694 首都に向けて出発にゃ~


 宴の席でハムスターの丸焼きが出て来てテンションの下がったわし達であったが、コリスが全て平らげてくれたので復活。

 わしがあげた高級肉で作られたマチュピチュ料理を食べ、トウモロコシで作られたお酒「チチャ」を飲み、住人の踊りを笑いながら見る。

 お腹いっぱいになると、わし達も踊りに参加。住人に教えてもらいながら楽しく踊る。


 その宴は日が暮れるまで続き、住人が減って来たらお開き。わし達もキャットハウスに戻って就寝となるのであった。



 翌日は、またマチュピチュ観光。昨日の神官の男性に案内してもらい、ふたつある山に登って話を聞いたり写真を撮ったり。

 帰り際は歩いて下りるのが面倒だったので、「押すな押すな」と言う神官を押してあげて、風魔法でふわりと着地したからかなりの時間が短縮できた。


 お昼には、その辺で買い食いと行きたかったがお店が無いので、住人が料理を作って居るところをガン見して、少し分けてもらう。

 やはりあまり美味しくないので、前回クシと話をした見晴らしのいいバルコニーで勝手に昼食。神官にも手間賃で猫の国料理を食べさせてあげたら、魂が抜け掛けていた。


 神官の魂を戻し、わし達がわいわい喋っていたら、クシが近付いて来たのでランチに誘ってあげる。


「はぁ~……やはり美味しいですね……」

「うちは塩や香辛料が多く手に入るからにゃ~。そう言えばこんにゃ山の上にゃのに、塩には困ってなさそうだにゃ。どこから手に入れてるにゃ?」

「少々離れた場所にですね……」


 クシが言うには、山を下りてしばらく行った所に「聖なる谷」と呼ばれる場所があり、その近くに塩田があるそうだ。そこに編隊を組んだ兵士が取りに向かっているらしい。


「ここから下りたら危険じゃにゃいの?」

「昔は何人もの死者を出しましたが、いまは安全な道を確保していますので、数年に一度死者を出すぐらいです。少し危険ですが、塩が無いと料理が美味しくないですからね」


 料理の味の為に取りに行ってるんじゃなくて、ミネラルの補給の為だと思うじゃけど……。まぁ体が欲しているから、無理してでも取りに行かないといけないか。


「ところでにゃんだけど、ここって魔法は使えるにゃ? 初めて会った時に見せた竜巻みたいにゃ力にゃんだけど」

「魔法……【ワカ】のことですね。あんな風は起こせませんが、使える人は多いですよ。私も使えます」

「ちょっとどれぐらい使えるか、限界手前まで見せてくれないかにゃ? これは大事なことなんにゃ」

「はあ……わかりました」


 クシは何か言いたげだったがわしのお願いに応えて、風の球を空に放つ。他の属性も使えないのかと聞いたら風オンリーだったので、わしが火、水、土属性の魔法を見せてあげたが知らないとのこと。

 なので風魔法をそのまま撃たせ、限界手前まで見たら確認。クシの実力は、マチュピチュでは中の中ぐらい。ハンターで言ったらCランクの上位なので、普通の人間からしたら魔力量はかなり多い。

