173 メイバイ


「よし! それじゃあ、行っくにゃ~!」

「「「「にゃ~~~!!」」」」


 気の抜けた掛け声の後、シラタマ殿を先頭に私達は歩き出す。私はマリーをにらみながら歩く。


 なんでシラタマ殿は、マリーなんて連れて来たの? 私が嫌っているのを知っているのに……ムカつく。

 シラタマ殿の決定じゃなかったら、こんな奴と絶対一緒に仕事なんかしないのに! でも、どうしてこんなにムカつくの?


 私がマリーを睨みながら歩いていると、シラタマ殿が身を隠すように言う。1メートルぐらいある獣の群れと遭遇したからだ。私達は獣に気付かれないように草むらに隠れ、シラタマ殿とアイさんを主導に打合せをする。


「アイ。アレはにゃにかわかるにゃ?」

「フェレットね。素早いからやりづらいかも」

「にゃるほど。アドバイスは必要かにゃ?」

「う~ん。いちおう聞かせてもらおうかしら」

「来る方向が分かれば対処は簡単にゃ。わしが後方に壁を作るから、アイとリータは盾役に徹するにゃ。そこを素早いメイバイに攻撃させるにゃ」

「あ、それ助かる。さすが猫ちゃんね」

「次の戦いがあるから、マリーには魔力を節約させるにゃ。みんにゃもにゃ」

「わかったわ」


 シラタマ殿は、アイさんとの話を終わらせると、リータと私を見る。


「リータ、メイバイ。アイを信じて従うにゃ」

「はい!」

「……はいニャ」

「メイバイ……」

「猫ちゃん。大丈夫よ。私に任せて」

「アイ……二人を頼むにゃ。行っくにゃ~!」


 シラタマ殿は私に心配するような目を向けたが、アイさんに言われて草むらから出ると、無防備に歩き出す。私達もシラタマ殿に続いて歩き、フェレットの群れが私達を敵と認識した瞬間、シラタマ殿は土魔法を使う。


「【土壁】にゃ~」


 突如、私達を包むように、半円状の高い壁がそびえ立った。


「じゃあ、行って来るにゃ~」


 【土壁】が完成するとシラタマ殿は一人で駆け出し、フェレットの群れの中に飛び込む。


 いつ見ても信じられない。あんなに小さくてかわいいシラタマ殿が、二本の刀を巧みに使い、獣を斬り裂いて進んでいる。しかも、首だけを斬っている。毛皮を傷めないためだろう。


「メイバイさん。聞いてますか?」

「ニャ?」


 私がシラタマ殿の背中を見ていると、リータに注意を受けてしまった。アイさんは私が聞いていなかったと気付いたからか、もう一度説明する。


「猫ちゃんを援護する為に、私達もこれからフェレットを引き付けに前に出ようって話よ」

「あ、うんニャ」

「メイバイちゃん。マリーの事が気に食わないのはわかっているわ。でも、これは仕事よ。仕事に出たら危険が付きまとうわ。嫌いな人とだって協力しないといけない。わかった?」

「はいニャ……」


 怒られた。これじゃあ、シラタマ殿と一緒だ。マリーに笑われてしまう。あれ? 笑ってない……


「行くわよ!」

「「「はい(ニャ)!」」」


 アイさんの号令を合図に私達は壁から飛び出し、群れに向かって駆ける。シラタマ殿に集中しているフェレットに近付くと、アイさんから指示が飛ぶ。


「マリー、リータ。弱い魔法でいいから攻撃して。フェレットをこっち向かせて!」

「「はい!」」

「【エアカッター】」

「【土玉】」


 マリーとリータの魔法が、フェレットに放たれる。魔法は当たったり、当たらなかったりだが、フェレットの注意を引けたみたいだ。


「来るわ。壁までゆっくり後退。魔法は、いざと言う時まで使わないで。メイバイちゃん。頼むわよ」

「わかったニャー」


 思ったより、アイさんの指示は的確だ。これなら任せられるけど、いまのところマリーとリータしか活躍していない。

 いっぱい斬って、マリーより優秀なところをシラタマ殿に見せないといけない。そして、シラタマ殿の隣には私がいると見せつける。よし。これでいこう。


 私は二本のナイフを構え、リータの盾、アイさんの剣で止めているフェレットの首を狙ってナイフを振る。しかしフェレットは素早く、何度もナイフを振るうが、なかなか数が減らない。

