675 猫王様のアメリカ横断記にゃ~
「これでチョコ作っていい!?」
カカオの発見に浮かれるべティがそんな事を言っているが、わしはリータとメイバイの撫で回しと、イサベレの卑猥な手と戦っているので返事は出来ない。
べティも「何をしているんだか……」とか呆れていたが、何かが鼻を刺激したようだ。
「なんかくさくない?」
その発言でリータ達の手が止まり、わしをべティに差し出しやがった。
「クンクン……シラタマ君はいいにおいね。これじゃないわ」
「やったにゃ~~~!!」
「なに? なんで喜んでるの??」
ついにわしはスカンクの呪いから解放されたのだ。大袈裟に喜んでも仕方がない。直接スカンク液を喰らったリータ達とは違うのだよ。フフン。
「実はだにゃ。白いスカンクがにゃ~」
誰とは言わないがスカンク被害にあったと説明して、誰とは言えないがなんとかして欲しいとべティに相談してみた。
「あ~。ちょっとにおいが残っているだけだし、強いにおいで誤魔化したら? 中世ヨーロッパではよくある手よ」
「にゃ! その手があったにゃ!! にゃんかいいにおいの香水持ってないにゃ~?」
「あるっちゃあるけどね~……」
「にゃにその手……」
べティがお金を要求するように指でわっかを作るので、わしは財布を取り出してゴソゴソとする。
「このカカオ、全部ちょうだい!!」
いや、お金よりカカオが欲しかったようだ。
「帰ってから培養しようと思ってたんにゃけど……」
「その手があったか~~~!! って、猫の国の気候で作れるの??」
「飛び地で南の島は持ってるんだけどにゃ~」
「よし! そこをチョコレー
「「もう、猫の島とついてるにゃ~」」
「「そうにゃの!?」」
べティが変な事を言い出したが、リータとメイバイに「猫の島」と言われて、まさかあの無人島に名前が付いているとは知らなかったので、わしもべティと同じぐらい驚くのであった。
「なんでシラタマ君まで驚いているのよ~」
「それを言ったら、べティもにゃんでわしの口調をマネするにゃ~」
「えっ!? うつってた!?」
どうやらべティも流されやすいので、わしの口調が染み付いていたらしいのであったとさ。
「カカオは南にある小国にでも頼んでみるにゃ~」
「それはいいんだけど、ちょっとぐらい……」
「仕方ないにゃ~」
べティには今あるカカオの三分の一を加工してもらう事にして、チョコレート製造も猫の国に帰ってからで落ち着いた。
あとは、リータ達のにおい消しの香水を貰うだけだ。
「持ってないにゃ!?」
「あたし、かわいい幼女だも~ん」
「いったいいつににゃったらかわいいは置いておくんにゃ~」
「置いておけるわけないでしょ。かわいいんだから」
「もういいにゃ! 香水を売ってるとこ教えろにゃ~」
べティがかわいこぶるのでわしはムカついてキレてしまったが、カカオ発見で気分がいいみたいなので香水の売ってる場所を教えてくれた。でも、貴族街なので、詳しい場所は知らないらしい……
わし達のほうがまだ詳しそうなので、べティの帰る日取りだけ聞いて貴族街に徒歩で向かう。
貴族街ではわしの鼻を頼りに、ケバイにおいを探したらすぐに香水店が見付かったので、さっそく入店。
だが、わしとコリスとメイバイは鼻が良すぎるので、すぐに撤退。しかしメイバイは、スカンクのにおいを消したいから果敢に突っ込んで行った。
コリスと一緒に「あんな場所によく入って行けるよね~?」と喋っていたら、ケバイにおいのリータ達が出て来たので鼻を摘まんだ。
「「よけいくさくなってるにゃ~」」
「「「「ええぇぇ~!?」」」」
どうやら皆は、何を買っていいかわからなかったので、店員に「猫を落とせる香り」と頼んだそうだ。
店員も意味がわからなかったので、雄なら落とせる香水を選んだようだが、リータ達はめいいっぱい振り掛けてしまったのでくさくなったっぽい。
「わしの頼んだ柑橘系の香水は買って来てくれたにゃ?」
「いちおう……」
「コリス。おいでにゃ~」
リータから香水を受け取ると、コリスに少量を振り掛けてみた。
「クンクン……うんにゃ。いいにおいになったにゃ~」
「ほんとうだね。わたしフルーツになったみたい。ホロッホロッ」
わしがにおいを嗅いでコリスを褒めるとご満悦。ちょっと食べ物よりだが、スカンクのにおいが消えたのだからいい傾向だろう。
「「「「クンクンクン……わからないにゃ~」」」」
