324 新しい仕事にゃ~


「にゃ……マリーにゃ?」


 わしは無銭飲食をした少女の顔を見て驚く事となった。


「猫!?」


 少女も、わしを見て驚く事となった。


「マリーが、にゃんでこんにゃ所にいるにゃ? アイ達は一緒じゃないにゃ?」

「はあ? マリーって誰よ。私はチィアンファって名前があるわよ!」


 あ、そっくりさんなだけか。マリーが食い逃げなんてするわけないもんな。わしに驚くわけもなかった。


 わしが少女の名を聞くと、それを聞いていたメイバイがわしの服を掴む。


「シラタマ殿……」

「どうしたにゃ?」

「この人は……」


 メイバイが何か言い掛けたその時、チィアンファは突然立ち上がって大声を出す。


「メイバイ! あんたこんな所に居たの!! 奴隷の分際で、綺麗な服まで着て何してるのよ! さっさと私の食事代を立て替えて来なさい!!」

「………」

「何黙っているのよ! 早くしろって言ってるのよ!!」


 チィアンファの言い分に、この場に居た全ての者が不快に感じ、怒りをにじませる。


「チィアンファって言ったかにゃ? ちょっと黙ってわしについて来るにゃ」

「はあ? なんで猫なんかについて行かなきゃならないのよ!」

「……リータ。拘束して口をふさいでくれにゃ」

「はい!」

「何するのよ! 私は貴族よ!! 離しな……ムグッ」


 リータはわしの渡した縄でチィアンファを縛り、ハンカチで口を塞ぐ。その間、わしは住民に解散するように言い、店主にはポケットマネーで被害額を渡す。

 そうして、わしはチィアンファを担ぎ、役場に連行するのであった。



 役場の庭に着くとチィアンファを降ろし、ハンカチを取って座らせる。


「この無礼者~! 縄をほどきなさ~い!」

「はぁ……無礼にゃのはそっちにゃ」

「私は貴族よ! 平民や奴隷や猫が、喋り掛けるほうが無礼なのよ!!」

「いいかにゃ? 帝国は滅び、ここは猫の国にゃ。とっくに貴族にゃんて解体しているにゃ」

「この高貴な血がある以上、それが存在の意味よ!!」

「言ってる意味がわからないにゃ~。そもそも、王様のわしに意見をするだけで無礼なんにゃよ?」

「猫なんかが王様になるなんて、誰が認めるか!」

「みんにゃ認めているにゃ。その王様の妻を奴隷とののしったんにゃ。死罪にだって値するにゃ」

「はあ? メイバイが王妃……あはははは。奴隷のくせに、ふざけんじゃないわよ!」

「最後の言葉はそれでいいにゃ?」

「は? 最後??」


 わしは喋りながら腰に帯びた刀を抜く。


「わしの妻を罵ったんにゃ! 覚悟は出来ているのかと聞いているんにゃ!!」

「え……」

「自分は貴族だからと殺されないと思っていたにゃ? お前にゃんかの汚い血、真っ先にこの手で絶ってやるにゃ!!」

「ヒ~~~!」

「シラタマ殿!」


 わしは刀を大きく振りかぶる。すると、メイバイが間に入ってチィアンファを庇った。


「メイバイ! どくにゃ!!」

「嫌ニャ!」

「にゃんでにゃ!!」

「殺すほどの罪を犯していないからニャー! 私も殺してなんて言ってないニャー!!」

「いんにゃ。わしの気が収まらないにゃ~! リータ! メイバイをどかせるにゃ!!」

「は、はい!」

「リータ。離してニャー」

「シラタマ陛下の命令です。メイバイさん。我慢してください」

「そんニャ……」


 暴れるメイバイを、リータがチィアンファの前から離れさせると、わしは一歩進んでチィアンファの前で刀を振り上げる。


「いや~! 助けてください。申し訳ありませんでした。許してください。殺さないで~!!」

