257 決着にゃ~


「ワハハハハハ。この圧倒的な戦力差に、恐れおののけ! 行け~~~!!」


 皇帝は六体の自身の影、【シャドウマン】を、わしに向けてけしかける。


 大剣、二刀流、槍、棒、鞭、トンファーか。全て握りまで白魔鉱の武器っぽいから、戦利品に戴こう。この中で注意すべきは鞭と棒かな?

 鞭は、形状は鞭だが、握り以外が白く薄い刃で出来ている。棒も、わしの作った棒と同じく、九節棍に変わって中距離攻撃をして来るもしれんしのう。


 わしは戦力確認を終えると、次元倉庫から【黒猫刀】を取り出す。そして、十個の青い火の玉を周りに漂わせる。


 準備万端。猫又流剣術開祖、行きま~す!


 相変わらずどうでもいい事を考えるわしは、飛び込んで来る影との戦闘を始める。

 影の直接攻撃は受けてしまうと刃毀はこぼれが心配なので全てかわし、カウンターで刀を振るう。中距離で攻撃して来る影には高温の火の玉で軌道をずらし、直撃を避ける。こちらには刀が届かないので、浮かしている火の玉をぶつける。


 う~ん……ダメージになってない? 体は斬れるが、すぐにくっつくし、腕を斬って得物を落としても、それも拾ってくっつけていたな。【火の玉】も喰らえば穴は開くが、すぐに塞がる。またタネ明かしが必要か……


 こうして、わしと影との戦いは長引くのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 シラタマが影との斬り合いを繰り広げる中、皇帝は腕を組んで眺めていた。


 この戦力差でも、まだ立っていられるのか……変わった猫だ。


 若干、ディスりながら……



 ようやくここまで来たのだ……


 そして、これまでの自身の歩みを追想する。



 朕が皇位を継いでからというもの、我が一族の悲願、山向こうの桃源郷征服計画は加速した。桃源郷など無いと言う者もいるが、朕は必ずあると信じていた。



 初代皇帝は、あの山を越えて帝国を作ったのだからな。



 征服計画の準備にはまず、兵を鍛え、パンダを捕まえて禁術を用い、強大な兵力を蓄えて来た。これで我が一族が代々受け継いで来たトンネルが開通すれば、文句はなかったのだが、待っているのも面白くない。



 これほどの兵力があるのだ、山を越えればいいだけだ。



 山越えのルートを探すため、何年も兵を差し向けて調査をしてみたが、戻って来る者は少なかった。森の獣は強く、数がいるのでろくに調査が進まなかったが、一部持ち帰って来た情報は、朕を興奮させた。

 伝説にあった北の山に居ると言われるフェンリル、南のケルベロス。百年もの昔、帝国で暴れた西の厄災リス。伝説級の白い獣が実在したと確認が取れたので、興奮せざるを得なかった。



 伝説の獣を手懐ければ、易々やすやすと山を越えられるのだからな。



 しかし戻って来た兵では、命からがら森を抜けて来たから巣の位置がわからない。また何年も兵を差し向け、禁術を使える者も派遣したが、一向に良い報告が聞こえない。

 その間、時折帝国に現れる白い暴れ牛シユウを探してみたが、出没場所はいつも違うので、巣を発見する事すら出来なかった。

 一度、ケルベロスを禁術で操ったという報告はあったが、その後、連絡が途絶えたから事実であったかどうかもわからない。一年も音沙汰がないのだから、もう確認も取れないだろう。


 そんなある日、トンネルが開通したと報告を受けた。

 我が一族の悲願、朕の代で叶った事は天命だと確信した。去年、一昨年と不作で兵を維持するにも難しくなった頃、ちょうどトンネルが開通したのは、天が朕に味方をしたのだろう。



 世界を我が物にしろとな。



 トンネルが開通して、桃源郷征服計画は現実となり、帝都はかつてないほど沸き上がった。いつしか帝国は、黒い森に埋め尽くされるとの不安があったからかもしれない。

 だが、まずは対話の場を持つべきだと朕に直訴する輩が現れた。言っている意味がわからない。



 奪えばいいのだからな。



 敵の戦力がわからないというのは朕にも合点がいったが、そんな軟弱な配下は必要ない。しかし同じ意見はあったので、第一陣に組み込み、前線に送ってやった。朕に意見して首が飛ばなかっただけ有難く思え。

