189 女王誕生祭 四日目 2


 女王誕生祭、四日目の朝。女王を追い返そうと頑張っているが、なかなか帰らない。ついにカルタ大会に参加しやがった。


 はぁ……さっきまで、文章に不満を言ってなかったか? 女王とロランスさんまで「キャッキャッ」と言いながらカルタをしておる。

 わしも忘れられておるし、他の様子を見に行くとするかのう。よっこいしょ。


 わしはカルタを読む声を聞きながら、離れに移動する。しかしアダルトフォーの巣にいきなり入るのは怖いので、そっと中をのぞき見る。


 ああ。ここもコタツ虫だらけじゃ。こっちは昼にもなっていないのに、酒を飲んでおるのか。入るか入らないか悩みどころじゃ。

 う~ん。オンニがいるから、やめておこう。飲まされているように見えるし、わしまでとばっちりを受けそうじゃ。


 わしは扉をそおっと閉めて、立ち去る。オンニの悲鳴が聞こえたのは、気のせいだろう。

 そうして、本宅の二階に上がり、アイ達の部屋にお邪魔する。どうやら、リータとメイバイもお邪魔しているみたいだ。


「ここもにゃ~」

「どうしたの?」

「みんにゃコタツに入って、ダラケきっているにゃ」

「そう? 毎年、一日ついたちはこんなもんよ?」


 わしとアイが話をしていると、ルウが天板に突っ伏しながら喋る。


「このコタツが気持ちよくて、動きたくなくなるね~」

「やっぱり撤去しようかにゃ……」

「「「「え~~~!」」」」


 アイ達も悲鳴をあげるのか……。この家で動いているのは、料理班のエミリ、料理長、侍女さんしかおらん。みんなコタツから出る気配がないな。


「シラタマさんも立ってないで、座ってください」

「……そうだにゃ」


 リータがスペースを開けてくれたので、リータとメイバイに挟まれる形で座る。撫で撫で付きで……


「一日はこんなもんって言ってたけど、他の家庭でもそうにゃの?」

「そうね。一日は静かに暮らすのが通例だから、何もしないわ。外に出てもやってる店も無いしね」

「ふ~ん。リータの村でもにゃ?」

「はい。静かに家族で過ごしていました」


 そんなモノなのか。この国ではお年玉とか、初詣みたいな風習は無いんじゃな。


「誰か変わったこと、やってたりしないにゃ?」

「猫ちゃんより変わったこと出来ないわよ」


 アイさん……わしが変わっているじゃと? たしかに猫じゃが、全員でうなずかないで!


「それなら我が国では……ムゴッ!?」


 わしは咄嗟とっさにメイバイの口を塞ぎ、コソコソと念話で話す。


(だから、我が国とか言っちゃダメじゃ)

(ごめんニャ。すっかり忘れていたニャー)

(それでメイバイの国では、何をしていたんじゃ?)

(街は賑わい、子供はみんな、凧上たこあげしていたニャ)

(凧上げ?)

(シラタマ殿は知らないかニャ? 凧って言って、木に紙を……)

(いや、知っている。わしの故郷にもあったぞ。この世界にもあるのだと驚いたんじゃ)

(そうだったニャ!?)

(メイバイも凧で遊んでいたんじゃな)

(いや……私は……)


 あ……奴隷だったメイバイが、そんな遊びは出来なかったのか。いつから奴隷だったかわからないけど、反応から察するに、そう言う事じゃろう。珍しくメイバイから昔の話を聞けたのに、失敗じゃった。


(じゃあ、いまから一緒にやろう)

(出来るニャ!?)

(たぶん、なんとかなる)

