185 女王誕生祭 三日目 2


 キャットカップ、エキシビションマッチ第一試合。リスの着ぐるみを着た女と口喧嘩をしていたら、わしだけティーサに怒られた。どうやら、リス女は有名なハンターだったらしく、ティーサは気を遣っているみたいだ。


「もう降ろしてくれにゃ~」

「まだです。ルール説明を終わらせて、試合が始まるまで待ってください」

「抱きたいだけじゃないかにゃ?」

「ち、違いますよ!」


 う~む。ティーサは薄い水着のような格好をしているから、後頭部に当たっている柔らかい物も気持ちいい……じゃなく! 気恥ずかしい。観客席から殺気のようなモノも感じるし、やめて欲しいわい。

 あっちの二つの殺気はリータとメイバイかな? ガウリカ達やエミリも一緒に観戦しているのか。こっちの方向は貴族や王族。貴族のほうの殺気はローザかな?

 王族や護衛の騎士の所の殺気は、ソフィ達がにらんでいるな。それにさっちゃんが一番大きな殺気を放っておる。

 そんなに殺気のこもった目を向けないで、温かい目で応援してくれんかのう。


 そろそろ準備完了かな? プロレスのリングより、ちょい広めの線が引かれておる。あそこで押し出すか、押さえ込んだりするのか。

 スティナから派手に闘って欲しいと注文があったのに、どうしたものか……う~ん。



 わしが悩んでいると、ルール説明の終えたティーサが、リングのような空間の真ん中にわしを置き、リス女を呼び込む。


「準備はいいですか?」

「いいにゃ」

「ええ」

「それでは……はじめ!」


 ティーサの合図で試合が始まる。わしとリス女はにらみ合い、動かない。そんなわし達を観客が固唾を飲んで見守る。


「来ないの?」

「どうやって闘うか、まだ考え中にゃ」

「私に勝とうって言うんだ」

「まぁにゃ。ところで、その格好ってキョリスのマネかにゃ?」

「よくわかっているじゃない。伝説のキョリス様の姿は、私に力を与えてくれるのよ」


 やはりか。白いリスなんて、キョリス以外いないもんな。


「にゃるほど~。でも、キョリスは尻尾が三本にゃ。一本足りないにゃ」

「え!? いえ。資料通り作ったから、そんなわけないわ」

「角も二本付いて無いにゃ」

「ふ~ん。私の動揺を誘おうと言うわけね」

「わしは会った事があるにゃ」

「そんな嘘に乗るわけないでしょ!」


 わしの言葉は聞く耳持たず。リス女はわしに攻撃を繰り出す。パンチ、キック。裏拳に後ろ回し蹴り。わしはその攻撃を紙一重でかわしていく。


 この動き……格闘家か? リータが第一号じゃと言ったのに、二番目だったんじゃな。いや、試合前に、剣をティーサに渡しておったな。

 メイバイも蹴り技を使っていたし、格闘家と言う職業が認知されていないだけで、使える者が多いのかもな。


「なかなかやるわね」

「そっちもにゃ」

「これはどうかしらね?」


 リス女は、今度は回転しながらわしに迫り来る。回し蹴り、跳び蹴り、裏拳にフック。その回転は止まない。この攻撃もわしには届かない。だが、ついにわしにガードさせる攻撃が来る。

 リス女が背を向けた瞬間、気を抜いたところに二本の尻尾が飛んで来て、驚いて避けるのが遅れ、肉球で受けてしまった。


 ビックリした~。まさか動いて来るとは思わなんだ。さっきの硬さ……硬さ的に石が入っているのか? じゃが、動きが変じゃ。回転してぶつけて来たならわからない事もないが、まっすぐ飛んで来たな。

 いまも尻尾が動いているように見える……魔法か? 石の玉を土魔法で操作して動かしているのかな?


