171 メイバイを宥めるにゃ~


「この子は、わしのパーティメンバーのメイバイにゃ。いい子だから、みんにゃも仲良くして欲しいにゃ~」


 アイ達パーティと、リータ、メイバイの接触でカオスと化した居間を、なんとか落ち着かせ、自己紹介となった。

 アイ達から紹介していき、最後のメイバイの番になった時、アイとマリーから質問が飛んで来る。


「猫ちゃんのパーティなの!? あんなに勧誘断っていたのに?」

「これには深い理由があるにゃ」

「ねこさんのファンだからですか?」

「ファンにゃ?」

「だって、ねこさんのマネして、耳や尻尾を付けてるじゃないですか」


 マリーが変な間違いをすると、メイバイが怒鳴る。


「マネじゃないニャー! 本物ニャー!」

「どうどう。落ち着くにゃ」

「本物なの??」

「そうにゃ。わしの親戚だから、耳と尻尾が生えてるにゃ」

「「「「「親戚??」」」」」


 お! 久し振りに見る顔じゃな。初めてわしを見た人と同じ反応じゃ。


「メイバイちゃん。ちょっと触っていい?」

「いいニャ……。でも、ちょっとだけニャ」

「あ、本当だ。温かいし、動いてる……」

「ニャ……くすぐったいニャー」

「わたしも……」


 アイがメイバイの耳や尻尾を触って確認していたら、マリーが手を伸ばした。


「お前はダメニャ! シャーーー!!」


 しかし、メイバイは背中を丸めて臨戦態勢。わしはそんなメイバイを優しく説得する。


「メイバイ。さっき仲良くするように言ったにゃ。マリーにも触らせてやるにゃ」

「だって~」

「これからしばらく一緒に暮らすんだから、ケンカはするにゃ。にゃ?」

「うぅぅ。わかったニャ。少しだけニャ」


 なんとか説得に応じてくれたので、マリーにメイバイの尻尾を触るように促すと、マリーは撫でながら余計な事を言いだす。


「では……あ! 本当です。本物です! じゃあ、わたしとねこさんが結婚したら、メイバイさんみたいな子供が生まれるのですね」

「触るニャ! やっぱりお前は敵ニャー! シャーーー!!」

「またにゃ……マリーもいい加減にするにゃ~」

「だって~。ねこさんと出会ったのは、わたしのほうが早いんですよ~」

「ケンカは嫌いにゃ。ケンカする子も嫌いにゃ!」


 わしがプイっと横を向くと、メイバイとマリーは、わしに抱き着いて涙する。


「シラタマ殿~。捨てないでニャー」

「ねこさ~ん。わたしも捨てないでくださ~い」


 捨てるも何も、わしの所有物じゃないんじゃけど……。でも、二人に泣き付かれるのはキツイな。アイ、ルウ、エレナで、また給湯室のOLみたいになって、聞こえるようにコソコソ話しておるし、体裁ていさいも悪い。


「わかったにゃ。わかったから泣くにゃ~。でも、約束するにゃ」

「「約束 (ニャ)?」」

「無理に仲良くしにゃくていいけど、この家の中では、ケンカは禁止にゃ。わかったにゃ?」

「はいニャ」

「はい」


 ようやく場が落ち着いたので、わしは手をパンパンと……肉球では鳴らないので、ぶにょんぶにょんと鳴らして注目を集める。


「さあ、今日は皆の再会を祝して、宴会にゃ。ルウ、料理を頼むにゃ~」

「そうね。ここに来たら、黒い動物の肉で胃袋を埋めないとね!」

「いや、それはやり過ぎにゃ!」

「そうよ! ちょろまかして売りに行くんだからね!」

「エレナのほうがひどいにゃ~!」

「はぁ……」

「だから、モリーも参加するにゃ~。二人を見張ってくれにゃ~」



 相も変わらず、騒がしいアイ達パーティに料理を任せ、わしは狩りで疲れているリータとメイバイをお風呂でねぎらう。

 マリーがついて来ようとしたが、心を鬼にして断った。これ以上、メイバイとマリーの中がこじれるのは困るからだ。なので、機嫌をよくしてもらう為に、メイバイの身体中を洗ってあげる。


