169 デート其の八にゃ~
デート リータの場合……
「ここも久し振りだにゃ~」
「そうですね。シラタマさんと、またこの泉に来れて嬉しいです」
リータとデートする為に何処に行きたいかと聞くと、故郷の村に帰りたいと言われ、マーキングしていたリータの村近くにある森の泉に転移してやって来た。
ここはリータと初めてキスをした場所……うぅぅ。恥ずかしい! わしは何であの時、流されてしまったんじゃ。
リータは……特に変わった様子はないな。意外と経験豊富なのか? 魂年齢百二歳のわしよりか? いや、わしだってそれなりの経験を積んでおる。ホンマホンマ。
「ここからどうやって村に向かいますか?」
「車で……行ってもいいけど、抱っこしようかにゃ?」
「はい! お願いします」
リータは両手を広げ、わしに身を
キョリスに挨拶に行った時に、リータとメイバイを担いだまま、かなりの速度で走った事を覚えていたようだ。
森と村は人間の歩で一時間程なので、わしの走りならあっと言う間に村に到着した。村の門番に「御使い様」と中に通され、村の中に入ると「御使い様」と持て
「すごい人気ですね」
「うぅ……言わにゃいでくれにゃ」
猫、猫、言われるのも恥ずかしいが、「御使い様」も恥ずかしい。まだ、猫のほうがマシか? こんな思考を持つなんて、猫に馴染んで来てしまったのかもしれん。
「それにしても、村の復興が遅いにゃ~」
「あれだけの被害だったのですから、仕方ないですよ。木を切り出すにも人手が必要ですからね」
「にゃるほど」
森から木を持って来るには、多くのマンパワーが必要だし、護衛のハンターも雇わないといけないか。
元の世界と違い、全てが手作業のこの世界では時間が掛かるな。一ヶ月そこらでは、仮設住宅を建てるのもやっとか。
村を眺め、リータと歩いていると、狭い村なのですぐにリータの実家に辿り着き、父親と母親に出迎えられる。
「「これはこれは夫殿」」
こ、この夫婦は……揉み手で目がマネーになっておる。本当にリータの親か?
わしが怪訝な目でリータ夫妻を見ていると、リータが前に出て挨拶をする。
「お父さん、お母さん。ただいま」
「リータ。おかえり」
「おかえり。そろそろ式の日取りは決まったのかい?」
「ま、まだだよ! シラタマさんに迷惑が掛かるから、変なこと言わないで!」
リータさん。結婚しないと言う選択肢は無いのですね。そうですか。
「久し振りにゃ。その後、村の様子はどうにゃ?」
「それはもう夫殿のおかげで村は潤っています。イナゴも日保ちするように加工して、今年は飢える者も無く、冬を越せるでしょう」
「それはよかったにゃ」
イナゴはまだ残っているんじゃな。今日、泊まるって事は、イナゴを食べさせられるのか……。厚意を無下にしたくないから、お土産として肉を出して、それを料理してもらうか。
わしが次元倉庫を開こうとしたら、リータがショルダーバックから小さな袋を出して、父親に渡そうとする。
「お父さん。これ少ないけど受け取って」
「ああ。ありがとう。大切に使わせてもらう……」
「シラタマさんが、どうしたの?」
「な、なんでもない」
いや、わしにも金を寄越せと目を光らせておったじゃろう! 指で輪っかを作るその手もやめろ! 娘の前で何をしているんじゃ。
「お母さんには、このお肉をお土産にゃ。それと調味料もあるから、好きなだけ使ってくれにゃ」
「こんなに!? でも……」
だから、その手をやめろ! リータも不思議に見ておるじゃろう。
「ソレ(金)は、またあとでにゃ」
「「はは~」」
「お父さん……お母さん……」
夫婦が両手を高々と上げて大袈裟に深く頭を下げると、リータも何か感じたのか、冷たい視線を送っていた。
「わしはちょっと外に出て来るけど、リータはどうするにゃ?」
「私も行きます! お母さん。夕食までに帰って来るね~」
「「いってらっしゃ~い」」
わしとリータは来た道を戻って村から出ると森に向かって走り、外縁近くになったらとリータを降ろす。
マーキングした場所は、あっちの方角だから……この辺がいいかな?