 なので、アイさんからまた注意を受けてしまう。


「メイバイちゃん! 猫ちゃんのマネをしないで確実に当てて!」

「でも、毛皮が痛むニャー」

「メイバイさん。私達じゃ、ねこさんみたいに戦えません。アイさんの言う事を聞いてください」

「……わかったニャー」


 むぅ……マリーにも注意されてしまった。ムカつく。でも、正しい意見だ。フェレットの動きが、思ったより速い。

 シラタマ殿の儲けを増やそうと思ったけど仕方がない。作戦変更だ。



 私達はフェレットを徐々に減らしながら下がる。それでも引き付けた数が多かったのか、私達は常に複数のフェレットを相手にする事となる。


「クッ……壁までもう少しよ。頑張って!」

「「「はい(ニャ)!」」」


 アイさんの励ましの声を聞きながら私達はゆっくり下がり、私も多くのフェレットを傷付ける。


 リータの盾で止まった。よし。斬り刻む!


 私は役割を果たすべく、前に出る。そしてフェレットの背や足にナイフを走らせ、すぐに戻ろうとする。だが、木の根につまずき、後方に倒れてしまった。


「ニャー!」


 そこに数匹のフェレットが、飛び掛かって来た。


「メイバイさん!」

「マリー! お願い!」

「はい! 【エアブレード】」


 私に飛び掛かるフェレットは、マリーの風魔法【エアブレード】で、傷を付けられる。


「リータ、前に出て!」

「はい!」


 リータは走り、私の前に立つと盾を構え、同時に私の元に来たアイさんによって、私は引き起こされる。


「大丈夫?」

「大丈夫ニャ。でも、足を引っ張ってごめんニャー」

「反省はあと。一気に引くわよ。リータ、あなたの土魔法で広範囲は攻撃出来る?」

「命中率は悪いけど、出来ます」

「それじゃあ、やって! 私の合図で走るわよ。……いまよ!」

「【土槍・いっぱい】」


 アイさんの合図で、リータが土魔法で作った複数の槍が立ち上がり、フェレットは驚いて後退する。私達はその隙に、土の壁目指して駆ける。

 だが、フェレットはすぐに体勢を立て直し、私達に向かって走り出した。


「みんな行って!」


 アイは殿しんがりつとめ、私達を先に走らせる。そして、【土槍】をって迫るフェレットを、斬り付けながら後退する。


「アイさん! 全員入りました。私が隙を作ります!」


 私達が壁の中に入ると、マリーが叫ぶ。


「オッケー。やって!」

「【エアカッターズ】」


 マリーは風で作られた小さな刃を複数飛ばし、フェレットを牽制する。アイさんは急いで走り、壁に飛び込むとリータが塞ぐように立った。


 私がこけてしまったせいで、マリーやリータに魔法を使わせてしまった。また足を引っ張ってしまった……


「ごめんニャー」

「なに言ってるのよ。あれぐらいよくある事よ。私達はパーティ。助け合うのは当然じゃない」


 私は頭を下げて謝るが、アイさんは何もなかったように振る舞う。


「でも、シラタマ殿に魔力を節約しろって……」

「リーダーは皆の命を預かっているの。メイバイちゃんが怪我するぐらいなら、惜しまないわよ」

「でも……」

「私の決定よ。もし否があるなら、私が悪かったのよ。それより今は、耐える事よ。メイバイちゃんには頑張ってもらうからね!」

「……はいニャ」

「返事が小さい!」

「はいニャー!」

「よし!」


 アイさんはそう言うと笑顔を見せる。そして、リータの隣に立ち、入口を塞ぐ。私も気を取り直して役割を果たそうと、ナイフを構える。


