255 皇帝と対面にゃ~


「「突撃~~~!」」


 二人の将、コウウンとガクヒ将軍の号令で、最後の戦いが始まった。


 さすが猫耳族の猛者。猫の身体能力で、倍の戦力差を食い止めておる。いや、やや押され気味かな? でも、一角は押しておるな。

 シェンメイか……。馬鹿力で戦斧を振り回しておるわ。ひと振りごとに人が飛んでおるな。あとはコウウンもか。剣だけでなく、全身武器じゃな。斬って殴って蹴り飛ばしておる。

 まだボス戦が残っておるんじゃから、他に任せればいいものを……。少しぐらい削ってから、ラスボスを拝もうかのう。


「わし達も行くにゃ~!」

「「「「にゃ~~~!」」」」


 リータ達の気の抜けた返事を受けたわしは、宮殿に向けてまっすぐ歩く。その斜め後ろをリータとメイバイが右と左にわかれ、中にノエミ。殿しんがりにケンフを置いて進んで行く。


 わしに向かって来る敵は、目にも留まらぬ抜刀術で弾き飛ばされ、リータに向かって来た敵は拳でぶっ飛ばさる。、

 メイバイに向かって来た敵は、片手片足をナイフで斬り裂かれて蹴り飛ばされ、ケンフに向かって来た敵は拳法で斬り裂かれて、こちらも蹴り飛ばされる。

 これほど簡単に敵が吹き飛んで行くのには、ノエミの活躍が大きい。飛び込んで来た敵に対して、【エアボール】なる魔法をぶつけて動きを止めてくれているからだ。

 また、遠距離攻撃が来た際には、わしが風魔法でガードし、皆の攻撃の手を休めないようにしているのも大きい。



 わし達は敵をものともせずに進撃し、誰よりも早く、ガクヒ将軍と相対する。



 あちゃ~。シェンメイとコウウンに譲ると言ったのに、先に辿り着いてしまった。ダメ元で、先に行かせてくれるか聞いてみるか。


「えっと~。そこを通してくれにゃいかにゃ?」

「私と戦わないのか?」

「うんにゃ。残して来た者に譲るって言ってしまったにゃ~」

「そうか……。ところで、猫耳族を従えているお前は何者なのだ?」

「あ! 名乗るのを忘れていたにゃ。わしは猫耳族の王をやっているシラタマにゃ」

「お前が王なのか……」


 あからさまに疑っておるな……。わしだって、こんなぬいぐるみのような王様が居るとは、到底信じられん。


「まぁ見えないだろうにゃ。ひとつそれらしい事を言っておくと、外の亀も火の鳥も、わしの仕業にゃ。これだけで力の差がわかってもらえるにゃ?」

「あれが一人……いや、一匹の仕業だと……」


 そこは言い直さなくてもいいんじゃが……


「やりあってもいいんにゃけど、あにゃたの場合、あとがあるから一撃で終わらせてもらうけど、いいかにゃ?」

「ハハハ。魔法は凄いのはわかったが、私の剣術に敵う者はいない!」


 ガクヒは腰に帯びた二本の剣を抜くと、凄まじい速さで振り回し、わしに向けてピタリと止める。


「……ケンフ。そこの剣を拾って、わしに投げるにゃ」

「ワン!」


 ケンフは近くに落ちていた剣を拾うと、山なりに投げる。わしは微動だにしないで、剣が落ちるまで見つめる。

 数秒後、地に落ちた剣の状態に、ガクヒは驚愕の表情を浮かべる。


「なっ……剣がバラバラになっている……」


 わしは微動だにしていない。皆にそう見えただけ。ちょっと速く動いて、数十の斬撃を剣に加えただけだ。


「で……やるにゃ?」

「た、大将は私では無いから、先に進め……」

「それはよかったにゃ。ところで、皇帝の居場所はわかるかにゃ?」

「地下で瞑想しているはずだ。もしも私を倒すような猛者がいれば、そこに誘導しろと言われている」

「そうにゃの? ひょっとして皇帝って、ガクヒ将軍より強いにゃ?」

「ああ。私など、足元に及ばない。お前の実力はハッキリとはわからないが、お前の兵隊なら、易々と破るだろう」


 マジですか? ラスボスとは思っていたけど、そう言う意味じゃなかったんじゃけど……。皇帝って強くないと出来ないのか? どっかの魔王じゃないんじゃから、太ったおっさんとかにして欲しいわい。


