340 サッカー大会にゃ~
その間わし達は、探検の疲れを取る為にお風呂をいただき、きれいさっぱり汗を落とすと、双子王女達と共に食卓を囲む。
一番小さく、傷が酷い物を出したのだが、双子王女もワンヂェン達も満足してくれたようだ。コリスも今日は頑張ったからモリモリ食べていたので、わしの皿も餌付けした。
そうしてちょっとした宴会が終わると、疲れたリータ達を寝かせ、わしは縁側で酒を飲みながら夜空を見上げる。
「シラタマさん……」
わしが夜空を見ていたら、リータとメイバイが寝室から出て来て、わしの隣に座った。
「にゃ? 疲れたにゃろ? 先に寝ていていいにゃ」
「シラタマさんも体調が悪いんじゃないですか? 早く寝たほうがいいです」
「にゃ~?」
「さっき、ぜんぜん食べてなかったニャー」
「それに、戦いのあとも様子がおかしかったです」
「ああ。それは……」
わしは質問に答えようとするが、言葉が詰まってしまう。
「どうしたのですか?」
「お腹痛いニャー?」
「いや……ちょっとおっかさんを思い出してしまったにゃ」
「お母さんですか?」
「ホワイトタイガーは、おっかさんに似ていたからにゃ」
「シラタマ殿のお母さん……だから食べなかったんニャ……」
「うんにゃ……」
わしが黙ると、リータとメイバイも黙り、静寂が訪れる。しばらく音も無かったが、二人が同時に声を出す。
「ごめんなさい!」
「ごめんニャー!」
「にゃんで謝っているんにゃ~」
「だって、悲しんでいるシラタマさんの目の前で、お母さんに似ている動物を食べちゃいました……」
「私もいっぱい食べちゃったニャ……」
「ちょっと面影が似ていただけで、ちょっと思い出しただけにゃ。だから、二人が謝る事じゃないにゃ」
「「でも~」」
「そんにゃに似てないにゃ。おっかさんは、もっと
二人が悲しそうな顔をするので、わしはおっかさんとの思い出を語り、夜が更けて行く。二人は初めて聞く話だったので、興味津々で聞いていたが、船を漕ぎ始めたので一緒に寝室へ行くと、すぐに眠りに落ちるのであった。
翌日は、二人のたっての希望でおっかさんのお墓参りに向かい、コリスも一緒に手を合わせる。
この日はそのまま日向ぼっこをして、リータ達とダラダラと過ごすのであった。
その翌日からは、各種準備で働き、十数日が経ったある日……
『さあ、各街対抗サッカー大会の開催にゃ~!』
「「「「「わああああ」」」」」
ワンヂェンの司会で始まるサッカー大会。出場者は、猫の街、ラサの街、ソウの街、猫耳の里の、十二歳までの子供達。
年齢制限をしている理由は、猫の街に大人が少ない事と、他の街でも大人は仕事で忙しいので、ちょっとは手の空く子供達に絞ったからだ。それと、子供のほうが、新しい事に興味を持ちやすい事も理由のひとつだ。
サッカー大会を開催するこの日の為に、普及活動をし、ルールブックや指導書を監督に読ませて、子供達に指導するように頼んだ。
幸い、娯楽の少ない世界だ。子供達はサッカーに夢中になって、ボールを蹴っていた。
観客は、各街の代表クラスが出席し、国民も少なからず集まってくれた。猫の街以外で、観客が一番多く来てくれた街は猫耳の里。セイボクには出来るだけ多く連れて来るようにと頼んでおいた。
猫の国以外にも、観客は足を運んでくれている。猫の街にゴルフをしにやって来た貴族に宣伝しておいたので、興味を持って見に来てくれた。声を掛けていない西のじい様まで、やって来るとは思っていなかったが……
もちろんサッカー協会会長のさっちゃんには招待状を送り、わしみずから迎えに行った。女王がついて来るかと思ったが、代わりにオッサンがついて来た。なんでも、双子王女に会いたいんだとか……
観客席は、わしが直々に作ってやった。と言っても、サッカーグラウンドの両サイドに、段差のある
貴賓席には、猫の国王族をはじめ、各街の代表と他国の王族、貴族が、高い所から観戦している。
その他の観客は雛壇に座り、猫耳の里の者は反対側の観客席で見ている。これは、人族との接触を避ける処置だ。
これら多くの観客が見守る中、猫の街のヨキが選手宣誓を行い、試合は開始された。
