256 皇帝との戦いにゃ~


 わし達は皇帝の待つ、帝都宮殿地下に足を踏み入れるたのだが、そこで待っていたのは、いかつい筋肉エルフ。それに対すは、立って喋るかわいい猫。

 お互い対戦相手として、見た目に不満があるようだ。


「その話は、一旦置こうにゃ」

「……そうだな。それでお前は猫か?」

「猫だにゃ~。あにゃたが皇帝陛下で間違いにゃいかにゃ?」

「そうだ。エルフではない!」


 そんなこと聞いておらんのじゃが……エルフと言われるのが嫌なのか? わしもタヌキと呼ばれたら怒るから、それに近いか。


「ご挨拶が遅れましたにゃ。わしは猫耳族の王をやらしてもらっている、シラタマにゃ」

「猫が王だと?」

「その反応はもういいにゃ。つきましては、この国をいただきたく、参った所存ですにゃ」

「フッ……フハハ……ブハハハハハ」


 笑われた! 丁寧に挨拶したのに何故じゃ? 見た目か……


「面白い生き物がいたものだ。朕に国を明け渡せだと? この国は……いや、山向こうも全て朕の物だ」

「そんにゃに土地を増やして、どうしたいにゃ?」

「決まっている。朕は王の中の王、皇帝だ。誰も朕に並ぶ者など居てはならんのだ。いや、すでに居ない。居ないからこそ、滅ぼさなくてはならん」

「別に滅ぼす必要も、並ぶ者を排除する必要もないにゃ。そんにゃの楽しくないにゃ。隣に並ぶ者が居てこそ、人生は彩るにゃ~」


 わしが言葉が意外だったのか、皇帝は不思議そうな顔をする。


「猫の癖に人生を語るのか……」

「悪いかにゃ?」

「つくづく笑わせてくれる奴だな」

「ほら。楽しくなれたにゃ」

「どこがだ? 不快でしかない」

「そうにゃんだ……。そうやって猫耳族も排除したのかにゃ?」

「排除などしていない。人でもない者に、帝都を……この国を歩かせてやっているんだ。感謝されてしかるべきだ」

「奴隷にしておいて、感謝しろにゃと?」


 皇帝の発言に、わしは語気を強くする。


「そうだ。命があるだけいいだろう?」

「命があるだけにゃと? いつ殺されるかわからにゃい恐怖がお前にわかるにゃ? 明日は食べ物を貰えないかもと考える恐怖がお前にはわかるにゃ? 自分の愛する子供と引き離される悲しさはお前にはわかるにゃ? お前がどれほどの悲しみを作ったかわからにゃいのか!!」

