494 つゆとデートにゃ~


 エルフ総選挙から二週間……


 エルフの里からやって来たシウインとユーチェンは勉学に励み、早くも英語をマスターしつつある。なので二人の希望もあり、双子王女の下の下、役場職員の仕事を手伝わせている。

 本当は双子王女の下につけたかったが、忙しい二人の下にいきなり言葉が不安な者をつけると迷惑になりかねないので、雑用から初めてもらった。

 まぁシウイン達にはやった事がない書類仕事を先に覚えてもらうほうが、双子王女の仕事を手伝う時に、役に立つはずだ。


 その他にエルフの里からやって来た者は、グエン夫妻。ヂーアイにバカを押し付けられたと怒りを覚えたが、意外と真面目に勉強している。

 シウイン夫妻より学習速度は遅いが意外と努力家なので、もう少ししたら、東の国にでも遊びに連れて行ってあげようかと考えている。猫の街より発展した東の国を見る事は、いい勉強になるだろう。


 キャットコンテナでの商品販売は、かなりの収益を上げている。キツネ店主もホウジツもウハウハ。近々、高級品の販売に移行するようだ。

 ちなみにキャットコンテナは、猫の国で数個使っているだけで、まだおおっぴらに販売していない。おそらく流通革命となるので、買い手が多く集まるはずだから、数を揃えてから売り出す予定だ。

 それに、エルフの里は代表が勉強中なので、出来れば戻ってから販売するのがベスト。現在ちまちま作っているキャットコンテナの販売が代表の初仕事となり、必ず売れるので、大きな自信となるだろう。

 まぁ猫の国で買って、ソウの地下空洞の魔力回復機能を使えば、レンタル業としても旨味のある商売なので、わしとホウジツは笑いが止まらない。



 リータ達はというと、仕事もしないで訓練ばかりしている。ソウの地下空洞を出るのは、宮本武志たけしの侍講習を受ける時と、強い獣を狩りたいと我が儘を言う時だけ。

 わしに仕事をしろとグチグチ言うくせに、いいご身分だ。


「だって……ねえ?」

「シラタマ殿が仕事をしないから……ニャー?」

「仕事しろと言うのに疲れましたので、初心に帰って、ハンター業に戻ろうかと」

「エルフさんも増えたから、せめて食費の足しにしないとニャー」


 どうやら、わしより深い考えがあって訓練しているようだ……これでいいですか? 言葉と裏腹に、殺気のこもった侍攻撃の練習台にしないでください。怖いです。


 いちおうわしも侍講習には出ているから、侍攻撃の精度が上がった。リータ達もマスターしたようで、コリスとオニヒメまでわしを練習台に使う始末。

 ちなみに、リータ達の侍攻撃は直接攻撃だから読みやすいが、オニヒメは式神で侍攻撃を再現するので、わしは必死で捌いている。ひょっとしたら、とんでもない逸材なのかもしれない。



 そんなこんなでわいわい過ごし、今日も暇なわしは、タヌキ少女つゆの工房でダラダラしている。


「もう完成でいいんじゃないかにゃ~?」

「すみません! あと0.05秒……」

「それが完成だと言ってるんにゃ~!」


 クオーツ時計に没頭していたつゆは、とんでもない数値を叩き出しても納得しない。機械時計でも、もっと誤差があるのに、本当に0秒まで持って行こうとするので困ったものだ。


「それよりレコードはどうなってるにゃ? 売りたいんにゃから、そっちを先にしてくれにゃ~」

「すみません! 一ヶ月ほど前に完成して、その端に置いています」

「出来てるにゃら報告してにゃ~」

「す、すみません!」


 つゆは謝りながらも作業に戻るので、わしは部屋の隅でホコリが被っている布をひっぺがしてレコードの確認をする。

 わしの作った物と形が違っていたから不思議に思っていたら、その上に置いてある説明書を読んでみると、再生機能と録音機能の付いたハイブリットとなっていた。

 製造方法も図が多く書いてあってわかりやすく、これならそのまま工房に持ち込んでも、明日から製造に取り掛かれそうだ。

 ただ、録音された物を聞いてみたら、つゆの声で「にゃにゃにゃにゃ~ん♪」と、わしの鼻歌のマネが流れて来た。つゆまでわしをバカにしておるのか……

 しかし、多大な成果を出してくれたので、つゆを褒めちぎったのだが、聞いていない。


 仕方がないので、暇潰しに猫耳の里にダッシュ。代表のセイボク達と面会して仕事の相談をする。

 そろそろ新しい仕事をしたくないかと聞いてみたら、食品加工業だけでも里が潤っているから断られた。欲のない奴らだ……

 なので、わしから命令してレコード製造を押し付ける。つゆの鼻歌を聞かせてやったらめちゃくちゃ驚いていたけど、わしの声じゃない。


 つゆの声だと言っておろう? マネして歌わなくていいんじゃぞ? バカにしておるのか??


