので……


「ジョジアーヌさん達が戻るまで、代理の仕事をしますよ」

「シラタマ殿がいきなり言い出したんだから、ジョスリーヌさん達の仕事を減らしてあげるニャー」

「そんにゃ~~~」


 こうしてわしは、リータとメイバイに連行されて、ブツブツ言いながら書類仕事に勤しむのであっ……


「ここに来て、初めてそちが王らしい仕事をしておるのう。コ~ンコンコン」

「リータ~、メイバ~イ。玉藻が邪魔するにゃ~」


 ミニ玉藻にも監視され、書類仕事に勤しむわしであったとさ。

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