 第一陣にはパンダも送り込む予定だが、二年ほど前に逃がした大蟻のクイーンもいれば、盤石だったのが少し惜しい。朕みずから全軍で捕獲に当たったのだが、まさかホワイトが二匹もいるとは誤算だった。

 戦闘じたいは我が軍が押していたのに、そこから二匹で協力して逃げ出すとは思いもよらなかった。だが、逃げた方向は西だ。山を越えて混乱を引き起こしているかもしれない。



 天が朕に味方をしているのだからな。



 トンネルが開通してから、山向こうの情報を仕入れるとたいした戦力も無く、パンダを向かわせれば簡単に街を落とせるとの報告も受けた。

 だが、何故か我が軍より多くの軍隊が集まっていると聞き、念には念を入れ、報告にあったフェンリルの巣に、一人の若い男を派遣する事に決めた。

 まず、間違いなく失敗するとは思っていたが、死ぬのは猫耳族ばかりだ。何も問題ない。

 しかし、男はやってのけた。朕が山を越えた際には、名を覚えてやろう。



 これが天に愛された朕の運だ。



 その後、街は戦闘も行われずに奪ったと報告を受けるが、山向こうは腰抜けばかりだと驚かされた。まぁ巨大なパンダを見たのならば、怖気おじけづいても仕方がない。それに、兵を減らす事なく拠点を作れたのだ。これほどの成果は無い。

 パンダ、三千の獣、兵士千人。そこに北からフェンリルを合流させれば、誰も街を取り返す事は出来ないだろう。

 ここに、ガクヒとセイチュウ率いる一万の兵を使い、奪い尽くしてやる。



 朕は血で染まった首都に立てばいいだけだ。



 そんな矢先、トンネルが崩れたと報告を受けた。かなり慎重に作らせたはずだが、ここに来てそんなミスを起こすとは許しがたい。もう一度、開通させるまでは生かしてやるが、それ以降は用済みだ。

 だが、また掘るとなると時間が掛かる。一度兵を戻さない事には兵糧が尽きる。はやる気持ちはあるが、国盗りは数日の辛抱だ。パンダとフェンリルだけでも過剰戦力だからな。



 何も問題ない。計画も狂うわけもない。



 そう思って掘削要員の準備をしていたが、ラサの街が落とされたと一報が入った。

 食糧難だ。出兵にあたり、かなりの量の食糧を徴収したのだから、内紛が起こったのだと思った。

 しかし、報告では猫耳族が兵を上げて奪ったと聞いた。



 虫けらが、いまさら立ち上がっただと……



 ただでさえトンネルが塞がって苛立っているのに、くだらない事をしてくれる。ならば、全て捕らえて白い獣を操る生贄にしてやる。いや、死んでもかまわん。命乞いして来る者だけ捕らえれば事足りる。



 一万の兵で踏みつぶしてくれる。



 トンネルが開通するまでの暇潰し、ただの余興のつもりだった。帝国軍が猫耳族の軍と戦闘に入ったとまでは報告が入った。たった二千人ほどの軍だとも聞いた。

 なのに、一夜明けてもその後の報告は入って来なかった。次の日も、次の日も……その代わり、巨大な化け物が攻めて来たと報告を受けた。



 いったい何が起こっている。



 宮殿のバルコニーから帝都を一望していると、変な声が聞こえて来た。我が軍が敗けただと? 「にゃ~にゃ~」とふざけた事を言ってくれる。

 だが、外に巨大な亀がある事と、巨大な火の鳥が旋回した事によって事実と受け止める他なかった。おそらく、猫耳族の魔法使いを大量に使い、脅しを掛けて来たのであろう。



 朕と似たような魔法を使うとは、不快な虫けらだ。



 あのような大魔法は朕と違い、連続で使う事は難しいだろ。集団で詠唱、その使用魔力量にも限界がある。それすらわからん馬鹿な民のせいで、兵の半分を失ったが、地下にさえおびき寄せられれば、朕に敵う者はいない。



 無限に魔力が湧いているのだからな。



 予定通り、朕は玉座に座り、猫耳族の猛者が来るのを静かに待った。だが、扉が壊され、現れたのは女子供おんなこども。しかも、先頭を歩いているのは、白い猫のぬいぐるみ。



 なんだアレは??