「ありがとニャー!」

「にゃ!? ゴロゴロ~」


 メイバイは念話を忘れて声をあげ、わしに噛み付く。すると、ゴロゴロと喉が鳴るわしに、リータが質問する。


「どうしたのですか?」

「にゃんでもないにゃ。ゴロゴロ~」

「二人で念話で、何か話をしていましたよね? 私にも話せない事ですか?」

「いや、あとで話すにゃ。ゴロゴロ~。ちょっとメイバイと外に出て来るにゃ~」

「それじゃあ、私も行きます」

「うんにゃ。一緒に行こうにゃ~。ゴロゴロ~」


 と言って、庭に出て来たが、アイ達までゾロゾロとついて来た。


「寒い~~~!」

「別に、ついて来なくてもよかったにゃ」

「何か面白そうな事をする予感!」

「絶対、何かしますよね」


 アイもマリーも勘がいいこって……


「にゃにかするけど、まだ時間が掛かるにゃ」

「うっ……待つわ」

「う~ん。縁側に焚き火をするから、そこに居るにゃ~」

「ありがと~」


 わしは次元倉庫から木を取り出して火を点けると、焚き火のそばに、土魔法でテーブルを作る。そこに布と大蚕の糸を取り出す。

 次に、余っていた木の板を取り出して空中に放り投げ、かっこを付けて、細い棒になるまで刀で斬り刻む。すると、メイバイとリータが褒めてくれる。


「すごいニャー! 板が棒に変わったニャー」

「かっこよかったです」


 うぅ。かっこよさそうだからやってみたけど、褒められると恥ずかしい。アイ達も拍手して、やんややんやとうるさい。


「あとは糸で木を固定して、布を張り付けるだけにゃ」

「紙じゃないニャー?」

「大きい紙は持って無いからにゃ。薄い布でも出来るから大丈夫にゃ」

「わかったニャー」


 メイバイがたこ作りに取り掛かると、リータにも棒を手渡す。


「リータも作るにゃ~」

「何をですか?」

「あ、リータは知らなかったにゃ。手本を見せるから、マネして作るにゃ」


 わしは細い木を四角く並べると、四隅を糸でくくる。中央にもバッテンで木を固定し、歪まないようにして、布を縫い付ける。最後に細長い布と長い糸を巻付けた棒を取り付けて完成となる。

 リータにわかりやすく教えていたのだが、メイバイも作り方を知らなかったようで、一から教えてあげた。


 大蚕の糸は凧糸と違って細いけど、丈夫だから大丈夫じゃろう。みんなも出来たかな?


