025 修行相手ゲットだにゃ~


 巨大な生物が近付いていたからリスを置いて逃げようとしたが、大きな風の塊がわしを襲い、吹き飛ばされた。そして、目元に傷のある巨大な白リスが現れて言い放つ。


「ワレー! うちの子に何さらしてくれとんじゃ。ワレー!!」


 いたた。咄嗟とっさに【風玉】みっつ放ったけど、巨大なリスの風魔法に押し負けた。どんだけの魔力量じゃ。

 リスのクセに10メートル以上あるし、尻尾三本に角二本って、化け物過ぎる! おっかさんの10倍は強いぞ。逃げないと……クソ! 恐怖で体が固まって動かない……


「ワレー! いまので生きとるとは、やるやないけ。ワレ-!!」


 ワレワレワレワレ、うるさいわ! どこのヤクザじゃ!! ツッコンでおる場合じゃない。早く逃げないと、プチっと潰される。

 でも、逃げ切れる未来がまったく想像できない。重力解除して【肉体強化】したところで、わしより遥かに速い。


 詰んだか……女猫、男猫……すまん。おっかさん、兄弟達を助けられなくて……すまん……


 わしは絶対的な死の前に、生を諦めた。しかし、ふとおっかさんと戦ったボス狼を思い出す。


 フッ。プライドか……そうじゃったのう。せめて、誇らしく華々しく散ってやろう。


「にゃ~~~ご~~~!!」


 わしは重力魔法を解除し、恐怖を打ち消すべく笑い、ありったけの声で叫ぶ。


「ほう。我を前にして笑うか……いい度胸だ。だが、死ね。ワレー!」


 わしは全ての魔力をストックも使い果たし、その魔力を【鎌鼬】に乗せて、生涯最高の魔法を放つ……が、親リスは蚊でも払うように手を動かす。

 その何気ない動作が【鎌鼬】を潰し、わしまで潰そうとする。


「ダメ~~~~!!」


 もう死んだと思っているわしの前に子供リスが立ちはだかる。すると、親リスの手は止まった。


「娘よ。何故止める? ワレー」

「ダメなの! 助けてもらったの! だからダメなの!!」


 その声を最後に、わしの意識が途絶えるのであった。






「う、う~ん」


 知らない天井じゃ……たしかこういう時に言うセリフだと孫が言っていたな。合っておるかのう。しかし、ここはどこじゃ?

 たしか、デッカいリスに、蚊のように潰されて……あの世かな? なんかモフモフしたベッドで寝ているし……


 わしは白い毛のベッドから起き上がる。


 人型の変身が解けておる。このベッドかと思っていたのは大地かのう? 隣にも白い饅頭みたいな物があるな……わしの好物の大福か?


「起きたか? ワレー」


 わしが大福に触れようとすると、白い大地の先にリスのような顔が浮かび上がった。


「にゃ~~~!」

「大きな声を出すな、ワレー! 娘が起きるだろ、ワレー!!」


 聞き覚えがある声……ヤクザさんじゃ! わし……生きておる!!


 親リスの恐怖よりも生きている喜びにわしが打ち震えていると、子供リスがモゾモゾと目を覚ます。


「う~ん。うるさい~」

「おお、こいつがうるさくて起こしてしまったか。謝れ、ワレー!」


 わしのせいなの? どっちかと言うと、あんたの「ワレー」のほうがうるさいよ?


「お父さんがうるさいの!」

「す、すまん」


 子リスよ。ありがとう。そして父リス、しゅんとし過ぎ。元の世界で娘を持つわしは、気持ちがわかるけどな。痛いほどに……

 えっと、つまり、魔力の使い過ぎで倒れたわしは、リスの家で父リスをベットにして寝ていたと言うわけか。気絶していたとはいえ、化け物の腹の上で寝ているとは……どっかのアニメに出て来そうじゃな。


