492 エルフ総選挙にゃ~


 三ツ鳥居の制限時間は帰ってから正確に計る事となり、わしはエルフの里討論会に出席する。いちおうリータ達も誘ったのだが、訓練で忙しいとのこと……

 なので、一人で討論会が行われる近くの屋根でカメラを設置してあぐらを組み、五人の代表候補者が居る壇上を眺め、やりとりをこっそり盗み聞く。エルフの里上げての討論会をするように命令しておいたので、もちろん全員参加だ。

 討論会が始まれば、熱い論争が……起こりはせず、喋って居る者が二人しか居ない。


 猫の国を乗っ取ろうと考えていたバカと、賄賂で懐柔しようとして一日で失敗した大バカだ。


 う~ん……大バカのほう、ヂーアイに指名されたとか適当な事を言っておるな。選挙戦に復活できて嬉しいのか? やりたいなら、地道に選挙活動しておけよ。このお調子者!

 あと喋っているのは、バカか~……代表は二人決まるのを知っているから、大バカとタッグを組む流れになってしまったな。やり手のように見えるけど、バカじゃからな~。

 ヂーアイに念話を繋いで、他の代表候補にも喋らせてみようか。


 わしの指示でヂーアイが司会をして、他の無理矢理立候補者にした人物に抱負を言わせるが、やりたくないのオンパレード。

 なので、新しい指示。バカ供の政策はどう思っているのかを喋らせてもらった。


 えっと……人望のあったイケメンは、シウインというのか。どっかで聞いた事のある名前じゃな。たしか、前回来た時に、候補者の資料を書き写したような……これこれ。あ、わしが推してた人じゃ。さすがはわし。見る目があるのう。

 てか、シウインはやりたくないとか言っていたわりには、バカ供をめちゃくちゃ非難するな。すんごい正論で黙らせた。

 バカ供も、もう少し頑張れよ~。これでは討論にならんじゃろ。チッ……他を頼ったほうが早いか。


 またヂーアイを使って残りの候補者に喋らせるが、シウインのイエスマンになってしまったので、面白い討論にならない。ならば、もう一度バカ供を使ってみるが、畏縮してしまって話にもならない。


 あ~……くそ! ここまでじゃな。


 これでは討論にも選挙にもならないと感じたわしは、屋根から飛び降りて会場を横断する。すると、エルフの一部からざわざわと声があがり、その声に気付いたエルフ達の声が大きくなる。

 そうして候補者が居る壇上に立ったわしは、念話と通訳を使って静かにするように言ってから話し始める。


「え~。みにゃさん久し振りにゃ~。実は、朝の演説から討論会まで見させてもらったにゃ~。それで、グエン君とか言ったかにゃ? ヂーアイ! 取り押さえろにゃ~~~!!」


 わしがバカのグエンに話を振ると、顔を真っ青にして逃げ出したので、ヂーアイに回り込ませる。そして、ヂーアイは車イスに乗ったまま掌底。グエンをわしの足元まで吹っ飛ばした。

 なのでわしは、痛そうにしているグエンに追い討ち。重力魔法を使いつつ、腹を踏んで動けなくする。


「にゃんで逃げるんにゃ~」

「あの……その……」


 おそらくわしを倒すとほざいていたので、怖くなって逃げ出したとわかっているが、いちおう聞いてみてもモゴモゴ言うだけで答えてくれない。


「わしはグエン君を買ってるんにゃよ? シウイン君にゃんて、やりたくないクセに口だけ出して、君をおとしめていたにゃ。それがどうにゃ? 君はこの里を想って立ち上がったにゃ。違うにゃ?」

