382 奉行所に連行されたにゃ~
わし達は早くに目を覚ますと、わしだけ一階に下りて、掃除をしていたキツネ男に出て行く旨を伝える。すると女将から話が行っていたようで、用意していた朝食を部屋に運んでくれる事となった。
なのでわしは部屋に戻り、朝食が揃うのを待つ。キツネ女性が朝食を並べる中、キツネ少女が居ないのでどうしたのかと聞いたら、遅番だとのこと。
今日の朝食はお米と味噌汁、海苔に生卵と漬け物なので、少し質素だ。だが、わしは懐かしいセットなので何も文句は無い。
そうして食事を食べ始めると、リータとメイバイは感想を言い合う。
「ここの味噌スープは、エミリちゃんの作る物より美味しいかも……」
「そりゃ本場にゃもん。味噌も種類が違うから、エミリが悪いわけじゃないにゃ」
「醤油も美味しい気がするニャー」
「そうだにゃ。製造方法を習えたら、猫の国でも、もっと美味しい醤油になるのににゃ~」
「お付け物も海苔も初めてですが、美味しいですね。これもエミリちゃんのお土産にしたいです」
「この卵はどうするニャー?」
「ああ。こうやって食べるにゃ」
わしはお米の上に生卵を落とし、出汁醤油を掛けて掻き回すと、皆の顔が曇った。
「ぐちゃぐちゃです~」
「そんなの美味しいニャー?」
「好き嫌いがあるから、味見してからやってみるにゃ」
わしは皆にお茶碗を回して味見させるが、コリス以外は好みではないようだ。なので、わしはズルズル食べて、涙を浮かべる。
しかしコリスとイサベレが足りないと言って来たので、お弁当や肉の串焼きを出して腹を満たしてもらった。リータとメイバイも手を伸ばしていたところを見ると、足りなかったようだ。
「それで、今日はどうするのですか?」
朝食を食べ終えると、お茶を飲みながらリータとメイバイが質問して来た。
「追われている理由は気にしても仕方にゃいし、今日は呉服屋……服屋を回ってみようにゃ」
「服なら、綺麗な着物がありますよ?」
「無駄遣いしていいニャー?」
「食べ物だって、うちよりよかったにゃ。着物だってここが本場にゃ。いろんにゃ種類があるから、持ち帰れば参考になるにゃろ」
「なるほど……では、食料店も回らないとですね」
「魚は無いかニャー?」
「にゃはは。それも探してみようにゃ。珍しい物をいっぱい買って帰って、猫の国の発展に繋げようにゃ」
わし達が和やかに話をしていると、部屋の外から階段をドタドタと駆け上がる音が聞こえて来た。わし達は何事かと思ったのは束の間、
「た、大変です!!」
「にゃ?」
「今度は見廻り組が来ました!!」
見廻り組? 維新志士を取り締まっていた奴らが今も残っているって事は……警察って事かな? その前に、キツネ少女がおりょうさんみたいになっておる。ちょっとした坂本龍馬の気分じゃわい。毛皮だからさっぱり色っぽさはないけどな。
「とりあえず、前がはだけているから直すにゃ」
「えっ……きゃっ!?」
キツネ少女は驚いてしゃがみ込み、顔を赤くして着物を直す。
「申し訳ありません!」
キツネのぬいぐるみみたいなのに恥ずかしいのか……。まぁわしも恥ずかしいから同類じゃな。
「気にするにゃ。それで見廻り組は、わし達を呼んでいるのかにゃ?」
「あ、はい。いまは女将さんが対応していて、逃げるように言われています」
「逃げるにゃ~……まぁこの際、わし達を追っている理由を確かめてみるにゃ。すぐに下りると、女将に伝えて来てくれるかにゃ?」
「……いいのですか?」
「この宿に迷惑を掛けるよりマシだからにゃ」
「わかりました……」
キツネ少女が部屋から出て行くと、わし達は浴衣から、昨日着ていた質素な着物に着替えて準備を整える。コリスも念の為、さっちゃん2だ。武器は悩んだ結果、わしだけ刀を差して部屋を出た。
わし達が階段を下りていると、女将の声が聞こえて来た。
「だからお客さんの前に、お客さんを襲った奴を連れて行ってくれと言ってるんどす」