スカンクに続き、香水でも鼻がバカになってしまったリータ達であったとさ。
そのまま城に走って帰ったら、またお風呂。リータ達は必死に体を洗い、わしは皆の服を洗濯。かなりにおいは落ちたので、適量の香りになったと思えるが、わしはあまり好きな香りじゃない。
「なんでシラタマさんは、柑橘系の香水を選んだのですか?」
「誰がつけてたニャー!」
なんだか香水から浮気疑惑となってしまって怖いので、元の世界で娘がつけていたと説明してみた。
「それならそうと言ってくださいよ~」
「言ってくれたらこんなくさい香水、選ばなかったにゃ~」
「いや、わしは柑橘系を買って来てって言ったにゃ~」
別に好きとは言わなかったが、これでわしがさっぱりした香りが好きだと気付いて欲しかった。それなのに店員に変な注文をして振り掛け過ぎたリータ達が悪いのだ。
だから撫で回さないでくださ~い。リータ達のにおいが移りそうで~す。
この日はリータ達から逃げ回り、わしはコリスと一緒の布団で眠ったのであったとさ。
翌日は、ジョージと会食。昨夜は忙しそうだったので、話は朝にしようと言っておいたから、サンダーバード達の羽根や写真を並べて世間話をしている。
「ほへ~。あの音と衝撃はシラタマさんのせいだったんですか」
「ここまで届いていたらしいにゃ。にゃんか被害とか出てなかったにゃ?」
「ちょっと騒ぎになってましたけど、被害はありません。ま、あの騒ぎに比べたら、微々たる物です。シラタマさんはトラブルメーカーですからね~」
わしのどこがトラブルメーカーかわからないし、ジョージはどの騒ぎを指しているのかもわからない。
「ま、騒ぎばかり起こしていては、どのことを言ってるかわからないでしょうね。あはは」
「さっぱりにゃ~。にゃははは」
ジョージには心を読まれていなさそうだが笑っていたので、わしも笑って誤魔化しておいた。
「しかし、こんな色鮮やかな鳥がこの世に居るのですね。俺も見てみたくなりましたよ」
「言っておくけど、サンダーバードに近付き過ぎたらたぶん死ぬにゃ。絶対に狩りに行くにゃよ?」
「わかってますって。シラタマさんより強いんじゃ、あの恐怖を思い出して行けませんって」
「先祖代々受け継げよにゃ~? サンダーバードを怒らせたら、わしが助けに来る前にアメリヤ王国は滅ぶんだからにゃ」
「うっ……何か法律を作っておきます」
ジョージが脅しに屈してくれたので、色鮮やかな鳥達の羽根を一本ずつプレゼント。ハンターギルドの基準に当て嵌めて強い順に並べたら、白い生き物辺りからアメリヤ王国が滅ぶ未来を教えてあげた。
それから猫軍魔法部隊の進捗状況を聞いたら、べティの帰る日と同じぐらいに帰れそうだったのでその日にまた顔を出すと言って、わしたち猫パーティは猫の国に帰るのであった。
キャットタワーに帰って翌昼には、さっそく猫耳小説家の取材。双子王女もまじえてサンダーバードの驚異を教えてあげた。ついでにスカンクの驚異も教えてあげたので、リータ達の姿もコミカルに書かれるだろう。
でも、ナイアガラの滝行は書くなと言っておいた。ナイアガラまで行けるわけがないのはわかっているけど、違う滝でマネして怪我人や死人が出て訴えられたらたまったもんじゃないもん。
これで「猫王様のアメリカ横断記」の取材は完全に終了。今回に限り、わしが確実に目を通すまで小説は出版させない。
アメリヤ王国と戦争したなんて書かれては、猫の国が怖がられるからな。ちょっと観光した事にして、歴史の闇に葬り去られるのであった。
でも、猫耳小説家は書いていたらしく、双子王女の検閲がなかなか通らず、わしの元へ届くのはかなり遅くなったとさ。
これは、東の国の戦争でもあるのだから……
イサベレを東の国に追い返し、面倒な仕事を早目に終わらせたわしはべティを迎えに行くまで惰眠を貪る。そうして約束の日になったら一人でアメリヤ王国に出向き、三ツ鳥居を使ってべティと猫軍魔法部隊を帰還させた。
こちらの時間に合わせて迎えに行ったので、あとは猫の街まで呼び寄せていたウンチョウに丸投げ。いちおう労いの言葉を掛けておいたので、王様の仕事としてはこんなもんだろう。
用心棒で雇っていたエルフ夫婦には給金とお土産を渡し、猫の街で時差を合わせる休暇を取ってから、エルフの里に戻るように指示を出しておく。多少の観光は許すけど、早く帰るんだよ~?