「何をするのですか?」
「木を切り倒すのと、ついでに泉までの道を作ろうと思うにゃ。泉に簡単に行けたら、水には困らないにゃ」
「いいですね! 村のみんなも喜ぶと思います」
「デートっぽく無いけど、いいかにゃ?」
「私は一緒に居られるだけで幸せです」
「じゃあ、動物が出てきたらお願いするにゃ」
「はい!」
わしは、マーキングしている方角に向けて【
リータはわしを座って眺めているが、時々音にビックリして出てきた角兎を捕まえて、首を絞めていた。その光景は怖かったので、すぐに目を逸らした。
そうして集中して木を切り倒していたら、リータが後ろから声を掛けて来た。
「そろそろお昼にしませんか?」
「にゃ! もうそんにゃ時間だったんにゃ。気付かなかったにゃ~」
「さっき狩った角兎がありますけど、どうしますか?」
「角兎にゃ? ……頭、叩かれなかったにゃ?」
「あ、あの時といまは違います! もう! シラタマさんのバカ」
「にゃははは」
リータも覚えていたか。初めて一緒に狩りをした時は驚かされた。小さな兎にポコポコと角で頭を殴られていたもんな。
二ヵ月前ぐらいじゃが、懐かしい思い出じゃ。おっと、思い出にふけっているとリータのドコンドコンで埋まってしまいそうじゃ。何度も埋められているんだから、そろそろ自分のパワーに気付いてくれんかのう。
わしはリータのポコポコを止め、地面に埋まった足を抜くと、リータと共に調理を開始する。ランチのメニューは、初めて狩りに行った時と同じ味付けにして、二人で懐かしむ。
「この味……」
「覚えているかにゃ?」
「はい。あの時は生きるのに必死で、味なんて気にした事が無かったので感動しました」
「わしの手料理だったから、いまいちだけどにゃ」
「いえ。十分美味しかったです。そう言えば、さっきお父さんとお母さんはシラタマさんに、何を言おうとしていたのですか?」
「ああ。前に来た時にお金を渡したにゃ。その催促にゃ」
「やっぱり……両親がすみません!」
あらら。リータもあの時、父親達が何を催促していたか気付いていたんじゃな。まぁバレないほうがおかしいか。
「でも、シラタマさんのお金をお父さん達に渡すなんて……」
「いや、元々リータのお金にゃ。リータが受け取ってくれにゃかったから、取り分を保管して、その半分を渡しただけにゃ」
「そんな……私なんて、全然役に立っていないから貰う資格ありませんよ」
「わし達はハンターで、同じパーティメンバーにゃ。リータは正当な報酬を貰う資格があるにゃ。それに最近は、自分の力で獣も狩っているしにゃ。よく頑張ったにゃ」
「シラタマさん……ありがとうございます」
わしは褒めながらリータの頭を優しく撫でると、リータは嬉しそうに返事する。その顔を見て、脱線していた話に戻す。
「前回は、いくら渡したらいいわからずに、多く渡してしまったにゃ」
「あ! だからみんな、玉の輿って踊っていたんですね」
「そうにゃ……」
「いったい、いくら渡したのですか?」
「あの時は、黒い猿を狩っていたから……その四分の一ってとこかにゃ?」
「多過ぎです! それは騒ぎますよ!!」
「そうにゃの?」
「村なら半年は暮らせますよ!」
わ~お。村暮らしって、そんなに金を使わんのか。いま思うと、王都でも二ヶ月ぐらい余裕で暮らせる額だったかも?