 わしはとりあえず、父リスの腹の上から飛び下りる。すると、子リスもわしのあとを追い、飛び下りてくっつく。


「モフモフごめんね~。お父さんがはやとちりしたの。お父さんもあやまって!」

「なんで我が……」

「あやまって!!」

「うっ……す、すまん」


 あの化け物が渋々じゃが謝っておる。どこの家庭も動物の家庭も、お父さんは娘には弱いみたいじゃな。わしも娘には逆らえん。


「して、ワレーは我の縄張りで何をしておる? ワレー」


 なんで自分と他人が同じワレなのかツッコミたいけど、怖いからやめておこう。

 さて、なんと答えよう。強くなったから調子に乗って、あんたを倒しに来ました……なんて言えんし……

 まさかこんな化け物が居るとは思っておらんかった。ホントに調子に乗り過ぎじゃ。怒らせないように、無難に答えよう。


「おっかさんから、こちらに強いお方がおられると聞きまして、どんなお姿をしているか一目見たいと思い、参りました」

「我に会いにか? ガハハ、我は強いだろう、ワレー」

「それはもう。あなた様に比べて、わしなんてちっぽけなもんです。あなた様は最強です!」

「そうだろう、そうだろう。でも、ワレーもなかなか見所があるぞ、ワレー」

「わし如きがですか?」

「他の動物では、最初の攻撃で死んでいる。その上、立ち上がって我に向かってくる者など居ない。さらに我に血を流させるなんて久し振りだ、ワレー」

「あの時は必死でして……ご無礼をいたしました。申し訳ありません」

「よいよい。久し振りに我に向かって来る者が居て楽しめた。それに娘を助けてくれたみたいだしな、ワレー」


 血を流したのは久し振りってわりには、顔に引っ掻き傷があるように見える。古傷なのかのう? 新しく見えるけど……

 しかし、ワレワレ言ってヤクザみたいじゃと思っておったが、けっこう優しいリスなのかもしれん。


「ただし、娘はやらん! ワレー!」


 前言撤回。そのひと睨みで死にそうじゃわい。子リスがわしにくっついておるから勘違いしておるのか。距離を取りたいが、付き飛ばしたりでもしたら死ぬ未来しか待っておらん。


「ワレーの母から聞いたと言っていたが、その姿、見覚えがあるぞ、ワレー。もう少しシュッとしていて大きかったが……」

「それは、わしのおっかさんだと思います」


 やっぱり、おっかさんは父リスに会った事があったのか。こんな化け物相手に、よく逃げ切れたな。さすがはおっかさんじゃ。

 こんな化け物が居るのを知っていたから、ここには近付くなと言っておったんじゃな。


「ワレーの母親は綺麗だったな。あのしなやかな体、美しい毛並み……我のつがいにしてやると、何度も何度も追い掛けたのだがダメだった。元気にしているか? ワレー」

「お母さんが聞いたらおこるよ~。ただでさえ、ケンカして出ていったのに~」

「いや、その、これは……頼む! 黙っていてくれ!」


 ストーカーさんでしたか。そりゃ逃げるわな。居場所がバレないように、おっかさんは近付くなと言っていたのかもしれん。

 そう言えば、あの顔の傷は夫婦喧嘩のあとみたいじゃのう。この化け物に傷を付けるとは、母親も化け物か……

 おっかさんに惚れていたみたいじゃけど、本当の事を言ってもいいものか? 言わないと、ストーカーさんはわしの縄張りまで付いてきそうじゃし……言うか。


「おっかさんは死にました」

「なんだと、ワレー! 誰にやられたんだ、ワレー! ぶっ殺してやる、ワレー!!」


 おお怖っ。ワレワレ興奮し過ぎじゃ。ボキャブラリーは貧相じゃのう。おっと、心を読まれそうじゃから考えるのはよそう。

 しかし、話をしたのは失敗じゃったか? こんな化け物が王都で暴れたら、王都が消滅してしまう。下手へたしたら、人類の滅亡じゃ。怖いけど仕方がない。


「それは困ります。それは、わしの役目です」


 わしは父リスの目を真剣にジッと見詰めると、わしの意思が伝わったのか父リスはニヤリと笑う。


「フッ。そうか。我が手を出すのは無粋か。わかった、ワレー」


 その口癖やめてくれんかのう。笑ってしまいそうじゃ。まぁこれで、人類滅亡のシナリオは回避されたか。いまのところ仇討する予定は無いからバレないようにしないとな。

 そうじゃ! いいことを思い付いた。


「お強いあなた様に頼みがございます」

「なんだ? 言ってみろ、ワレー」

「おっかさんを殺した奴は強い。そこで、あなた様に戦いの練習相手をしてもらいたいのです」

「断る、ワレー!」


 そ、即答ですか? わし、しょんぼりじゃ……


 項垂うなだれているわしを見兼ねて、子リスが助け船を出してくれる。


「それぐらいしてあげなよ~」

「なんで我が、そんなくだらないことをしなくてはならんのだ。我は忙しいのだ。ワレー」

「ひまなくせに~。あいてしてあげないと、さっきのことお母さんに言うよ?」

「うっ……それは困る。わかった。わかったから。な?」


 子リス、グッジョブじゃ! これで練習相手ゲットじゃわい。しかし、父リスが恐れる母リスとは、そんなに強いのかのう。強かったら相手してもらおうかな。


「やった~! これでいっぱいあそべるね!」


 遊び相手もゲットじゃわい。


 この日から地獄が始まるとは露知つゆしらず、暢気のんきなわしであった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る