493 エルフの里の代表決定にゃ~


 エルフ総選挙の投票の結果、シウインとユーチェンが代表として決定したのだが、納得いかない三人はヂーアイに詰め寄る。


「「ふざけるな!!」」

「ユーチェンって、誰にゃ~!!」


 バカと大バカと猫だ。バカ二人はヂーアイに殴り飛ばされて撃沈し、わしはヂーアイに諭される。


「急になんだって言うんだい」

「だから、ユーチェンって誰にゃ? そんにゃ名前、初めて聞いたにゃ~」

「シウインの連れ合いだよ」


 どうやらエルフ達は、バカには里を任せられないと感じ、シウインに入れた人が多かったようだ。

 ただ、シウインもやる気が感じられなかったので、「妻を使えばシウインが裏で助けてくれるのでは?」と考えて投票した事が、この結果となったらしい。


「まさか……票数を操作したりしてないだろうにゃ?」

「厳正な結果さね。投票用紙は残してあるから、疑うなら確認してくれさね」

「ちょっとそれを見せるにゃ!」


 それでも信じられないわしは、投票の集計が書かれた木簡もっかんを奪い取って、目を皿にして確認する。でも、名前が読めなかったので、ヂーアイに読み上げてもらってルビを振ってから確認する事となった。


 うお! バカ二人は大差で負けておる。いちおう三位はグエンじゃけど、一桁って……その他はゼロじゃから、まだマシか。わしが応援したのにこの結果って、バカはどんだけ人望ないんじゃ!

 チッ……うっさいのう。


 わしが集計を見ている後ろでは、バカと大バカがやんややんやと騒いでいる。どうやら二人は、わしを使って選挙のやり直しをさせようとしているようだ。


「うっさいにゃ! 黙って座ってろにゃ!!」

「「はい……」」


 バカ二人を一喝したわしは、ヂーアイにユーチェンを連れて来させ、シウインと共に並ばせる。


「さてと……みんにゃが決めた代表にゃから、わしが四の五の言うつもりはないにゃ。でも、二人は言いたい事があるだろうにゃ。抱負でも意気込みでも、好きにゃように喋ってくれにゃ~」


 わしが二人に話を振ると、まずはシウインが住人に語り掛ける。


「一度は身を引いた僕を、それでも信じてくれた皆さんに応えられるように、里を良くしていきたいと思います。どうか僕を信じてついて来てください! お願いします!!」


 結果に観念したシウインが深々と頭を下げると、エルフ達から温かい拍手が起こる。


「え、え、えっと……なんだかよくわかっていないんですけど……シー君が頑張るなら、私は支えるだけです。それでも至らない事があるかもしれないので、どうかシー君を温かく見守っていてください!」


 ユーチェンは本当に何が起こっているかわかっていなかったが、シウインを信じてついて行くようだ。するとまた温かい拍手が起こり、拍手が落ち着くのを待って、わしは締めの言葉を送る。


「みにゃさんが信じたシウインとユーチェンは、わしが責任を持って、代表の教育をするにゃ。だからこの里は必ず発展し、いまよりいい暮らしが出来るはずにゃ。にゃんせ、みにゃさんがこの里を想って、悩み、考え、決めた代表にゃ。その結果が間違いなわけがないにゃ~」


 わしはエルフ達を見回してから、声を大きくする。


「里の益々の発展を期待し、第一回エルフ総選挙の閉幕にゃ~~~!!」

「「「「「にゃ~~~!!」」」」」


 一件落着。エルフ達は、里の未来に思いを馳せて力強く叫び、エルフ総選挙は終わりを告げるのであった。

 一部のバカは……しらんがな。あとで、参加特典であげた酒をあおりながら、くだを巻くと思われる。



 選挙が終わると、シウインとユーチェンは、わしの別荘にご案内。ヂーアイを交えて今後の話を詰める。

 二人には猫の街の留学生となってもらい、言葉と文字の勉強をしてもらわなくてはならない。里を離れる事には、若干不安そうな顔をしていた二人だったが、ヂーアイが新婚旅行のつもりで行って来いと説得していた。