「ふふん。驚いているみたいね」

「ビックリしたにゃ~」

「尻尾が動く理由は秘密よ」

「そうにゃんだ。でも、ある程度、察しが付いてるにゃ」

「答え合わせをしてあげるわ。まぁわかるわけないけどね」

「じゃあ、お言葉に甘えて……土魔法で動いているんじゃにゃいかにゃ~?」

「え?」

「土魔法で正解かにゃ?」

「不正解よ!!」


 リス女はそれだけ言うと、攻撃を再開する。今度は二本の尻尾を交えた回転攻撃だ。攻撃回数が、両手、両足に加えて二本の尻尾となり、六つの打撃が飛んで来る。


 う~ん。逆ギレっぽいから、正解かな? じゃが、ひとつ気になる事があるから、止まってもらうか。


 わしは六つの打撃を掻い潜り、軸となっている足に絡み付く。


「なっ!?」


 驚いて止まったリス女を見て、すぐに飛び退く。


「ちょっと聞きたいんにゃけど、いいかにゃ?」

「なによ!」

「さっきの答えは正解かにゃ?」

「ち、違うって言ってるでしょ!」


 うん。正解じゃな。目が背泳ぎになっておる。


「それと、魔法は使ってもよかったにゃ?」

「魔法なんて使ってないわよ! 素で尻尾が動いてるんだからね!」


 魔法はルールに禁止されていなかったから認めればいいのに……。リスさんが使っていないと言い張るなら、それに乗ってあげるか。闘いの方針は決まったしな。


「まぁいいにゃ。そろそろ、わしも攻撃して行くにゃ~」

「そうはさせないよ!」


 いや、くれよ! 散々攻撃しておいて、また回って攻撃して来やがった。しかも、スピードが上がっているから、【肉体強化】も使っているじゃろ! じゃが、飛んで火に入る夏の虫じゃ。


 わしはリス女に合わせて回転する。リス女が飛んで蹴りを放てば、わしも遅れて飛んで蹴りを放つ。尻尾の攻撃にも、遅れて尻尾を放つ。

 そうすると、わしとリス女は長い回転が続き、凄い速さで回るわし達を見た観客が沸き上がる。


 そろそろ限界かな? やはり、猫の平衡感覚にはついて来れなかったな。


 わしがしていた事は、リス女の攻撃に合わせて攻撃し、リス女の回転を加速させていた。その結果、高速回転に耐えられなくなったリス女は、攻撃がおろそかになってきた。


 ラスト!


 わしは、回転に耐えきれなくなって、もう手も足も尻尾も出ないリス女に近付き、体に触れ、回転を加えながら高く放り投げる。


「きゅ~~~」


 そして、目の回ったリス女を受け止め、地面に寝かせると肌の露出した顔に、のし掛かる。


「エイト、ナイン、テン! シラタマさんの勝利で~す!!」


 ティーサのカウントの後、わしの勝利が告げられる。するとリス女は……


「モフモフ~~~」


 と、幸せそうな声をあげる。


「にゃ~! 離すにゃ~~~!!」


 そしてわしは、リス女に顔を埋められ、必死で抵抗するのであった。



 やっと離してくれた。キョリス好きと言うより、モフモフ好きなんじゃなかろうか? リスの着ぐるみもモフモフしておったしな。

 バーカリアンといい、リス女といい、アイが言う通りBランクハンターは変人ぞろいなのか。わしもBランクに上がれば、変人扱いされるのかな? もうすでにか。


 わしが考え事をしていると、リス女が近付いて来る。


「そのモフモフ、なかなかよかったわよ」

「こう言う時は、闘いを称え合うんじゃないかにゃ?」

「今日のところは、モフモフに免じて勝ちを譲ってあげたのよ」


 わしの完全勝利じゃと思うんじゃが……負けず嫌いなのかな? また口喧嘩になってティーサに怒られるのも嫌じゃし、話題を変えるか。


「リスさんは、わしがキョリスに会った事を信じてないみたいにゃけど、事実にゃ」

「またそんな嘘を……」

「わしの生まれは、東の山奥にゃ」

「キョリス様の住み処が、猫の故郷?」

「そうにゃ。何度もキョリスには殺されかけたにゃ。特に人間を嫌っているから、絶対に近付くにゃ。リスさんのせいで、最悪、国が滅びるにゃ」

「え……」

「まぁ信じるかどうかはリスさんしだいにゃ~」


 リスさんは信じたと言うより、パニックってところか。敬愛するキョリスが人間の敵では仕方ないか。


「面白い情報をあげるにゃ。キョリスには嫁さんがいて、ハハリスと言うにゃ。ハハリスは尻尾が四本あるにゃ。その尻尾、増やしたらどうにゃ? 土魔法で操作出来たらだけどにゃ」

「さすがに、二本以上は……」

「にゃはは。やっぱり土魔法だったにゃ~」

「あ……やられた」

「猫ちゃん達、そろそろ次の準備をしたいんですけど……」


 わし達が話し込んでいると、ティーサが割って入る。わしとリス女はガッシリと握手をして別れる。何故かリス女は、着ぐるみの手袋を外していた。



 また引き剥がすのに時間が取られてしまったわい。わざわざ手袋を外していたのは、肉球をプニプニする為だったのか。観客席の殺気が強くなるからやめて欲しいわい。

 しかし、次の相手はいつ現れるんじゃろう? 次も高ランクのハンターなのかな? 変人じゃありませんように!


