323 犯罪者にゃ~


 リータとメイバイは、大きな白アメーバと戦闘を繰り広げていたが、攻撃が通じずに逃げ帰って来た。


「とりあえず、下がるにゃ」

「はい……」

「はいニャ……」


 わしが下がるように指示を出すと、二人はしゅんとして、湖のそばでくつろいでいるコリスに抱きつく。


 さて、代わったところで、わしもどうしたもんじゃろう? アメーバの弱点は何かわからんし……。森から出ておるし、ひとまず炎でも撃ってみるか。


「【火球】にゃ~!」


 わしから放たれた大きな火の玉は、白アメーバを包み込む。すると白アメーバはうにょうにょ動いて逃げようとするが、動きが遅い。

 そうして火の玉の中で苦しんでいた白アメーバは、わし達の見守る中、灰となって姿を消したのであった。


「えっと~……終わったみたいですにゃ……」

「「え~~~!!」」


 二人は納得できないからか、大きな声で叫ぶ。わしもこんなに呆気なく終わるとは思っていなかったので、同じ気持ちなんだから、ほっぺを引っ張らないで!



 二人はぷりぷりしているので、気分を変えさせる為に、食事をしようと提案する。皆がテーブルの席に着くとお弁当を取り出して、きらめく湖を眺めながらランチだ。


「うぅ。おいしいです……」

「でもニャー……」

「まぁ納得はいかないだろうにゃ~」

「そうです! 土魔法も効かないし、鎖も刃も通り過ぎるだけだったんですよ!」

「風魔法もニャー! 光の剣もかっこよく斬れたのに、すぐにくっついたニャー!」

「興奮するにゃ~! ごはんが飛んで来たにゃ~!!」

「「あ……」」


 二人は口に食べ物を含んだまま叫ぶものだから、わしとコリスのお弁当に降り掛かってしまった。コリスは気にせず食べているけど、わしは……まぁ愛する妻の出した物だし、虫よりマシなので我慢して食べる。


「要は、相性の問題にゃ。おそらくわし以外にゃら、太刀打ち出来なかったと思うにゃ」

「相性ですか……」

「そうにゃ。あんにゃにトロイのに、この危険な森で生き残っていたんにゃ。どんにゃ獣が来ても、殺せなかったんにゃろ。逆に体内に取り込まれて、殺された獣もいっぱい居たんじゃないかにゃ~?」

「白い獣でもニャー?」

「運が悪ければ殺されているにゃ。まぁメイバイ達みたいに、攻撃が通じないにゃら逃げたにゃろ」


 わしは二人をなだめるが、ぜんぜん納得してくれないので、塩湖を一周して獲物を探そうと提案する。

 そうして探知魔法を飛ばしながら白い粒を次元倉庫に入れていると、二人は何をしているのかと質問して来た。なので、湖の正体を説明して歩き、嬉しそうな二人に撫でられる。

 しかし、なかなか獲物が見付からず、どんどん二人の表情が険しくなる。


「まだですか?」

「隠してるんじゃないニャー?」

「そんにゃ事してないにゃ~。ここはちょっと窪みになってたにゃろ? さっきのアメーバが迷い込んだ獲物を食べてたんじゃないかにゃ~?」

「そんな~」

「そんニャー」


 結局、獲物は見付からず、ブーブー言うリータ達と塩湖散歩を終わらせて、マーキングしてから戦闘機で帰宅する。


 転移魔法で早くソウに戻りたいと言われても、わしも戦闘機の性能を試したいんじゃもん!