「情報、感謝するにゃ~。ケンフは残って、コウウン達を見届けてくれにゃ。コウウン達に渡したブレスレットあげるから、もしもの時は、助けてやってくれにゃ」

「ワン!」

「みんにゃは、わしの勇姿を見届けてくれにゃ~」

「はい!」

「わかったニャー!」

「ええ」


 ケンフに続き、リータ、メイバイ、ノエミの返事を聞いたわしは、声高々に右手を上げる。


「さあ。行っくにゃ~!」

「「「にゃ~~~!」」」

「ワオ~~~ン!」


 相変わらずの気の抜ける掛け声を聞いて、わし達は宮殿に足を踏み入れるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 宮殿に向かうシラタマ達を見送ったガクヒ将軍は、背筋を正して立つケンフに話し掛ける。


「おい、お前……ケンフと言ったな?」

「はっ!」

「たしか、帝国軍に仕官した中に居たよな? 何故、あの猫に、犬のように尻尾を振っているんだ?」

「それは俺が、シラタマ王に、手も足も出ずに負けたからであります」

「そんなに強いのか?」

「はっ! 正真正銘の化け物であります。おそらく、シラタマ王ならば、伝説の厄災リスすら手懐けてしまうでしょう」

「そ、そうか……」


 二人が猫について話をしていると、コウウンとシェンメイが敵を抜けてガクヒに辿り着いた。


「ケンフ! またお前がおいしいところを持っていこうとしてるの!!」

「今回は俺達の獲物だ!!」


 いきなりシェンメイとコウウンに噛み付かれたケンフは、丁寧に答える。


「いえ、見届け人として残っただけです。どうぞお好きなようにやりあってください」

「そうなの? じゃあ、私からね」

「いや、俺で終わりだ」

「コウウンさん! ここはレディファーストで譲るものでしょう?」

「いや、年配の者を敬うべきだ」


 二人は言い争いを始めるので、見兼ねたケンフが順番を決める。


「コイントスで決めましょう」

「「コイントス?」」

「表と裏を当てるだけです。どちらにします?」

「あたしは表」

「裏だ」

「行きます!」


 ケンフの弾いたコインは弧を描き、手の中に収まる。再び手を開くと決着がついた。


「表です」

「やった!」

「クソ!」

「ガクヒ将軍、お待たせしました。どうぞ、やりあってください」


 喜ぶシェンメイに、悔しがるコウウン。その姿を見てケンフが、ガクヒに戦うように促すが、三人のやり取りが長かったせいで少し呆れている。


「やっとか……。どうやら我が軍は劣勢みたいだし、せめて一矢報いるとするか」

「敗けを認めて、降参する選択もありますよ?」

「「それはダメだ!!」」


 ケンフの降伏勧告に、コウウンとシェンメイの声が重なる。すると、やれやれといった顔をするガクヒは、腰の刀を抜きながらケンフに声を掛ける。


「だそうだ」

「ですね。では、僭越せんえつながら、俺が開始の合図を出させていただきます。……はじめ!!」



 ケンフの合図で、シェンメイとガクヒ将軍の戦いは始まるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 その頃、わし達はと言うと……


「にゃあにゃあ? 地下に行く階段って、どこにあるにゃ?」


 道に迷っていた。


「知らないわよ。ケンフを置いてきた猫君が悪いんでしょ」


 ちょっと質問しただけなのに、ノエミがわしのせいにする。


「だって、向こうにも戦力が必要にゃ~」

「シラタマさんが悪いです」

「私もそう思うニャー」

「そんにゃ~」


 リータとメイバイまでわしのせいにする始末。全ての罪を、わしのせいにするので、情けない声が出てしまうってものだ。


「……わかったにゃ」

「どうするのですか?」

「地下に向かって、大きな穴を開けるにゃ!」

「「「もっとダメでしょ!」」」


 リータの質問に答えたら、わしは三人に怒鳴られてしまった。


「にゃ!? 名案だと思ったのににゃ~」

「そんな事をしたら、皇帝さんは生き埋めになってしまうじゃないですか」

「地下に隠れているから悪いにゃ~」

「城だって崩れるかもしれないでしょ」

「もし崩れても、わしがいるから大丈夫にゃ~」

「猫耳族が取り残されているかもしれないニャー」


 怒鳴られてもショートカットを諦めきれないわしに、リータとノエミが諭すが、説得を繰り返す。だが、メイバイの心配する声で、わしは完全に諦めるしか出来ない。


「にゃ……じゃあ、どうするにゃ?」

「誰か捕まえて吐かせましょう」

「ですね。それが確実です」

「シラタマ殿。行くニャー」

「にゃ~」


 わしの名案は、ノエミの普通すぎる案に取って代わり、リータとメイバイの賛成を得て、決定となってしまった。それから三人は辺りを注意して歩き出すので、わしは弱々しく返事をしてついて行く。わしが大将なのに……