 みんなどうして怒らないんだろう? マリーだったら私のミスをとがめるはずなのに……マリーだったら? そうだ! ムカつく理由はアイツだ! マリーじゃない。

 マリーがアイツに似ているから、敵対心を抱いていたんだ。シラタマ殿を愛でているからじゃない。いや、ちょっと関係があるかも……じゃなく! これが終わったら、マリーに謝ろう。

 いまは仕事に集中だ!



 私は役割を果たす為に、ナイフを振り続ける。邪念が消えたせいか、さっきより効率よくフェレットの急所を捉え、動けなくなるフェレットは増え続ける。


「いい動きね。これなら、勧誘しちゃおっかな?」

「勧誘? アイさんにそう言ってもらえると嬉しいニャ。でも……」

「あ~。言わなくてもわかった」

「ニャ?」


 私の返事を遮ったアイさんが答えがわかったと言うと、代わりにマリーが答えを述べる。


「あ~。メイバイさんも、ねこさんに一生添い遂げるって言うのですね」

「なんでわかったニャ?」

「「リータも言ってた」」

「プッ。アハハハ。そうだったニャー」


 私達が笑っていると、壁を塞いでいるリータが頬を膨らませて振り向く。


「もう! みんな無駄口叩いてないで、集中してください」

「「「は~い(ニャ)」」」


 私の動きが良くなったせいかフェレットの攻撃が減って、話す事が出来るぐらいの余裕が生まれた。

 それでも、気を抜いてはいけない。シラタマ殿がよく言っている言葉だ。自分を棚に上げて……



「ふぅ。けっこう倒したわね。猫ちゃんは、まだブラックと戦っているのかしら?」

「すぐに終わって助けに来てくれると思っていましたけど、ねこさんでも苦戦するのですね」

「え? いえ、その……」


 アイさんとマリーがシラタマ殿の話をすると、リータは口ごもり、私の目を見て来た。すると、その態度が気になったアイさんは質問する。


「どうしたの?」

「あそこで見てるニャー!」

「「あ……」」


 シラタマ殿は私達と別行動する時は、自分のやる事を終わらせると、助太刀に入る事が少ない。

 私達が苦戦していなければ、手出しをしないで見守ってくれている。土魔法で作った椅子に座って……


 だが、そんな行動に慣れていないアイさんとマリーは、私達に矢継ぎ早に質問して来る。


「椅子に座って、くつろいでいるわよ?」

「いつもの事です」

「テーブルもあるし、何か飲んでますね」

「いつもの事ニャー」

「いつもなの? あれでいいの?」

「いちおう、私達がてこずっている時は助けに来てくれます」

「それに、私達より多く倒しているから、強く言えないニャー」

「あ、本当です。もう数匹しかいません」

「たしかにそうね。でも……」


 アイさんが何を言おうとしているのかは全員わかり、言葉が重なる。


「「「「納得は出来ない」」」」

「「「「アハハハ」」」」

「もう来てもらいましょうか?」

「そんなこと出来るの? なら、次の戦いも控えているし、呼んでくれる?」


 リータが決められた合図をシラタマ殿に送ると、シラタマ殿は、残りのフェレットを斬り裂きながら現れる。


「どうしたにゃ?」

「「「「くつろぎ過ぎ!!」」」」


 私達に怒られたシラタマ殿はしょぼんとして、尻尾を揺らす。


 なになに? 尻尾で描かれた単語を読み解くと、「余裕」「見てた」か。私達が余裕そうだから見ていたって事かな? でも……


「ごめんにゃ~~~!」


 私達が怒る前に謝られた。シラタマ殿も、心が読めるようになったのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る