342 女王誕生祭・裏にゃ~


 東の国の女王誕生祭へ視察団を送り出したわし達は、忙しく各街を回る。全ての代表者を送り出したので、大事な仕事だ。

 幸い、猫の国でもカレンダーは一緒なので、真冬の大晦日間際とあって、仕事はそこまで多くない。


 軍は、街や村に配置はしてあるが守りを固めるだけなので、獣が出なければ仕事は中からの見張りだけ。こちらはウンチョウの部下が、各将軍からの報告をまとめ、わしに朝昼晩に通信魔道具で連絡をくれるので楽チンだ。

 街もすでに、代表が居なくとも運営に支障が出ないようになっているので、報告で上がって来る書類に目を通し、ハンコを押すだけ。リータとメイバイと手分けしてやるので、すぐに終了となる。


 ただ、コリスが暇そうにしているのが少しかわいそうだ。まぁ一緒に行動をしているエミリに機嫌をとってもらっているから大丈夫だと思うが、食べる量が増えているのが、ちと心配。

 コリスもわし同様、冬使用の毛皮で真ん丸になっているので、太っているのか、毛で丸くなっているのか判断がつかない。正月太りしていないと信じよう。



 各街を回る順は、ソウの街、ラサの街、猫耳の里、猫の街。各々三日の滞在で仕事をする。

 と言っても書類仕事も少ないので、この機に街を練り歩き、王様が代わって住み心地はどうかと質問しまくってやった。要は、代表が上手く機能しているかの査察だ。


 ソウの街は仕事も増え、食糧にも困っていないようだが、雑用が多くなって不満がある模様。

 今までは猫耳族や浮浪児がやっていたのだが、猫の街に全て移住したのだから仕方がない。それに労働力を搾取して、いい暮らしをしていたのだ。ちょっとは自分達の行いを反省してもらわなければならない。

 わしはそのような不満を言うのならば、税率を上げると脅しまくってやった。ただし、脅しだけなので、リータとメイバイにフォローさせる。悪者は、わし一人で十分だからな。


 でも、わしを撫でさせるのは、フォローじゃないからな?