 その上、ぺちゃくちゃと喋りながら緊張感も無く近付いて来る。聞き耳を立ててみると、朕をエルフと言っていた。

 朕は王の中の王。皇帝だ。この世の人間を統べる者だ。それを猫耳族と同じ亜人風情と馬鹿にするとは、どこぞの馬鹿貴族の首をねたとき以来だ。



 それを本物のエルフとチェンジしろだと!?



 少し興奮してしまったが、朕は皇帝。この程度の事で取り乱す事もない。



 くっ……「にゃ~にゃ~」うるさい猫だ……



 猫耳族の王とほざく猫がここにいると言う事は、ガクヒが敗けたのであろう。この猫を殺したあとは、上にいる猫耳族が雪崩れ込むのを待って、全員を血祭りにあげてやる。

 その後、軍を再編し、朕みずから猫耳族を駆逐してやる。トンネルが開通するまでわずかな時間しかないが、ラサを取り戻し、猫耳族の女子供も奴隷兵として、山向こうに連れて行ってやる。

 戦えないなどしらん。朕の機嫌を害しただけで、万死に値する。虫けらを今まで生かしてやったのだ。最後に無様に散って、朕を少しでも楽しませろ。

 しかし、あの猫……



 何故、死なんのだ!!



 朕の力は、帝国最強のガクヒですら子供をあしらう様なものなのに、六人の朕相手に互角にやりあっているだと? ありえん……

 それにあの猫、笑ってないか? くそ! 朕をどこまでも愚弄する猫だ。最強魔法で一気に蹴散らしてやる……いや。朕が加われば、それだけで余裕が無くなるであろう。



「死ね! 【ファイアーバード】!!」



 皇帝はシラタマに向けて、巨大な火の鳥を放つのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 おっと、【氷猫】発射!


 影との斬り合いが長引くと、皇帝から火の鳥が飛んで来た。火の鳥は影を呑み込み、そのままわしに直進。【氷猫】とぶつかると同時に消失する。


 ちょっと遊び過ぎたか。刀の練習にちょうどいい相手で、楽しくなってしまったわい。人間では、わしに付き合ってくれる人がいなかったもんな。じゃが、闘いの最中じゃった。わし反省。

 それはそうと、いま、影は火の鳥に呑み込まれたはずなんじゃが、ピンピン動いておるな。


「にゃ!?」


 わしが反省して、影に目をやっている隙に、影が一斉に飛び掛かる。反応が遅れたせいで、受けるしか手がない。


「にゃ! そにゃ!! そにゃにゃにゃにゃにゃ~~~!」


 わしは二本の刀で受け止めると同時に、全ての武器を弾き返し、さらに巧みに刀を振るって、影の腕や体を素早く斬り刻む。

 その素早い攻撃で、全ての影は武器を落とし、しゃがんで拾おうとする。わしは追い討ちをかけようとするが、生き残っていた土亀が突進して来たので、跳んで避けながら【鎌鼬斬り】を数度振るい、大きな岩に変えた。


 ふぅ。さすがにイサベレの三倍強い相手が七人もいると、面倒じゃな。それに斬っても死なないからたちが悪い。

 いまのところ影の情報は、死なない。魔法は使えないのみか……タネもわからんし、本丸に斬り込むか……


 あれ?


 武器を落とした影達は、各々武器を拾うが、一体だけ違う動きをし、後方に刺さっている武器を取りに下がって行った。


 武器は、わしの角度から見えておるんじゃけど、影からは土亀の破片で見えておらんのか? 武器を取りに行くより、中間地点にあったんじゃから、わしに向かって拾った方が早いと思うんじゃが……

 う~ん。本丸の前に、念の為、調べておくか。



 影達はわしが考えている間も、近付いて取り囲み、一体減っていてもかまわず攻撃を繰り返す。

 わしは、そんな影の攻撃をかわしながら腕を斬り、落とした武器は、次元倉庫に入れてしまう。

 すると影はキョロキョロとした後、武器を取りに下がって行く。次も、その次の影も、武器を取りに下がって行った。


 ひょっとして……武器が無いと攻撃できんのか? そう言えば、奪った武器は全て柄まで白魔鉱じゃった。白魔鉱じゃないと、持てないのかも。もしかすると、黒魔鉱でも持てるかもしれんが……