どうやらキツネ女将は、キツネ少女から話を聞いても、昨日埋めたヤクザを交渉のネタに使って、わし達を擁護してくれていたようだ。
だが、見廻り組のタヌキも引く事なく、わし達を出せと言っている模様。なので、わし達は堂々と姿を見せてやった。
「女将、ご苦労だったにゃ」
「お客さん!?」
驚くキツネ女将の腰をポンッと叩いたわしは、前に出て、タヌキ達と対峙する。
「わしに用があるみたいだにゃ。それで、わしはにゃんの罪状でしょっぴかれるにゃ?」
わしの問いに、一番偉いであろう紋付き
「神職を語る虚偽罪だ」
「はあ!? そないな罪状、聞いた事がありゃしまへん! ほんなら、白に化けたタヌキやキツネだって同罪どす! 一度でも捕まえた事があるんどすえ!!」
ちょんまげタヌキの答えに、キツネ女将が噛み付く。
「女将……ありがとにゃ。でも、いいんにゃ。タヌキの人。わし達は一切抵抗しにゃいから、女将は許してやってくれにゃ。わし達が勝手に来て、勝手に泊まっただけにゃ」
わしの言葉に、女将が突っ掛かろうとするので、わしは首を横に振って止める。するとちょんまげタヌキは、わしを観察するように見てから声を出す。
「武士に二言はないな?」
「ないにゃ~」
「よし。女将はお
「みんにゃ。行くにゃ~」
こうしてわし達は、数人のタヌキに囲まれて、池田屋をあとにするのであった。
* * * * * * * * *
一方その頃、鴨川の河川敷では……
「親分……朝になっちまいましたね」
「あいつら~~~!!」
残していた仲間が助けに来てくれると信じていたヤクザ達は、埋まったまま
そのせいで散歩をしていた者も近付かず、時が流れていくのであっ……
「親分……犬が来ましたよ」
「シッシッシッ! ま、待て! 小便するな~~~!!」
何故か野良犬に狙い撃ちにされるキツネ親分であったとさ。
* * * * * * * * *
わし達はタヌキ達に連れられて歩いているのだが、黙って歩くのも暇なので、ちょんまげタヌキに他愛のない質問をしている。
「にゃあにゃあ? ヤクザは捕まえないにゃ?」
「あいつらか……あとで道具を持った者を派遣する。罪状は、暴力行為でいいだろう」
「にゃ! 捕まえる気はあったんにゃ」
「当たり前だろう」
「じゃあ、河川敷にも二十人以上埋まっているから、それも頼むにゃ~」
「二十人だと!?」
「昨日襲われてにゃ……」
わしは昨夜の事を説明すると、意外とあっさり、人を派遣してくれる事となった。
「わしが嘘を言っているとは思わないにゃ?」
「それぐらい、見抜く目は持ち合わせている」
「じゃあ、にゃんでわしを、罪をでっち上げてまで捕まえに来たにゃ?」
「命令だからだ」
「ふ~ん。それじゃあしょうがないにゃ~」
わしの返答に、ちょんまげタヌキは不思議そうな顔に変わる。
「……どうしてお前は、そんなに聞き分けがいいんだ?」
「だって、悪い事にゃんてしてにゃいもん。話せばわかってくれるにゃろ?」
「話せば……か。御奉行に通じればいいんだがな」
今度は奉行? 確かに警察のトップみたいな人じゃけど、見回り組の上に居るとは驚きじゃ。聞いたところ、これがこの京の、警察のシステムってところか。
「その御奉行様は、頭が固いにゃ?」
「ああ。俺がこんな罪でしょっぴけないと言っても、捕まえて来いの一点張りでな。たまにあるんだ」
「下に居る者の意見に聞く耳持たないとはにゃ~。それじゃあ、部下の信用がなくなっちゃうにゃ~」
「それでも、上の者だ。従うしかない」
「にゃははは。御愁傷様にゃ~」
そうして軽口と愚痴で盛り上がっていると、奉行所なる建物に連行されたわし達は、庭にまで連れて行かれ、砂利に敷かれた
おお! 時代劇の金さんみたいな場所じゃ。ちょんまげタヌキは御奉行とか言ってたし、桜吹雪が見れるのかのう? いや、わしの前で桜吹雪を見せていないから無いか。
でも、このシチュエーションは、ちょっと興奮するな。出来れば建物側で、金さん役をやりたかったんじゃが、贅沢は言えないか。罪人側でも面白そうじゃもん。
