341 大会の終わり……


 サッカー大会は大詰め。猫チームと猫耳チームは得点を決めては返しと、一進一退の試合を繰り広げ、延長戦を終えても決着がつかず、PK戦へともつれ込んだ。


「うぅ~……見てるこっちが緊張するよ~」


 PK戦も、入ったり外したりを繰返し、四人目までもが同点で進むと、さっちゃんが声を漏らす。


「これで決まるかにゃ~?」

「また暢気のんきな事を言って~……あ!」


 わしとさっちゃんが喋っていると、猫耳チームの少年のシュートが、キーパーに止められてしまった。


「最後はヨキね……」

「決めてくださいまし~」


 ボールをセットするヨキの姿に、双子王女は祈るように見つめる。



 そうして、静まり返る観客の様々な思いを乗せて、ヨキのシュートが放たれた。



「「「「「わああああ」」」」」


 ヨキの放ったシュートがネットを揺らした瞬間、観客席から弾けるように歓声があがった。

 その歓声は大きく、審判の笛の音を掻き消し、ピッチに立つ子供達は戸惑っている。その中を、ヨキの元へ、一人の猫耳チームの少年が歩み寄り、握手をする姿を見たわしは、涙腺が破裂した。

 わしは泣きながら立ち上がって拍手するが、肉球ではパチパチとは鳴らない。だが、周りにいる者がマネをして拍手をし、次第に全体に広がり、大きな拍手の音となった。



 そして最後の締め。司会のワンヂェンの呼び出しで、わしは猫又トロフィーを持って貴賓席からピッチへと降りる。

 ピッチでは、各街のキャプテンが整列し、わしの到着を背筋を正して待っている。そこには、マイクスタンドが立てられているので歩を進め、到着すると軽く咳払いをしてから語り掛ける。


『え~。優勝は猫チームになりにゃしたが、みんにゃいい試合でしたにゃ。感動したにゃ! ありがとうにゃ~~~!!』


 わしはそれだけ言うと、照れ臭そうにしているヨキに、トロフィーを受け渡す。ヨキはそのトロフィーを高く掲げ、皆を連れて各々の仲間の元へと戻って行った。


 ヨキ達の退場をを見届けたわしは、今度は猫耳族が座るベンチを向いて語り掛ける。


『猫耳族のみにゃさん。子供達の試合はどうだったにゃ? 楽しそうだったにゃろ? このピッチの中には、人族、猫耳族、関係なく、ひとつのボールを追う者しか居なかったにゃ。みんにゃも今はそうにゃろ? わしの国の為に頑張ってくれているにゃ。どの街も頑張ってくれているにゃ。だから大丈夫にゃ。わし達と一緒に、笑って生きてくれにゃ~』


 わしの締めの言葉に、猫耳の里の者はまばらに拍手をし、次第にまとまった拍手へと変わっていった。猫耳族は試合が始まる前と違って笑顔が多いので、わしもその笑顔に釣られてにっこりと笑う。


 こうして第一回サッカー大会は笑顔のなか幕を降ろし、家路に就くのであった。



 そして翌日……



 西のじい様主催のゴルフ大会が、勝手に始まりやがった。


 猫耳の里とラサの街は比較的近いので、サッカー大会が終わった直後に、待機していたキャットトレインに揺られて帰って行き、ソウの街は翌日早朝発のキャットトレインで帰って行った。

 他国の貴族どもは数日滞在すると聞いていたが、まさかゴルフ大会が行われるとは聞いていなかった。猫の街のコースなのに……

 どうやら、昨日のサッカー大会に触発されて、旅館でドンチャン騒ぎをしている場で決まったようだ。


 普段は多くても十人程度しかゴルフをする者がいないので、クラブハウスの飲食コーナーでは間に合わず、屋台を派遣する。幸い、昨日の屋台が残っていたので、何台かそのまま運び、従業員にも頼む。

 移動もバス一台では大人数を運べないので、わしが付き合うしかなかった。今日はゴロゴロしようと思っていたのに……



 そうして始まるゴルフ大会。大人数を適当にコースを割り振って、なんとか一日で回り切った。翌日は上位者をチーム分けし、ガチンコ勝負。何人か棄権したので、昨日よりはスムーズに試合が進んでいるようだ。


 わしはと言うと、さっちゃんとコリスと一緒に回っている。


「あ!」

「にゃはは。リラックスするにゃ~」

「にゃ~~~!」


 さっちゃんは、ダフッておかんむり


「あ!」

「にゃはは。ホームランにゃ~」

「にゃ~~~!」


 コリスは力加減が上手くいかずにお冠。でも、苛立つならもっと違う言い回しをして欲しい。


「それじゃあ後続も来たみたいにゃし、パターだけしてしまおうにゃ」

「「うぅぅぅ」」


 わしは昨日、大会出場を止める西のじい様や貴族相手に、ゴネまくって無理矢理大会に参加したのだが、ハーフまででブッチギったら、全員からブーイングを受けて追い出されてしまった。