 なるほど。わしの武器も魔鉱じゃから、斬った感触があったんじゃな。これが普通の武器なら空振って、すぐに謎解き出来たのにしてやられたわ。

 最初の【突風】も大剣の腹で受けていなかったら、飛んで行く事もなかったのに、それにも騙されてしまったな。

 まぁ弱点がわかれば、武器を没収してやればいいだけじゃ。


 わしは向かってくる影の腕を斬っては、武器を次元倉庫に入れていく。数度繰り返したが武器は多くあるので、攻撃して来る影達の武器を一斉に没収するタイミングを作る。

 影達が一斉に武器を振り下ろした瞬間を狙って、全員の腕を切断。そして、武器を奪い取ったらすぐに武器の山まで走り、一気に次元倉庫に入れてしまう。

 すると影達は、ウロウロするだけで、わしへの攻撃は止まった。


 やはり武器が無いと、何も出来ないんじゃな。何度か蹴飛ばした時も空振ったし、実体はなかったんじゃな。



 わしはウロウロしている影達は無視して、皇帝に歩み寄る。


「さて……これで手詰まりかにゃ?」

「なかなかやるな」

「まだにゃにかあるにゃ?」

「当然だ」


 マジか~。心を折ってから、猫耳族に差し出そうと思っていたのに、なかなか折れてくれんな。


「最強魔法……もう詠唱は済んでおる。【ドラゴンフレア】」


 皇帝の魔法と共に、5メートルはある炎のドラゴンが出現し、辺りに高熱を振り撒く。


 あっついの~。ここは【雪化粧】。よし。涼し~い。

 てか、皇帝は最強魔法と言ったな。これを破れば、さすがに心は折れるかな?

 しかし、この熱量がリータ達に向くと厄介やっかいじゃ。注意しよう。


「……喰らえ」


 皇帝が低い声で命令すると、炎のドラゴンはわしに襲い掛かる。

 まずは体当たり。巨体のわりに速度があり、熱と加えて、さながら隕石だ。

 わしは試しに【土壁】で守るが、簡単に砕け散る。なので、次の魔法でドラゴンの突進を止める。


「【光盾】にゃ~」


 五枚の透明な光の盾。女王に贈った短刀の応用。1メートル四方の五枚の盾を、わしの前に浮き上がらせ、ドラゴンは道をはばまれる。

 皇帝は両手を前に魔力を込めるが、わしも同じように魔力を込めて耐える。その押し合いがしばらく続くが、先に根を上げたのは皇帝。

 ドラコンを後方に引かせると、右から回り込まそうと移動する。わしもそれに合わせて、少し左に移動する。


 そしてドラコンは、わしに顔を向けると口を開く。


「これで最後だ」


 皇帝の言葉の後、炎のドラコンの口から、高出力のバーナーが放出される。


 やりそうな事はわかっていたから、五枚の盾だったんじゃけどな……よっと!


