172 黒い森に入るにゃ~


 わしたち猫パーティに、アイとマリーを加え、飛行機で空を行く。アイとマリーは飛行機に初めて乗ったので、質問や疑問が「ギャーギャー」うるさい。一時間ほどして、二人がやっと静かになった頃に村が見えたので着陸する。


 飛行機から降りたアイとマリーは、わし達とは違い、キョロキョロと周りを見て話し合っている。


「嘘でしょ? ここ、前に来たことある! 馬車で四日かかる村よ?」

「本当です。あの時は大変でしたね。森から出て来る獣が多過ぎて、他のパーティも怪我をする人が居ました」

「二人とも。喋っているにゃら置いて行くにゃ~」

「あ! 待って~」

「待ってくださ~い」


 わし達は村に入り、村長に挨拶と事情を聞いて森に向かう。この村でも「御使い様」効果でフリーパスだ。

 移動手段は車。アイとマリーは、また「ギャーギャー」うるさくなるが、飛ばしまくったので、すぐに森に到着した。


「さあ、作戦会議にゃ~」

「ちょっとまだ心の準備が……」

「そうですよ。まだ依頼内容も聞かせれていません」


 やや疲れた顔をしているアイとマリーに、わしは詳しく説明する。


「あ、そうだったにゃ。依頼内容は、さっきマリーが言っていたのに近いにゃ」

「獣が森から出て来るのを押し戻す依頼ですか?」

「いや、その原因の究明と除去にゃ」

「「え……」」

「国からの依頼だから、ガッポリにゃ~!」


 わしは元気よくお金の話をするが、二人は渋い顔に変わった。


「猫ちゃん。この広い森に入るの?」

「そうにゃ」

「危険です! この森は多くの獣がそこかしこに居ます。それをたった五人でなんて、自殺行為です!」


 どうやら二人はこの森の危険度を知っているから、入る事に渋っているようだ。なので、わしが安心させようとしたら、先にメイバイが口を開いてしまった。


「じゃあ、マリー達は待ってるニャ。シラタマ殿、行こうニャー」

「メイバイ、待つにゃ! まだ作戦会議中にゃ~」

「ニャー……」


 歩き出したメイバイを止めると、あからさまに不満そうな顔になった。そんなメイバイも心配だが、先にアイとマリーの意見を聞く。


「メイバイの意見も、もっともにゃ。自信がないにゃら、引いてもかまわないにゃ。二人とも、どうするにゃ?」

「ねこさんが、守ってくれるのですか?」

「危ない時は助けるにゃ。でも、わしばっかり活躍するのは二人は嫌じゃないかにゃ? 基本はみんにゃに任せるにゃ」

「たしかに指をくわえて見てるのは、ハンターとしてダメよね。わかった。私はやるわ。マリーはどうする?」

「私もやります! ねこさんのアシストします」

「わかったにゃ。じゃあ、アイとマリーには、これを渡して置くにゃ」


 わしは着流しのたもとに手を入れ、次元倉庫から指輪と腕輪を二組ずつ取り出す。


「これは?」

「魔道具にゃ。アイには肉体強化魔法。マリーには風魔法の強化魔法を入れるにゃ。指輪と腕輪、どっちがいいにゃ?」

「指輪です!」

「その前に質問したいんだけど……もう! 腕輪でいいわ!」


 速答のマリーに続き、アイはわしの行動に諦めて腕輪を選ぶ。わしは魔法を入れて、二人に使い方を教えると装備させる。マリーは嬉しそうに指輪を見ているが、アイは微妙な顔をしている。


「それで、どうやってこの依頼を解決するの?」

「村長の話では、森に近接する他の村でも、獣の押し戻しをしているみたいにゃ」

「たしかに依頼ボードでも見た事あるわ」

「おそらく、強い外来種が入って、森の中で暴れているのが原因だと思うにゃ」

「それで獣が逃げて、人里に出て来てるのですね」

「なんでそんな事がわかるの?」

「わしの縄張りでも、似たようにゃ事があったにゃ」

「あ! 猫ちゃんって東の森の生まれだったわね」

「そうでした。ねこさんは猫でした」


 うん。そうじゃよ。ぬいぐるみにも見られるが、猫じゃよ?