4チームしかないから総当たりと行きたいが、グラウンドは一面しか無く、スケジュールは一日しかないのでトーナメント制。
一回戦は、猫の街「猫チーム」VSソウの街「ソウチーム」。ラサの街「ラサチーム」VS猫耳の里「猫耳チーム」。
ソウチームは身体能力の高い猫耳族が一人もいないので楽勝かと思いきや、戦術がしっかりしており、カウンター主体で戦うので猫チームは苦戦を強いられる。だが、体力の落ちた後半ホイッスル間際にヨキが点を取って、猫チームが勝利。
ラサチームも猫チーム同様、猫耳族の混在チームだが、猫耳チームは猫100パーセントなので、地力で押し切られ、3対0で完敗となった。
観客も貴賓席の来場者も、点がなかなか入らない試合にはやきもきしていたが、子供達が一所懸命繋いだシュートが決まった時は、大きな歓声が起こっていた。
点が多く入る試合でも、シュートが決まる度に歓声があがり、負けた子供達が悔しそうにしていれば、敵味方関係無しに「よくやった」と励ましている姿があった。
そうして二試合が終われば、お昼休憩。貴賓席には、自慢のエミリの料理が振る舞われ、一般客には猫の街が屋台を出して、食事を振る舞っている。もちろん全て有料だ。
猫耳の里はまだお金を使っていないから、わしのポケットマネーを渡して、猫耳の里からの出向者の屋台で買い食いさせている。これで少しはお金の勉強が出来るはずだ。
他国の貴族達には前もって料理代込みのチケットを売ると説明していたのだが、西のじい様は元々誘っていなかったので、ひと悶着あったと聞いている。しかし、貴族達の見ている手前、金を出し渋るわけにもいかず、払っていたようだ。
なので、西のじい様の座る席に挨拶に行ったらゴネられた。
高いと言われてもしらんがな。勝手に来たじい様が悪いんじゃろ! 聞いてなかったから、せめて料理代を安くしろじゃと? そんなこと言われても返金しませ~ん。だからって、どんだけ飲み食いするんじゃ!!
西のじい様はゴネてはいたが、料理と酒のうまさに満足しているようだ。ビュッフェ形式にしたのは失敗だったと悔やんだけど……
ちょっと挨拶に行っただけなのにからまれるとは思わなく、西のじい様が面倒になったので他国の貴族に任せ、次は代表のテーブルに声を掛ける。
「楽しんでくれたかにゃ?」
「くぅ~! あんな土壇場で負けるなんて悔しいです~」
「にゃはは。わしもあそこまで苦戦するとは思わなかったにゃ~」
わしの質問に、真っ先に答えたのはホウジツ。一点を争う試合は、手に汗握ったようだ。次に答えるはセンジ。大差で負けた事に悔しがっている。
「あんなにボロボロに負けるなんて~」
「もう少し、チームプレーを意識しなきゃだにゃ」
「たしかに……いっそ、猫耳族の子供だけで揃えたほうがよかったかもです」
「ラサは少しわだかまりが残っているようだにゃ。でも、これを機に、仲良くなるように仕向けてはどうにゃ?」
「そうですね……頑張ります!!」
センジが復活したところで、セイボクにも話を振る。
「猫耳の里の子供は、多くの人族に見られているけど、頑張っているようだにゃ」
「ですね。大人のほうはまだ時間が掛かりそうですが、子供達ならサッカーを通して、親睦が深まりそうですじゃ」
「次世代に期待だにゃ。でも、わしの街のチームは仲良くやっているし、大人達にも伝わってくれたらいいにゃ~」
「はい……」
セイボクは、対面にある観客席に座る猫耳族を見ながら、未来に思いを馳せる。
そこには、最初は人族を見て睨んでいた者も、今では柔らかな顔となって子供達と話をしている猫耳族の姿がある。何を話しているかはわからないが、楽しんでくれているのであろう。
その姿を見て、わしは「きっと大丈夫」とセイボクの肩を叩き、その場をあとにした。
他国の者や代表と言葉を交わしたわしは、元に居た場所、さっちゃんや双子王女、リータ達が座る席に戻る。
「シラタマちゃん!」
「にゃに?」
「すごい試合だったね!」
「にゃはは。そうだにゃ」
前回見た時より試合らしくなったから、さっちゃんは興奮しておるな。まだまだ下手なんじゃけどな。
