491 選挙活動にゃ~


 お詫び行脚の旅が終わって、一日の休暇。さすがに長旅だったので、双子王女からの小言は無かっ……


「そう言えば、一週間ほどしか掛かっていませんわよね?」

「お父様なんて、何ヵ月も城を空けていましたのに……」


 いや、小言を言われそうになったので、ダッシュで居住スペースに逃げ込んだ。


「シラタマさ~ん」

「昨日は東の国しか行ってないんだから、仕事しようニャー」

「ほとんど休みみたいなもんでしたよね?」


 しかし、そこにはリータとメイバイが追って来たので、ダッシュで魔道具研究所に逃げ込んだ。


「またゴロゴロして……そんな丸い猫、シラタマ君しかいないんだから、やるならバレないようにしなさい」


 せっかく小言から逃げ切り、野良猫になってゴロゴロしていたのに、ノエミに一発でバレて、小言を言われてしまった。


「リータ達にチクるわよ?」

「にゃ! そうにゃ!!」


 それでも猫を被ってゴロゴロしていたら、脅して来たので人型に戻る。


「魔道具研究って、どうなったにゃ?」

「前に言ったじゃない? まさか……聞いてなかったの??」

「言い方が悪かったにゃ。みんにゃ一人でも作れるようになったにゃ?」

「あ~……そゆことか。そうね。やろうと思えば出来るんじゃない?」

「変にゃ言い方だにゃ。にゃんか一人だと不都合があるにゃ?」

「いちおうね~……」


 ノエミの説明では、一人で一個の新型魔道具を作る事は大変らしい。

 例えば、手の平サイズの光の魔道具を作るとして、文字入力は一人でしか出来ないし、魔力が尽きたら交替するか次の日に行わないといけないようだ。

 大きな三ツ鳥居ならば、同時平行で文字を書き込めるから複数人で作業できるが、こちらも魔力が尽きると交替が必要になるので、どうしても効率が悪くなるらしい。


「たしかに手間が掛かるにゃ~」

「シラタマ君は、販売まで考えているんでしょ? 人件費が上がって、かなり高い魔道具になりそうね」

「本当にゃ~。人材も不足気味にゃのに、厳しいにゃ~」


 魔力量の豊富なエルフ達を使えば、人件費の節約になりそうじゃが、エルフばかりを頼るのもな~。それに文字が違うから、今までの研究が無駄になっておる。

 漢字で教えるか? ……それもな~。出来れば各街で生産して欲しいしな~。全てを新型魔道具に交換する事が出来れば、三倍ものリターンが帰って来るじゃけどな~。先の未来に期待するしかないか。


「まぁ普及してしまえば、どの国も新型魔道具に切り替えるにゃろ。大国にゃんか、魔法使いが山ほどいるんにゃから、価格が下がるのを待とうにゃ」

「たしかに東の国でやれば、一気に数が増えそう……」

「にゃらば、講習会も開かないとだにゃ~……また各国と連絡取り合わないといけないんにゃ~。面倒にゃ~」

「あはは。御愁傷様。私はもう少し魔道具研究をしてから帰ろっと」

「そんにゃ~。手伝ってくれにゃ~。にゃあにゃあ~?」

「私は忙しいの! にゃあにゃあ擦り寄るな~~~!!」


 このあとわしは、女王に連絡を取って、ノエミを巻き込んでやるのであった。


 だって、そんな面倒なこと、わし一人でやりたくないんじゃもん。どうにか利益だけは猫の国に入れて、仕事はノエミに押し付けられないじゃろうか……


 わしは不穏な事を考えていたが、明日の事もあるので、ノエミにお願い。新型収納魔道具の作り方を教えてもらう。

 基本的にテンプレートに魔法名を書き足せば出来るようで、大きさに比例して文章の量が増えるとのこと。その文章を、小さい物で何十、大きい物で何百も書けば効力が上がるらしい。