「とりあえず、飛行機で森の中央に行って探索するにゃ」

「シラタマ殿……もしかして飛ぶニャ?」

「最悪そうなるかにゃ?」

「シラタマさんも怖いくせに~」

「降りる所が無かったらにゃ~」


 わしが飛行機を使うと言うと、メイバイとリータが嫌そうにするので、アイとマリーは首を傾げる。


「「飛ぶ?」」

「まぁあとの打ち合わせは飛行機の中でやるにゃ。みんにゃ、乗るにゃ~」

「「にゃ~!」」

「「え? にゃ~!」」


 アイとマリーは「飛ぶ」の単語に疑問を抱いていたが、無視してあげた。まだ知らないほうが幸せであろう。ただし、二人が飛行機に乗り込むリータとメイバイの、気の抜けた掛け声に応えていたのは謎だ。

 その後、打ち合わせをしながら飛行機を飛ばし、中央だと思われる場所まで行くと、降りる場所が見つからなかったので、カウントダウンをする。


「ファイブ、フォー、スリー……」

「え……なに?」

「ねこさん。なんのカウントダウンですか?」


 わしのカウントダウンに、アイとマリーがキョロキョロするので、リータが指示を出す。


「アイさん、マリーさん。目をつぶって頭に両手を付けて!」

「「え……」」

「にゃ~、ワン……」


 カウントダウンの終わりが近付くと、二人は顔を青くする。


「嫌な予感がするんだけど……」

「アイさん……わたしもです」

「ゼロ……」


 わしのカウントダウンが終わると、皆の座っている椅子と床が消える。わしが土魔法で操作したからだ。すると、もちろん……


「「「「「キャ~~~!!」」」」


 女性陣から悲鳴があがる。そして……


「にゃ~~~~~!!」

「だから、なんでシラタマ殿まで叫ぶニャー!」

「怖いならやめてくださ~~~い!」


 わしの悲鳴と、メイバイ、リータのツッコミもお約束だ。



 わしは悲鳴をあげながらも次元倉庫に飛行機を仕舞い、落下させた皆を風魔法で減速させながら、着地の際にはふわりと着地させる。するとわしは、皆に囲まれてしまった。


「はぁはぁ……なんて事するのよ!」

「うぅぅ。怖かったです~」

「わしもにゃ~」

「「「「じゃあ、やるな!」」」」


 うっ。マリーからも敬語が消えてしまった。じゃが、怖いモノは怖いんじゃ!


「「「「開き直るな!」」」」


 うそ……アイとマリーにまで心を読まれてしまった。ヤバイ! ここは無心じゃ!


 わしが心を無とすると、怒る事を諦めたリータが指示を求める。


「……それでシラタマさん。どっちに行きますか?」

「ちょっと待つにゃ」


 探知魔法オン! おうおう。マリーの言う通り、獣がわんさかおるのう。さすが、黒い木の多い最前線の森じゃ。大物もけっこういるし、どれが外来種かな?