 わしはバーナーの軌道に五枚の【光盾】を重ねるように並べる。その直後、バーナーと【光盾】は接触し、火花と轟音が辺りに響く。



 押し合いは数十秒続き、バーナーを放出し続けたドラコンは徐々に縮んで、最後の炎を吐き出すと、消滅する事となった。


「フハハハハハ。皇帝の朕に敵うものなどあるまい」


 炎の残る空洞で、皇帝は高らかに勝利宣言を口にする。


「あの~? まだわしは生きてるんにゃけど~? 【突風】にゃ~」


 わしは申し訳なさそうに声を掛けて、辺りの炎を吹き飛ばす。


「ば、馬鹿な……」


 かなりの威力じゃったもんな。本来ならクイーンでも、体は残っておらんかったかもしれんのう。当たればな。

 わしの【光盾】も二枚割れてしまったわい。ドラコンの顔にビビッて五枚出したけど、多過ぎたな。

 じゃが、皇帝の顔に焦りが生まれた。もうひと押しで、心は折れそうじゃわい。


「もう終わりかにゃ?」

「何故……生きている?」

「簡単な事にゃ。わしがお前より強いからに決まっているにゃ」

「そんなわけがない! 誰一人、朕より上にいるはずがない!!」

「人間ならにゃ。獣には、お前レベルはそこそこいるにゃ。あ……お前の強さは、ここ限定だったにゃ。一歩外に出れば、お前にゃんて獣の足元にも及ばないにゃ」

「ふ、ふざけるな!!」

「信じられないにゃら、これから嫌と言うほど味わわせてやるにゃ」


 わしは【黒猫刀】を次元倉庫に入れながら歩き出す。すると皇帝は、わしをにらみ付けて叫ぶ。


「【フレアドラゴン】二体召喚! まだまだ~! 【フォーアニマル】……クッ……ハァハァ」


 皇帝は二匹の炎のドラゴンと、四匹の獣を同時に作ると、無理がたたったのか膝を突く。


 あら? 外の魔力を使っているのに疲れるのか。頭を押さえているから、あれほどの大魔法の連発は、脳に負担が掛かるのかな? 勉強になるわい。

 それにしても、【フォーアニマル】とは……わしのモノと違いを見せてやるかのう。少し出力を抑えてっと。


「【四獣】にゃ~!」


 わしの作る四匹の獣。火の鳥、風の虎、氷の龍、土の亀。相手に合わせて、全て5メートルに統一。しかし、威力は言霊が乗って、皇帝の魔法の軽く倍はある。


「貴様……真似しやがって~!」

「どっちがにゃ~~~!」


 怒る皇帝。キレるわし。同時に魔法の獣を走らせる。


 勝負は歴然。二体のドラゴンは、【青龍】の凍りつく巻き付きと、【白虎】の風の刃で消失。

 四匹の獣も、【朱雀】に火の鳥が呑み込まれ、その熱に氷の蛇は蒸発。【玄武】の体当たりで土の亀は粉砕し、数度の噛みつきで風の虎も掻き消されてしまった。


 そのかたわらで、一匹の猫は悠々ゆうゆうと歩き、皇帝の目の前まで歩を進める。


「にゃ~? わしの物真似では勝てないにゃ」

「だ、黙れ~!!」


 わしの挑発に、皇帝は腰に帯びた剣を抜いて振り下ろす。わしは軽く刀を振って、その場から動かない。


「ギャーーー! 手が~~~!!」


 皇帝は、目にも見えぬ剣速で手首を斬り飛ばされ、悲鳴をあげて、腕を押さえる。


「それぐらいの痛みで、のたうちまわるにゃ! やっぱりお前は誰よりも弱いにゃ。奴隷にゃら、そんにゃ事をされても口を開かないんじゃないかにゃ? 当然にゃ。声を出しただけで、次の罰があるからにゃ」

「ぐっ……これしき、朕の魔法に掛かれば……」

「にゃ? 治療できる魔法も持ってるんにゃ。それは助かるにゃ~」

「ふ、ふざけるな~! ……ギャーーー!」


 皇帝は腕を治すと、すぐにわしに斬り掛かる。わしは今度は、肘の下あたりから斬り落とし、ついでに右足も斬り落とした。


「ほれ。早く治さにゃいと、血を流し過ぎて死んじゃうにゃ~。仕方ないにゃ~」


 わしは倒れて動かない皇帝の、右手と右足を拾って投げ渡す。皇帝は必死に治療にあたり、少し時間が掛かりそうだったので、わしは落ちてある剣と盾を没収しておいた。


「治るまでにいい事を教えてやるにゃ。お前が山向こうに差し向けた軍隊……全部わしが潰したにゃ」

「嘘を言うな!! 我が軍には……」

「パンダにゃろ? フェンリルにゃろ? あんにゃもん、わしの敵ではないにゃ」

「そんなわけがあるはずない!!」


 皇帝はわしの無駄話に付き合いたくないのか、睨みながら立ち上がろうとする。


「治ったかにゃ? 武器も無くなったけど、どうするにゃ?」

「まだ魔法が……ギャーーー!」


 今度は魔法を使おうとした皇帝の肩口に刀を突き刺し、グリグリとする。


「覚えてないにゃ? ついさっき、魔法でも負けたにゃ。唱えられるならやってもいいけど、敗北を認めたほうが、楽が出来ると思うにゃ~」

「朕が敗北だと? そんな事は起こりえぬ!」

「現実を見てくれにゃ~。お前の軍隊は敗れ去ったにゃ。お前の放った魔法は、ことごとくわしに潰されたにゃ。お前の放った剣はわしに届かず、血を流したにゃ。これを敗北と言わず、にゃんと言うにゃ?」

「朕はまだ生きている! 朕こそが皇帝であり、朕こそが帝国を統べる、この世を統べる皇帝だ~~~!」

「はぁ……わかったにゃ……」


 わしは肩から抜いた刀を半回転させ、峰打ちで、皇帝の意識を刈り取るのであった。

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