168 デート其の七にゃ~
デート メイバイの場合……
「海ニャーーー!」
メイバイにどこに行きたいと聞くと、海に連れて行って欲しいと頼まれ、転移魔法で飛んで来た。
「二人っきりは初めてだにゃ」
「そうニャ。今日は一日中、ゴロゴロするニャー」
「にゃ……」
ゴロゴロって、アレじゃよな? 噛んだり踏まれたりのメイバイ流のイチャイチャ。一日中は厳しい! わしの息子さんが我慢できないかも……
「その前に、腹ごなしニャ。自分で魚もとってみたいニャー!」
あ、ゴロゴロより団子か。メイバイは魚が好きじゃもんな。猫になるぐらい……。釣りデートにすれば、息子さんも救われる!
「メイバイは魔法が使えないから、違う方法でとってみるかにゃ?」
「うん! やってみるニャー」
わしはメイバイの為に、釣竿を作る。土魔法ではしなりが作れないので、木を削って作った。と言っても、風魔法でちょちょいのちょいだ。
糸は贅沢に
竿が出来あがると、釣りによさそうな岩場まで、メイバイをお姫様抱っこして走る。
「ここでやってみるにゃ。エサの肉を付けて……こうやって投げるにゃ」
「こうかニャ?」
わしは竿を振って、おもりとエサの付いた針を遠くに投げる。針は弧を描き、遠くにポチャリと落ちる。それを見たメイバイもマネをして、針を海に投げ込む。
「うん。うまいにゃ」
「もう上げていいニャ?」
「まだにゃ」
「もう魚が食い付いたかニャ?」
「いま投げたばっかりにゃ~」
針を投げ入れたメイバイは、最初はわくわくして何度も質問していたが、しだいに飽きて、わしを撫で回す。
「暇ニャー」
「釣りとはそんなもんにゃ。ゴロゴロ~」
「いつになったら釣れるニャ?」
「さあ? ゴロゴロ~。魚の気分しだいにゃ」
「面白くないニャー!」
たしかにわしも面白くない。魔法を使えば簡単にとれてしまうから、待つ釣りは時間の無駄じゃ。
「う~ん。違う方法でとるにゃ~」
こうして釣りは、小一時間も経たずに終了。わし達は車の中で水着に着替え、浜辺に移動する。、
そして、土魔法で波打ち際に囲いを作り、沖から【風魔法】で音を出し、魚を追い込んで囲いを閉じる。
「準備完了にゃ」
「ニャー! 魚が見えるニャー! でも、どうするニャ?」
「手でとってもいいし、ナイフで突き刺してもいいにゃ」
「わかったニャー!」
メイバイは海の中をバタバタと走り、魚を追い掛ける。わしは海に入り、様子を見守る。
う~ん。手掴みで魚をとろうとしているみたいじゃが、なかなか苦戦しておるみたいじゃな。素早いメイバイなら楽勝かと思っておったが、テンションが上がって、音を立て過ぎて逃げられておる。
「ニャー! 難しいニャー」
「音を立て過ぎにゃ。いつも小動物を狩る時はどうしてるにゃ?」
「あ……気配を断つようにしてるニャ」
「そうにゃ。魚も一緒にゃ」
「わかったニャー!」
メイバイは動く事をやめて、自分の目の前に来る魚に狙いを定め、静かに待つ。目の前に魚が来たら、両手を出して捕まえようとする。だが、逃げられて顔から海に浸かってしまった。
「ぺっぺっぺっ。しょっぱいニャー」
「にゃはは。こうやるといいにゃ」
わしはメイバイに見本を見せる為に、腰を落として目の前に集中する。そして、魚がわしの目の前に来たら、すかさず手を振る。すると魚は、なす術もなく砂浜に打ち上げられる。
わしは猫なのに、熊みたいなとり方だと思ったけど、口には出さなかった。
「おお~。さすがシラタマ殿ニャ。やってみるニャ-! こうかニャ? むっ……おしかったニャ。次こそは……」
わしの見本をマネしたメイバイは、一度空振ったが、二度目にして魚を打ち上げる事に成功する。
「ニャー! 出来たニャー!」
「おめでとうにゃ」
「どんどんとるニャー!」
コツを掴んだみたいじゃな。次々に打ち上げておる。このままじゃ魚が傷みそうじゃし、
わしは砂浜に穴を掘ると、海水を水魔法で流し込み、メイバイが砂浜に飛ばして来る魚を生け簀に入れて行く。ペース的にわしのほうが早いので、メイバイと一緒に魚をとる。
メイバイは初めて見るタコが苦手なのか、腕に絡まったタコに悲鳴をあげ、わしに投げ付けて来やがった。そのせいで、後頭部にタコが張り付いてしまって、取るのに時間を要した。
その行為も面白かったのか、メイバイはケラケラ笑う。わしも釣られて笑い、メイバイのお腹が鳴るまで魚をとっていた。
「お腹すいたニャー」
「じゃあ、料理するにゃ」
「私も手伝うニャ」
「ありがとにゃ。その前に……」
「ニャ……」
わしは土魔法で作った囲いを狭め、生け簀と繋げる。するとメイバイは、口を開けたまま固まった。
「どうしたにゃ?」
「そんなに簡単に魚がとれるなら、今までやった事が台無しニャー」
「にゃ……で、でも、楽しかったにゃ? 楽しい思い出は残るにゃ~」
お! わし、今いいこと言ったんじゃなかろうか?