 こうして北の湖探索は、何事も無く、不満を溜めて終わるのであった。


「ホロッホロッ」


 コリス以外……





 それから数日後……


 リータとメイバイの戦闘欲求を満たすため、また大蟻駆除をやらされた。

 前回とは違う将軍二人を研修に連れて行き、ワンヂェンは見たくないと文句を言うので、見込みのありそうな二人の魔法使いを連れて行く。

 その見学として、ウンチョウもついて来た。ぶっちゃけ、久し振りに戦闘がしたいみたいで、わしのあげた白魔鉱の剣を熱心に磨いている。

 今回の巣は規模も大きく、キングまで居たので、リータとメイバイはテンションアゲアゲ。その他は、わらわらと出て来る蟻どもにサゲサゲ。


 リータとメイバイタッグでキングを当たらせ、コリスはクイーンとタイマン。危なければわしがフォローに回ったので、怪我なく駆除を終わらせた。



 帰りの機内では、反省会だ。


「リータ達はいいとして、軍の精鋭の動きがいまいちだったにゃ~」

「も、申し訳ありません……」


 わしの叱責に、ウンチョウは平謝りだ。


「まぁ少ない人数で、あの大群に取り囲まれたら怖いかにゃ?」

「ええ。それに空から落ちるのも……」

「わしのせいにゃの!?」

「い、いえ……」

「シラタマさんのせいですね」

「シラタマ殿のせいニャー」

「ごめんにゃさい!」


 責任転嫁するウンチョウを叱ろうとしたら、リータとメイバイが責めるので平謝りだ。わしが一番偉い王様なのに……

 反省会がほどほどに終わると、リータ達の武器の使い心地はどうだったかを聞いて怒りを逸らす。どうやらどちらの武器も、使い勝手が良かったようだ。


 キングの突進をリータの盾で受け止め、脚に鎖を巻き付けて拘束する。キングの風魔法も光の盾で無難に守り、そこをメイバイの光の剣二刀流で脚を斬り落とし、滅多打ちにしたっぽい。


 今回は満足していたようだが、まだソウに行くのですか? そうですか。



 それから数週間……


 王様の仕事のほとんどは各街の代表に振ったせいでやる事も無く、今日も暇を持て余したわしは……


「また庭いじりですの?」

「奥方もぜんぜん見掛けないですわね」


 優雅にお茶をする双子王女にツッコまれながら、数人の子供と一緒に庭いじりをしている。


「それに最近は、家にも帰って来ていませんですわね」

「怒らせて、家出されたのですの?」


 そう。リータ達は地下空洞の別荘で寝泊まりしている。なので特に仕事は無いのだが、わしは通い夫となり、そこから出勤している。わしの家はここなのに……


「そんにゃ事してないにゃ~」

「じゃあ、何をなさっていますの?」

「またわたくし達に秘密で、何かしてらっしゃるの?」


 まぁ秘密と言えば秘密じゃけど……ヤバイ! 心を読まれそうじゃ。これは強さの秘密じゃから知られたくない。とりあえず慎重に……


「二人は、ソウの街の輸出関係の仕事をしているにゃ。猫の街じゃ、工芸品もにゃにもないからにゃ」

「ああ。なるほど……たしかに必要な仕事ですわね」


 嘘じゃけど、なんとか乗り切れたか。


「そうですわ。先ほどお母様から連絡がありまして、王都からキャットトンネルまでの線路が完成したみたいですわよ」

「にゃ! やっとにゃ。それって、鉱山も繋がったのかにゃ?」

「ええ。そう聞いていますわ」

「じゃあ、近々捕虜を迎えに行かないとにゃ。女王にアポイントはお願いするにゃ~」

「わかりましたわ」


 双子王女には女王との連絡は任せ、わしは久し振りに自分にしか出来ない仕事に張り切り、コリスと一緒にラサの街へ追いかけっこ。ラサに着くと軍本部に入り、キャットトレイン担当の者と打ち合わせ。

 現在、キャットトレインは軍の管轄になっている。走行中に獣が出た場合は、乗り込んだ兵士が対応するので、軍に任せたほうが手っ取り早い。頻繁に走らせているわけでもないので、そこまでの負荷は掛かっていないはずだ。

 ただし、捕虜の移送は別便で運ぶ予定なので、キャットトンネルでの運行状況を聞いておかなくてはならない。


 運行状況を聞いた後日、女王と移送の相談。移送日時を決めて、女王とさっちゃんに撫でられてから帰宅する。



 捕虜の迎えには、十両編成のキャットトレインが先行で出発し、わしは到着の少し前に転移。さっちゃん2に変身したコリスと共に、捕虜に会いに行く。ここで初めて帝国が滅び、わしが王様になったと言ったら馬鹿にされた。


 そりゃ、猫じゃもん。コリス! やっておしまい!!


 さっちゃん2に変身させていたコリスが巨大リスになって威嚇したら、全員ブルブルと震えておとなしくなった。


 わしをタヌキと言うから悪いんじゃ!