 ここマチュピチュは人口をかんばみて、チェクチ族と同程度の魔力量を所有しているので、嬉しい誤算だ。



「おお~。いいにゃいいにゃ~」


 クシから話を聞き終えると、わしはぶにょんぶにょんと肉球を打つ。


「はあ……それで、これは何を見ていたのでしょうか?」

「さっきわしの魔法を見せてやったにゃろ? ここの人も同じ魔法を使えるってことにゃ。つまり、これを習ったら、もう少し生活も戦闘も楽になるってことにゃ」

「教えてくれるのですか!?」

「まぁ待てにゃ」


 興奮するクシに、わしは肉球を見せて落ち着かせる。


「さっき確認していたことは、にゃにも魔法を教えるだけのことじゃないんにゃ」

「と、言いますと?」

「わしは遠い場所と場所とを繋げる道具を持ってるんにゃ。それには多くの魔力が必要でにゃ。みんにゃが魔力をいっぱい持ってるから使えるってわけにゃ」

「な……何を言っておられるのでしょうか?」

「ま、意味不明だろうにゃ。もしも首都に生き残りが居たとして、移動は大変にゃろ? この道具を使えば、それを一瞬で行き来することが出来るんにゃ~」


 わしは二個の三ツ鳥居を次元倉庫から出して見せてあげたが、クシの思考が追い付いていない。


「明日、首都を見に行くにゃ。もしも生き残りが居たら、これを通って連れて来てやるからにゃ」

「そ、そんなことが……ありえない……」

「ま、確率は低いだろうから覚悟しておいてくれにゃ。クスコ王国が滅んでいる可能性をにゃ。しかし、これは前進にゃ。国から離れ、自分達で歩く決断が出来るようになるにゃ。言ってる意味、わかるかにゃ?」

「……はい」


 クシは今まで国の存続を信じて生きていたのだろう。それとも、そう言い聞かせて生きて来たのかもしれない。

 わしの言葉で初めて覚悟と向き合わせてしまったかもしれないが、あるかないかわからない物を信じ続けるよりは、いい結果になるはずだ。


「もしもの場合は猫の国に入りませんか?」

「働いたら働いただけ、暮らしが楽になるニャー!」


 リータとメイバイが勧誘するから、わしに取っては悪い結果になるはずだ。絶対に忙しくなるもん!


「わしがクスコ王国を滅ぼそうとしてるように思われるから、勧誘はやめてにゃ~」


 なので、適当な言い訳でマチュピチュの猫の国入りを阻止するわしであったとさ。



 そして翌日、わし達はマチュピチュの広場でクシ達に出発を見送られる。


「それじゃあ行って来るからにゃ。昨日言った覚悟の話、忘れないでくれにゃ」

「はい……どんな結果になろうとも、我々はようやく一歩が踏み出せるはずです。どうか、無事に戻って来てください」

「にゃはは。覚悟は決まっていたようだにゃ。ま、人が居たらにゃん日か観光する予定にゃから、遅くなっても心配するにゃ。ほにゃ、いってきにゃ~す」


 こうしてわし達を乗せた戦闘機は手を振るクシ達に見送られ、飛び立ったのであった。



 戦闘機が空を行くこと数分。下を見ていたリータ達が白い森を発見したと騒ぎ出した。


「にゃに~? 今日は無視して進もうにゃ~」

「近いところに二個もあるんですよ!!」


 リータに言われて旋回してあげたら、わしも興味が出たので、マチュピチュから近いほうに着陸。外に出るとわしだけ興奮して、リータ達は静かなもの。


「騙されました……」

「獣の一匹も居ないニャー」

「にゃはは。ここは塩田にゃ~」


 そう。白く見えていたのは塩を作っている棚田。マチュピチュの命の源、塩田だ。壮大な塩の段々畑なのに、リータやメイバイ達はあまり興味が無さそうだ。


「どうやって塩を作ってるんにゃろ? 近くに塩湖でもあるのかにゃ? それとも湧き出しているのかにゃ? あ、これって、うちでも使えるかもしれないにゃ。メイバイ、写真に撮っておいてくれにゃ~……にゃ??」