「むう……納得できないニャー」
「ポコポコ叩くにゃ~」
メイバイはわしをポコポコではなく、ダダダダ叩く。リータと違って力は無いが、手数が多いので、柔らかい砂に徐々に埋まっていくわしであった。
「ほら。料理するにゃ~」
「そうニャ! こんな事してる場合じゃないニャー」
メイバイは生け簀にいる自分好みの魚を鷲掴みにしては、わしのマネをして
香ばしい匂いがして来ると、すぐに食べようとするので、わしは「待て!」と制止する。やっぱり、わしより猫じゃなかろうか?
しばらくして、焼き上がった魚を二人で頬張る。
「ニャーーー!」
「美味しいにゃ?」
「ニャーーー!」
「それはよかったにゃ」
喋れよ! まぁかわいいから許そう。
「……いま、かわいいって言ったニャ??」
心の声は気付くのかよ!
わしはメイバイの食べる姿を見ながら、焼いていたタコの足に噛み付く。
久し振りのタコ! エミリに作ってもらった醤油モドキと相俟ってうまい! イカの姿焼きっぽく、醤油を塗って焼いてみただけじゃが、正解じゃったな。
「また泣いてるニャ。どうしたニャ?」
「ああ。故郷の味にゃ。思い出してしまったにゃ」
「故郷の味……」
ん? 少し顔が曇ったか?
「それって、さっきのヌルヌルしてくっつく、気持ち悪いヤツニャ? 美味しいニャ?」
う~ん……。タコの事だったのか?
「美味しいにゃ。食べてみるかにゃ?」
「うん……シラタマ殿が美味しいと言うなら、一口食べてみるニャ」
わしはメイバイにタコの串焼きを手渡す。メイバイは恐る恐るタコを口に運ぶ。
「ニャ……」
「ダメだったにゃ?」
「ニャーーー!」
「それはよかったにゃ」
きっと美味しいと言ったはずじゃ。わしより猫じゃないなら喋って欲しいものじゃ。
その後、二人ともお腹いっぱいになるまで焼き魚を堪能し、動けなくなってしまったので、車の中で横になる。
メイバイは今日のデートが楽しみで、前日に眠れなかったらしく、横になってすぐに寝息を立てる。わしはそんなメイバイの抱き枕になってあげた。
「ん、んん~……」
「目が覚めたにゃ?」
「シラタマ殿?」
目覚めたメイバイは、わしの顔を見て、目をパチクリとしている。
「もう夕方にゃ。そろそろ帰ろうにゃ」
「もうそんな時間ニャ!? 起こして欲しかったニャー」
「気持ち良さそうに寝てたから、起こせなかったにゃ」
「でも……」
「そんにゃ顔するにゃ。外に出てみるにゃ。いいモノが見れるにゃ~」
「いいモノニャ?」
「少しの間、目をつぶっているにゃ」
わしはメイバイをお姫様抱っこして、車の外に出る。そして、波打ち際近くまで行くと、メイバイを降ろす。
「もう目を開けていいにゃ」
「うん……ニャ……」
メイバイが目を開けると、そこには赤々とした、空と海が永遠に続く光景が写し出されていた。
「赤い……ニャ……」
出来れば、太陽が海に沈むところを見せてやりたかったが、ここより真西に沈むから仕方が無い。
それでも、空と水平線が真っ赤に変わるなんて、この世界では見る事の出来ない光景じゃ。
「綺麗ニャ……」
「綺麗だにゃ~」
わしとメイバイは、しばらく夕焼けで赤くなった海を無言で眺める。わしとメイバイが海を眺めて長い時間が過ぎた頃、メイバイが口を開く。
「もしも、私がシラタマ殿に同胞を救ってくれって言ったらどうするニャ?」
やっぱり……さっき故郷と言った時の反応は、この事だったのか。メイバイも故郷の事を思い出していたんじゃな。
「メイバイの頼みだったら、もちろん救うにゃ」
「同胞を救うとなったら、国と戦わないといけないニャ。それでも、救ってくれるニャ?」
「わしの答えはひとつにゃ。メイバイの頼みにゃら、救ってやるにゃ!」
「ニャ……ニャーーー」
わしの返答にメイバイは大きな声で泣き出す。わしはそんなメイバイを抱き締める事しか出来なかった。
しばらくしてメイバイは泣きやみ、笑顔が戻る。わしはメイバイが同胞を救ってくれと言い出すのを待つが、メイバイはその事に触れなかった。
う~ん。まだ葛藤があるのか? 国対わしでは、戦わせづらいのかな? メイバイが一言、助けてくれと言ってくれれば、わしとしても動きやすいんじゃが……
まぁメイバイと出会ってから、いつでも動けるように準備しているけどな。でも、一国を相手にするなら、準備にもう少し時間が必要か……
メイバイの話を聞いた後、転移しようとしたが、まだわしにサービスをしていないと待ったが入った。
わしは十分楽しかったと主張したが、メイバイが許してくれない。少し落ち込んでいたメイバイだったので、わしは仕方なくリクエストに応える。
と言っても、普段となんら変わらない。一緒にお風呂に入ってゴロゴロ言わされ、車のベッドで噛まれたり踏まれたりしながらゴロゴロ言わされるだけだ。
そうこうしていると完全に日が落ち、新月だった為、辺りは真っ暗となってしまった。
リータには泊まりでもかまわないと言われていたが、気が引けるので帰ろうと言ってみたが、メイバイもリータに言われていたのか、泊まると言い出す始末。
仕方なく、仕方なくメイバイと車の中で一泊する事となった。
「昼間寝たから眠れないニャー!」
「ゴロゴロゴロゴロ~」
もう寝てくださ~~~い!
わしの心の叫びは、当然無視されるのであった。
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