343 建国記念日にゃ~


 猫の国建国記念日が近付くある日、わしはラサの軍隊宿営地内にある訓練場に、リータ達を控えさせ、ウンチョウと元帝国将軍を集めた。


「さあて……今日、将軍達を集めたのは他でもないにゃ。そろそろみんにゃの縛っている魔法を解こうと思ってにゃ~」

「お、王よ!」


 わしのにこやかに話す言葉に、ウンチョウが慌ててさえぎる。


「にゃに?」

「その様な事をすれば、反乱が起きますよ!」

「かもにゃ~」

「わかっていて、何故そんな発言をするのですか!」

「わしの国の法律を知っているにゃろ? 罪ある者には罰にゃ。猫耳族から殺してくれと言われていにゃいし、猫耳族をないがしろにした罪は、一年の懲役で帳消しでいいにゃろ」

「しかし!」

「奴隷紋で縛っている者も、随時、解放していく予定にゃ」

「王!!」

「じゃあ、ガクヒ将軍からいこうかにゃ? みんにゃ、念のため見張っていてくれにゃ」

「「「は~い」」」


 納得がいかないと声を荒げるウンチョウを無視して、リータ、メイバイ、コリスが取り囲む中、将軍達の契約魔法を解く。

 将軍達は暴れる事もなく、座ったまま互いに目で何かを語り、口を開かない。


「ほい、武器も返してやるにゃ~」

「王よ!」


 わしが武器を投げて渡すと、またウンチョウが遮ろうと前に出るので、体を掴んでグイッと後ろに下がらせる。


「さて……将軍達には再雇用をお願いしたいんにゃけど、どうかにゃ?」


 わしの問いにガクヒが答える。


「断ればどうなるのだ?」

「この国で生活してもかまわにゃいけど、職に就けるかが心配だにゃ~……他国で雇ってもらえるように、推薦文でも書こうかにゃ?」

「は?」

「幸い、大国と繋がりはあるにゃ。あ、そうにゃ。ビーダールが強い者を欲しがっていたから行くにゃ?」

「いや……」

「どうしたにゃ?」

「断ったら、首が飛ぶのではないのか?」

「無理矢理とは言え、猫の国の為しっかり働いてくれたんにゃから、そんにゃ事はしないにゃ~」


 わしの発言に、将軍達はまた目で語り合う。


「くっ……調子が狂う。まだ首をねると言われたほうがマシだ。武器まで渡すなんて、私達が斬り掛かると思わないのか!」

「思っているにゃ」

「は?」

「みんにゃの好きにしたらいいにゃ」

「くそ。ナメやがって……エンアク、セイチュウ! 女を人質にしろ!!」

「「はっ!」」

「王妃様~~~!」


 ガクヒはわしに剣を向け、エンアク達はリータとメイバイに飛び掛かる。その瞬間、ウンチョウの叫ぶ声が聞こえたが、すぐに安堵の表情に変わった。

 二人の将軍は一瞬にして、リータとメイバイに、地面に押し付けられたからだ。


「まだか!?」


 ガクヒはまだ気付かずに尋ねるので、わしが答えてあげる。


「後ろを見てみろにゃ。もう終わっているにゃ」

「なっ……」


 うら若き少女に、地面に押さえつけられている二人の将軍を見て、ガクヒは剣を投げ捨てた。


「殺せ!!」

「にゃんで~?」

「我々は王妃に襲い掛かり、王にも剣を向けたのだ。殺すのが筋だ!」

「ただのたわむれにゃろ?」

「そんなわけないだろう!」

「だって、勝てる見込みがないのに襲い掛かって来たにゃ。みんにゃ、リータとメイバイが白蟻と戦っている姿を見たんにゃから、知ってるにゃろ?」

「………」

「ぶっちゃけ、処刑されるのが目的にゃろ?」

「………」


 わしの問いは図星だったようで、ガクヒは目を逸らして口を閉ざしてしまった。


「亡国の皇帝を、そこまでしたっていたんだにゃ……わかったにゃ。わし直々に処刑してやるにゃ。武器を取れにゃ」


 わしは、リータとメイバイに将軍を立たせるように指示を出し、腰に差した刀を抜く。すると三人の将軍は、わしの前に整列して武器を構える。



 最後まで、皇帝の為に戦って死にたいのであろう……


 わしはそんな気持ちを汲んで……やるわけがない!