「は、はい!」

「やっぱりにゃ~。わしの見込んだ男は、シウイン君とは違うにゃ~」


 わしがグエンをよいしょしまくると、シウインはあからさまに機嫌の悪そうな顔をして立ち上がった。


「僕の言っていた事の何が間違いなんですか! こんな奴に任せていたら、里が滅んでしまいます!!」


 シウインがわしに噛み付くと、ヂーアイが止めに入ろうとしたが、それを制止してわしはニヤリと笑う。


「じゃあ聞くけど、この里を一番発展させる方法は、どうしたらいいにゃ?」

「それは……シラタマ王に恭順の意を示して、外からの物資を貰えるように働く事です」

「違うにゃ」

「え……どこが違うのですか?」

「一番って言ったにゃろ? 一番だったら、わしを倒して猫の国を乗っ取る事にゃ。さすれば、好きにゃだけ物資を取れるし、この里の為に出来る事がなんでも出来るにゃ~」

「そ、そんな夢物語……勝てるわけがない……」

「そんにゃすぐに諦めるから出来ないんにゃ。グエン君にゃら、わしを倒すすべを考えているにゃろ? 負けても、勝つ為の努力をするにゃろ?」

「え……いえ……む……ギャッ!? します!!」


 モゴモゴ無理と言おうとしたグエンは、わしに強く踏み付けられて肯定しか出来ない。


「ほらにゃ~? まぁわしを倒すってのは方便で、それぐらいの覇気があるとグエン君は言いたかったはずにゃ。にゃ?」

「は、はひ!!」

「さすがはわしの見込んだ男にゃ~。これぐらい覇気がにゃいと、わしの国には手練れが多く居るから、エルフの里に物資が出回らなくなるにゃ~」

「………」


 わしの言葉に、シウインは黙り込んでしまったので、最後に挑発めいた言葉で締める。


「人望にゃ? 好青年にゃ? 天才にゃ? そんにゃもん、グエン君の野心に比べれば、ゴミみたいなもんにゃ。それらを持ち合わせているシウイン君でも、野心がないのにゃらば、絶対にグエン君に任せたほうが里の為になるにゃ~。さあ、その事を踏まえて、最後に演説してくれにゃ~!」


 わしが足を上げると、グエンはゴキブリのように地を這い、元の席に戻る。ぐうの音も出なかったシウインはというと、拳を強く握り締めて元の席に戻った。

 わしはどうしたものかと思ってヂーアイを見たら、椅子を用意してくれていたのでその席に座り、成り行きを見守る。



 さてと~……こんだけバカのグエンをよいしょして、シウインを落としたんじゃ。シウインも震い立つじゃろう。


 わしがやっていた事は、何もグエンを代表にする応援ではない。人望があって優秀だが、やる気の無いシウインに立ち上がってもらうことだ。

 こんなバカを、王様のわしが推したのだから、エルフ達の票の行方はグエンに集まるはず……そう思ったシウインが、こんなバカに代表を任せられないと、演説に力が入るように仕向けた。

 もちろんわしだってシウインに代表になって欲しいから、祈るように演説を聞いている。


 おい~? バカが売りのお前がまともな事を言ってどうするんじゃ。その恭順するって言葉、さっきシウインが言ってたじゃろう。今ごろ丸パクりするなら、もっと最初の頃からやっておけよ。

 大バカも同じ事を言うな! これではお前達に票が入ってしまうじゃろう!! くっそ~……バカは扱いが難しい。

 シウイン……お前だけが頼りじゃぞ? 頑張れ。頑張ってくれ! じゃないと、わしが楽できないんじゃ~~~!!


 最後に立ち上がったシウインが壇上の中央に向かうと、エルフ達は何を言うか固唾を呑んで見守る。そうして軽く咳払いしたシウインは、真っ直ぐな視線を向けて語り始める。


「皆が僕を推薦してくれた事は、本当に感謝いたします。しかし、シラタマ王が言う通り、やはり僕では、この里の代表として相応しくない」


 は? いやいやいやいや。待ってくれ!!