 ソウでの滞在を終わらせると、次はラサの街。ここは猫耳族も多く居るので、拝まれるから居心地が悪い。

 ラサでも街を練り歩き、住民から感想を聞くが、人族が猫耳族に対しておびえている姿があった。

 なんでも、ちょっとぶつかっただけで、首が飛ぶだのと噂があがっているとのこと。センジの耳にも入っているらしいが、どう対応していいか悩んでいるらしい。

 なので、広場に居た人族と猫耳族を捕まえて、わしが勝手にディスカッション。言いたい事を言わせてみた。


 まぁわしの前なので、猫耳族は強気に出て、人族は弱気で何も言えない。これではディスカッションにならないから大岡裁き。

 人族をののしる猫耳族は叱り、猫耳族を擁護している人族にはハッキリ言えと脅す。その結果、場は大荒れ。なかなかいい口喧嘩となって、わしは満足だ。

 言いたい事も言えないと、不満が溜まっていつ爆発するかわからないからな。定期的に喧嘩祭りを開催する事に決め、皆と一緒に酒を飲みながら年をまたいだ。


 新年、明けましてからは喧嘩は無し。腹を割って話したからか、皆の顔は少し晴れやかになっていた。

 ここで、人族と猫耳族にまざって凧上げ大会。子供達はサッカーで親睦を深めていたからか、キャッキャッと楽しそうに遊んでいた。

 その姿を見た大人達は、何か思うところがあるのか、種族関係なく、新年の挨拶をしている姿があった。ぎこちなかったが、いい傾向だろう。



 次の滞在先は、猫耳の里。やはり拝まれ恥ずかしい。書類仕事も少ないので、猫耳セットアップを付けたリータ達と街を練り歩くが、問題もない。

 ただ、暗い顔をしている者を見掛けたので声を掛けると、奴隷だった者だった。まだ、精神的に完全回復とはいっていないようだ。


 なので、ここでもディスカッション。元奴隷を集めてもらい、人族に対しての不満を言ってもらう。

 だいたいが「見たくもない」「思い出したくもない」のオンパレードなので、処置に困る。だからうまい物を食べさせ、うまい酒を飲ませて、無理矢理元気になってもらった。

 焼き魚を見せれば一発だ。さらに追い打ちで、白タコも食わせてやる。子供達にはアニマルセラピー。わしとコリスの出番だ。


 元気が出たところで、今までの不幸は取り返せばいいと力説し、奴隷鉱山からも慰謝料は入って来ているから安心してくれと念を押す。でも、仕事はして欲しいと頭を下げてお願いをする。

 王様みずからの接待とお願いには、さすがに恐縮したようで、仕事はするから頭を上げてくれと懇願こんがんされた。

 本心ではあったが、若干の策略がまじっていたので、わしは何度も頭を下げた。


 ひとまずはこれで、元奴隷も少しは明るく暮らしてくれるはずだ。あとは時間が解決してくれると期待するしかない。



 最後は猫の街での滞在。元々ここで暮らしているので、まったく問題がない。子供達も大人達も、雪の残る農道で、凧上げをして楽しそうだ。なので、双子王女の評判を聞いて回る。

 基本的に接触があるのは役場職員と、農業、工業、商業の上の者しかいないので、その者から話を聞くが、たまに怒られて怖いぐらいしかネタはない。あとは綺麗だとか、優しいだとか、本当に面白くない。

 その他の住人にも聞いて回るが、遠巻きに見て綺麗だとか、声を掛けられて嬉しかっただとか、聞き飽きた。


 わしは怒られてばっかりなんだから、もっと怖い話が聞けると思ったのに~!


 そんな事を言ったら、リータ達に非難された。全てわしが悪いんだとか……やはり味方はコリスしかいない。

 ただし、コリスばかりかまうと、リータとメイバイの夜の撫で回しが激しくなるので困りものだ。エミリをかまうと、なんだか二人は怖がるし……



 そうこうしているとあっと言う間に時は経ち、帰って来た視察団を、わし達は砦で出迎える。ひとまず旅館の温泉で旅の疲れを落とさせ、夜は宴会場で酒を酌み交わす。

 そこで報告を聞くが、子供達はおネムになる前にわしの元へ呼び寄せた。


「ヨキ。楽しんで来れたかにゃ?」

「はい! でも、こんなに楽しんでいていいのか不安になりました」

「他国を見る勉強の一環にゃんだから、いいんにゃ。それで、サッカーの勝敗を聞かせてくれにゃ」

「それは完勝だったのですが……」

「にゃにかあったにゃ?」

「5対0で勝ってしまったので、向こうの子供を泣かせてしまいました」

「あ~。やり過ぎではあるが、手加減しにゃかったんにゃろ?」

「それは……はい」

「じゃあ、問題ないにゃ。手加減されて負ける事ほど、悔しい事はないからにゃ。今頃さっちゃんが子供達を焚き付けているから、ヨキが気にする事じゃないにゃ。キャプテンとして、皆を率いてくれて、お疲れ様にゃ~」