 隠蔽魔法を解いて、目いっぱいの殺意を向けてやった。それだけで、この場に立っている者は、リータ、メイバイ、コリスだけ。その他はガタガタと震えて腰を抜かしている。


 わしはそのまま力を見せ付けるように歩き、将軍達に、刀の切っ先を向ける。


「ほれ? 戦って華々しく散りたいんにゃろ? かかって来るにゃ~!!」


 わしの怒鳴り声に、三人は後ろに転げ、数回転すると、土下座をしながら叫ぶ。


「「「我ら、シラタマ王に忠誠を誓う剣となる事を、ここに誓います!!」」」


 その言葉を聞き、わしは刀を鞘に戻しながらにこやかに語る。


「にゃはは。ありがとにゃ。これからも、猫の国の為、励んでくれにゃ~」

「「「はは~」」」


 元々、皇帝の強さに心酔していた三人だ。皇帝より十倍以上強いわしの本気を見せれば落ちると確信していた。

 その事をあとでウンチョウに説明すると「猫が悪い」と言われ、その前のやり取りは必要だったのかと聞かれた。

 その問いには、単に選択肢をあげただけ。みずからこの地に残るか、去るか。どれを選んでもよかったのだが、最悪の選択肢で答えが返って来たと言えよう。


「「「くぅ~ん」」」

「「「………」」」


 犬が三匹も増えたんだからな! おっさんの潤んだ目は気持ち悪くなるからやめて欲しい。


 後日、わしが三将軍に尻尾を振って言い寄られている姿をケンフが見て、「がるるぅぅ」と喧嘩をしていた……



 それから少しずつだが奴隷紋を解除していき、三将軍の元、規律は保たれているとウンチョウから話を聞いた。それもあってと言うわけではないが、ソウで皇帝や人族の戦死者を弔う追悼ついとう式典を開かせた。

 今回は、皇帝達をしのぶ者だけを集めて、三将軍主催でやらせてみたのだが、人が全然集まらなかった。なので、遠くから見ていたわしは、最前列まで行って、手を合わせてやった。

 わしに怒りをぶつける者は居たが、全てを許し、その場をあとにした。


 あとで聞いた話では、わしが去ってしばらく経つと、続々と人が集まって来たようだ。どうやら、皇帝の追悼式典に出席すると、わしの怒りを買うと思われていたらしい。

 わしが出席していたと聞いて、行ってもいいのだと民衆に伝わり、良い式典になったと三将軍に感謝された。



 それから数日が経つと、猫の街に、建国記念日出席者が集まる。



 他国からも来たいと申し出は多くあったが、まだそんなに多くのVIPや人を受け入れる余裕が無いので、よく遊びに来ている西のじい様と貴族には招待状は出してあげた。

 もちろん、東の国にも招待状は出したので、女王、さっちゃんと愉快な仲間達とその他。ロランス、ローザやフェリシーと付き人達。ビーダールからハリシャと、何故かセットでやって来た南の王。

 そして呼んでいないのに、アダルトフォーとアイパーティが押し掛けて来た。


 この日の為に、旅館を二軒増やして街の廃屋を多く改装し、猫の国の者、他国からの来場者に対応できるようにしている。

 だが、改装した廃屋は宿とまではいかず、素泊まり、畳で雑魚寝が出来る程度。多くの者を受け入れるには、これが限界だ。

 まぁ開催期間も三日間しかないので、安く泊まれるから文句は出ないだろう。


 前夜祭のプログラムは猫会議と出店。

 猫の国代表以外は街の出店を回り、日本の屋台を再現した遊び場で遊んだり、食べ歩きをしている姿がある。浴衣や甚平じんべえも販売しているので、日本の夏祭りと見間違えるようだ。

 さっちゃん達も着物や浴衣に着替え、コリスとワンヂェンに案内されて、楽しく遊んでいたようだ。



 そんな中、わしとリータ達はと言うと猫会議に出席し、各街の報告を聞いて、代表と話し合っている。出席者は、猫の街、ラサの街、ソウの街、猫耳の里、猫穴温泉のツートップ。


 ちなみに「猫穴温泉」とは、キャットトンネルのある砦を街として稼働したら、こんな変な名前を付けられて、泣いた。

 わしが名付けで時間を掛けている隙に、リータとメイバイが勝手に砦内で普及していて、浸透してしまったので止められなかった。


 代表の選別にも悩んだ結果、部下からの信頼の厚いリェンジェを軍の管轄から引っこ抜いてやった。

 もちろんリェンジェから無理だと断られたので、リェンジェの奥さんから攻略したら、あっさり受け入れてもらえた。どこの世界でも夫の出世は嬉しいし、奥さんには頭が上がらないみたいだ。