「だから僕は、グエンに一票を入れようと思う。皆もグエンを信じ、ついて行ってくれ!!」


 わしの策略は大失敗。シウインはグエンを支持し、壇上を下りてしまった。なのでわしは……


「にゃ~~~!!」


 ご乱心。大声をあげて頭を掻きむしるのであったとさ。



 そんな中、討論会は閉幕してしまい、ヂーアイが解散を言い渡して、わしも神輿のような乗り物に乗せられてヂーアイの屋敷に運ばれる。


「本当にグエンでいいんさね?」


 するといまだにご乱心中のわしに、ヂーアイが心配そうに声を掛けて来た。


「いいわけないにゃろ!」

「え……猫王が推してたんじゃないんさね?」

「シウインがよかったにゃ~。シウインがよかったから発破を掛けてたんにゃ~」

「どどど、どうするんさね! 明日には投票が始まるさね!!」

「もういいにゃ~。ヂーアイも、エルフの里は諦めてくれにゃ~」

「そんな無責任な事を言うな!!」


 やる気のなくなったわしは、焦るヂーアイの言葉を聞き流し、「なるようになるさ。けせらせら~」と言いながら祠に帰るのであったとさ。



「わ! 毛並みがぐちゃぐちゃです!」

「何かと戦って来たニャー? 私も誘って欲しかったニャー」


 リータとメイバイに迎えられたわしは、櫛で毛並みを整えてもらいつつ、討論会の失敗談を話す。


「それ……大丈夫なんですか?」

「もうシラタマ殿が、シウインって人を任命したほうが早いんじゃないかニャー?」

「選挙するって言ってしまったからにゃ~……ま、最悪、グエンを奴隷紋で縛って傀儡かいらいにしてやるにゃ。さてと、今日はどこで寝よっかにゃ~?」


 選挙の事を考えたくないわしは、頭を切り替えて三ツ鳥居に向かう。しかしながら、呪文を唱えても開かなかったので、まだ開くほどの魔力が貯まっていなかったようだ。

 なので、今日はエルフの里の別荘に泊まる事となり、リータ達とわいわい過ごすのであった。



 翌朝は、リータ達もさすがに選挙の行方が気になったのか、わしについて来てくれた。

 皆で選挙会場に向かっていると、肩で風を切るバカ二人を発見。しばらく後ろから見ていたら、もう代表に決まったと言わんばかりに、道行くエルフを怒鳴っていた。


「ちょっと酷すぎません?」

「土下座させようとしてるニャー」

「バカだからにゃ~。ま、好きにさせてあげるにゃ~」

「「いいわけないでしょ!」」


 バカ二人のチンピラっぽい傍若無人の態度は、リータ達には看過できないようで止めるように言われたが、わしは断固として動かない。しかし、後ろで騒いでいたせいで、グエン達に気付かれてしまった。


「「これはこれはお猫様。今日も毛並みが……」」


 そしてゴマを擦ってわしに近付く。なかなかの小悪党っぷりに、リータ達も呆れて怒る事はやめたようだ。

 その二人のおべっかを聞きながら歩き、道を塞ぐエルフがいれば、二人が怒鳴り散らして道を開ける。まるでわしがやらしているように見えるが好きにさせて、ヂーアイが用意してくれていたであろう猫ファミリーの席に着く。


「お前達はあっちにゃろ~? シッシッ」


 何故かわしの目の前でひざまずくバカ二人は面倒臭そうに追い払い、代表候補者や住人が全員揃うと、ヂーアイが壇上の中央に立った。


「では、投票方法を説明するさね」


 エルフの里の住人は、全員百歳オーバーという事もあり、字を書けない者は居ないので記述式。しかし、木の板に墨で書くと嵩張かさばるので、紙とえんぴつはわしが用意してあげた。

 専用の記入場所で、候補者一人の名前を紙に書かせ、木箱に入れれば投票完了。その見張りにエルフの重鎮を立たせてあるが、そもそも紙は一人一枚しか配っていないので、不正をすること事態が不可能だから、必要なかったかもしれない。


 その間、暇なわしは写真撮影。これは将来猫の国で行う選挙の資料にする予定だ。だが、メイバイにカメラを奪い取られたので、カメラマンは任せた。



 そうこうしていたら、そこまで人口の多い里でもないので投票が終わっていた。

 なので、一時解散。昼過ぎに発表すると言って、ヂーアイたち重鎮は集計を開始する。


 わしは……ダラダラ。決まりきった結果を前もってわかってしまうと、さらにやる気が無くなるので、集計には参加したくない。

 だから、全裸でリータ達に撫でられている。こうしておけば、おとがめはなし。多少恥ずかしいけど、怒られるよりましだ。


 別荘でダラダラし、お昼も食べてダラダラしていたら、ヂーアイの使いがやって来たので、わし達は再び選挙会場に集合する。

 壇上では、代表候補が座っているのだが、二人のバカは自信に満ちあふれた顔をして、大きく足を開いて座っている。その他はやる気がなさそうな顔。自分には関係のない事だと思っているようだ。

 有権者のエルフ達は壇上を囲み、不安そうな顔で、ざわざわして待っている。初めての経験だから、皆、心配のようだ。


 そんな中、壇上中央に現れたヂーアイは、静かに語り始めた。


「さて……国を持たぬ我々が初めて国に属する事となったわけだが、もう一度、皆に聞いておくさね。猫の国に属する事は、皆の総意さね?」

「「「「「はい!」」」」」


 ヂーアイの確認に、エルフ達は力強く答える。わしは「いまさら何を言っているんだ?」と思ったが、司会はヂーアイに任せているので、口を挟む事はしない。


「では、誰に決まっても、恨みっこなしさね。やりたくないと言っていた者でも、この決定は絶対さね。猫の国に入りたいと望む皆が選んだんだ。その気持ちに応えて、里をより良い方向に導いておくれ」


 ヂーアイは代表候補者に体を向けて、深くお辞儀する。その姿を見て、シウイン達は畏まってお辞儀を返すが、バカ二人はふんぞり返ったまま。もう代表のつもりでいるので、ヂーアイに敬意も払えないようだ。


「では、発表するさね」


 ヂーアイは住人に向き直ると、木簡もっかんに書かれた集計結果の、一位と二位の名前を高らかに読み上げる。


「一位……シウイン! 二位……ユーチェン! エルフの里、代表の決定さね!!」

「「「「「わああああ!!」」」」」


 ガタガタガタッ


 まさかの発表に、エルフ達は割れんばかりの拍手を送り、三人ほど椅子から転がり落ちた。

 その三人とは、バカと大バカと、バカではない猫だ。


 シウインはわかるとして、ユーチェンって、だれ~~~!!



 もちろんエルフ達は納得しているのだが、わしは納得できないのであったとさ。

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