「ハッ。畜生ごときの感情に、何故、皇帝の朕が思考しなくてはならんのだ」


 わしが怒鳴るが、嘲笑う皇帝。その態度に、わしの怒りが益々湧き上がる。


「国のトップだからにゃ!  猫耳族も立派な人間にゃ。畑を耕し、物を作り、笑い、泣き……これを人と言わずににゃんと言うにゃ! 姿形で判断するにゃ!!」

「何を必死に弁解しておる? 猫の姿の自分を認めて欲しいのか?」


 猫を出されると弱いわしは、テンションが一気に下がってしまう。


「わしは……人間ではないから、にゃんと言われてもいいにゃ……でもにゃ。猫のわしを愛してくれる人間もいるにゃ。その者がいるから、わしは人間を愛しているにゃ」

「愛だと……」

「お前には愛する者はいるにゃ? お前を愛してくれる者はいるにゃ?」

「皇帝の朕に、そんな者はいらん。朕はただ独り、いただきに立つ。それだけだ」

「……少し同情するにゃ」


 わしが同情の目を送ると、今度は皇帝の怒りに火がついたようだ。


「畜生ごときが、朕に同情などするな! 猫が言葉を朕に投げ掛ける事すら許しがたい!」

「そうにゃんだ……。最後に一言だけ……降伏する気はないにゃ?」

「笑止!!」


 皇帝の言葉を、問答の終わりと受け取ったわしは、リータ、メイバイ、ノエミに指示を出す。


「みんにゃ。巻き決まれないように、扉まで下がるにゃ。リータ。みんにゃを守ってくれにゃ」

「はい。任せてください!」

「シラタマ殿も気を付けてニャー!」

「最後まで見届けさせてもらうわ」


 皆が走り去って行く姿を見送ると、わしは腰に帯びた【白猫刀】を抜く。


 さて、強さはクイーンに匹敵するが、相手は知恵のある人間。どの様な攻撃をして来るか……まぁわしの敵ではないけどな。

 だが、簡単に殺してしまうのは猫耳族に申し訳が立たない。誠意のある謝罪は無理だとして、奴隷紋で縛ってでも謝罪させてやる。



 わしは【白猫刀】をだらりと構えながら、ゆっくりと皇帝に近付く。しかし、皇帝は玉座から立ち上がろうとしない。


 こいつは馬鹿か? わしの射程なんて、とっくに入っているんじゃが……


 わしが疑問を抱いていると、皇帝が両手を上げる。


 いまさら降参か? いや、両手に魔力が集まって来ている……


「【ファイヤーバード】」


 皇帝は呪文を唱え、二匹の火の鳥を作り出した。


 3メートルってところか。人間にしては頑張ったほうじゃが、【朱雀】の劣化版など、恐るるに足らず。


「【氷猫】にゃ~」


 わしが氷の塊で出来た1メートルの猫を二匹作り出すと、皇帝は驚きの顔を見せるが、すぐに両手を振って、わしに【ファイヤーバード】を放つ。

 二匹の火の鳥の内一匹は、わしに直進して来るが、【氷猫】の引っ掻きと体当たりを受け、同時に消失する。


「馬鹿な……喰らえ!」


 皇帝は、火の鳥の三分の一しかない猫に、力負けするとは思っていなかったのか、言葉を漏らす。そして、もう一匹の火の鳥をわしを中心に回転させながら、詰め寄らせる。

 その火の鳥を追うのは【氷猫】。追いかけっこを楽しむ猫が如く、火の鳥をいたぶって消失させた。


「お! よしよし。まだ残っていたにゃ。アイツと遊んで来るにゃ~」


 わしは熱で半分の体積になった【氷猫】を、褒めてひと撫ですると、皇帝に向かって走らせる。


「【ビックタートル】」


 しかし皇帝は、次の魔法を使ってガード。いや、わしのかわいい【氷猫】は、デッカイ亀に踏み潰されてしまった。


 今度は5メートルの土亀二匹か? わしの魔法をパクりやがって~! って、わしもパクっているから、人の事は言えないか。

 しかし、あれほどの魔法を連発するとは、さすが人間と言ったところか。獣ではイメージの複雑な魔法は使えないからのう。

 まぁ一発目の火の鳥は驚かされたが、タネさえわかればなんて事はない。接近戦に持ち込んで、様子を見てみるか。


 まずは偉そうに座っている玉座から下ろしてやる!



 わしが走り出すと、皇帝は腕を振る。すると、二匹の土亀がわしに襲い掛かる。

 土亀はわしに接近すると首を伸ばして噛み付こうとするので、横に避けると同時に、魔力の込めた【白猫刀】で斬り落とす。


 ん? 土亀の足が止まった。土で出来ておるんじゃから、そのまま進めればいいものを……


 と、考えていたら、もう一匹の土亀が、首の無い亀を後ろから踏み登り、そして飛び降りてわしを潰そうとする。


 上か! 【鎌鼬斬り】!!


 わしは咄嗟とっさに、首の無い亀に【鎌鼬】をまとった刀を振って斬り裂き、すぐさま出来た道に飛び込むと、土亀の落ちる地響きが鳴り響く。


 その音の中、わしは一直線に皇帝に向かって走る。


「【アイススネーク】」

「【火球】にゃ~!」


 皇帝は、わしの姿を捉えると、今度は長さ5メートルはありそうな氷の蛇をわしに放つ。わしもそれと同時に、大きな火の玉を放つ。

 【火球】に押し潰された氷の蛇は蒸発し、水蒸気に変わる。その煙りに紛れて、わしは跳び上がると、皇帝に刀を振るう。


 玉座はその刃で、真っ二つとなった……


 ありゃ? 思ったより速いわ。速さがわからないからイサベレの速度で斬ってみたんじゃが、大きく避けられてしまった。

 皇帝は……次の魔法を詠唱しておるな。急ごう!



 わしは前に出るが、時すでに遅し。皇帝の魔法が完成してしまった。


「【ブレードタイガー】」

「【土玉】×5にゃ~」


 皇帝は、風の刃渦巻く虎を作り出し、わしは土の玉を自分中心に回転させて防御にあてる。

 風の虎と接近すると【白猫刀】で斬り裂き、残った風の刃は、五個の【土玉】に掻き消される。


 さっきはイサベレの速度だったが、今度はその倍じゃ!