 その一ヶ月後には、双子王女の下につけて代表の勉強となるのだが、リータとメイバイに睨まれた。わしが責任を持つと言ったのに、人に押し付けていると思われたようだ。


 だって、わしってあんまり仕事してないんじゃもん。教えられないんじゃもん。


 わしの言い訳に、二人は残念そうな人を見る目で見て来たが気にしない。ヂーアイ達はめちゃくちゃ不安そうな顔になったが気にしない。その後の話に移って話を逸らす。


 とりあえず、税金の話。半年後にはお金を使って行くとして、税金の徴取は、お金を使い始めた一年後と決める。

 エルフ達をあまり多く出し過ぎると猫の街の食費がバカ高くなってしまうので、お金の教育は、猫の街の商人か奴隷商人を使ってする事となった。

 しかし留学生がリンリーを含めて三人しか居ないのも、他の街の暮らしの説明が少なくなるかもしれないので、あと二人を募集する事にする。


 これで決め事は終わったので、次は仕事の話。白い木は余っていないかと聞いたら一本だけあったので、それを購入して加工してもらう。

 加工の仕方は、エルフ達が無理矢理箱の形にしないようにと言って、わしの設計図通りの板を作らせる。細かい溝や凹凸が数多くあるが、さすがは木工の達人。手作業なのに、機械のように正確に作ってくれた。

 完成した板は、手が空いているエルフと猫ファミリー総出で文字を書き込む。皆には、特殊なインクを使って見本の文章を間違うこと無く魔力を込めて書いてもらい、時々わしが確認して作業を続ける。


 単純作業に飽きたコリスがぐずると、餌付けして撫で回し、絵本を読んでお昼寝……わしはダメなんですか。そうですか。


 おやつ休憩を挟み、文字の書き込みが終了したら、箱の組み立て。設計図通りに加工されているので、板の端を違う板に嵌め込み、トントン叩いてしっかり嵌める。

 真っ黒で大きな箱が二つ完成して、猫の街の工房でわしが作ったサスペンション内蔵台車に固定すれば、新型収納箱……キャットコンテナの完成だ。


 ……この名前、やめません? 猫っぽい要素がひとつも無いし……販売する際、この名前のほうが売れるのですか。よくわかっていますね。



「それで……これはなんさね?」


 完成品を見ても、ヂーアイはピンと来ないらしいので、性能を教えてあげる。


「ここに、大きにゃ木がありにゃして~」


 わしは次元倉庫に残っていた木を取り出すと、適当に切ってポイポイ入れる。それだけではまだわかってなさそうなので、もう五本取り出してポイポイ入れる。


「ど……どうなってるんさね?」


 ようやく、箱の大きさと入った量の違いに気付いて驚くヂーアイ。


「わしも似たようにゃ事をしたにゃろ? 大きにゃ獣を出したり入れたりにゃ。わしの場合は魔法だけで出来るけど、似たようにゃ事を、この魔道具で出来ると言うわけにゃ」

「なるほど……凄いは凄いんだけど、こんなにいっぱい入る物なんて作っても、里では必要ないさね」

「これから必要になるにゃ~。三ツ鳥居を通る時に、わし達が苦労してたのを見てたにゃろ? みんにゃバタバタしてたにゃ~」

「たしかにそうだが……」


 残念ながら、ヂーアイは頭が固い。年寄りで里の中での生活が長過ぎて、まだ気付かないようだ。だが、一人のエルフが気付いてくれた。


「三ツ鳥居って、この前、長から人が通る物だと聞きましたけど、シラタマ王が言いたい事は、つまり、物資の移動も大変だと言いたいのではないでしょうか?」

「それにゃ! さっすがわしが見込んだ男にゃ~!!」

「キャ~! シー君かしこ~い!!」


 ヂーアイの代わりにシウインが答えてくれたが、ユーチェンがきゃぴきゃぴうるさい。ついでにシウインも「グエンを見込んでなかった?」って、うるさい。小声で言っても念話で喋っているから聞こえておるぞ?