 とりあえず、猫の街で職人講習を受けた者を責任者にする事と、職人を育成する事も命令しておいた。これで、猫の国で一番発展が遅かった猫耳の里も盛り上がるだろう。



 暇潰しを終えて猫の街に昼ごはんを食べに帰ったら、つゆはまだクオーツ時計をいじっていた。


「またお昼ごはんを抜く気にゃの?」

「いえ、これが終われば……」

「終わらにゃいから~!」


 まったく……来た当初は、わしの愛人になりたいとか言っていたのに、つゆも平賀家の一員だったんじゃな。新技術を見たとたん、新技術の虜になってしまった。

 わしとしては助かるんじゃけど、しょっちゅう徹夜や食事抜きをされると、体調面で心配じゃ。致し方ないのう。


「今日はリータ達も居ないし、デートでもしにゃい?」

「でーと??」

「逢い引きにゃ」

「行きます! そのまま夜伽よとぎまで突入……」

「気が早すぎるにゃ~~~!!」


 英語のデートでは反応しなかったつゆは、日本語の逢い引きと聞いてテンションアゲアゲ。新技術も好きだが、わしの事も忘れていなかったようだ。とりあえず、わしにべったりくっつくつゆを連れて猫の街を歩く。

 今日のお昼はエミリの料理は断っていたので、屋台の食べ歩きだ。エミリの料理のほうが何倍もうまいが、街の住人も頑張っているのだ。たまには食べるようにしている。

 元々エミリの料理教室の生徒さんという事もあり、エミリ自身もわしが食べ歩きをする事は反対しない。逆に生徒の頑張りが聞けて嬉しいようだ。



 適当な露店でチャーハンや唐揚げ等を買ってテーブルに着くと、つゆが「あ~ん」して来たからポイポイ入れる。「恋人らしい」とつゆは言っていたが、どう見ても餌付け。それも、猫がタヌキに餌付けする奇妙な絵面だ。

 逆にわしも餌付けされるので、動画サイトでもあれば、めちゃくちゃ再生回数が増えるかもしれない。現に、住人がキャーキャー言ってるし……


 そうしてお腹いっぱいになると、建設中の建物を見ながらお喋り。つゆも少しは興味があるようで、話が弾む。


「もう少しだにゃ~。早く完成して欲しいにゃ~」

「今日は内部の歯車の調整すると言っていましたから、予定していた工期より早く完成するかもしれませんよ」


 わし達の見ていた建物は、時計台。建設組と工房組が一から作っている建物だ。わしが手伝えば早いのだが、他国に作りに行く計画もあるので、双子王女に止められている。せっかく暇潰しに手伝うと言ったのに……


「つゆも手伝ったんにゃろ? ありがとにゃ~」

「いえ、私は助言しただけです。猫の街の職人さん達が、真面目に働いていた結果です」

「そうにゃんだ……ところでにゃんだけど、つゆって本当に劣等生にゃの? 全然そんにゃふうに見えないにゃ~」

「え……事実です……」

「わしはそうは思えないにゃ。もしかして、種族のせいで評価を低くされたりしてにゃい?」

「いえ……私が悪いのです。平賀家では……」


 つゆの説明では、平賀家の評価の仕方がおかしかったようだ。もちろんこれはわしの意見であって、つゆはそうは思っていない。

 平賀家の評価方式は、アイデア勝負。実現可能、不可能関係なく、新技術の理論を発表する事で点数が高くなるらしい。

 しかしつゆは、技術点はそこそこ高かったらしいが、アイデアが思い付かず、捻り出した物も元々あった物に似通っていたので点数が付かなかったようだ。


「ふ~ん……。まぁつゆは、学者より、研究員が合っていたって事だにゃ」

「学者? 研究員??」

「学者ってのはだにゃ。簡単に言うと、源斉みたいに新しい理論を生み出す者にゃ。研究員ってのは、その理論が正しいか、そうでないかを検証する者にゃ」

「たしかに私は後者に見えますけど、やっぱり皆さんが喜ぶ物を作りたいです……」

「作ってるにゃ~」

「え?」

「レコードだって、クオーツ時計だって、理論だけでは正確に動かないにゃ。何度も計算し直して、やっと商品になるんにゃ。平賀家だって、初めて時計を作る時には同じ事をしたはずにゃ。そうにゃろ?」

「たぶん……」

「その部分をおろそかにしているとは、源斉にちょっと言わないといけないにゃ……源斉に言っても無駄かにゃ? 玉藻にでも相談してみるにゃ~」


 わしが一人で喋り続けると、つゆはつぶらな瞳でパチクリしていた。


「どうしたにゃ?」

「目からウロコです……」

「にゃ~?」

「平賀家に残っていても、私が活躍する場があったのですね……」

「まぁ評価の仕方が悪いからにゃ。でも、いまさら帰るにゃんて言わないでにゃ~?」

「あ、はい! とんでもないです。ここに来れて、私は幸せです~」

「それはよかったにゃ」

「シラタマ様もいますし……今日は、猫の街に泊まりますよね?」

「別荘に泊まりますにゃ……」

「え~~~!!」


 わしを誘惑するつゆを拒絶すると、泊まって行けと言いながら胸元を少し開ける。どこでそんなテクニックを覚えたか知らないけれど、残念ながら、谷間は見受けられない。


 だって、毛むくじゃらじゃもん。お母さんがその方法でお父さんを落としたと言われても、毛むくじゃらなんじゃもん。



 そうしてつゆの誘いをやんわりと断っていたら、広場が騒がしくなっていた事にわし気付かなかった。


「なんじゃ。わらわ達の出迎えに来てくれないと思っておったら、こんな所でチチクリあっておったのか」

「シラタマ王も隅に置けんな。妻が二人も居るのに、めかけまでおるとは元気じゃのう」

「にゃ?」


 後ろから声を掛けられて振り向くと、見知った顔……


「シラタマさん……」

「何してるニャー!」


 そう、リータとメイバイだ。つゆと浮気していると受け取られて超怖い。


「こ、これは違うにゃ~! どっちの毛並みが綺麗かの話になっただけにゃ~!!」


 なので言い訳してみるが、リータとメイバイはまったく聞いてくれず、わしに詰め寄るのであっ……


「おい! 久方振りに会ったのに、妾を無視するな!!」

わしを無視するとは……こんな仕打ち初めてじゃぞ!!」


 リータ達だけでなく、さっき挨拶してくれた玉藻と家康タヌキ耳太っちょおっさんバージョンも怒って詰め寄って来るのであったとさ。

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