695 入国審査はいつも大変にゃ~
元の世界ではインカ帝国、この世界ではクスコ王国の首都『クスコ』に着いたら、戦闘機を旋回させてメイバイに航空写真を撮らせる。その間わしは、着陸ポイントを探していた。
マチュピチュが残っていたからクスコも残っている可能性が高いと思っておったが、大正解じゃったな。
なんせマチュピチュより標高が千メートルも高い三千メートルオーバーじゃ。植物や動物だって厳しい環境なんじゃから、そりゃ黒い木も届かんかったようじゃ。
さてと、どこに降りてやろうか。緑の木に囲まれているから、街の中か農地ぐらいしかいい場所がないんじゃが……
あの門の近くにスペースがあるし、無理矢理降りてやろうか。さすがに中は驚かれるだろうからな。
着陸ポイントが決まると、リータ達に注意事項。今度こそ高山病の危険があるので、無理しないで空気魔道具内臓マスクを使う事を約束させる。
それと、戦闘になった場合の注意事項。空気が薄いので速く動くとすぐに息切れになるから、出来るだけ動かずに魔法で対応するようにと方針を決める。
それからコリスもさっちゃん2に変身し、見た目に難のある者の猫耳マントも整えば着陸。戦闘機を次元倉庫に入れたら、わしはメイバイに抱かれてぬいぐるみに擬態。
皆に空気の感じ方を聞きながらゆっくり進めば、門に到着。その上には、十人ほどの武装した男が並んでいた。おそらく、戦闘機の着陸を見られて集まってしまったのだろう。
「弓を向けていますけど……どうしましょうか?」
「いつも通り旅人で通してにゃ。王族関係は時期が来てからでよろしくにゃ~」
敵意満々の原住民を見ても、リータは慣れたもの。説得も慣れて来たように見えたが、少しトラブルがあるようだ。
「ありゃりゃ。クスコ王国は滅んでいたんにゃ~」
「名前を出したのは失敗でしたね」
「じゃあ、餌付け作戦に変更にゃ。塩も出してかまわないからにゃ。大盤振る舞いにゃ~」
どうやらクスコ王国と敵対していた者がここを支配していたようで、いまにも弓を放ちそうだから作戦変更。
小振りの黒い獣を見せ、「中で偉い人に会わせてくれるならもっとくれてやる」と説得したら、いつもの手のひら返し。ただ、代表者に確認が必要らしいので、お茶して待つわし逹。
壁の上の人も誘ってみたけど門は開けてくれないので、リータに板チョコを一枚投げさせた。食べるかどうかは男逹しだい。ま、わいわい聞こえて来たから、食べた奴が居たのはわかった。
そうしてわし達がぺちゃくちゃと喋っていたら門が開き、剣や槍を持った兵士が数十人出て来た。
「貴様逹がクスコ王国の使いか……」
その兵士の中央に立つヒゲ面の大きな男が偉そうだったので、念話を繋げてみたら勘違いしていた。
「違います。私達は遥か遠くからやって来ました。クスコ王国も、この近くにあったマチュピチュと言う所で知りました」
リータが対応すると、ヒゲ男は少し驚いた顔をしたが、前もって説明を受けていたのかすぐに会話に戻る。
「マチュピチュ……王国時代にあった街の名前だな。そこの使いと言うことか?」
ヒゲ男はクスコ王国に対していい印象を持っていないようなので、まだ疑っている。リータもどう返していいかわからずにわしを見たので、メイバイに前に出てもらって、腹話術っぽく対応してみる。
「まったく違うにゃ。てか、クスコ王国ってのはそんにゃに酷い国だったにゃ?」
「そっちのは男だったのか……まぁいい。クスコ王国のことを本当に知らないようだな」
「そりゃそうにゃ。わし達は海を越えた大陸からやって来たからにゃ。って、言ってもわからないかにゃ~?」
「海はわかるが……あれを越えただと?」
「これ、お近付きの印にあげるにゃ。見てくれにゃ~」
メイバイの手にアルバムを握らせると、投げさせてヒゲ男にパス。
「なんだこれは~~~!?」
当然見たこともない写真に驚き、アルバムをペラペラ捲ってはいろいろな表情を見せる。
なんじゃ。堅苦しい奴かと思っていたけど、そんな顔も出来るんじゃ。でも、驚きのバリエーションの数が多すぎて笑ってしまいそうじゃわい。
リータ達に笑いを
もちろん堪え切れずに全員吹き出して笑ってしまったが、後ろを向いていたから失礼だと思われないと信じよう。
ヒゲ男はそれどころでは無いようなので、わし逹が笑っていた事に気付かず質問してくれたので、再びメイバイに振り向いてもらってわしが対応する。
「これはいったいなんなのだ……」
「写真と言ってにゃ。見た物をそのまま絵にする技術があるんにゃ。ちにゃみに、そこに映っているのは、猫の国という国家にゃ」
「そんなことが……いやいや、国だと!?」
写真に驚いてくれていたヒゲ男は、国にも驚いてくれたので説明。
「ちょくちょく立ってる獣が居るにゃろ?」