 う~ん。単体で行動しているデカいのがいる。これかな? でも、そこに行くには、四十匹以上の獣の群れを抜けないといけないな。

 迂回するのも面倒じゃし、真っ直ぐ突進するか。


「あっちにゃ。行っくにゃ~!」

「「にゃ~!」」

「「にゃ~?」」


 リータとメイバイの気の抜けた掛け声に、アイとマリーは疑問の掛け声を返す。

 打ち合わせ通り、先頭はわしとリータ。その後ろをマリーが歩き、殿しんがりにアイとメイバイが歩く。

 皆、緊張を持って辺りを気にしながら歩き、わしはリータのペースに合わせて歩く。「にゃんにゃん」と鼻歌まじりで……


「シラタマさん。うるさいです!」


 リータに怒られた。仕方が無いので、黙って歩く。おやつをかじりながら……


「もう! もっと緊張感を持ってくださいよ~」

「リータも食べるにゃ?」

「いりません!」

「メイバイは食べるにゃ~?」

「シラタマ殿~。私も集中したほうがいいと思うニャー」

「むぅ……」


 二人に注意されたわしは、石ころを蹴りながら歩き出す。そんなわしの緊張の無さを、不思議がる人物が二人いた。マリーとアイだ。


 マリーは距離を少し詰めて、リータに質問している。


「リータ。いつもこうなのですか?」

「はい。私達が警戒して歩いているのに、いっつも何か食べたりするんですよ」

「ねこさんらしいと言えば、ねこさんらしいのですけど……。こんな危険な森でよく出来ますね」

「注意したらやめてはくれるんですけど、ねると石を蹴り出すんです」

「フフフ。かわいいですね」

「最初はそう思ったんですけど、毎回だとちょっと……」

「たしかに……集中していないと、危険ですものね」


 うぅぅ。そう言う話は、わしの聞こえないところでやってくれんかのう。


 マリーとリータの小言でわしが肩を落としていると、後方でも、アイとメイバイが何やらわしの話をしている。


「メイバイちゃん。猫ちゃんは、いつもこうなの?」

「そうニャー。注意しても、次の狩りでは忘れているニャー」

「猫ちゃんがリーダーだよね?」

「最近は、リータがやる事が多いかニャー?」

「リータが!?」

「私達が二人で狩りに行く事が多いから、練習させてくれてるニャ」

「メイバイちゃんはリータより歳上でしょ? それでいいの?」

「私は向いてないからいいニャ。たぶん、シラタマ殿は私の性格を把握してるから、リータにリーダーをやらせているニャ」

「ふ~ん。リータと猫ちゃんを信頼してるんだ。でも、あの姿を見ると信用できないけどね~」


 アイはわしの背中を指差して、呆れた顔をする。


「あ~。あれは怒られて拗ねてるニャ。シラタマ殿は、拗ねると石を蹴りながら歩くニャー」

「かわいいね」

「毎回なのはちょっとニャー?」

「たしかにそうね。リーダーがそんな事じゃ、パーティが危険だわ。私もあとで説教してあげる」

「それはやめてあげてニャー。いっつも怒られてるから、かわいそうニャー」

「いつも怒られてるんだ……」

「でも、やるときはやる猫ニャ。あ! そろそろ何か起こりそうニャ-」

「え?」


 メイバイとアイも何か話しているみたいじゃな。聞こえないけど、きっとわしの悪口じゃろう。悲しくて石を蹴るしか出来ない。

 お、群れの縄張りに入ったな。毛がピリピリしておる。さて、どうしようか? 伝えるか伝えないか……このあと大物が控えているし、皆の体力を温存しておくか。


「リータ。ストップにゃ」

「はい」

「ねこさん?」

「猫ちゃん。何かいるの?」


 わしが皆の歩みを止めると、マリーとアイが寄って来る。


「もう少し進んだところに、獣の群れがいるにゃ」

「本当に何か起きた……」

「ニャ? 私の言った通りニャー」

「無駄口叩いてないで集中するにゃ!」


 アイとメイバイが集中していないように見えたので注意したら、皆は一斉にわしを見た。


「シラタマさん……」

「ねこさん……」

「シラタマ殿……」

「猫ちゃん……」


 なに、その生温い目?


「「「「集中してないのは、あなたでしょ!!」」」」


 ええぇぇ~!? わしはずっと集中してたんじゃけど……。鼻歌うたっていても、お菓子をかじっていても、石ころを蹴っていても、探知魔法は常に張り巡らせていた。わし、悪くない!


「「「「悪い!!」」」」


 だから心を読まないで~~~!



「ごめんにゃさい!」


 皆に心を読まれたからには仕方がない。わしは平謝りでこの場を切り抜ける。そうすると、皆はため息を吐きながらも、なんとか許してくれた。


「わかればいいんですよ。それで、群れはどれぐらいの規模なんですか?」

「1メートルぐらいの動物が四十匹以上、ボスが4メートルって、とこかにゃ? おそらく黒にゃ」


 リータの質問にわしが簡潔に答えると、アイがそろりと手を上げた。


「なんでわかるか聞きたいんだけど……」

「猫の勘にゃ。わしがボスを引き受けるから、みんにゃはわしが終わるまで、取り巻きを引き付けて、耐えてくれにゃ」

「わかりました」

「わかったニャー」


 リータとメイバイはいつもの事なのですぐに了承するが、アイとマリーはそうはいかない。


「え? 私達もボス戦に参加するわよ」

「そうですよ。一人でやる事ないですよ」

「いや。この後、もっと手強いのと戦う予定にゃ。今回は体力を温存して、そっちをみんにゃでやろうにゃ」

「なんでわかるの?」

「猫の勘にゃ~。わしが戻るまでのリーダーは……アイ。やってみるかにゃ?」

「はぁ。いいわよ! やってやるわよ!」


 納得のいっていないアイであったが、わしの行動をついに諦めて、キレ気味に了承してくれた。


「よし! それじゃあ、行っくにゃ~!」

「「「「にゃ~~~!!」」」」


 あ……ついにそろった。


 アイとマリーまで、リータとメイバイの気の抜ける掛け声が揃ってしまい、わしの足は止まるのであった。

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