 わしの願いは届かず、無情にもティーサによって、とあるハンターの名前が呼ばれる。


『続いての対戦相手は、王都ナンバーワンハンター、バーカリアンさんで~す!』


 はぁ。バカか……どこにおるんじゃ?


 わしがキョロキョロと周りを見ていると、大音量の笑い声が聞こえて来る。


「ハーハッハッハッハー」


 なに? 上か!?


 バーカリアンは訓練場の外から、風魔法を使って空を飛び、わしの目の前に笑いながらふわりと着地した。


 バカのくせに、なかなか風魔法を上手く使っておるな。わし以外にこんな使い方する奴がいるとは、伊達に王都ナンバーワンを名乗っておらんな。


「フッ。決まった……これで俺様の人気ナンバーワンは、揺るがないな」


 うん。ナンバーワンのバカじゃ。


 観客席に手を振るバーカリアンを呆れた目で見ていると、ティーサがわし達の元にやって来た。


「では、おふた方でルールを決めてください」

「わしはにゃんでもいいにゃ」

「猫……俺様もなんでもいい!」

「それじゃあ決まらないにゃ~。先輩のバーカリアンさんが決めてくれにゃ~」

「俺様は挑戦者じゃない! こんな目立つイベントを開きやがって……猫が決めろ!」


 あら? ご機嫌斜めじゃな。また人気を取られてねておるのか。


「じゃあ、模擬刀の実践形式、魔法も有りにゃ。勝敗は動けなくにゃるか、ギブアップ。模擬刀も壊れたら終了にするかにゃ?」

「……それでいい」

「ちょっとだけ準備していいかにゃ?」

「わかった」


 わしはティーサを連れて、模擬刀が置いてある場所に移動する。


「この模擬刀って、借りていいかにゃ?」

「はい。何をするのですか?」

「これだと持てないから、つかを取り替えるにゃ」

「それぐらいでしたら大丈夫ですけど、猫ちゃんの剣を使わないのですか?」

「わしの剣は丈夫に作ってあるから、フェアじゃ無いにゃ。剣をいじってる間に、観客の相手をしてくれにゃ」

「そうですね。バーカリアンさんにも話がありました」


 ティーサはバーカリアンに何か話をしてから、観客にルール説明をする。その間にわしは短めの剣を手に取り、わしの手に合う柄を土魔法で取り付ける。


 ソードは初めてだけど、なんとかなるじゃろう。両刃でも刃が無いから、刀と同じ使い方をしても問題無いじゃろうしな。



 わしの準備、観客のギャンブルのベットも終わると、ティーサに中央に呼び込まれ、開始の合図が掛かる。


「始め!!」


 向こうから突っ掛けて来ないか。どれぐらいスピードがあるかわからないと、一瞬で終わってしまいそうなんじゃが……。とりあえず、リスさんと同じスピードから行くか。


 わしは小手調べに真っ直ぐ突っ込み、剣を横に振る。バーカリアンはその場から動きもせずにわしの剣を受け、大きな金属音が響く。


 この速度と力なら受けられるか。ならばこのまま連撃!


 わしは一呼吸で二回剣を振る。斜めに斬り上げ、ガードされると、刃をなぞらせ右に移動し、今度は上から斬り付ける。


 ほう……これも受けるか。しかし、受け方がおかしい。動きを読まれてる?


「それで終わりか?」

「にゃ? 次、攻撃してくれるにゃ?」

「フッ。それもよかろう。喰らえ!」


 バーカリアンは、大きく剣を振りかぶる。


 まだ間合いが遠いのに動作がデカい。見え見えの上段を当てようと言うのか? 軽く避けるか。


 わしの疑問も束の間、バーカリアンは剣を振り下ろす。その大きく振るった剣を、わしは避けられなかったのであった。

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