「はい!」


 ヨキや他の子供達からも少し話を聞いて、食事が終われば、早く寝るようにと言って下がらせる。



 次にわしが呼んだのは、ズーウェイとヤーイー。二人にも労いの言葉を掛け、話を聞く。


「二人も楽しんでくれたかにゃ?」

「はい! 美味しい物もいっぱい食べましたし、珍しい物もいっぱい見て来ました」

「誕生祭のお城って凄いのですね。綺麗な物がいっぱいあって、感動しました」

「にゃはは。満足してくれたみたいだにゃ。土産話もたくさんありそうだにゃ~」

「それはもう。シラタマ様の顔の花火も綺麗でした~」

「シラタマ様のぬいぐるみも、ジョスリーヌ様に頼んでいっぱい買って来ました!」

「にゃ……」


 その土産は持ち帰らなくてよかったと言いたかったが、あまりに嬉しそうに話すので文句は言えず、あとがつかえていると言って下がらせた。



 次は各街の代表の、センジ、ホウジツ、セイボク達を呼んだ。


「東の国の王都は、みんにゃにどう見えたにゃ?」

「それはもう、活気にあふれていました。見る物全て、新鮮でした!」

「僕も、あんなに商品が溢れている街並みに感動しました~」

「私は人が多すぎて何が何だか……でも、死ぬ前に素晴らしい思い出が出来ましたじゃ。ありがとうございます」

「セイボクは大袈裟にゃ~。みんにゃが持ち帰った知識は、街の発展に使ってもらわにゃいといけないんにゃから、長生きしてくれにゃ~」

「そうでしたな。見聞きした物を猫耳の里に伝えて、発展させていきますじゃ」

「その意気にゃ~」


 セイボクからいい返事をもらえたところで、三人はよけいな事を言い出した。


「それにしても、猫の国より猫が多くて驚きました!」

「馬車にもお猫様が見受けられましたね。キャットシリーズでしたか……」

「猫耳族の子供までいるのかと驚きましたが、ファッションだったのですね」

「にゃ……」


 このまま喋らすと、猫の国にまでわしが増殖しそうなので下がらせ、ウンチョウを呼ぶ。


「街の警備のヒントになったかにゃ?」

「はっ! ハンターという職業は面白い発想ですね。軍事費が抑えられて、兵士が足りなければ補える……。シラタマ王が分離できるようにしたのも頷けます」

「お~。そこに気付けたのは収穫だにゃ。まだまだ時間は掛かるけど、頭に入れておいてくれにゃ」

「はっ! それにしても、東の国には強者が多くいて驚きました。特に白い髪の女性の戦う姿は初めて見たのですが、素晴らしかったです」

「東の国で、一番強いイサベレにゃ。敵となれば怖いけど、戦争になる事は、まず無いからにゃ」

「そうですね。いまは森を押し返す事が先決です」


 ウンチョウとは猫関係の話が出ないので和やかに話をしていると、ワンヂェンが割って入って来た。


「シラタマ~!」

「まだ話しているのに、なんにゃ?」

「向こうで大変だったんにゃ~」

「にゃに~?」

「にゃんども女王様に抱かれたり、王女様にも撫でられたり、道行く人にも撫でられまくったにゃ~」

「まぁ……猫だからにゃ……」

「にゃんでにゃ~!」

「それより、ちゃんとみんにゃを案内できたにゃ?」

「いちおうにゃ。ヤーイーやズーウェイに抱いて運んでもらえば、騒がれる事はなかったからにゃ」

「お疲れ様にゃ~。それじゃあ、下がってくれにゃ」

「もっと労ってくれにゃ~! にゃあにゃあ~?」


 「にゃ~にゃ~」うるさいワンヂェンは、リータに首根っこを掴ませ、下がらせてもらった。その瞬間、双子王女を呼び寄せて話を聞く。


「二人もお疲れ様にゃ~。無事、みんにゃを連れ帰ってくれてありがとにゃ~」

「そこまで大変じゃなくてよ」

「ここからだと、キャットトレインで片道二日ですからね。本来ならば、片道十日ぐらいでしょうか?」

「たしかににゃ。でも、問題なく帰れたんにゃから労わせてくれにゃ。ところで、さっちゃん達は大丈夫だったにゃ?」

「シラタマちゃんがいないから、少し寂しそうだったわね」