 とりあえず、新型収納魔道具の文章だけ書き写して、魔道具研究所をあとにした。


 そろそろお昼だったので役場に戻ったら、コリスとオニヒメを撫で回し、食堂でモリモリ食べる。そこでリータ達に今まで何をしていたかと聞かれたので、正直に答えたらおとがめなし。明日の準備をしていたんだから、当然の結果だ。

 ただ、その事で忘れていた作業があったので、工房にこもったら、また王様の仕事ではないと言われたけど……



 そうして翌日……猫ファミリーは、ソウの地下空洞に設置してある三ツ鳥居を潜り、エルフの里のほこらに移動した。


「う~ん……かれこれ十分経ちますけど、まだ閉じませんね」

「これって、ずっと開きっぱなしニャー?」


 今日と明日の仕事は、エルフの里での大事な仕事。まずは魔力濃度の高い場所どうしを繋いだ三ツ鳥居がどうなるか、腕時計片手に調べていたら、リータとメイバイがわしを見る。


「どうだろにゃ~? それを調べる為に見ておきたいんにゃけど、忙しいからにゃ~」

「じゃあ、私がコリスちゃん達と残るニャー」

「いいにゃ?」

「難しい話だと私もついて行けないから、訓練して待ってるニャー!」

「じゃあ、私も訓練しよっかな~?」

「せめてどっちかついて来てくれにゃ~」


 どうやら二人は、久し振りに魔力濃度の高い空間で、激しい訓練がしたいとのこと。今度の目標は、パーティ戦闘で家康を倒すことらしい。これだから脳き……訓練熱心な方は、素晴らしい!!

 どうしてもついて来てくれない二人に心の中で愚痴り、睨まれたので言い直したわしは、一人寂しく祠を出るのであった。



 それからエルフの里に着いたわしは、住人に会うと拝まれてうっとうしいし、わしの木像が目に入ったらキレてしまいそうなので、隠密行動を取る。

 誰にも見付からないように屋根を飛び交い、おさであるヂーアイの屋敷に向かっていたら人だかりが出来ていたので、近くの屋根に飛び乗って、注目を集めているガラの悪そうな男に念話を繋いでみる。


「俺がこの里の代表になったら……」


 お~。バカが演説しておる。やっぱりこの手のバカは、一人ぐらいは居るもんじゃな。でも、マジもんのバカじゃ。理想しか語っておらん。

 その理想もバカじゃな。一夫多妻制に、肉食を増やす。それも自分だけって、それで投票してくれる人が居るわけがなかろう。

 ん? いちおう投票してくれた者への利益もあるのか。投票してくれた者には、同じ権利をって……全員投票したらどうするつもりなんじゃ。

 あとは~……おお~。バカじゃな。わしの国を乗っ取ろうとしておる。前に来た時に、全員で挑んで負けたのを忘れておるのか? 頑張ればいけるのか。頑張って勝てればいいけどな。


 さて……他にも演説してないかな?


 わしは探知魔法を使って人だかりを探すと、ぴょんぴょん屋根を飛び交い、見付からないように覗き見る。


 こっちは……演説じゃないのか。賢そうな好青年が代表になるように説得されているみたいじゃな。じゃが、必死に断っておる。

 これだけ人望があるのなら、是非とも代表になって欲しいけど、やる気のない奴を代表にするわけにもな~……はて? 誰かがやる気のない奴が王様をしているとか言ってる気がする……100パーセント、わしの事じゃな。


 しかし、人だかりはこんなもんか……せっかく時間を空けたのに、候補が二人しか居ないのでは、選挙にならないかも? もっとバカがいっぱい居たら、楽だったんじゃけどな~。