「ゴホンッ! シウインが言う通り、大量の物資を運ぶにゃら、荷物を背負った大人数が必要だったんにゃけど、このコンテナを使えば解決にゃ~」

「「「おお~」」」

「さらに、エルフの里の目玉商品として売る予定にゃ。これひとつで、エルフの里に必要にゃ物資がいっぱい手に入るといった寸法にゃ~」

「「「「「おおおお~!!」」」」」


 キャットコンテナ作りに参加した者全員は、里の発展に思いを馳せて大きな声を出す。それだけでなく、わしを拝む拝む。

 リータとメイバイも褒めてくれてはいるけど、一言多い。


「いつもこれぐらいしてくれたら王様らしいのに……」


 とか言わないで欲しい。こんなの王様の仕事じゃなくて、職人の仕事じゃからな!

 あ……そんな残念そうな人を見る目で見ないで……だったら、王様らしい仕事をしろですか。でも、王様らしい仕事がないのですよ……


 わしが言い訳したら言い訳するほど、リータとメイバイの目が死んで行く。なのでスリスリ。足に擦り寄るが足りないようなので、抱きついて頬擦り。

 なんとか二人の目は生き返ったが、撫で回されてゴロゴロ。そのせいで、ヂーアイ達がまた不安な顔になるのであった。



 ひとまずエルフの里でのやる事は終わったので、数日後に迎えに来ると言って祠に向かう。そこで三ツ鳥居を潜り、ソウの地下空洞に出る。

 リータ達には三ツ鳥居が閉じる時間を計っていてと告げたが、心配なので奴隷に時計を持たせて計らせておいた。


 その間わしは、ホウジツと商談。キャットコンテナの性能を見せたら、かなりの高価格になってしまった。ホウジツも、日ノ本の商品をもっと大量に仕入れたかったようだ。

 ただ、キャットコンテナは商品なので、言い値で決められるとちと困る。材料費、人件費を踏まえた価格設定をしなくてはいけないので、二人で「にゃ~にゃ~」相談。

 その結果、白い木だけは、わしがハンターの仕事として受け持つ事となってしまった。白い木なんて、この近辺に生えてないから……

 まぁこれで価格設定はなんとかなったので、売り出す時にはかなりの収益になりそうだ。


 とりあえず今回は、エルフ達の人件費とわしが出した材料費と手間賃を貰って、キャットコンテナをホウジツに売る。もうひとつはキツネ店主に売るので、ついでに日ノ本に送る商品を、前回より五倍多く詰めてもらった。

 これは、早く商品を欲しがっていたキツネ店主にわし直々に持って行くので、キャットコンテナの料金と共に受け取る予定だ。たぶん一括では払えないだろうから、受け取りは商品の販売後となるだろう。


 この二つのキャットコンテナのおかげで、毎週猫の街と日ノ本の商品が行き来し、どちらも円滑にやり取りされる事となったのであった。



 商談と相談が終わると、地下空洞に皆を迎えに行く。

 予想通り、リータとメイバイはコリスにお願いして訓練していたようなので、奴隷に三ツ鳥居はどうなったかと聞くと、まだ一時間ほどしか経っていないから閉じる気配もない。なので、後日報告書を提出するように言っておいた。


 それからわしは、晩ごはんには頃合いだったので、食べてから皆を連れて猫の街に帰ろうとする。

 しかしながら、リータとメイバイがテコでも動かない。どうやら訓練熱に、火がついたようだ。


 なのでわしは、再びソウからの通い夫となって、エルフの里へ行ったり、猫の街で仕事をしたり、日ノ本へ出張したり、東の国で撫で回されたり、キャットコンテナの素材を集めに白ヘビの縄張りに行ったりと、一人寂しく仕事をするのであった。


 まぁサボっていてもバレないから、羽を伸ばしたりなんかもしたのであったとさ。

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