 おとなしくなった捕虜に、帰る旨を伝えると半信半疑。別に信じなくても、契約魔法の譲渡じょうとを行ってもらっているから、反対も反抗も許されない。

 簡単な説明が終わると、猫の国から到着していた十両編成のキャットトレインに乗せる。五百人以上いたが、余裕を持って、全員入ったようだ。

 このキャットトレインにはガクヒ将軍も乗っているので、あとは丸投げ。わしは転移で帰る。

 捕虜達が猫の国に着く頃には現実を受け入れてくれるだろう。ただし、探していた犯罪者の貴族も乗っているので、帰ったらウンチョウの厳しい取り調べも待っている。


 そうして四日後、ラサの街に到着した捕虜は、わしから契約魔法を譲渡されたウンチョウに取り調べられ、犯罪者と軍に帰属する者、故郷に帰る者とに分けられる。

 聞いた話だと、探していた貴族はほとんど見付かったと報告を受けた。その貴族は犯罪者なのでわめき散らし、その他の大多数はわしに感謝しているとのこと。ウンチョウは、無理矢理わしに感謝させなくてもいいのに……



 犯罪者の貴族は全て見付かってはいないが、この返還を持って、猫の国と東の国の人の行き来は始まった。



 しかし、東の国でも列車が走っているので、わざわざ猫の国にやって来る者がおらず、やって来るのは商人だけ。しかも、だいたいがラサとソウに向かうので、猫の街は閑古鳥が鳴いている。

 まぁ猫の街に来ても、ラサに米も加工品も納品しているし、商人にはメリットが無い。珍しいモノと言えば、マスコット三匹と、巨大牛が歩いているだけだ。

 ……これがあるから、珍しい物が無いと商人には説明してもらっているので、やって来ないのだ。



 そんなある日、猫の街に事件が起こる。


 たまたまわしは、リータとメイバイの気分転換でソウから連れ出し、コリスも一緒に猫の街を散歩していたら、食堂が騒がしくなっていたので駆け付けた。


「にゃあにゃあ? にゃんかあったにゃ?」

「猫王様!?」


 人だかりが出来ていたので、何者かを取り囲んでいる最後尾の猫耳族の男に声を掛けたら驚かれた。この街では驚かれる事が無いので不思議に思っていると、道を譲られて、集団の中心に居る汚い格好の者が目に入る。


 女の子? ドレスっぽい服じゃけど、貴族だった者か? 顔は……下を向いたままでわからんな。


「それで、にゃにがあったにゃ?」

「それがこの女の子が……」


 今度は食堂の店主に声を掛けると、騒ぎの原因を述べる。どうやら無銭飲食だったようだ。

 見慣れない汚い成りの少女が入って来たと思ったら、けっこうな量の料理を注文し、全部食べ終わってから不味いだの、猫耳族が作った物を食べさせられたとか文句を言って、金を払わないで店を出たらしい。


 もちろん店主は追い掛けて肩を掴んだそうだ。すると今度は「犯される、殺される」と叫び出し、店主は皆に取り囲まれたとのこと。

 店主も事情を皆に聞かせて納得してもらえたが、この街は不遇な者の集まりなので、腹をすかせた少女ならばと、庇おうとする者が続々現れる。

 そんな中、王様のわしが登場したので驚いたようだ。


「まぁにゃ~。かわいそうなのはわかるにゃ。でも、みんにゃはこの食事を作るのに、いっぱい働いて、その対価としてお金を貰っているにゃ。そのお金で食事代を払って、店主はそのお金でお腹を膨らませているにゃ」


 猫の街ではお金を使い初めて間もないので、わしは皆にお金の流れを説明する。


「にゃのに、店主がお金を貰えなかったら、ごはんが食べれなくなるにゃ。真面目に働いているのに、真面目な者が泣くのは違うにゃろ?」


 わしの説明に、皆、「うんうん」と頷く。


「泥棒は立派な罪にゃ。罪には罰を与えにゃいといけにゃいから、同じ様な事が起きた時は、心を鬼にして捕まえてくれにゃ」

「「「「「はい!」」」」」


 わしの話に皆は納得し、いい返事をくれたところで、わしは少女に声を掛ける。


「さて、わしの国で悪さをしたんにゃ。それにゃりの罰を下すにゃ。立ってわしについて来るにゃ」


 わしの言葉に、少女は顔を上げる。


「にゃ……マリーにゃ?」



 少女の顔を見たわしは驚き、質問を投げ掛けるのであった。

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