「もう遅いにゃ……」

「きゃ~~~!!」


 わしはそれだけ言うと、刀を振り下ろした……


「にゃ……気絶しちゃったにゃ」


 チィアンファの目の前で刀をピタリと止めると、チィアンファは泡を吹いて気絶してしまった。


「メイバイ……本当にこれでよかったにゃ?」

「はいニャ。ありがとニャー」


 わしとメイバイはにこやかに会話を交わす。何故、このような会話をしているかと言うと、ここまで連れて来る前に、念話で打ち合わせをしていたからだ。

 わしは穏便に済ますつもりだったが、メイバイを罵った事で、あの場に居た者は怒りにとらわれてしまった。なので、そのまま喋らすと恨みを買ってしまいそうだったので、口を塞いで連行する事にした。

 打ち合わせでは、メイバイに罰を決めてくれと頼んだら、脅す演技をしてくれと言われたので、リータと共に協力したわけだ。


「メイバイは、この子に嫌にゃ目にあわされていたんじゃなかったにゃ?」

「うん……でも、シラタマ殿と同じで、恨みを晴らすのはやめたニャ。私も恨みの連鎖を断つニャー!」

「メイバイがそれでいいにゃらいいけど、法律は法律にゃ。返せる物がなければ、一時、奴隷になってもらうにゃ」

「それは仕方がないニャー。命があるだけマシニャー」

「そうだにゃ」


 メイバイの意見にわしは同調し、ここで生活させるには目立ち過ぎたので、気絶している内にソウの街に転移する。

 ソウで目覚めたチィアンファは、命がある事に感謝して、メイバイに泣きながら謝罪していた。その姿を見て、どうして一人で猫の街に来たのかを聞くと、両親も護衛も長い逃亡生活を送っていたらしいが、獣に襲われ亡くなったとのこと。

 自分もここで死ぬのかと覚悟をしたらしいが生き残り、着の身着のまま歩いていたら、猫の街に到着したそうだ。


 情状酌量はあるので奴隷紋は勘弁してやろうかと思ったが、自分から縛ってくれと言われたので、奴隷紋の処置をする。

 その後、ホウジツに預けて出来る仕事を与えてもらい、刑の執行となった。


 しばらく経ってからホウジツにどうなったかと聞くと、秘書として頑張っているらしいが、口が悪いと愚痴を言われた。



 猫の街、初の犯罪は食い逃げといった軽犯罪であったが、住民にはきっちり罰を与えたと知らせ、チィアンファが街から消えているので、どれだけ重い罪になったのかと話題になっていた。

 かなり軽い罰だったのだが、いちいち教える事でもないだろう。幸せに暮らせる猫の街から追い出される心配があるなら、犯罪を犯す者は無くなるはずだ。




 それから数日……


 暑い日が続いていたので、暇潰しに避暑地へ転移。いや、リータとメイバイを地下空洞から連れ出す為に、マーキングしていた川にやって来た。


「獣を狩るのですね!」

「強い獣を見付けるニャー!」

「違うにゃ~!!」


 わしは、脳筋の二人の言葉をすぐさま否定する。


「じゃあ、なんで……」

「遊びに来ただけにゃ~」

「「え~~~!」」

「あんにゃ密閉された空間にいたら、頭がおかしくなるにゃ。たまには息抜きしてにゃ~」

「でもニャー……」

「久し振りに、二人の水着姿を見たいにゃ~」

「「もう! シラタマ(殿)さんったら!!」」

「にゃ~~~!!」

「モフモフ~~~」


 照れるリータとメイバイは、わしの背中を叩くが、勘弁してくれ。力加減をミスって川に飛び込まされた。リータだけでなく、メイバイまで馬鹿力になっているから、水切りの石みたいに水面をバウンドしてしまったじゃろ!