 致し方ない。ヂーアイに会いに行くとするか。



 わしはまたびょんぴょんと屋根を飛び交い、ヂーアイの屋敷に着くと、引き戸を勝手に開けて中に入る。


「こんにゃちは~。わしが来たにゃ~」


 英語で挨拶すれば、中がドタドタと騒がしくなり、女性がわしの前に現れた。その女性は見知った人だったので、世間話をしながらヂーアイの元へ案内してもらった。


「よく来てくれたさね」

「久し振りにゃ~」


 簡単に挨拶を交わすと、さっそく選挙の進捗状況を聞く。


「見た感じ、候補は二人に絞られているみたいだにゃ」

「もう見たのさね。みっともないものを見せて申し訳ないさね」

「いやいや。自分で考えて演説してるんだから、なかなかよかったにゃ~」

「そう言ってくれて、ホッとしたさね。あのバカの演説、何度止めようかと思ったか……」


 どうやらヂーアイは、バカの演説は度を越していたから、わしに見せたら気分を害するかと思ってひやひやしていたらしい。

 しかし、わしがどんな演説をしても、どんな選挙活動をしても、絶対に止めるなと言っておいたので、言い付けを守ってくれたようだ。


 いちおう他にも候補が居ないか聞いてみたところ、賄賂を掴ませて代表になろうとした者や、長い選挙戦に飽きて演説をやめてしまった者が居たそうだ。

 ちなみに賄賂を送った者は、あっと言う間に資金が尽きて、一日で諦めたらしい。贈れる物なんて、食べ物や木彫りしかないのに、後先考えないバカが居たもんだ……餓死していない事を望む。


「ま、その者も入れたら、討論会も出来そうだにゃ。絶対出席するように声を掛けてくれにゃ」

「そんなのでいいのかい?」

「二人だけってのも、盛り上がりに欠けるにゃ~」


 一通りの指示を出したわしは、祠に戻ってサボ……


「待ってたニャー!」

「お相手、お願いします!」


 サボれずに、メイバイとリータの訓練に付き合わされる。わしに掛かればたいした労力じゃないけど、殺気を乗せるのはやめてくれる? わし……二人の夫じゃぞ??


 どうやらわしを相手取るなら、殺す気でいかないと訓練にもならないと思っているようだ。なので、渋々適当にあしらっていると、突然コリスに噛み付かれた。


 どうやらお昼らしいが、いまの侍攻撃じゃね? いつの間にマスターしておったんじゃ? えらいえらい~。


 噛んだ事はおとがめなし。褒めちぎり、撫で回してから高級串焼きを遠くに投げておいた。こうでもしないと、食事の準備が出来ないんじゃもん。



 コリスが戻るまでにテーブルセッティングが終われば、皆で卓を囲む。


「うぅぅ……コリスちゃんに先を越されました」

「どうやったら、マスター出来るんニャー……」


 たいして訓練もしていないコリスに先を越されたリータとメイバイは、落ち込みながらチビチビ食べている。


「まぁ種族の違いもあるにゃろ。こう見えて、野生で生活してたんにゃよ? にゃ?」

「モグモグモグモグ」


 コリスは……キョリスに守られてぬくぬく育っておったな。ならば、野生の勘は当て嵌まらないかも? いやいや、それでも野生の動物じゃ。DNAに刻まれているはずじゃ! 両頬を膨らませる癖も、リスの特性じゃもん。たぶん……


「それより、三ツ鳥居はどうなったにゃ?」

「えっと……閉じてました」

「時間はどうにゃ?」

「えっと……二時間は開いてたと思うニャ」


 二時間か……てっきり開きっぱなしになるかと思っておったが、そうは上手くいかんか。でも、この里の人数ぐらいなら、全員移動してもお釣りが来そうじゃ。

 しかし、二人の泳いでいる目が気になる……


「正確にゃ時間も教えてくれにゃ~」

「「………」」

「まさか見てなかったにゃ!?」

「「だってだって~」」


 どうやら二人は、一時間ごとに交代したようだが、閉まる気配がまったく感じられなかったので、コリスとオニヒメに任せて訓練に打ち込んでしまったらしい。

 そのコリス達はというと、時計の見方もわからず、そもそもすぐに寝ていたとのこと。コリス達のせいにしないのはいい事だと思うが、脳が筋肉で出来ているとしか……


「「だってだって~」」

「ゴロゴロゴロゴロ~」


 わしの心を的確に読んで、脳筋と言おうとしたわしを撫で回し、ついでに罰とするリータとメイバイであったとさ。

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