344 祭りのあとにゃ~


 建国記念日前夜祭が終わった翌日、街の北側通路に作られた特設ステージに皆を集める。ここで、わしが国民の前で挨拶を述べるのだが、王様らしからぬ猫なので、王様らしからぬ場所で挨拶を述べる。

 その場所とは、やぐらの上。和太鼓も乗っている、祭り櫓だ。そこで、ワンヂェンの司会で呼び出されたわしは、音声拡張魔道具を持って登る。


『え~……猫の国のみにゃさん。元気ですにゃ~~~? 元気があれば、にゃんでも出来るにゃ』


 掴みは微妙……クスクスと笑われて恥ずかしくなる。


『まぁわしは各街、各村を歩いたりしているから、みんにゃが元気に暮らしているのは知っているにゃ。この一年、食べる物に困らず暮らせたにゃろ~?』

「「「「「は~~~い」」」」」


 わしの質問に、皆は大きな声で賛同してくれる。


『にゃはは。元気がいいにゃ~。みんにゃが元気に頑張ってくれたから、餓死者を出さずに乗り切れたにゃ。ありがとにゃ~!』

「「「「「ありがと~~~う」」」」」


 皆からも感謝の言葉をもらい、わしも笑顔になる。


『さあ、今年も元気に暮らす為に、今日は楽しもうにゃ~! 食えにゃ! 飲めにゃ! 踊れにゃ~~~!!』


 わしはそれだけ言うと、着流しを腰まではだけ、太鼓をドーンと打つ。そして、調子に合わせて「ドドンがドン、ツカツカ」と太鼓を打ち鳴らす。

 その音を聞いた浴衣姿の猫の街の住人が、祭り櫓を囲み、踊りながら回り、他の街の住人もマネをして踊る。


 皆が踊っている踊りとは、そう、盆踊りだ。


 残念ながらわしはうろ覚えだったので、玉の輿踊りの得意なリータ家族にちょっと見せて任せたら、かなりオリジナルな盆踊りになった。だが、そこそこ盆踊りに見えるので、これでいいと礼を言った。

 この踊りを猫の街では、今日の日の為に、住人に教えていたので完璧だ。一曲目が終わる頃には、太鼓を叩く代わりの者がわしの元へ来たので、手を振って祭り櫓から降り、特別観覧場に顔を出す。

 ちなみに特別観覧場の者には大蚕おおかいこの糸で作った着物を貸し出して、気に入ったら買い取ってもらう予定だ。



「まったく……シラタマは王なんだから、もっとそれらしい振る舞いは出来ないの?」


 顔を出すなり、女王に注意を受けた。


「にゃははは。女王はわしが王様に見えるんにゃ」

「ぬいぐるみにしか見えないわよ!」

「じゃあ、いいんじゃないかにゃ~?」

「ムッ……」

「そうカリカリせず、一緒に楽しもうにゃ~。さっちゃん、踊ろうにゃ~」

「うん!」

「もう!」


 わしがさっちゃんをエスコートすると、女王も立ち上がってわしを追い掛ける。護衛のイサベレやソフィ達も続き、兄弟達も続いた。

 女王達の護衛はわしが引き受けるので、イサベレ達にも踊るように言い、軽くレクチャーしながら一周回り、次の周回は皆で笑いながら踊る。まさか、兄弟達も立って踊るとは……

 わし達が楽しそうに踊っていると、ローザやロランス、フェリシーやリス、アイパーティやアダルトフォーも加わって、踊りの輪が膨らみ、笑い声が辺りを包み込む。


 そうして踊り疲れた女王達は、特別観覧場にて飲み物や、エミリの白い獣料理を堪能してもらい、他に踊りたい人がいるのならば、王のわしが護衛をすると言って連れ出す。

 ハリシャも南の王も西のじい様も笑いながら踊り、貴族も平民も人族も猫耳族も関係なく、笑いながら踊っていた。


 夜になると、ワンヂェン率いる魔法部隊が夜空に猫花火を打ち上げて、その幻想的な風景に、来場者は歓声をあげていた。わしは反対したのに……



 最後の花火が地上にバラバラと落ちる中、わしはまた櫓に登り、盆踊り大会終了の挨拶をする。


『にゃははは。今日は楽しかったにゃ~。みんにゃも楽しめたかにゃ~?』

「「「「「は~~~い」」」」」


 わしの質問に、皆は笑いながら返してくれる。


『にゃははは。それはよかったにゃ。わしも、みんにゃの楽しそうな顔が見れて満足にゃ。祭りは終わるけど、今年も笑いながら過ごし、また来年も今日の良き日を笑いながら迎えようにゃ。では、これにて終了の挨拶にさせてもらうにゃ~!!』

「「「「「にゃ~~~!」」」」」



 わしの終了の挨拶に、国民は「にゃ~にゃ~」と応え、盆踊り大会は幕を下ろした。



 家に帰ると、東の国王族の川の字にまざって横になる。建国記念日の間、旅館は他国のVIPで埋まっているので、我が家に招待してあげた。少し狭いが、マスコットがいっぱい居るから文句はないようだ。