 軍出身のリェンジェだけでは街の運営に問題があるので、代表の相方に、センジの信頼している者を任命し、ソウとラサからも出向者を出したので、滞り無く運営が行われていると聞いている。



 書類を読みながら各街からの報告を聞き終えると、わしは皆の顔を見る。


「ハンターギルドは来年に持ち越しだけど、商業ギルドは稼働したから、おおむね順調みたいだにゃ。これにゃら税金を取っても問題なさそうだにゃ」

「「「「「意義なし」」」」」


 猫耳の里以外から返事をもらったので決定だが、セイボクは話について来れていないので捕捉する。


「猫耳の里はまだ貨幣を使っていないからわからないんだにゃ。とりあえず、近々、猫の街の留学生を戻すから、それから貨幣を使って行こうにゃ」

「それから税金というものを払って行くのでしょうか?」

「いんにゃ。もう一年猶予をあげるにゃ。その間に、お金の使い方を完璧にマスターしてくれにゃ」

「はい!」

「みんにゃも、これでいいにゃろ?」


 若干、渋い顔をされたが、猫耳族の不遇な歴史を考慮すれば、反対は出来ない。むしろ一年なんて短すぎる。この点を踏まえた上で、税金の額についての話し合いを行う。


 帝国では無茶苦茶な税制をとっていたみたいなのだが、一からシステムを作るには手間が掛かるので、これを基本に、良い所だけを残してスリム化を行う。

 税制が決まれば、一年目は低く設定し、二年目、三年目と上げて固定する予定にする。この制度を包み隠さず伝えれば、不満を少なく出来るはずだ。

 そもそも帝国より格段に安い税制なので、不満が出る可能性は低いだろう。各街の代表はまた渋い顔をしたが、外貨は各街に振り分けるのだから、運営に支障は出ないはずだ。


 と、熱く語ってみたのだが、双子王女、センジ、ホウジツ、セイボク達が、前のめりに声を出す。


「「シラタマちゃんって猫よね?」」

「猫陛下は猫ですか?」

「お猫様は天才です~」

「シラタマ王は、ご先祖様の再来じゃ~」


 猫問題、賢すぎて褒め称える問題が勃発。お昼休憩でクールダウンを余儀なくされた。


 そうして村の税の取り立ても、ソウの街から出向者を出して、貨幣での納税を決める。元商人の奴隷なら山ほどいるので、街との取り引きで農作物を売れば問題ない。

 またしても、わしの発案で決を取ってしまったので、宥めるのに時間が取られてしまった。


「あとは~……軍事関係かにゃ? 手元の地図を見てくれにゃ」


 皆はわしが配った地図を見ながら説明を聞く。


「今までは平均的に森を押し返していたんにゃけど、それを変更するにゃ。わしの調査で、北に川の源泉がある事がわかったにゃ。それと、塩湖も発見したから、塩にも困らないにゃ」

「つまり、北を重点的に押し返せと……」


 ウンチョウが、わしの話に目を輝かせて答えてくれた。


「そうにゃ。これが叶えば、塩と水が安定的に手に入るにゃ~」

「「「「おお~~~」」」」


 源泉の発見には苦労した。東の川を船でさかのぼるが、黒カエル、巨大黒魚に行く手を阻まれ、戦闘機に乗り換えるも黒鳥に阻まれ、ちまちま進んで辿り着いたら、塩湖の北側に到着した。

 東の川から水を引くにも、逆流しているので難しかったので、それならば北側を攻めるほうが引きやすい。塩湖もあるから、一石二鳥だ。


 それなのに、双子王女と来たら……


「暇だから探検していたわけじゃないのですわね」

「たまには有意義な情報も持って来るのですわね」

「ひどいにゃ~。いっつも猫の国の為に働いているにゃ~」

「庭いじりがですの?」

「ゴルフは役に立ちましたが、王様がコースを作るのはおかしいのですからね?」


 グチグチとわしを責める双子王女に、センジまでもがわしを責める。


「え……猫陛下は、そんな変な事をしていたのですか!?」

「センジはわしのやる事を、変って言わないでくれにゃいかにゃ? これでも傷付くんにゃよ?」

「シラタマちゃんは、いつも変ですからね」

「変だと思われたくないなら、もっと王様らしい立ち振舞いをすればいいのですわ」

「無理にゃ~! だって猫だにゃ~~~!」


 こうして猫会議は、わしが双子王女から非難されて、終了するのであった。



「ぐすっ……」


 その夜、リータとメイバイの間で、枕を濡らすわしの姿があったとさ。

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