「そんにゃに怒らにゃいで~。わしもお金を持ったのがハンターになってからだから、金銭感覚がわからにゃかったにゃ」
「そうだったのですか!?」
「だって、猫だにゃ~」
「あ……アハハハ。そうでした。忘れていました」
どっからどう見ても猫なんじゃが……。いや、ぬいぐるみにも見えるな。人の要素は……ゼロじゃ。
「ところで、さっき私の取り分の話がありましたが、いま、いくらあるのですか?」
「にゃ? ちょっと待つにゃ」
わしは次元倉庫から、リータ用に金銭をメモした台帳を取り出して手渡す。リータは台帳の最後に書かれた数字を見て、バッと顔を上げた。
「こんなにですか!?」
「多いか少ないかわからにゃいけど、リータが頑張った結果にゃ」
「多いですよ! こんなに貰えません」
「貰ってくれにゃ~。ちなみに、わしはその十倍持っているから、気にする事は無いにゃ」
「うっ……一緒の依頼を受けているのに、そんなに差があるなんて……」
リータが困ったような顔をするので、わしも困り顔になる。
「それは、リータ達が受け取ってくれないからにゃ。……わかったにゃ。計算し直すから、その紙をくれにゃ」
「い、いいです! これでいいですから、増やさないでください!」
「そうにゃの? じゃあ、お金が必要になったら言うにゃ。だから、今日のところは、両親に渡す額を決めてくれにゃ」
「はぁ。わかりました」
リータは台帳とにらめっこしながら、溜め息まじりに両親に渡す金額を考える。わしはその間、昼食も終わっていたので、作業を再開する。
森の外縁から泉までは、多くの木が進行を妨げていただけなので、500メートル程進めば、すぐに道は開通した。
その道を、切り倒した木を次元倉庫に入れながら進み、泉で折り返すと、土魔法で切り株を押し退けながら道を整地する。
リータも計算が終わったみたいで、森の入口付近の切り株を土魔法で掘り返していてくれた。わしはそんなリータに感謝して、作業を終えると村に走る。
村に帰ると、村長に挨拶をして切り倒した木をプレゼントしたら、拝まれた。しかし村の中には大量の木の置き場所が無いので、村の外に出し、枝だけは軽く切っておいた。村長が何か念仏を唱えていたが、無視をした。
枝の切り落としを終えると燃やそうと思ったが、肥料として使えるのではと、切り刻んで畑に振り掛けておいた。村長は何をしているかわかっていなかったが、感謝していた。
その後、森の泉に道を作ったから、明日にでも見に行けと言ったら倒れた。きっと、お迎えが来たのであろう。そっと
「おかえりなさい。もう夕食が出来ていますから、どうぞ~」
「ありがとうにゃ」
リータの家に着くと、早々に夕食となった。リータ家族と食卓を囲み、「いただきにゃす」と言って食事に手を付ける。
う~ん。調味料を好きなだけ使えって言ったのに味が薄い。リータの両親と兄弟、祖父母は美味しそう叫んでいるから、これでもご馳走なんじゃな。
この味は初めてのリータの手料理を思い出すな。この料理を食べて、リータはどう思っているんじゃろう? ……不満ですか。母の手料理なのに、そうですか。
食事を終えると、リータ家族はお風呂にすると言うので、子供達と一緒に入る。
あ……この寒い季節に井戸水か。布に水を浸して拭いておる。どうしたものか? リータは……我慢して拭いておるな。今日は森で作業したから、汚れたものな。
う~ん……仕方ない。ここはお風呂をわしが用意しよう。たまの贅沢なら、リータも許してくれるじゃろう。
わしは次元倉庫からお風呂セットを取り出し、リータの家の脇に置く。子供達は騒ぎ出すが、リータと一緒に押し込む。
そして、湯船とタンクに魔法で作ったお湯を入れて、子供達を洗ってあげる。子供達は、温かいお湯に浸かると次々に
子供達を運び込む姿を見ていた両親も祖父母もお風呂に気付き、子供達と交代でお風呂に入る。もちろん逆上せた両親達も、リータと手分けして家に運び込んだ。
そうして、わしとリータはゆっくりお風呂に浸かってから、家族の寝室に入る。
ここで家族全員で寝ているのか……まだ修理中じゃから隙間風も酷いし、寒くないんじゃろうか? 布団もぺらっぺら。ここでは安眠できないかも……。リータには悪いが、車の中で寝ようかな。
わしは寝室の隙間を土魔法で穴埋めし、それでも寒そうなので、毛布代わりの毛皮を掛けていく。
それが終わると、リータに車で寝ると告げて、外に出した車の中にて眠りに就いた。
その深夜……
ガチャリと車の扉が開き、わしは目を覚ます。
ん……こんな時間になんじゃ? 車の扉を開けれると言う事は、リータか?
リータはベッドに近付くと、わしを起こさないようにと、静かにモソモソと布団の中に潜り込む。
「どうしたにゃ?」
「あ……起こしちゃいましたか。すみません」
「いいにゃ。気にするにゃ。それより、どうしたにゃ?」
「それが……」
リータが言うには、懐かしの実家に帰って来たものの、食事に不満を覚え、お風呂に不満を覚え、寝室の固さに不満を覚えて車に来たんだとさ。
「そうにゃんだ~」
「なに他人事みたいに言っているんですか! 全部シラタマさんのせいですよ!」
「にゃんで?」
「シラタマさんが、美味しい料理も、温かいお風呂も、柔らかい寝床もくれるからじゃないですか!」
あ、なるほど。リータも都会に染まってしまって、実家の貧乏暮らしが不満なのか。それってわしのせい?