 わしの水切りを見たコリスもマネをしてスピードをつけて飛び込み、数度バウンドすると、どんぶらこと川に流されて行った……


「にゃ~! コリス~~~!!」

「あはは~。モフモフ~」


 わしは慌てて、笑うコリスを水魔法で救出し、岸へと戻る。そうして走り出そうとするコリスを押さえ、リータ達に水着を渡す。

 わしの着替えている間に、コリスはまた水切りをしてどんぶらこと流されて行きやがった。また救出に飛び込み、岸に戻ると二人の水着姿にお世辞を言い、楽しく遊ぶ。

 それと同時に水魔法の勉強。魔力で作るには効率が悪いが、近くに水があるのだから操作するには持って来い。皆、何度も水の玉や刃を放ち、水の上を歩いたりしている。でも、水で猫を作って攻撃の的にしないで欲しい。

 遊び疲れるとランチ。魔力も減っていたらしいので、吸収魔法で回復させる。



 食事も終わり、皆が静かになったところで、わしは仕事に取り掛かる。皆から少し離れた水際まで行くと、川にゆっくり入って調べる。


 この辺でいいかな? 探知魔法オーン! うん。さっぱりわからん。小魚じゃ小さ過ぎて、ゴミと変わらないのう。致し方ない。


 わしは土魔法で囲いを作って狭める。その中で、土魔法と布で作った網を使い、岸辺の草をガサガサと攻める。

 何度か網を入れると小魚がバケツに溜まりだす。一通り小魚が溜まると、水草を根っこごと入れて場所を変え、バケツも代えて作業を続ける。



 ガサガサと作業を続けていると、魔力の回復の終わったリータ達がやって来た。


「なにをしているのですか?」

「水草と魚を取ってたにゃ。これにゃ」

「魚ニャ!? ……ちっさいニャー」


 メイバイは魚に反応したが、バケツの中身を見てガッカリした。


「こんなの食べられないニャー」

「別に食べる為にとっていたわけじゃないにゃ」

「では、なんでこんな事をしているのですか?」

「戦争の時に、大きな穴を掘ったにゃろ? こないだその湖に行ったら虫が湧いていたんにゃ。このままでは水が汚れてしまいそうにゃから、浄化装置にならないかにゃ~と」

「そんなのでなるニャー?」

「たぶんにゃ。ここらの水草も移植するから、上手く行けばなるはずにゃ」

「でしたら、私も手伝います!」

「私もニャー!」

「モフモフ~」

「ありがとにゃ。それじゃあ、コリスは……」


 リータとメイバイは小魚集め。大きなコリスには似合わないので水草集めをさせる。この日はそこそこに集まると、湖に転移して移植を行った。



 それから数日、王と王妃の仕事は、湖とお堀の水質管理となり、双子王女から、王のやる仕事とは思えないとブツブツ言われた。

 ワンヂェンもわし達がやっている事に興味を持ち、連れて行けと「にゃ~にゃ~」うるさいので、川まで連れて来てやった。


「すごいにゃ! おっきにゃ川にゃ~!!」

「……どうして人は、水を見ると走りたくなるんにゃろ?」

「さあ? 私に言われましても……」

「ワンヂェンちゃんは猫ニャー!」

「「「にゃ!!」」」


 走り去るワンヂェンを止めるのが面倒になり、冷ややかな目で見ていたが、ワンヂェンがどんぶらこと流されてしまい、それどころではなくなって救出に向かう。

 わしは流されるワンヂェンのそばまで水を走り、手を伸ばして引き上げると、それと同時に何かがついて来た。


「にゃ~~~!」

「にゃ!? ワンヂェン、暴れるにゃ!!」


 ワンヂェンはついて来たモノに足を噛まれかけて悲鳴をあげる。わしは冷静に刀を抜いて、その生き物の頭に突き刺して引き上げた。


 ワニ? ノーマルなワニじゃな。ここいら一帯で、たいした獣を見掛けなかったから、周りの確認を忘れておった。ひとまず、探知魔法オーン!

 あら。囲まれておる。ここでは戦い難いし、岸に戻るか。


「ワンヂェン。ちと飛ばすにゃ!」

「う、うんにゃ!」


 わしはワンヂェンを担いで水上を走り、リータ達の待つ岸に逃げ帰るのであった。

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