わしがわくわくしていたら、リータ達から真面目にしろと念話で言われてしゅんとする。
それからしばらくすると、長い袴を引きずるタヌキが、ゆっくりと歩いて来た。
ご、御奉行~~~! 本当にあんなに歩きにくい袴を
わしがフゴフゴ興奮してタヌキ奉行の登場シーンを見ていたら、またリータ達に怒られた。なので、気持ちを落ち着かせようと頑張っていたら、タヌキ奉行は畳に置かれた座布団に座り、口を開く。
「何故、罪人は手枷も嵌めないで、刀も手元に置いてあるのだ?」
第一声は、わしに向けられたものでは無く、わし達の後ろに座っているちょんまげタヌキに向けられた。
「はっ! その者は聞き分けもよく、逃げる素振りも見せなかったので、必要のないものと判断しました」
「何を馬鹿な事を……ただちに拘束しろ!」
「はっ!」
ちょんまげタヌキ達はタヌキ奉行の命令に逆らえず、わし達に縄を掛けようとする。すると、リータ達がどうするかを念話で聞いて来たので、逆らうなと言って、わし達は遅ればせながらお縄となった。
わしに縄を掛けるちょんまげタヌキは「すまない」と言って来たが、「気にするな」と返す。ちなみに【白猫刀】は、タヌキ奉行の元へと運ばれてしまった。
「さて……これで話が聞ける体勢になったな。まずは身元改めをする。準備しろ」
タヌキ奉行がそう言うと、タヌキ達がいそいそと動き、様々な物を持って戻って来た。
あ……しまった~! 話を聞くってそう言う事じゃったな。すっかり忘れておったわ。どうりで、ちょんまげタヌキが心配しておったわけじゃ。
アレは抱き石の刑じゃろ? 水の入った桶は水責めかな? 角材は殴る気まんまんじゃ。江戸時代は拷問で話を聞き出していたんじゃから、ここに来るのは愚策じゃった。
どうしたものか……。とりあえず、
「御奉行様。ちょっとよろしいでしょうかにゃ?」
「………」
タヌキ奉行は、わしを睨むだけで口を開かない。
「ああ。無礼を承知で、言わせてもらいますにゃ。いまから拷問をするのですにゃろ? 女性にそのようにゃ事をさせないで欲しいにゃ。その代わり、わしが全ての拷問を受けますからにゃ。にゃにとぞお願いしにゃす!」
わしが頭を砂利に擦り付けると、タヌキ奉行は驚いた顔の後、大笑いする。
「わはははは。なかなか武士道を重んじる奴だな。あい、わかった」
「武士に二言はないですにゃ?」
「ない。その代わり、全ての拷問を受けてもらうからな。……やれ」
タヌキ奉行の命令に、二人のタヌキがわしを立たせて、尖った石畳に正座させる。わしはリータ達に念話でじっとしているように指示を出し、タヌキ奉行の言葉を待つ。
「名をなんと言う?」
「シラタマですにゃ」
「いきなり偽名か……菓子の名を名前にする馬鹿はおるまい」
「本当ですにゃ~」
「言いたくなければ、言いたくなるようにすればいいだけだ。一枚置け」
二人のタヌキが重たそうな石の板を持ち上げ、わしの膝に乗せる。
「にゃ~。イタイにゃ~」
「名をなんと言う?」
「シラタマにゃ~」
「もう一枚だ」
「にゃ~。超イタイにゃ~」
「生まれは?」
「西ですにゃ~」
「それではわからん。次だ」
「イタイ、イタイにゃ~」
わしが聞かれている事に正しく答えるが、石が増えるだけ。なのでわしは悲鳴をあげるが、リータ達は下を向いて笑いを
どうやらわしの演技が下手くそなので、笑っているようだ。
それは当然。ちっとも痛くないからだ。
重力五百倍にも耐えられる体なのに、たかだか数百キロの石の板を置かれたぐらいで重さは感じない。わしの体を傷付けられる者も、白い獣の上位種ぐらいしかいないので、尖った石程度は地面と変わらない。
「ちょこざいな……」
タヌキ奉行は、そんなわしの態度が気に食わないのか、次の拷問に切り替えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます