第七章 ハンター編其の五 女王誕生祭にゃ~
170 カオスにゃ~
我輩は猫又である。名前はシラタマだ。プレイボーイではない。
ハンターの仕事をする
そんなある日、リータとメイバイは二人で狩りに出掛け、わしは一人で留守番をしていた。
う~ん……暇じゃ。掃除もしたし、庭の手入れも終わった。こういう時、テレビやラジオが無いとつまらないのう。唯一の暇潰しアイテム、魔法書さんは難しいから頭が痛くなるし……物語みたいなものが読みたいな。
城に行けば、本が借りられるじゃろうか? それとも、わしが知らないだけで、図書館みたいな施設があるのかな?
暇じゃし、商業ギルドに行ってエンマに聞いてみるか。城に行くと、さっちゃんに捕まるからのう。これは最終手段じゃ。
わしは立ち上がり、玄関に移動して引き戸に手を掛けたその時、引き戸が力を込めてないのに勝手に開いた。
「にゃ?」
「ねこさん!」
「にゃ~!?」
わしはいきなり入って来た少女に抱きつかれた。
「あら? 猫ちゃん、お出掛け?」
「アイ! じゃあ、これはマリーかにゃ?」
「ねこさん。モフモフ~」
ん? そこは「久し振り~」じゃ、なかろうか?
「久し振りにゃ~。戻ったにゃ?」
「ええ。久し振り。さっき着いたところよ。マリーが早く猫ちゃんに会いたいって言うから、もう、へとへとよ」
「お疲れだにゃ~。ささ、上がるにゃ~」
ひとまず、旅で疲れたアイパーティを居間に通す。モフモフ大好きマリーはわしから離れないのでお姫様抱っこで運ぶ。だが、皆にお茶が出せないので「待て!」と、言って居間に座らせる。
なんだか飼い犬みたいだなぁと思いながら、皆にお茶を出して、マリーの隣に座る。
「みんにゃも久し振りにゃ~」
わしが改めてアイパーティに挨拶すると、モリー、ルウ、エレナは挨拶を返し、マリーはわしに頬ずりしながら、なんか「モフモフ」言ってる。そんな中、面倒見のいいアイが代表してわしと喋る。
「出掛けるところじゃなかったの?」
「ああ。暇だったから、外に行こうとしていただけにゃ」
「相変わらずね。ちゃんと仕事はしてる?」
「してるにゃ~。こにゃいだも、女王から指定依頼を受けたにゃ」
「女王陛下の!? ハンターがそんな依頼、なんで受けられるのよ!」
「ふつうに頼まれたにゃ」
わしの仕事にアイは驚いてツッコむので、ちょっと口を滑らせてしまったと反省する。なので、アイの追及をやんわりかわしていると、マリーが会話に入って来てくれた。
「他にはどんな依頼を受けたのですか?」
「商業ギルドのサブマスから、女王の誕生祭に贈る物や、スティナからも誕生祭で贈る生き物を狩って来いって言われたにゃ」
「ギルマスからもですか!」
「大物ばっかりね」
みんな驚いておるな。アイ達の反応から察するに、普通の依頼じゃなかったのか。また口を滑らせたら面倒そうじゃし、みんなの旅の話でも聞いて話を逸らすか。
「アイ達は、どんにゃ依頼を受けてたにゃ?」
「狩り系よ。黒い獲物も、何匹も狩ったわよ」
「お~! そこまでレベルアップしていたんにゃ~」
「猫ちゃんのアドバイスのおかげね。マリーの魔法も強くなったし、私達も強くなったから狩れたのよ」
「それはアイ達の実力にゃ。でも、強くなったからと言って、無理は禁物だからにゃ~」
「わかっているわよ。一度、死にかけているからね」
わしが忠告すると、アイはリーダーらしい顔で返事をし、マリーも真面目な顔で応える。
「ねこさんに助けられたあの時の経験が活きています。どんな時も準備は
「それはよかったにゃ。そう言えばそろそろお昼だけど、にゃにか用意するかにゃ?」
食事を用意すると言うと、食いしん坊ルウが前のめりに声を出す。
「助かる~。もうお腹ペコペコだったの~」
「ルウは……食べ過ぎないでくれにゃ?」
「なんでよ~~~!」
「「「「アハハハハ」」」」
皆の笑いの起こる中、わしは昼食の用意をする。元々、外で食べようと考えていたので、アイ達人数分作るのは面倒臭い。
だから、次元倉庫からエミリに多く作り置きしてもらっている料理や、旅先で焼き過ぎた魚を振る舞う。
「余り物で申し訳ないにゃ」
「これで余り物!? 凄く美味しいよ?」
「ああ。腕のいい料理人を雇っているにゃ。それで、いつも多く作ってもらってるにゃ」
料理の美味しさに、ルウは食べる手を止めずに質問して来たので、行儀が悪いと思いつつも説明してやる。すると、お金大好きエレナも会話に入って来た。
「その収納魔法、
「そんにゃこと出来ないにゃ~。エレナも相変わらずだにゃ~」
「それに、この魚? こんなの初めて見たわ! 食べないで売ったほうがいいわ。余ってるなら、ちょうだい!!」
「売るにゃらあげないにゃ~」
「じゃあ、生息場所教えて! とりに行くわ」
「いいけど遠いにゃ。南の小国ビーダールのさらに先、黒い森を抜けた海に居るにゃ」
わしが生息場所を教えると、マリー、アイ、エレナ、男前女モリーは、驚きの表情で口々に喋る。
「ビーダール!?」
「黒い森を抜けた!?」
「海~~~!?」
「ありえない……」
あら? ルウ以外、食べる手が止まった。
「どうしたにゃ?」
「海って伝説の?」
「女王がそんにゃこと言ってたにゃ」
「あの深い森を抜けたの?」
「そうにゃ。モグモグ」
アイは気を取り直して質問するが、わしがモグモグしながら答えるからか、だんだん声が大きくなって来た。
「そんな大冒険をして、なんでこの国に帰って来れるのよ!」
「大冒険にゃ? モグモグ」
「ビーダールに行って深くて黒い森を抜けるなんて、私達じゃ何日かかるかわからないわ。生きて戻れるかもわからない」
「ふ~ん。モグモグ」
「それを苦労した素振りがないし~~~! 驚いているんだから、食べるのやめてよ!」
「ルウだって食べてるにゃ。早く食べにゃいと無くなるにゃ~」
「「「「ルウ! 食べ過ぎ!!」」」」
「むごっ!」
総ツッコミか。やっぱりアイ達は面白いパーティじゃな。しかしルウは、本当によく食べる。イサベレと、どっちが大食いなんじゃろう?
それにしても、大冒険か……。飛行機で行ったから日数は少なかったけど、いろいろあったから大冒険には違いないな。
わしの忠告を聞いたアイ達は、ルウと競い合うように食べ始める。それでもルウの食べるペースが早いから、一人ずつ
わしが満足した皆にお茶を並べると、アイが話を再開する。
「猫ちゃんはビーダールに行ったのよね?」
「うんにゃ。行ったにゃ」
「じゃあ、こんな噂知らない? 山のように大きな白い化け物が、国を滅ぼそうとした噂」
あ……この国にも、ついに情報が入って来たのか。誕生祭の贈り物だから秘密にしているのに、この分では女王の耳に入ってしまいそうじゃな。
わしが答えに悩んでいると、モリー、マリー、エレナが笑ってアイの話を否定する。
「アイはまだそんな噂、信じているのか?」
「山のように大きな化け物なんていませんよね~」
「そうよ。そんな化け物が居たら、国なんてとっくに滅んでいるわ」
「私も信じてなかったわ。でも、猫ちゃんが行った国よ? 何かありそう……」
「「「「たしかに……」」」」
アイ達は、今まで噂と笑って話していたのが、わしの登場で現実味が出たと言うのかな? こんな小さいわしが、山みたいな化け物と戦えると思うのか……。嘘をついてもいいんじゃが、一般的な人間の意見も聞いておこうかな。
「その噂は真実にゃ」
「「「「「うそ……」」」」」
「スティナの依頼で、白い生き物を狩って来て欲しいと言われたから、狩って来たにゃ。女王の誕生祭でお披露目になるから、この話は秘密にしてくれにゃ」
アイパーティは全員、声を重ねて固まる。だが、これだけの情報では信用ならないのか、アイが復活して質問する。
「えっと……どこまでが真実なの?」
「さっきの噂、全部にゃ」
「じゃあ、国はどうなったの?」
「いちおうわしが救ったにゃ。その時、王の代替わりが起きたにゃ」
「山のような化け物は?」
「わしが倒して保管しているにゃ」
「「「「「ええぇぇ~!!!」」」」」
一通りの質問を聞き終えた皆は大声で叫ぶので、わしは耳が「キーン」となる。
「うるさいにゃ~。興奮するにゃ~」
「どんな動物だったの!」
「白い象にゃ。鼻が七本あって、高さが50メートル以上あったにゃ」
「なにその化け物……」
「ねこさんは、どうやって倒したのですか?」
「普通にゃ。魔法と、あとは殴ったにゃ」
「「「「「ええぇぇ~!!!」」」」」
アイに続き、マリーの質問に答えると、またしても大声があがった。
「うるさいにゃ~」
「殴ったって、山みたいに大きいんでしょ! 効くの?」
「どうかにゃ? でも、後退はさせられたから効いたんじゃないかにゃ?」
「山に猫ちゃんのパンチは効いたんだ~~~」
「へ~~~」
「ほ~~~」
「ふ~~~ん」
「ほへ~~~」
なに、この反応……もしかして、信じてない?
「信じられにゃいだろうけど、事実にゃ~」
「「「「「現実逃避してるのよ!」」」」」
おう……息の合ったツッコミじゃな。
その後、わしの話を聞いたアイ達はどっと疲れていたが、旅の疲れが出たのであろう。わしのせいじゃない。
「ねこさんのせいですよ!」
「にゃ!?」
マリーに心を読まれた気がしたが、きっと気のせいだから、わしは皆を部屋に案内する。以前は床に雑魚寝だったが、暇な時間を使って人数分のベッドを用意しておいた。
アイ達は五人なので、二段ベットをみっつ配置し、中央には畳張りの堀コタツも用意してある。
もちろんアイ達も喜び、マリーに抱きつかれ、ゴロゴロ言わされた。そのせいか、マリー以外は不機嫌になっていたが、マリーの胸に挟まっていたせいじゃないだろう。
部屋の説明を終えると、旅の汚れを落とす為にアイ達のお風呂を用意する。これも以前と違い魔道具でお湯が出るので、最初の準備と使い方を教えると、風呂場をあとにする。
ガシッ!
「ねこさんも入りましょう」
残念ながらマリーに捕まって、ささやかな抵抗で猫型に戻り、バススポンジとなって大活躍する。けっして、皆の体の感触を楽しんだわけではない。ホンマホンマ。
そうしてお風呂から上がり、縁側で猫型のまま、マリーに撫でられてゴロゴロ言っていると……
「何してるニャー!!」
「アイさん?」
狩りから帰って来た、リータとメイバイに見られてしまった。
「お前は誰ニャー! 私のシラタマ殿を返すニャー!!」
「あなたこそ誰ですか! ねこさんのマネなんかして、なんなんですか!!」
あ、メイバイVSマリーのキャットファイトが始まりそう。キャットファイトなら、わしも参加しなくては! ……って、アホな事を考えてないで止めよう。
わしはマリーの膝から飛び降り、人型に変身して、二人の間に立つ。
「二人とも、ケンカはやめるにゃ」
「シラタマ殿も、堂々と浮気してたニャー!」
「そんにゃ事ないにゃ~。久し振りに会ったから、好きにさせていただけにゃ~」
「それが浮気ニャ……ニャーーー」
「泣くにゃ~。浮気じゃないにゃ。メイバイの時は人型だったにゃ。にゃ?」
「それでも……ニャーーー」
「ねこさんと、その人の関係はなんなのですか!」
「マリーはちょっと黙っているにゃ!」
わしはメイバイを落ち着かせる為に抱きつき、頭を撫でる。その傍らでは……
「猫ちゃんは相変わらずモテるわね」
「リータとマリーと王女様に、謎の猫耳娘。四又!?」
「猫ちゃんの尻尾の倍になったわね」
アイ、ルウ、エレナが給湯室のOLみたいに、わしのよからぬ噂をしている。
「そこ! コソコソ喋るにゃら、他所でやってくれにゃ~!」
「アイさん。お久し振りです」
「久し振り。リータも元気だった?」
「はい!」
「そこは挨拶してないで、二人を止めてくれにゃ~」
「はぁ……」
「モリーも
リータとメイバイの登場で、アイ達との懐かしい再会は、カオスとなってしまった。わしはそのカオスを
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