「そう言えば、ウサギや見たこともない獣が立ってるな」
「そんにゃかで、白い獣が猫の国の王様にゃ」
「獣が王様??」
「メイバイ。下ろしてくれにゃ~」
ここでネタバラシ。わしは地面に下りると二本の足で立ち、猫耳マントを脱ぎ捨てて自己紹介を始める。
「そう。わしこそ猫の国の王……シラタマ王にゃ~!」
唖然呆然。ヒゲ男達はわしが自己紹介しても、口をあわあわするだけで反応はなし。猫が立って歩いているだけでも驚きなのに、王様なんてしているので信じられないのだろう。
しかし、ヒゲ男が復活したら、話が変わる。
「この国を奪いに来たのか!?」
「最初に旅人と説明したんにゃけどにゃ~」
「せ、戦闘だ! 皆の者、武器を構えろ~~~!!」
「あ、戦争するぐらいにゃら、わし達は帰るにゃ。それでも攻撃するにゃら、開戦になるから気を付けろにゃ~?」
わしはわざと後ろを向くと、ヒゲ男は一瞬悩んだようだが、どこからか弓矢が飛んで来た。その矢は、侍の勘を使って振り向き様にキャッチ。
「えっと……いまのって、わざとじゃないにゃろ? 本気にゃら、もっといっぱい撃ってたにゃろ??」
「誰が撃った!? もうこうなってはヤルしかない……」
「わざとじゃないにゃら大丈夫にゃ~!!」
「突撃~~~!!」
わしが許す的な事を言っても、ヒゲ男は待った無し。
「はぁ~~~。コリス。隠蔽魔法を解いて威嚇にゃ」
「うん! ホロ~~~!!」
なので、コリス頼り。さっちゃん2のままなのに、コリスの威嚇ひとつで、ヒゲ男達は膝がガクガク震えて腰を落とした。
その兵士逹の間をわしは優雅に歩き、ヒゲ男の前で止まる。
「あ~あ……わし達は観光したかっただけなのににゃ~。ここからどうやって友好的にしたらいいかわからなくなったにゃ。オッサンに妙案はないかにゃ?」
「お……俺が
「誰の命もいらないにゃ。どうしても詫びたいって言うのにゃら、わし達をもてなしてくれにゃ~」
「は、はは~」
ヒゲ男は土下座すると、もつれる足を殴りながら走って行ったので、またお茶休憩。兵士は命令が無かったのでどうしていいかわからずに残っていたので、アメちゃんを配って歩いた。
それでわしに敵意は無いとわかってくれたのか、世間話を振ってみたら応えてくれるようになったので、さっきのヒゲ男の人となりを聞いてみた。
ヒゲ男は、クスコ兵の中でトップ。生真面目で規律にうるさいからあまり兵士の間では好かれていなかった。
今回の所業も、クスコ王国に
「そんな人の下は大変だな~」と喋っていたら、わしに弓を射った犯人が土下座で謝って来たので快く許す。初の実践で緊張して、汗で手が滑っただけだったので当然だ。
そんなこんなで兵士と打ち解けていると、ヒゲ男が走って戻って来たと思ったら、その後ろには
その中肉中背の老人は御輿から降りると、何度もヒゲ男の顔を見て「アレ? 本当にアレが王なの? 間違いじゃない??」的な事を言っていたけど、念話で聞いておるぞ?
まぁ兵士と膝を付き合わせて喋っていたら、そう思うだろう。いや、猫だからそう思って当然だ。
ようやく現実を受け止めたら、老人はわしの前まで来て土下座した。
「兵が失礼をして、誠に申し訳なかった! これは、長の
「うんにゃ。怒ってないにゃよ?」
「そうじゃろう。儂の謝罪だけでは許せないとは思うが……へ? いま、なんと言いました??」
「だから怒ってないにゃ~。てか、そっちのオッサンからにゃんて聞いたにゃ?」
「お供の少女ですら敵わない国の王を怒らせたと……あと、もてなせば許してくれるとも……」
いちおうヒゲ男はわしの伝言をちゃんと伝えてくれたようだが、ヒゲ男がめちゃくちゃ慌てていたからビビって、長はこのように
「全て不問にするから頭を上げろにゃ。こんにゃの、各地を回っていたらちょくちょく起こることだからにゃ。だって、わしってこんにゃ姿にゃんだも~ん。にゃははは」
わしが笑うと、長は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で体を起こす。
「じゃあ、改めにゃして……わしは猫の国のシラタマ王にゃ。今日は楽しい宴を開いてくれたらありがたいにゃ~」
「わ……儂は、このクスコを
わしが右手を差し出すとカパックは取ってくれたので、そのまま引き起こし、固い握手を交わす。
こうしてクスコに入るには少しいざこざがあったが、わし達は快く迎えられ、門を潜るのであっ……
「あ、そうにゃ。コリス、もういいにゃよ~?」
「わかった~」
「……へ? リ、リス……猫の国とはいったい!?」
コリスが元の姿に戻ると、カパック達はまた混乱するのであったとさ。
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