 わしは風の虎を斬り裂くや否や、皇帝に斬り掛かる。だが、皇帝はどこから取り出したのか、巨大な白い剣で受け止めた。


 収納魔法か? しかも、白魔鉱……【白猫刀】!? ホッ。刃毀はこぼれしておらん。次からは魔力を込めて斬らんとのう。


「朕に一太刀入れた事は褒めてやる。だが、それで終わりだ。ファイヤー……」

「させないにゃ!」


 詠唱する皇帝に、わしは瞬時に距離を詰めて、魔力を込めた【白猫刀】を振るう。すると皇帝は、白い大剣を振って、受け止めた。


 そんな馬鹿デカイ剣で、わしの刀を受けきれると思うなよ!


 わしは凄まじい速度で移動し、皇帝の横から後ろからと、刀を縦横斜めと振りまくる。

 皇帝は、まだわしの速度について来れるのか、冷静に剣の腹を盾にして、わしの攻撃を受け止める。


 まだ上があるのか? ならば、三……いや、五倍!


「【ウォールニードル】」

「にゃ!?」


 皇帝は、わしの速度を上げる一瞬の隙を見逃さず、土魔法を使う。皇帝の周りに土の針が飛び出し、わしは後ろに跳ぶしか出来なかった。



 う~ん。あの程度の魔法なら、無詠唱でいけるのかな? さっきと違い、自分の魔力を使っていたしな。

 やはり、火の鳥なんかは、周りの魔力をそのまま魔法に変換していて、作り出すのに時間が掛かるみたいじゃ。

 見る限り、この場限定の魔法ってところじゃろう。ここで待ち構えていたのは、ズルする為だったんじゃな。


 さて、そろそろ皇帝は手詰まりとなるじゃろう。


 行くか!


「【三日月】にゃ~!」


 わしは大きな風の刃を地面と平行に放ち、皇帝に向かって走る。皇帝は土の針が斬り裂かれるのを見るや、跳び上がって【三日月】をかわす。

 その動きに合わせ、わしも跳び上がり、刀を振り上げる。


 ん? 大剣が無い……握っていた武器が白い盾に変わっておる。怪しい……探知魔法オ~ン!


「にゃ!? 【突風】にゃ!!」


 わしは慌てて自分を中心に風を吹き出す。すると、目の前に居た皇帝と、背後から飛び掛かっていた何者かは吹き飛んで、わしとの距離が出来る。

 わしは着地するや否や、後ろに飛ばした人物を確認する。


 真っ黒な人形がおる……この部屋に誰かおったのか? いや、入った時には誰も居なかったはずじゃ。しかし、あの形は皇帝と似ている……


「驚いているようだな」


 わしが黒い人形を見ていると、皇帝が語り掛けて来た。


「一対一の戦いじゃなかったにゃ?」

「アレも朕の魔法で作り出したのだから、一対一だ」

「あ~。にゃるほど。それじゃあ仕方ないにゃ」

「フッ。物分かりがいいな。朕に張り合う事が出来るはずだ」

「そこまで教えてくれるにゃら、あの黒い人形は、にゃにで出来てるか教えてくれにゃいかにゃ~?」

「そうだな……死出のたむけに教えてやろう。アレは朕の影だ。よって、力は朕と同等。朕が扱える武器は全て使え、朕と同じ体術で、敵が死ぬまで動き続けるのだ」


 なるほど。影魔法で作った自分のコピーってとこか。簡単な指示を受けた鳥や亀が魔法で作れるんじゃから、自分も作れるんじゃな。

 その発想はなかったわ~。いや、猫なら作っていたから似たようなモノか。影魔法は面白そうじゃし、今度、魔法書さんで探しておこう。


「教えてくれてありがとにゃ。でも、二人相手ぐらい、どうってことないにゃ」

「誰が作れる数は一体だけだと言った? 【収納魔法・解放】。そして、でよ【シャドウマン】」


 皇帝が【収納魔法】を開くと、槍、剣、棒、様々な白い武器が出て来る。そして六体の皇帝の形をした影が、武器を握った。


「ワハハハハハ。この圧倒的な戦力差に、恐れおののけ! 行け~~~!!」


 皇帝は高笑いをし、わしに六体の【シャドウマン】をけしかける。


 こうして、さらに熾烈を極める戦いが幕を開くのであった。



 そんな中、わしはというと……


 一体ぐらいはいいとして、六体って……ズルくね?


 どうでもいい事を考えていたとさ。

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