 わしが喋りながら歩いていたら、誰もついて来ておらず。周りを見渡してもひとっ子ひとりおらず。探知魔法を使ったら、全員南に走っていた。


「グッニャ~~~イ~~~……」


 なのでわしは写真を撮ってから、いまは無きマチュピチュ名物のグッバイボーイになって追いかけるのであったとさ。



「置いて行くにゃんてひどいにゃ~」


 皆に追い付いたわしはリータの背中にくっついて「にゃ~にゃ~」文句。


「何度も行こうと言ったじゃないですか~」

「そうニャー。無視して聞いてくれなかったシラタマ殿が悪いニャー」

「ちゃんと南に行くって言いましたよね?」

「「「「うんうん」」」」

「わしは聞こえてなかったんにゃ~」


 どうやらリータ達はマジで言伝を残していたようだけど、なんだか口裏合わせっぽく聞こえるんじゃよな~? しつこく聞くと、めっちゃ撫でて来るし……


 リータ達はわしを置き去りにした事は本当に反省しているらしく、代わる代わる誠心誠意撫で回すので寝てしまいそうだ。

 わしがうとうとしていたら、白い木の群生地に到着。ギリギリ起きていたのでわしから入ると言ってみたが、イサベレいわく、主はそんなに強くないとのこと。なので、わしの案は却下して皆は先々進む。


「「「「うっ……」」」」


 イサベレの言う通り、主は全長15メートルぐらいで尻尾四本なので、そこまで強そうではなかったが、リータ達は後退あとずさる。コリスはいつも通り。


「ベッ!!」

「【突風】にゃ~!!」


 いきなり特大の唾を吐き掛けて来たからだ。いや、白くてデカいアルパカだったから、モフモフ好きは戦えないのだ。


「アルパカさんもやる気満々にゃし、殴ってもいいかにゃ?」

「「「「できるだけ手加減してあげてにゃ~」」」」


 皆から許可をもらったら、ネコパンチ。いつもボコボコにしたら皆から非難の声が来ていたので、ちゃんと確認を取れたわしは、やはり出来る猫だ。

 とりあえずボコボコにして敵意を奪ったら、白アルパカの傷を治して黒い巨大魚を餌付け。これでわしの舎弟になったので、リータ達に褒めてもらおうと近付いたら、わしのハグは避けられてしまった。


「わたしがしてあげるね。よしよし」

「ゴロゴロ~。コリスはいい子だにゃ~。お菓子あげるにゃ」

「ホロッホロッ」


 モフモフ仲間のコリスは残ってくれていたからスリスリ。褒めて頭を撫でてくれたので、お菓子で餌付け。相変わらずお菓子が目的のような気がするけど、気のせいだろう。

 リータ達は白アルパカのモフモフに包まれて幸せそうなので、わしとコリスはお茶をしながらお喋りだ。


「にゃるほどにゃ~。ここに強い獣が鎮座してたから、マチュピチュと首都が分断されていたんだにゃ」

「かき氷たべたい……」

「ほいっとにゃ」

「ホロッホロッ」

「尻尾四本ってことは、コリス達でにゃんとかなりそうだったのににゃ。でも、黒い森が生まれた年代の裏付けになったにゃ。ここの森は、けっこう若いにゃ~」

「キーンときた~」

「急いで食べ過ぎにゃ~」


 コリスからのレスポンスはかき氷の事だけであったが楽しく喋っていたけど、このままだとお昼まで食べ物の話になりそうだったので、わし達もアルパカにモフッと突撃。

 モフモフの海を泳いでリータ達を発見したら、ここの滞在はお昼までと言い聞かす。当然反対の声大多数だが、急ぎの用があるのだ。

 なので、モフモフツアーなる旅行を企画して、皆を引き離すのであったとさ。



 モフモフツアーの順路を話し合いながら昼食を終えると、戦闘機は離陸。目的の場所はわりと近かったので、その姿が見えて来た。


「お~。やっぱり残ってたんにゃ~」

「あれって……街じゃないですか?」

「ラサの街よりおっきいニャー!」


 リータやメイバイ達が久し振りに興奮してくれているので、わしは元の世界での歴史の名と共に説明する。


「アレこそ、インカ帝国の首都『クスコ』にゃ~。にゃははは」


 ここはペルー南東部にある『クスコ』。標高三千メートルを超える場所に作られた街だ。


 戦闘機はしばらく空を飛び、その雄大な街を旋回しながら眺めるのであった……

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