「ほい。髪も体も綺麗になったにゃ~」

「ありがとニャー」

「浸かって待ってるにゃ。次はリータの番にゃ」

「私もですか?」

「いいからいいから。にゃ?」

「はい」


 わしはメイバイと同じく、リータの髪を洗う。しっかり泡立てて揉み洗い、最後は水魔法でお湯を操作して泡を流す。次は体を、わし直々にスポンジになってゴシゴシと洗う。

 その隣の湯船では、浴槽の縁に身を乗せるメイバイが、リータと話をしている姿がある。


「リータはマリーに何も言わなかったけど、どうして味方してくれなかったニャー?」

「アイさん達にはお世話になりましたし、マリーさんも年が一番近かったから、よくしてくれたので、敵だと見れません」

「リータはシラタマ殿だけでなく、アイ達にも助けられていたんニャ……」

「そうです。みんないい人ですよ」


 わしはリータの泡を洗い流すと、頭をポンッと叩く。


「ほい。終わったにゃ。一緒に浸かるにゃ~」

「ありがとうございます」

「ふぅ。落ち着くにゃ~」


 リータと共に湯船に入ると、メイバイが寄って来た。


「むぅ……シラタマ殿も、なんでマリー達を連れ込んでいるニャー」

「マリー達は下宿人にゃ。お金も貰っているから追い出せないにゃ。それに、わしが初めて会話した人間にゃ。大事にしたいと思っているのかもしれないにゃ」

「シラタマ殿の初めての人ニャ?」

「言い方が悪いにゃ~」


 まだわしは、この世界ではそんな事をしておらん! わしの息子さんだって、まだ望んで……ヤバイ、反応するな! 話を逸らそう!!


「そ、それにしても、リータは本当に大人になったにゃ~」

「そうですか? 大きくなりましたか?」

「いや、そこの話じゃにゃくて……」


 わしの肉球を、リータの二つの肉球に当てないでください。また息子さんが……


「メイバイが来た時にゃんて、敵視してケンカしてたにゃ~」

「本当ニャ! あの時のガッツあるリータはどこに行ったニャー!」

「どこに行ったと言われましても……。シラタマさんの秘密を知っているのは、私達だけですし、そんなに焦らなくてもいいんじゃないですか?」

「正妻の威厳ニャー」


 正妻? あ! メイバイは愛人希望だったか。そのせいで、焦っているのかな? まだ結婚すると決まったわけでもないのに……


「リータもメイバイも、どっちも一番大事にゃ。順位は付けられないにゃ~」

「シラタマ殿……」

「シラタマさん……」

「にゃ!? ゴロゴロ~」

「マリーは何番ニャ?」

「にゃ!? ゴロゴロ~」

「『ゴロゴロ~』じゃ、わからないニャー!」

「王女様は何番ですか?」

「にゃ!? ゴロゴロ~」

「『ゴロゴロ~』じゃ、わかりません!」


 いや、二人が撫でるからじゃろ? 考える時間ぐらいください!


