第十八章 日ノ本編其の四 釣り大会にゃ~

490 お詫び行脚にゃ~


 我輩は猫又である。名前はシラタマだ。泣き虫ではない。


 日ノ本で、元の世界にそっくりな故郷を発見したわしは、これまたそっくりなじい様と立ち合い、勝利した事や母親達の顔を見た事で涙があふれ、それをリータ達に見られてしまった。

 まぁわしのみっともない姿などリータ達は見慣れているので、皆で大泣きしたあとは、子供の頃の話をしながらのどかな時間を故郷で過ごし、夕暮れ時には猫の街に転移した。


 役場に帰ると、出張は二泊三日で帰ると双子王女に言っていたので、二日も延びた事を愚痴られた。

 なので言い訳。どうせ休む予定だったと言うと、王様らしくないとののしられる。


 だってやる事がないんじゃもん……すいにゃせん!


 心の中で言い訳したら、双子王女だけでなく、リータとメイバイからも睨まれて平謝り。明日は働くんだからと言いながらスリスリし、なんとか許してもらうのであった。



 その翌日からは、本当に仕事で忙しい。それも、西の地にある全ての国を回る期間の長い出張だ。本来ならば二日の休みを取ってから行く予定だったのだが、日ノ本で時間を掛け過ぎてしまったので、休みは無し。

 この仕事は、関ヶ原の祭りから王族を急に帰してしまったので、ホスト国として詫びのひとつでもして来いと双子王女からお達しが下っていたので、仕方がない仕事なのだ。

 日ノ本から帰ってすぐに、各国の王に遊びに行くアポイントを取り付けてしまっているから、日にちもずらせない。


 なので、飛行機に乗り込み、西へと空を行く。


「もう! 遊びに行くとか言わない!」

「天皇陛下からも、手紙を持たされているんだから仕事しろニャー!」

「ゴロゴロゴロゴロ~」


 もちろん、心を読んで怒りの表情でわしを撫で回すリータとメイバイも付いて来てくれた。もちろん、コリスとオニヒメには遊びに行こうとわしみずから誘ってあげた。


「また……」

「だから遊びじゃないニャー!」

「ゴロゴロゴロゴロ~!」


 二度目の失言とあったが、なんとなく猫型で飛行機を操縦した事で、怒りと手の動きがまったく違うリータとメイバイ。少しは怒りが逸らせているのは、ラッキーな効果なのだろう。


 各国を回る順番は、南の国からスタートして、最南東にある小国から順に、ひとつずつ西へ北にと向かって潰して行く。単純に回りやすいルートで決めてしまったので、どこが先かだとか後だとかは、揉めない事を祈ろう。

 各国の滞在は、一時間を目処に考えている。飛行機で王都間近に着陸して、バスを走らせて城に直行。

 わしと違って忙しい各国の王では、関ヶ原で空けた期間の仕事が大量に溜まっているので、十分ほどしか面会の時間が取れなかった。なので、一時間もあれば、余裕のスケジュールだろう。


 南の王と面会したら、軽く侘びて、ちびっこ天皇のふみを渡してみたが、問題発生。日本語が読めないんだって。

 まぁそんなもん知ったこっちゃない。お土産のヤマタノオロチ肉とうろこを置いて別れる。


「誠に感謝する……と、書いてましたにゃ」


 いや、リータとメイバイに文を朗読させられてから、その場をあとにした。


 だって、一度部屋から出て壁ドンしてくるんじゃもん。スケ番みたいだったんじゃもん!



 とりあえずお詫びは終わったので、バスでハンターギルドに直行。南の国王都のハンターギルドは初めてだったから、けっこうな騒ぎが起こったが、リータとメイバイが捩じ伏せてくれた。


 宮本先生の訓練をこんなところで試さなくても……わしとコリスなら、余裕だったんじゃぞ? もう少しで侍攻撃のコツが掴めそうなんですか。まったくそんなふうに見えませんでしたよ?