 護衛や従者も役場の空き部屋で休んでいるので、何か問題が起きればすぐに対応できるはずだ。


 そうして、皆で寝転びながら今日の出来事を思い出す。


「いいお祭りだったわね」

「女王は文句言ってたにゃ~」

「最初はね。国民にあれほどの笑顔があふれていたら、褒めざるを得ないわよ」

「ゴロゴロ~。まだまだこれからにゃ~」


 女王に褒められながら撫でられていると、さっちゃんが雑に撫でながら話に入って来る。


「楽しかったけど、サッカー大会も開いてくれたらもっと面白かったのに~」

「期間が短いんにゃからしょうがないにゃ~」

「東の国の子供達も、すっごく上手くなっているんだからね! いまやったら、絶対にうちが勝ったのに~」

「う~ん……これから種蒔きで忙しくにゃるし、一ヶ月後ぐらいにやろうかにゃ?」

「いいの!?」

「さっちゃん主催で、そっちでやってくれたらにゃ」

「やった~! 今度はコテンパンにやっつけてやるんだからね!」

「にゃはは。そう上手く行くかにゃ~?」


 こうして、布団の中でサッカー大会の概要を話し合いながら、夜は更けて行くのであった……



 そして翌日……


 猫の街は朝から慌ただしくキャットトレインが走り回り、役場の屋上からその風景を見たさっちゃんが何事かと質問して来る。


「ねえねえ?」

「にゃに?」

「どうしてキャットトレインは、街から出たり入ったりしているの?」

「他国の者には言ってにゃかったけど、三日目は後夜祭にゃ」

「何か楽しい事をするの!? わたしも連れて行ってよ~」

「行っても楽しくないにゃ」

「シラタマちゃ~ん」


 また青い猫に泣き付く少年になっているよ。まだ話の途中なんだから、揺らさないで欲しい。


「後夜祭は、追悼式典にゃ」

「え……」

「戦没者をいたむ式典にゃから、他国の者は楽しくないかと思って、伝えていなかったんにゃ」

「そうなんだ……」

「ゴルフ場は空いているし、屋台も今日まで営業しているから、ゆっくりして行ってくれにゃ」


 わしはそう言って、双子王女と共に準備に取り掛かる。正装に着替えて外に出ると、各街の代表をバスに乗せて南に向けて走らせる。

 南の外壁近くには、多くの人族、猫耳族が集まっており、慰霊碑を取り囲むように立っていた。

 その人達の脇を抜け、準備を任せていたウンチョウとワンヂェンに開始の合図をさせる。


『シラタマ王、入場にゃ~』


 音声拡張魔道具のマイクの前に立ったワンヂェンは、わしを呼び込む。わしはリータとメイバイをお供に、慰霊碑の前まで歩き、正面に辿り着くと歩みを止めて、背筋を正す。

 すると、ワンヂェンが次の台本を読み上げる。


『この慰霊碑には猫耳族の死者しかとむらっていにゃせんが、先の戦争では人族にも死者が出ましたにゃ。シラタマ王は、その者達の魂も鎮めたいとのお考えですにゃ。どうか猫耳族も、その気持ちを汲んで、黙祷をしてくださいにゃ』


 ワンヂェンの言葉に誰も反応せず、静かなまま、次の言葉を待つ。


『黙祷にゃ……』


 皆は目をつぶり、静かに死者の冥福を祈る。わしは死者に何度も謝罪を述べ、長い黙祷の後、ワンヂェンの「お直りください」の声で振り返る。

 そして中央に用意してあるマイクまで歩き、国民に語り掛ける。


『一年にゃ……戦争が終わって、たった一年にゃ……』


 前日とは打って変わったわしの静かな言葉に、皆はジッと見つめる。


『猫耳族の不遇な歴史から見れば一瞬にゃ。だが、戦争は終わったんにゃ』


 猫耳族の一部の者からすすり泣く声が聞こえる。


『怒りが消えるには、まだまだ時間が足りていにゃいと思うにゃ。でも、今日まで、猫耳族、人族の頑張りで国は広くなり、豊かになって来ているにゃ。ひとつの種族だけでは、このようにゃ結果になっていなかった事は、帝国が亡びる事によって、すでに証明されているにゃ』