「お母様の誕生祭でもやっていい?」
「にゃ……もうそんにゃ時期なんにゃ」
「え~! 忘れてたの~? お母様、悲しむよ~」
「忙しかったからにゃ~。でも、まだ先にゃろ?」
「出し物なんかの準備は、もう取り掛かっているよ! だから、早くしないと大掛かりな事は出来ないの」
「にゃるほど……まぁさっちゃんはサッカー協会会長にゃんだから、好きにしたらいいにゃ」
「やった~!」
「やるのはかまわにゃいけど、チームはいっぱいあるにゃ?」
喜んで飛び跳ねていたさっちゃんは、わしの質問で、両手を上げたままピタリと止まった。
「あ……」
「にゃいんだ……」
「だって始めたばっかりだも~ん」
さっちゃんが泣き付いて来たので、わしは代案を提出する。
「じゃあ、東の国と、猫の国との親善試合って事でやったらどうにゃ? 今回は一試合しかないけど、それを見せたら、次回は他国も参加して、トーナメントにゃんか出来るかもしれないにゃ」
「それいいね! 帰ったらビシバシしごいて、猫の国に負けないチームを作るわ!」
「うちも負けないように、最強の布陣を用意するにゃ~」
わし達が女王誕生祭の打ち合わせをしていると、グラウンドに子供達と審判が入場し、「猫チーム」VS「猫耳チーム」の決勝戦が始まった。
だが、開始早々、猫チームはパスをカットされ、猫耳チームに一気に持ち込まれて得点されてしまった。
「あ~。もう入っちゃった」
「子供と言えど、猫耳族は身体能力が高いからにゃ~」
「たしかに……じゃあ、猫耳チームが勝つの?」
「さあにゃ~。監督がにゃにか指示を出していたし、戦術を変えるかもにゃ~」
さっちゃんと話をしていたら、リスタート。猫チームはオフェンスが減って、もたもたしている内に攻守が代わり、猫耳チームに攻め立てられる。
すると、双子王女がわしを問い詰めて来た。
「シラタマちゃん! ずっと攻められてますけど、大丈夫ですの!?」
「熱くなるにゃ~。みんにゃ頑張っているにゃ~」
「なんとか守っていますけど、このままでは負けてしまいますわよ!」
「てか、二人はそんにゃに興味あったにゃ?」
「ここまで来て、我が街が負けるところは見たくないですわ!」
「そうですわ。優勝以外、ありませんことよ!」
「だから熱くなるにゃ~」
「あ!」
わしが双子王女を宥めていると、さっちゃんが立ち上がって声を出す。その声に、わし達も試合に目を戻したら、猫チームが得点を決め終わったあとであった。
「え? いつ決まったのですの?」
「さっき、ボールを奪ったかと思ったら、ポンポーンとパスが通って、あっと言う間に決まりました」
「どう言う事ですの?」
さっちゃんに説明を求めた双子王女であったが、いまいち伝わらないからか、全員でわしを見るので、解説をしてあげる。
「ソウチームの戦術を見たにゃろ? 守って守って、敵が前に出ているところを狙っていたにゃ。ソウチームは得点を決められにゃかったけど、一歩間違えば、同じ結果になっていたにゃ」
「なるほど~。でも、シラタマちゃんは猫チームが勝ったり負けそうになっても、喜んだり悔しがったりしないのね」
「だってわしは王様にゃもん。子供達は、全員わしの子供と言っても過言じゃないにゃ。一所懸命やってる姿を見るだけで嬉しいにゃ~」
「プッ……シラタマちゃんらしいね」
さっちゃんが笑うと、テーブルに座るリータ達も笑うが、双子王女は笑いながらも文句があるようだ。
「そうですわね」
「でも、猫の街に住んでいるのですから、もう少し応援してくれてもいいのですよ?」
「う~ん……わしは中立を保つにゃ。そうしにゃいと、猫耳の里を
皆はわしのセリフに納得したようなしていないような顔をして、応援に戻る。だが、さっちゃんにはわしの言っている意味が、この先の未来でわかってくれるはずだ。
そうしてわしは、子供達の頑張っている姿や、そのプレーに一喜一憂する観客の姿を見て、にこやかに笑うのであった。
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