 さすがに、ハンターギルドに飛んで火に入る白い獣が二匹も入って来たからには、バカが襲い掛かって来た。だが、リータ達の活躍で守られ、ギルド内をズカズカ歩いて買い取りカウンターに向かう。

 そこで職員のおっちゃんに、味見用のヤマタノオロチ肉のサイコロステーキを食べさせ、価格とどれぐらい買い取れるかの相談。

 もちろんそんな物が出て来たからには、ギルドマスターもやって来て味見。阿鼻叫喚の中、価格を聞いたら巨象肉の倍の値が付いた。

 もっと高値が付くかと思っていたけど、価値を計る物差しが無いので売るしかないかと思ったが、ナイスアイデアが浮かんだ。


 猫の国の王族に襲い掛かって来た者が居るのだ。こんな価格では取り引き出来ないと言って出口に向かう。

 すると迷惑料で、キロあたりの単価が上がった。それならばと、好きなだけ肉と鱗を持っていけと言って売ってあげた。



「にゃ~しゃっしゃっしゃっ。迷惑料はおっきいにゃ~」

「「にゃ~しゃっしゃっしゃっ」」


 次の国に向かう飛行機の中で、わしの高笑いが響き、コリスとオニヒメも悪い顔で笑っている。

 この迷惑料は、わしの懐行きだから笑いが止まらないが、ホウジツもキツネ店主も居ないのに、コリス達が悪い顔で笑っている理由が謎だ。絶対わしのせいではないはずだ。


「これって、日ノ本に売上金は渡すのですよね?」

「まるで、シラタマ殿が儲けているように見えるニャー」


 わしが悪い顔で笑っていると、リータとメイバイが呆れた顔をしている。


「玉藻達からも、手数料を取れって言われてたにゃろ~? 被災者の為に、総額が多いに越した事はないにゃ~」

「そうですけど、悪い事をしているように見えます」

「まさか、こうなる事を見越して、コリスちゃんをそのまま入れたニャー?」

「それを言ったら、二人だって練習相手にしてたにゃ~」

「「うっ……」」


 わしをいさめる二人は、反論できずに黙り込むのであっ……


「それは置いておいて、天皇陛下からの手紙……翻訳しましょう!」

「ほら、シラタマ殿。仕事するニャー!」

「にゃんでそうなるにゃ~!!」


 自分達の行動は棚に上げ、わしに仕事を押し付けるので、機内は「にゃ~にゃ~」と騒がしく、お詫び行脚の旅は続くのであった。



 お詫び行脚の旅、二件目の小国に向かっている途中で、ちびっこ天皇の文の内容を翻訳しようと頑張ってみたが、こりゃ無理だ。

 飛行機の操縦をしながら、筆なんて持てっこない。そもそも各国の王に渡す文は開封するわけにもいかないので、先ほど読んだ文を思い出して書かないといけない。


 そんな事をしていたら、ほら、墜落の危機じゃ。わかってくれましたかお二人さん? ……コリスとオニヒメで操縦できないかじゃと!?


 無理難題を吹っ掛けるリータとメイバイに負けて、わしは渋々操縦を教える。コリスとオニヒメなら魔力量が多いから操縦できると思うけど、失敗して何度か墜落し掛けた。

 その都度、隣に座るわしが持ち直し、ようやく慣れて来ると、コリスはアクロバット飛行。それをマネて、オニヒメまでアクロバット飛行。


 わし達はゲーゲー言いながら、次の小国に辿り着いたのであった。


 バスの運転はリータに任せ、わしはコリスとオニヒメを「メッ!」と叱る。二人とも反省しているようで、「えへへ~」と笑っていたから、頭を撫でておいた。


「う~ん……タマモさんが言う通り、シラタマ殿は二人にちょっと甘すぎないかニャー?」


 しかし、メイバイがそれを不服だと言い出した。


「だってこんにゃにかわいいのに、酷い事できないにゃ~」

「「えへへ~」」

「でもニャー……」


 それでもわしは撫で回し続け、メイバイも二人を撫で出したので、甘やかしている問題はうやむやになってしまった。


 そうして小国のお城に入ると、王様に挨拶。軽く詫びてプレゼントを渡したら、ちびっこ天皇の文を読み上げる。ここで、リータとメイバイがメモ。わしの翻訳を書き留めてくれていた。


 さすがはわしの妻。痒いところに手が届く、頼れる妻だ。


「シラタマさんに任せてるとね~?」

「私達が頑張らないとニャー?」


 どうやら、わしが不甲斐ないと言いたいようだ。でも、わしだって、やる時はやる猫だ。……その機会が少な過ぎるですか。そうですか。


 この国でもハンターギルドに入り、からまれてわしが丸く収めようとしても、リータとメイバイがハンターをのしてしまった。


 ……わざとあおってません? 手加減は上手くなったと思うけど、毎回殴らなくてもいいんじゃよ? 王様と言うだけで、それなりに効果あるんじゃから……


 二人は、どうしても侍攻撃を習得したいらしく、わしの説得は聞いてくれない。でも、迷惑料の上乗せになるから、ま、いっか。



 それからこの国の郷土料理をモリモリ食べたら、次の小国に向けて離陸。ここからは、飛行機の操縦はコリスとオニヒメ担当だ。

 リータかメイバイのどちらかが隣に座り、コリス達が真っ直ぐ飛ばしているとめちゃくちゃ褒めて、アクロバット飛行を阻止しているようだ。なかなか子供の扱いが上手くなったもんだ。


 コリス達のほうが、遥かに歳上じゃけど……。いや、魂年齢では、リータが一番上?? わしって、コリスとオニヒメと同年代かも!?