う~ん。調味料は高いし、お風呂も付いている家は貴族ぐらい。布団もさっちゃんのベッドには劣るけど、フカフカじゃ。
こう考えるとわしは、貴族並の生活をしているのか。そりゃ、わしのせいにしたくもなるか。
「まあまあ。落ち着くにゃ。今は一緒のベッドだから不満は無いにゃ?」
「……はい。でも、私ばっかりこんな生活をしていていいのでしょうか?」
「リータは仕送りをしているから、いいんじゃないかにゃ? それでも罪悪感があるにゃら、お昼に話したリータの取り分で、王都に家を買ってあげるとかどうかにゃ?」
「そんなお金、私には……」
「リータはわしと結婚するにゃ? もしも結婚したら、みんにゃわしの家族にゃ。それぐらい、わしが買ってあげるにゃ」
「もしもですか……」
「もう少し待ってにゃ~」
「はい。家族の事まで考えてくれてるのですから、いつまでだって待ちます。でも、私がお婆ちゃんになる前に決めてくださいね」
「にゃ……」
今の言葉……女房と結婚する時に、わしを決断させた言葉じゃ。あの時も、女房に結婚を待たせてしまったな。わしはこの世界でも同じことをしているのか。
じゃが、リータは十三歳。元の世界では犯罪じゃ。しかし、この国では十四歳から結婚出来る。わしの年齢では出来ないはずなんじゃが……女王にイサベレを押し付けられそうになったから、結婚も特例の範囲内なのかもしれん。ならば、このまま結婚してしまうか……
「どうしたのですか?」
あれ? 心を読まれていない? こんな事を考えていたら、絶対喜ぶと思ったのに……それなら、とぼけておこう。
「にゃんでもないにゃ」
「本当ですか~?」
「にゃ!? そこは、ゴロゴロ~」
「ウフフ。気持ち良さそう。シラタマさんはここが弱いですね。あ、また固く……」
「ゴロゴロ~」
なんでいつも、そこをピンポイントで攻める? リータはわざとやってないか? リータが気付いていない可能性があるから、強く言うのは控えているが、やめて欲しいもんじゃ。
その後、リータが眠るまでゴロゴロ言わされ、リータが眠った瞬間に、わしの下半身に三本付いてる突起物を、後ろの物と入れ換えて眠りに就いた。
そして朝を迎え、隣に寝ているリータに「おはよう」と言って、起き上がる。車から出ると、リータの両親がガン見していたので、何事かと思ったが無視しておいた。
リータが両親に何か言われて、あたふたしていたところを見る限り、ろくな事じゃないだろう。
リータ家族と朝食をとり、リータと兄弟達を連れて村を回る。以前作った建物や遊具を手入れしながら、村の子供達と遊ぶことも
だが、泉を見てきた村長は軽くあしらう。だって、わしへの感謝で、肩を天使に叩かれていたんじゃもん。
そうこうしていると、昼食の時間となり、食べ終えると別れとなる。
「お父さん……これ、シラタマさんから。大事に使ってね」
「お……おお!? 大事に使わせてもらう。夫殿、ありがとうございます」
リータはいくら渡したんじゃろう? 前回の踊りより、少し覇気が足りない? なかなか多いけど、前回より少ないってところか。
「それじゃあ、わし達は行くにゃ。体に気を付けてくれにゃ」
「はい。夫殿もリータの事、お願いします……末長く」
「お父さん、お母さん。元気でね」
「うん。リータも元気でね……元気な子供も」
「みんなも良い子にするんだよ」
「「「うん! お姉ちゃん。バイバイ~」」」
わし達はリータ夫婦の呟きは無視して、泉に向かう。だが、道を整備してしまったため、マーキングした場所は使えないので、別の場所を探してから王都の我が家の寝室に転移した。
「ふぅ。やっぱり家は落ち着きます~」
「にゃはは」
「どうしたのですか?」
「実家の方が落ち着かないのかと思ったにゃ」
「あ、本当です! シラタマさんのせいですからね。だから、責任取ってください!」
いや、わしはまだそんな事はしておらん……けど、リータのドコンドコンが来そうじゃし……
「うん。わかっているにゃ」
「シラタマさ~ん!」
「にゃ!? ゴロゴロ~」
その後、リータにゴロゴロ言わされていると、わし達の帰宅に気付いたメイバイも寝室に入って来て、さらに激しいゴロゴロとなるのであった。
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