 ほどなくして出会ったメイドさんに、地下への道を聞き、丁重にお礼を言って別れた。

 メイドさんの言う通り、階段があったので下るが、長い螺旋階段のような作りになっており、一向に到着しないので、お喋りをしながら階段を下りる事となった。


「なんだか、意外そうな顔をしていましたね」

「殺されると思ったんじゃない?」

「そんにゃ事しないにゃ~!」


 お喋りの内容は、出会ったメイドさんの話。リータが口を開くと、ノエミが酷い事を言うので、わしは反論する。


「いや……普通の敵はするでしょ?」

「そうにゃの?」

「シラタマ殿は普通じゃないから、そんな事しないニャー」

「わしのどこが普通じゃないにゃ?」

「「「………」」」


 メイバイまでもが酷い事を言うので、質問するが、誰も口を開こうとしない。


「にゃんか言ってにゃ~!」

「やっと階段が終わりました」

「あの扉じゃない? 大きいわね」

「シラタマ殿。開けるニャー」

「無視するにゃ~!」

「はいはい」

「普通普通」

「かわいいかわいいニャー」


 なんじゃその適当な言い方は……


「納得いかないにゃ~」

「「「さっさと開ける!」」」

「にゃ……」


 三人に怒鳴られたので、渋々、高さ5メートルはありそうな大きな扉の前に立ち、押して開けようとする。しかし、扉は開かなかったので、そのまま力を込めていたら、蝶番ちょうつがいが壊れて倒れるように扉は開く。


 扉がバタンと倒れると、だだっ広い空間がわし達の前に現れるのだが、ノエミが変な事を言う。


「引いて開ける扉じゃなかったの?」

「にゃ……にゃははは」


 わしが笑って答えると、リータとメイバイの冷ややかな目が突き刺さる。


「もう! もっと緊張感を持ってください!」

「開いたんだからいいにゃ~」

「まったくシラタマ殿は……」


 皆に呆れられながら部屋に入ると、空気の違いに気付く。


 まさかとは思っておったが、この部屋……魔力の濃度がかなり高い。部屋から漏れていたのも納得じゃわい。


「シラタマ君……」

「ノエミも気付いたにゃ?」

「ええ。こんなに魔力濃度が高い場所は初めてよ」

「キョリスの巣並みに高いにゃ」

「そんな場所で、人間が暮らすとどうなるの?」

「さあにゃあ……」


 断定は出来ないが、強くなるじゃろうな。わしも、キョリスの巣近くで生活したら、格段に強くなったからな。まぁわしの場合は、重力魔法と吸収魔法が大きいけどな。



 わし達がだだっ広い部屋をまっすぐ進むと、玉座があり、そこに座る人物が目に入る。


 エルフ? 耳が尖って長い、いかついおっさんが座っておる。エルフなら若い姉ちゃんがよかったんじゃが……

 そんな事より強さじゃな。とても人間とは思えん。大蟻のクイーンと同等……イサベレと比べると、三倍はいっておるぞ。


 わしが、いかつい筋肉エルフを観察していると、リータ、メイバイ、ノエミが各々の感想を述べる。


「シラタマさん……。エルフって華奢きゃしゃで美しいイメージがあったのですが……」

「わしもにゃ~」

「筋肉も、シェンメイよりムキムキニャー」

「どっちかと言うと、ドワーフみたいにゃ~」

「なに暢気のんきな事を言っているのよ! でも、私のエルフ像が~~~!!」

「本当にゃ~。チェンジしてくれにゃいかにゃ~?」


 わし達がペチャクチャ喋りながら玉座に近付くと、皇帝が語り掛ける。


「うるさいわ! 誰が残念エルフだ!!」


 どうやら、わし達の雑談は聞こえていたみたいだ。


「そんにゃこと言ってないにゃ~。本物のエルフに代わって欲しいと言ったんにゃ」

「朕こそ、朕の前に立つ者は、精悍せいかんな武将にして欲しいわ! なんで猫と女子供おんなこどもなんだ!!」


 人族と猫耳族の大将どうしが相まみえたのだが、どうやら皇帝も、チェンジをご所望しているらしい……

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