「「ねえねえ?」」

「ゴロゴロ~」

「「ねえねえ?」」

「ゴロゴロ~」

「「『ゴロゴロ~』じゃ、わからないって言ってる(ニャ!)でしょ!」」

「撫でるからにゃ~! ゴロゴロ~」

「「あ……」」

「ゴロゴロ~」


 その後、質問よりもわしを撫でるほうが大事なのか、質問はやんで、撫で回されて、お風呂から上がる。



 お風呂から上がると、家主の許可無く、アイ達はすでに宴会を始めていやがった。バクバク食べるルウに負けじとわし達も参加するが、ボロ負けしてしまい、お腹をさする。

 あまりに大量の肉を食うものだから、ルウには安い肉を食わすと言ってみたら、調理法を口ずさんでいたので、反省する気がないみたいだ。


 そんなやり取りをしていたらエレナが、わしの光の魔道具に興味を持ち、くれくれと女を使って誘惑して来た。

 そのせいで、またメイバイが噛み付きにかかり、わしが止めに入る。エレナの行為はさすがにアイ達にも目に余る行為だったらしく、説教をされていた。


 ついでにルウも怒ってくれと頼んだが、無視された。どうやらアイ達の食費を圧迫しているようで、ここでは食べさせようという腹みたいだ。

 怒ったわしは家賃の値上げを申し立てるが、皆で撫で回されてゴロゴロ言わされる。それを見て怒ったメイバイを宥めていたら、家賃の話はうやむやにされてしまった。


 こうして騒がしいうたげもお開きになり、各々寝室に向かう。マリーに一緒に寝ようと言われたが「待て!」と、言って断る。

 今日は気の立っているメイバイを落ち着かせないといけない。かなり悲しい顔をさせてしまったが、次の日は一緒に寝る約束をして、なんとか持ち直した。


 そうして、今日もリータとメイバイにゴロゴロ言わされ、眠るわしであった。



 翌朝……


 仕事をするとアイ達に言って、リータとメイバイを連れて家を出る。だが、マリーとアイがついて来た。


「どうしてついて来るにゃ?」

「わたしもねこさんと仕事がしたいです!」

「ごめんね~。この子、たまに強情なのよ。私が抑えるから、今日だけ許してあげて」

「いいけど……。あまり多くの給金は払えないにゃ。それでもいいにゃ?」

「わたしは要りません!」

「まぁそんなわけだから、お金の事は気にしないで」


 わしが迷惑そうに言うが、マリーとアイはおかまいなし。結局、強く断れないので同行を許可する流れになるが、メイバイが待ったを掛ける。


「むぅ……私達だけで出来るニャー!」

「メイバイさん。たまにはいいじゃないですか? 私も成長した姿をアイさんに見てもらいたいです」

「リータ。ありがとう」

「シラタマ殿~」


 う~ん。メイバイのために断るべきか? いや、逆にチャンスか? 同じ釜のメシだけじゃ仲良くならなかったけど、仕事なら協力せざるを得ない。これで仲良くなってくれるかもしれない。


「わかったにゃ。一緒に仕事するにゃ~」

「シラタマ殿!?」

「メイバイ。これはわしの決定にゃ。それでも意見を言うにゃ?」

「うぅ……わかったニャー」



 メイバイはわしの決定を渋々受け入れ、わし達五人はハンターギルドの依頼ボードを眺める。


 ここは難しいBランクかな? 何かいいのは……


 わしが悩んでいると、アイが話し掛けて来る。


「猫ちゃん。この人数でBランクの依頼を受けるの?」

「そうにゃ。にゃにか問題があるかにゃ?」

「いや……その……」

「どうしたにゃ?」

「Bランクは、まだ私達は受けた事がないし、複数のパーティで受ける依頼が多いのよ」

「わしが居るから大丈夫にゃ。まだ受けた事がないにゃら、後学の為にやってみるといいにゃ」

「たしかに……勉強になるわね」

「よし! 決めたにゃ」


 わしは依頼ボードから一枚の紙をちぎり、皆からハンター証を集め、依頼カウンターに持って行く。


「ティーサ。おはようにゃ~。これお願いにゃ。それとハンター証にゃ」

「おはようございます。また難しい依頼ですね。ありがとうございます。あら? 今日は人数が多いのですね」

「まぁ成り行きにゃ」

「そうなんですか。猫ちゃんなら大丈夫だろうけど、気を付けてくださいね」

「わかったにゃ~」


 ティーサの受付が終わり、皆にハンター証を返すと、ギルドを出て王都も出る。そして、しばらく歩き、人が少なくなると歩みを止める。


「猫ちゃん。どんな依頼を受けたか聞いてないけど、これからどこに向かうの?」

「にゃ? 北西に馬車で四日かかる村にゃ」

「え……日帰りのつもりで来たから、何も準備してないわよ」

「日帰り出来るから、大丈夫にゃ」


 わしの答えに、アイはいまひとつ納得のいっていない顔をするが、わしは次元倉庫から飛行機を取り出す。飛行機は元の形に戻そうとしたが、女王達を乗せた時に狭く感じたので、後部を伸ばして八人乗りとなっている。

 そんな巨大な物体がいきなり現れたものだから、アイとマリーは驚いて口を開こうとしない。


 ひとまず二人を飛行機に押し込み、リータとメイバイが乗り込むと離陸する。すると、ようやく復活したアイから質問がやって来た。


「え~と……猫ちゃん?」

「にゃに?」

「どこからツッコンだらいいかしら?」

「ツッコまなければいいにゃ」

「「出来るか~~~!」」

「にゃははは」

「「あははは」」


 飛行機初体験のアイとマリーは、わしのスカシにツッコむ。すると、懐かしい反応にわしは笑い、釣られてリータとメイバイも笑うのであった。



「笑ってないで答えてよ~」

「ねこさんは不思議でいっぱいです」


 納得できないアイとマリーから、質問が飛び交うのは言うまでもない。

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