 わしは語り掛けながら皆の顔を見る。


『もうみんにゃは、猫耳族、人族ではなく、ひとつの民……猫の国の民にゃ。その事を心に持って、暮らしてくれにゃ。お願いしにゃす』


 わしのお辞儀に、隣に立つリータとメイバイも続き、猫の国主要メンバーも頭を下げる。すると、国民はどう反応していいかわからないのか、静かなまま時が流れる。


 しかし静寂は短い時間で、拍手の音が聞こえて来た。


 わしは少し顔を上げて音の方向を見ると、さっちゃんと女王、南の王と西のじい様が拍手をしていた。

 その拍手に、ひとり、またひとりと続き、津波のような拍手にこの場が包まれた。その音にわしの目から一粒の涙が落ちたが、ぐっと我慢して言葉を続ける。


『ありがとにゃ……ありがとにゃ~。我が国民の為に、わしが……わし達が力を尽くすから、ついて来てくれにゃ~!』

「「「「「にゃ~~~!」」」」」



 皆の力強い返事を聞き、追悼式典の終了を宣言した。



 その後、街へ送り届ける列車を待つ間、猫耳族はセイボクと共に残り、座り込んで酒盛りを始め、死者と語り合っていた。

 人族も参加しようとする者はいたが、今日は猫耳族の好きなようにさせるように止め、街で酒盛りをしようと誘う。

 ここは、長い戦いを繰り広げた猫耳族だけにしたほうがいいはずだ。わしも無粋な事はしたくないので、リータ達や各国の要人と共に街へと戻った。



「ちゃんと王様らしい振る舞いも出来るじゃないの」


 街へ戻り、各国の要人の座る席に顔を出すと、女王に茶化された。


「恥ずかしいからやめてくれにゃ~」

「ウフフ。珍しいものが見れたわ」


 恥ずかしいと言っても茶化すので、わしは強引に話を逸らす。


「それにしても、女王達まで参加していたとは驚いたにゃ~」

「私は戦争の当事者よ。元帝国の軍人を殺したのだから、参加するのが筋だと思ったのよ」


 どうやら女王達は、最終便に無理を言って乗り込んだようだ。他の要人も、戦争を長く体験していなかったので、戦後の空気を感じる為に参加したらしい。


「ふ~ん。まぁいいんにゃけど……各国の王や経験者がいるから、ちょうどいいから言っておくにゃ。今回の戦争の死者は、およそ二千人にゃ。本来にゃら、この十倍は死んでいたと思うにゃ。そうにゃったら、その二倍、三倍と悲しむ者、怒る者が増えるにゃ。だから、戦争にゃんて最悪にゃ手段をとる前に、考えてくれにゃ。そして、我が国の悲しみを思い出してくれにゃ」


 わしの発言に、女王が真面目な顔になって応える。


「難しいでしょうね……」

「だろうにゃ。でも、頭の隅に置いてくれたらいいにゃ。それだけでもストッパーになるはずにゃ」

「ウフフ。まさかシラタマに説教をされる日が来るとはね」

「にゃ……にゃはは。らしくにゃい事をしちゃったにゃ」

「まぁサティには、いい勉強になったでしょう。それに、三ヵ国の王、元王が揃っているのだから、しばらくは戦争なんてする気は起きないんじゃないかしら。ねえ?」


 女王が同意を求めると、南の王は頭を掻き、西のじい様は髭に手をやり、返事はしない。だが、満更ではないようだ。

 少し女王の策略に乗った気がしたが、それで戦争が無くなるなら儲けもんだ。



 こうして猫の国建国記念日は、各国の平和を期待し、閉幕となった。



 それから月日が流れ、農作物の種蒔きも、さっちゃん主催のサッカー大会も無事終わりを告げたある日、猫の街の広場で、出発式に集まった双子王女と住人達に、わしは挨拶をする。


「新婚旅行に行く事を許してくれてありがとにゃ~」

「まぁシラタマちゃんがいなくとも、各街は回っていますからね」

「元々、わたくし達頼りでちょっとしか国の仕事もしていませんでしたしね」

「頼りににゃる家臣がいて、わしは幸せにゃ~」


 わしが礼を言うと、双子王女の顔が曇った。


「いまのは嫌味ですわよ?」

「もっと王様らしい仕事をしてくれって意味ですわよ?」

「そうにゃの!?」

「冗談……でもないですわね」

「冗談にはなりませんわね」

「そこは冗談って事にしてくれにゃ~」

「「あはははは」」


 双子王女のシンクロ攻撃で、わしのハートはブレーク。このままでは、帰って来た時に仕事をいっぱいさせると言われそうなので、先にリータ、メイバイ、コリスを戦闘機に乗せ、出発の挨拶をしてしまう。


「それじゃあ、猫の街は任せたにゃ」

「ええ。シラタマちゃんの居ない間に、もっと素晴らしい街にしてみせますわ」

「帰って来たら居場所は無くなっているかもしれないわよ」

「にゃはは。それは頼もしいにゃ~。ほにゃ、行って来にゃ~す」

「「「「行ってらっしゃ~い」」」」


 笑顔の猫の街の住人に手を振られ、わしは戦闘機に乗り込んで離陸する。新婚旅行先は、東にあると言われている新大陸だ。


 空高く舞い上がった戦闘機は東に機首を向け、手を振る猫の街の住人達を残し、凄い速度で飛び去るのであった。









 その夜……


「「どうしてここに居ますの??」」

「えっと……寝るのに戻って来たにゃ」

「「新婚旅行はどうなっていると聞いていますのよ!!」」


 ちょっと冒険をして転移魔法で帰って来たら、双子王女にシンクロ攻撃をされるわしの姿があったとさ。

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