「それでワンヂェンちゃんが犠牲になっていたんだから、もう少し労ってあげなさい」


 犠牲って……まぁわしの影武者で送ったから、当然の結果か。


「わかったにゃ~」

「それよりも、去年より盛り上がりに欠けていたから、お母様が残念がっていたわよ」

「そうにゃの? キャットトレインのおかげで、来場者が増えているかと思っていたにゃ」

「人は多かったのですけどね……シラタマちゃんがやり過ぎたせいですわ」

「よかれと思ってやったのににゃ……もう二度と参加しないにゃ~」

「それはやめて! 今年は絶対連れて来るように言われてるのですわ」

「え~! 今年こそ、プレゼントのネタが無いから行きたくないにゃ~」

「シラタマちゃんが居るだけでいいのですわ。それでお母様は喜ぶわよ」

「じゃあ、今回のプレゼント、張り切るんじゃなかったにゃ~」

「それはすっごく喜んでいましたわよ」

「チャイナドレスも着て、バスにも乗っていましたわ」

「まぁ喜んでくれたならいいにゃ。次回は行くかどうか考えておくにゃ~」


 こうして女王誕生祭、視察団からの感想の聞き取りは、おおむね楽しそうな声を聞き、お開きとなった。翌朝、皆と別々のキャットトレインに乗って各々の街に帰宅し、学んだ事を活かして、街は少しずつだが発展していく。



 そうしてわしも、国の発展に微力ながら協力したり、暇を持て余して黒い森の探検や、関わりのあった人や獣との交流をしていると時は過ぎ、四歳の誕生日を迎えた。


 猫の国では、猫耳族にわしの誕生日を知られると大きな祭りを開催されそうなので、秘密にしている。それに猫の国は現在、質素倹約に努めているので、こんなつまらない事にお金を使えない。

 と言うより、誕生日ごときで女王のように祝われるのは恥ずかし過ぎる。だからバレないように、東の国に逃げ出した。


 前日から東の国の我が家で過ごし、尻尾が増えるかとビクビクしながら眠りに就いたが、その様な事は起きずにホッとしたのも束の間、女王からの贈り物が大量に届いて驚かされた。

 なんでも、女王誕生祭に国からプレゼントを贈ると、その王様にはお返しがあるんだとか。それでも馬車五台に満載された武器防具は貰い過ぎだと言ったら、これまでわしが断っていた借りのお返しのようだ。


 詳しく聞くと、わしが物もお金も受け取らないから、ここぞとばかりに、猫の国に必要な物をくれたとのこと。

 たしかに、キャットトレインのせいで軍の武器や防具の生産がストップして、いまある物を整備して使い、かなり痛んでいるとウンチョウから聞いていた。

 この事を、おそらく双子王女が女王に伝えたのだろう。なので、家臣の配慮を無碍むげには出来ず、有難く頂戴する事となった。

 さらに、猫の国建国記念日にも、キャットトレインの車両を十両ほど持って行くから楽しみにしているように言われた。


 こんなに物を貰ってしまうと裏がありそうで怖いのだが、わしへの溜まりに溜まった借りを返せて、女王は満足しているようだ。それと同時に、女王の期待の目が怖いから、今年は何も贈らないでおこうかと考え中だ。

 ちなみに、他の王様には何を返したのかと聞いたら、ドレスだとか宝石だとかと言っていたので、わしは超超、超~VIP対応のようだ。


 女王の贈り物には驚かされたが誕生日会は始まり、どんちゃん騒ぎとなる。かなり騒がしい誕生日会であったが、笑い声の絶えない誕生日会は最高だ。

 だが、女王やさっちゃんと愉快な仲間達、アダルトフォーやエミリにワンヂェン、わしの誕生日を祝ってくれる者から撫で回されて一日は終わらず、夜にはリータとメイバイにしつこく撫で回されて気絶した。

 目覚めたら全裸だったが、気にしない事に決めているので、落ち着いたら猫の国に帰る。



 それからも相変わらず騒がしい毎日を過ごし、月日は流れ、猫の国の建国記念日が近付くのであった。

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