 衝撃の事実に気付いたが、それを考えるのはやめて、わしは後部座席でお仕事。リータ達のメモを見ながら、ちびっこ天皇の文を英語で書き写す。まぁこれさえ終われば、王様と会った時に毎回読まなくてもいいので、楽になるはずだ。


 しかし、次の小国でも、文を朗読……


 内容が違うかもしれないのですか……。名前以外、違っていませんでしたよ? 念の為ですか……


 そうして一日四件の国を回れば、最後の国の高級宿屋で一泊。夜遊びを禁止されているわしは、宿屋に監禁されて、文の翻訳をさせられるのであった。



 それから数日、我が猫ファミリーは、各国の王にお詫びし、各国のハンターギルドを騒がせ、大金をむしり取り、最後に回していた東の国にて女王と謁見。ちびっこ天皇からの文を読み上げる。


「誠に感謝するにゃ……と、書いていたにゃ」


 文を読み終わると、さっちゃんがバッと雑に奪い取って女王の元へ持って行き、リータがわしの翻訳した物をひざまずいて手渡す。


「ふ~ん……まったく読めないわね」

「ですよね。シラタマちゃんは、タマモ様とも天皇陛下とも普通に喋っていたし……」


 どうやら日ノ本でのわしの行動を疑った女王の指示で、さっちゃんは文を奪い取ったようだ。


「向こうで死ぬほど勉強したからにゃ~。超大変だったにゃ~」

「「嘘ね……」」

「猫、嘘つかないにゃ~!!」


 女王とさっちゃんとも「にゃ~にゃ~」言い争い、なんとか諦めさせたら、女王がおかしな事を言い出した。


「各国で騒ぎを起こして来たみたいね」

「騒ぎにゃ?」

「ハンターが毎回殴られたと聞いてるわよ。それに、迷惑料を取っていたとも……」

「殴ったのはわしじゃないにゃ~。それにからんで来たのは向こうなんにゃから、正当な慰謝料にゃ~」

「わざとコリスをそのまま入れたに決まっているわ」

「わざとじゃないにゃ~」


 まったく女王は、わし達をなんだと思っておる。わし達は普通にハンターギルドに入っただけなのに、何故かからまれるだけなんじゃ。


「はぁ……それと、ヤマタノオロチ肉? 凄く美味しいと聞いているわよ。うちにもお土産はあるのよね?」

「もちろんにゃ。復興が落ち着いたら、また日ノ本から使いが来る事になっているんで、その前に渡すように頼まれてるにゃ」

「早く食べさせて! 待ちきれなかったの~」

「わかったから揺らすにゃ~!!」


 女王と喋っていたらさっちゃんが割り込んで、わしをぐわんぐわん揺らす。どうやらヤマタノオロチ肉を食べた各国に居るスパイから、情報が流れていたようだ。

 それはもう、この数日はその情報しか入って来なかったらしく、スパイ活動すらままならなかったんだって。

 そんなにうまい肉があるのかと、わしが親友特典で東の国を最後に回した事を悔やんでいたようだ。


 とりあえず、いますぐ食べたいとうるさい二人の為に、ヤマタノオロチの串焼きを支給。塩を振っただけだが、白い巨象肉を初めて食べたとき以上の反応をしていた。

 それからお土産を渡して喋っていたらお昼になったので、料理長が作りしヤマタノオロチ肉フルコースをゴチになる。

 その席で浜松の惨状を聞かれたから説明したのだが、料理が美味しすぎて悲惨な話を聞いても、誰も食を細めなかった。



 そうしておなかいっぱいになると、城を出てハンターギルドに向かう。ここでは、わしにからんで来るハンターはいないのだが、受付嬢とギルマスはからんで来る。


「猫ちゃん!!」

「シラタマちゃん!!」


 ティーサとスティナだ。どうやらティーサは、最近めっきり来なかったわしを心配して出迎えてくれたようだ。スティナは……各国のギルドからうまい肉の情報が入っていたから待ち構えていたっぽい。


 なので、二人とも適当にあしらい、ヤマタノオロチ肉と鱗を売って我が家で一泊。当然、アダルトフォーに死ぬほどからまれて、無理難題を聞く事になってしまうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る