 なんでも、毎回ワンオンはやる気を無くすし、わしの叩き出した数字は絶対追い付けないんだとか……

 将来的には、魔法有りの超人クラスを作るらしいので、それが出来るまでは大会に出るなとお達しが下った。わしが皆に教えたのに……


 なので、今日はおとなしく子供のお守りをしている。


「入った~~~!」

「お! あの長い距離をよく決めたにゃ~」

「モフモフ~。わたしもいくよ~」

「おう! ……にゃ~。おしいにゃ!」

「にゃ~~~!」

「にゃはは。外れたけど、力加減は出来てきてるにゃ」


 そうして適当に遊んでいたら、コリスの待ちに待ったお昼休憩。クラブハウスに行くと、スコアが張り出されていた。


「にゃ! オッサンが三位にいるにゃ」

「あ~。お母様に教えられてから、ハマったみたい。毎日庭で素振りしているし、パターコースまで作らせていたわよ」

「それで仕事は大丈夫にゃの?」

「いちおうは……たまにお母様に怒られているけどね」


 あらら。マズイ物を、この世界で普及させてしまったかも? 休日にゴルフばっかりして、夫婦仲が悪くならない事を祈ろう。



 わし達は、わいわい楽しく昼食を終わらせると、さっちゃんとコリスは自分でやるのは諦めて、王のオッサン達のラウンドについて歩く。

 そこで、さっちゃんはオッサンが上位にいるので応援をしていた。その応援に応え、オッサンは一位の西のじい様を追いすがる。

 ちなみにコリスは飽きて、わしの引くリヤカーでお昼寝中だ。


 さっちゃんの応援が効いたのか、オッサンは順位をひとつ上げ、西のじい様に一打追い付けないまま最終ホール、グリーン上でのパット勝負となった。


「こっちも熱戦だにゃ~」

「またドキドキだよ~」

「まぁ勝負ありかにゃ? 西のじい様は、2メートルぐらいにゃ。かたやオッサンは、あのロングパットを決めないと負けるにゃ」

「うぅぅ。さすがにお父様でも無理かも……」

「さあ、どうなるかにゃ~?」

「お父様~! がんばって~」


 わし達ギャラリーの見守る中、さっちゃんの声に手を上げて応えたオッサンは、慎重に素振りをし、パターを振る。そのボールはクネクネと転がり、少し強かったのか、カップの奥にぶつかって飛び跳ねる。


「あ……」


 ボールは上に跳ねたが、カッコーンとカップに落ちる事となった。


「お父様。すご~い!」

「シッ……西のじい様が打つにゃ」

「あ、うん……」


 西のじい様はオッサンを褒めながらボールに近付き、次のラウンドを想像しながらパットを振った。


「あらら」

「あんなに短いのに外しちゃったね」

「まぁ入れごろ外れごろの距離だったからにゃ~」


 西のじい様は悔しそうに、少し残った距離にあったボールをカップに捩じ込む。


「もう喜んでもいいよね?」

「うんにゃ。オッサンのところに行ってあげるにゃ」

「うん! お父様~~~」


 さっちゃんがオッサンに嬉しそうに駆け寄って抱きついてる横で、わしは西のじい様に近付き、惜しかったと労いの言葉を掛けて表彰式に移る。

 と言っても、急遽始まったゴルフ大会なので、賞金など無い。欲しいか欲しくないかわからない猫又トロフィーだけだ。

 オッサンに渡したら微妙な顔をしていたから、あまり欲しくないのであろう。さっちゃんは喜んで受け取っていたけど……



 ゴルフ大会も大きな拍手の音で終われば、猫の街から人は去って行く……



 わしもさっちゃん達を送り届けに、リータ達と共に東の国に向かった。そこで二日ほど滞在すると、仕事を押し付けられてしまった。


 スティナからは白い獣を狩って来いと言われ、エンマからは猫の国にある、何か珍しい物を売ってくれと言われた。

 スティナからの依頼は、手付かずの大ホワイトタイガーが残っていたからいいとして、エンマの依頼は厄介だ。

 やんわり断ってみたけど、踏まれて受ける事となった。ゴロゴロ喉が鳴ってしまい、踏まれて喜んでいると、リータとメイバイが勘違いして睨むから怖かったんじゃもん。


 とりあえず一度持ち帰り、ホウジツやセンジ、セイボクと相談した結果、猫の街の特産品としようとしていた大蚕おおかいこの布で作ったチャイナドレスで決定した。

 大蚕は、北の村から連れて来ていたので、現在飼育員が繁殖作業をしている。

 その大蚕にわしが交渉して、糸の質を上げさせたので、この糸をソウに運んで染色、猫耳の里で加工、完成した物を、双子王女とセンジに、サイズの確認と批評をしてもらった。


 ひとまず依頼は達成なので、猫の国からの贈り物は、わし直々に作る。作る物は、女王が欲しがっていた電動バスだ。

 ソウの街では、まだまだキャットトレイン製造で手いっぱいなので、わしがやるしか人手が足りない。まぁわしに掛かれば魔法でちょちょいのちょい。雷を入れる魔道具だけは、猫の街の職人に加工してもらえば完成だ。