それからわしはべティを背負ってキャットタワーに戻った。
「さあ! エミリ、やるわよ!!」
「うん!!」
10階キッチンでは、べティとエミリが腕を振るう。その仲睦まじい親子の調理風景を猫ファミリーで見ていたのだが、コリスは味見しに行くのやめよっか?
キッチンから漂う甘ったるい香りに、コリスだけでなくリータ達も興味津々。今まで作っていたチョコより香りが段違いに強いので、食欲を刺激されたようだ。
「「モグッ! モグモグモグモグ!!」」
「「「「にゃ~??」」」」
「出すにゃら口の中を空にしてから持って来いにゃ~」
べティとエミリは仲良くつまみ食いしながらチョコの乗った皿を出してくれたので、わし達は何を言っているかさっぱりわからない。
しかし、二人は食べろ的な仕草をして食べ続けているので、わし達もチョコに手を伸ばした。
「わっ! 今までのチョコより美味しいです~」
「口の中でとろけて美味しいニャー!」
「「星みっちゅ!!」」
本物のチョコを口にしたリータとメイバイは、ほっぺが落ちそうになっている。当然、コリスとオニヒメも最高得点だ。
「にゃはは。やっぱり
もちろんわしも手が止まらない。多種多様の材料を使って作り出されたコーヒー菓子とはまったく別物で、雑味がないから何個でもいけてしまいそうだ。
そのせいで、あっと言う間に完食。猫ファミリーは残念がっていたが、べティとエミリは満足そうな顔をしているので、そうなると思って先に大量に食っていたっぽい。
「これも飲んでみて」
「すっごく甘くて美味しいんですよ!」
べティとエミリは一度キッチンに戻って人数分のマグカップを持って来たので、わし達はフーフーしながら一口飲んだ。
「「「「ほっこりするにゃ~」」」」
「お~。ココアにゃ~」
リータ達は温かくて甘いココアを飲んでにっこり。初めての感覚なのに、皆の感想は揃っていた。しかしコリスは熱いのに無理して急いで飲んで、舌を火傷して涙目になっていた。
なので、回復魔法で治してわしのココアを飲ませてあげた。
わしはもう口が甘々で限界なので、自前のホットコーヒー。べティも何故か欲しがって来たので同じ物を出してあげた。
「むっ……なかなかやるわね」
「老後の暇潰しでけっこう勉強したからにゃ~」
「美味しいけど、あたしの口にはちょっと早いかも?」
「ほいっ。ミルクと砂糖にゃ~」
幼女の口ではコーヒーの美味しさがわかりにくいみたいなので、べティはカフェオレにしてから飲んでいた。そしてカカオ生産計画を話し合っていたら、べティは急に真面目な顔になった。
「シラタマ君……ありがとね」
「にゃ~?」
「エミリのことよ。ちゃんとお礼言ってなかったから」
「別にたいしたことしてないにゃ~」
「フフフ。エミリの言う通り、感謝しても受け取ってくれないのね」
「そのやり取りがむず痒いんにゃ~」
わしが体をボリボリ掻いていたら、思ったより早くべティの感謝の言葉は止まった。
「はぁ~……もう食べられないと思っていたチョコを食べれるなんて……幸せ~」
「まだ隠し持ってたにゃ!?」
全て食べ切ったと思っていたが、べティは収納魔法も使えるらしく隠し持っていたチョコを取り出して、コリス達にバレないように食べてやがる。
しかしその時、べティに異変が起こる。
「べティ! 鼻にゃ!」
「あん? なに騒いでるのよ……にゃんだこりゃ~!!」
わしが注意した頃には、テーブルに赤い水滴がポタポタと……
「鼻血ブーにゃ~」
どうやらべティはチョコを食べ過ぎたが為に、両方の鼻から血を出すトラブルに見舞われたようだ。
「食べる量は制限しようにゃ?」
「フガフガ~!!」
「べティの健康の為にゃ~」
こうしてわしは、鼻に詰め物をして喋りにくそうにしているべティのチョコを、心を鬼にして奪い取るのであったとさ。
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