 完成した電動バスはオッサンに納品し、女王にサプライズで出してもらう予定だ。






 雪がパラパラと降る、年末間際……


 猫の国でも女王誕生祭の準備を終え、出発の日が来た。


 東の国に旅立つ者は、各街のツートップ。軍からの視察でウンチョウと護衛の兵士達。そこに引率でワンヂェンとヤーイー。さらに、サッカーチームの二十人の子供と監督、世話係のズーウェイ。

 子供達は各街から厳選したドリームチーム。ヨキをキャプテンにし、副キャプテンに猫耳の里の少年を任命した。このチームで、一週間も合宿をしたので、チームワークも抜群だ。

 実際には出場者は十五人だが、次回出場資格の無い者もいるので、勉強の為に連れて行く事にした。


 各街からの大移動のため、キャットトンネルに集合させ、砦に一泊させた。この砦も他国の者が多く集まる場所なので、旅館が作られている。

 目玉は温泉。軍が森の押し返しをしている最中に、温泉が湧き出ている場所を発見したと報告を受けたので、砦から近かったから、そこまで砦を広げた。

 いまでは温泉目当てだけで、他国の者が訪れる名所となっている。砦から出なければ、入国税も掛からないから人気なんだとか。

 若干もったいないが、割高にした猫の国の特産品を多数買って行ってくれているので、外貨の獲得に役立ってくれている。近々、街として稼働する予定だ。




 砦に集まった視察団を前に、わしは出発の挨拶をする。


「双子王女は、女王のそばから離れられないだろうけど、みんにゃの事は気に掛けてやってくれにゃ」

「ええ。城の者を派遣するから、逐一報告は聞きますわ」

「わたくし達に任せてくださいませ」


 双子王女に挨拶を済ませると、各街の代表に声を掛ける。


「みんにゃは初めての他国への旅ににゃるけど、空気を感じ、猫の国の発展に繋がる事を学んで来てくれにゃ」

「はい! このような機会をいただいたのですから、勉強させてもらいます」

「僕も、他国の商人から学ばせていただきます~」

「私も猫耳の里の者へ、多くの土産話を持ち帰りたいと思いますじゃ」


 わしの言葉に、センジ、ホウジツ、セイボクと続き、残りの三人も加えて、やる気に満ちあふれた目を向けてくれた。


「ウンチョウは、警備体制にゃんかを学んでくれにゃ。城でも訓練が見られるからにゃ」

「はっ! 他国の兵士の力量を見させていただきます!」

「それと、護衛も仕事だから、みんにゃを怪我無く連れ帰ってくれにゃ」

「はっ! お任せください!!」

「「「「「はっ!!」」」」」」


 ウンチョウの固い誓いに続き、護衛の兵士達も力強い返事をくれた。


「ズーウェイとヤーイーは、子供達のお守りで大変だろうけど、出来るだけ楽しんで来てくれにゃ」

「はい! また仲間に伝えさていただきます!」

「私も、帰ったら伝えます!」

「にゃはは。そんにゃに肩に力を入れていたら楽しめないにゃ~」

「「は、はい……」」


 二人にはリラックスするように言って、今度は子供達の前に立つ。


「ヨキは試合の勝敗は気にせず、楽しんで来てにゃ。みんにゃも他国の子供と一緒に、楽しく遊んで来てにゃ~」

「「「「「はい!」」」」」


 子供達も目を輝かせて応えてくれたので、最後にワンヂェンに声を掛ける。


「ワンヂェンは、この中で一番東の国に足を運んでいたんだから、しっかり案内してくれにゃ。頼んだにゃ~」

「わかっているにゃ。うちに任せてにゃ~!」


 視察団との挨拶を済ませると、皆の乗り込む姿をリータ達と確認し、キャットトレインの発車を見送るのであった。





「行っちゃいましたね」

「みんな嬉しそうだったニャー」


 キャットトレインがトンネルに入り、暗闇に消えて行くと、リータとメイバイがわしに話し掛けて来た。


「そうだにゃ。さあ、猫の国の主要メンバーがみんにゃ出て行ってしまったし、忙しくなるにゃ~」

「ですね!」

「頑張るニャー!」


 わし達はお留守番。女王誕生祭に行きたくないわけではないが、国の発展には多くの人の力が必要だ。これほどの勉強の場は無い。

 さっちゃんや女王には、事前に欠席をする旨を伝えてブーブー言われたが、替え玉を送ったから、きっと大丈夫だろう。


「まずはソウからだにゃ。行っくにゃ~」

「「「「にゃ~~~!」」」」



 わしの言葉に、リータ、メイバイ、エミリ、コリスが力強く返す。相変わらず、気の抜ける掛け声なので、やめて欲しいわしであった。

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