 二人の完成を見届けると、凧を持って庭の端に移動する。


「それじゃあ、上げるにゃ。誰から行くにゃ?」

「私からニャー!」

「オッケーにゃ。ほい。走るにゃ~!」

「ニャーーー!」


 メイバイのダッシュに合わせてわしも走り、程よいスピードがつくと、凧から手を離す。だが、上手く上がらず引き摺ってばかりだ。


「難しいニャー」

「違う方法でやるにゃ。【突風】にゃ~」

「ニャ……ん……上がったニャー!」


 わしの風魔法で作った強風を受けた凧は空に舞い上がり、メイバイは糸を伸ばしながら、凧のバランスを取る。


「それぐらいの高さでいいんじゃにゃいかにゃ? そこで糸を引いたりしながら高度を維持するにゃ」

「わかったニャー」

「つぎ、リータにゃ~」

「はい!」


 リータの凧にも【突風】で風を当て、空に上げる。それと同時にわしの凧も上げてしまう。


「こうですか?」

「うん。そうにゃ。上手うまいにゃ~」

「これが凧上げですか。あんな物が空に浮くのですね~」

「軽いから、風を受けて飛んでいるにゃ。葉っぱが飛んでるのを見た事があるにゃろ? 原理はそれと一緒にゃ」

「シラタマさんは物知りです~」


 リータは感心してわしばかりを見るので、凧のバランスが崩れた。


「にゃ! 気を抜くと落ちるにゃ~」

「あ、はい! ……あ~~~」

「落ちちゃったにゃ。わしの凧を操作してるといいにゃ」

「ありがとうございます」


 わしがもう一度凧を上げようとすると、アイ達もやりたいと言い出して来たので、一緒に何個か作って交代で凧を上げる。

 魔法使いのマリーもいるので、何度落ちても風魔法で簡単に打ち上げられる。


 わいわいと楽しく凧上げをしていると、その声に気付いた家の中に居る者が出て来た。


「何それ! 楽しそう! 私もやらせて~!!」

「にゃ!? 抱きつくにゃ……にゃ~~~」


 突然さっちゃんに抱きつかれた事によって手元が狂い、わしが操作していた凧は墜落した。


「急に抱きついたらダメにゃ~」

「ごめ~ん」

「はい。この棒を持つにゃ」

「ありがとう!」


 わしは糸の巻かれた棒をさっちゃんに渡すと、凧を取りに走り、そのまま合図をして空に打ち上げる。

 そしてさっちゃんの元に戻り、操作の仕方を教えていると、フェリシーちゃんとローザもやりたそうに寄って来た。


「ねこさ~ん」

「私達もいいですか?」

「ん。いいにゃ。えっと~。リータ、メイバイ。二人に代わってあげてにゃ~」

「はい」

「わかったニャー」


 わしは二人に世話を押し付け……任せて、外に出て来ていた女王とロランスの元へ行く。


「楽しそうね」

「そうだにゃ。二人もやるかにゃ?」

「ええ。でも、もう少し見させて」

「これも猫ちゃんが考えたの?」

「いや……」


 いまは女王とロランスさんしかいないから大丈夫か。


「ロランスさんは、メイバイが何者か知ってるにゃ?」

「さっき陛下から教えてもらったわ。まさか、メイバイが情報提供者だったとわね。てっきり、猫ちゃんだと思っていたわ」


 まぁどっちも異形じゃから、そう考えてもおかしくないか。


「間違いなくメイバイにゃ。あの空に浮かんでいるのは凧と言って、メイバイの国の遊びみたいにゃ」


 ロランスの言葉を訂正していると、それを聞いていた女王は難しい顔になった。


「そうなの? じゃあ、聞いていたより、文化レベルは高いのかしら?」

「う~ん……あれぐらいにゃら、ここと変わらにゃいんじゃないかにゃ?」

「そうね。シラタマの飛行機があれば驚異だけど、浮くだけなら、それほどでもないか……」

「それはやり方しだいかにゃ?」

「やり方?」

「もしも凧に乗れる人がいれば、空から兵の陣形が丸見えになってしまうにゃ。それぐらい、魔法を使えば出来そうにゃ」

「可能性は否定できないわね。それを踏まえて戦術も考えなくちゃ」


 わしと女王が難しい話をしていたら、ロランスは会話に入っていいか悩んでいたが、それでも気になるのか口を開く。


「猫ちゃんは、戦争まで詳しいの?」

「いや、素人の浅はかな考えにゃ。混乱させてごめんにゃ~」

「いいえ。その発想は私では出来なかったわ。ありがとう」

「難しい話しはここまでにして、女王も遊ぶにゃ~」

「そうね。楽しませてもらうわ」


 わしは女王とロランスの為に凧を二つ作り、やり方を教えて風魔法で飛ばす。

 双子王女やスティナ達も参加し、代わる代わる上げ手が代わり、お昼ごはんが出来るまで、凧上げ大会は続けられるのであった。



「「「「「いただきにゃす」」」」」


 なんで全員「いただきにゃす」なんじゃ? 王族にも定着してしまったか……


 お昼ごはんを食べ終わると、やっと王族と貴族は帰って行った。アダルトフォーにからまれていたオンニの髪が白くなっていたけど、何があったんじゃろう?


 アダルトフォーは帰る気配が無いので離れに隔離し、エミリを孤児院に送り届ける。リータとメイバイもついて来てくれた。

 孤児院に着くと新年の挨拶をし、わしのプレゼントした凧で、子供達は凧上げ大会を始める。これは料理を作ってくれていたエミリが参加できなかったからだ。

 ここでは風魔法を使える者がわししかいないので、子供達はメイバイに教えてもらって、走って凧を上げていた。


 皆、上手く上げるようになったので、わしは離れて、ババアやマルタと一緒に子供達の笑顔を見ながら雑談をする。


 空が赤くなると、わしとリータ、メイバイは手を繋ぎ、帰り道を歩く。


「どうだったにゃ?」

「楽しかったニャー! 孤児院の子供もいっぱい居たから、自分も子供に戻ったみたいだったニャー」

「メイバイさん……よかったですね」

「またやりたい事があったら言ってくれにゃ。出来るだけ再現するにゃ~」

「じゃあ……ゴロゴロするニャー!」


 はい? ゴロゴロ?? そういう意味で言ったんじゃないんじゃけど……


「にゃ!? ゴロゴロ~」

「あ! 私もします!」

「ゴロゴロ~」


 この日の二人の撫で回しは激しく、なかなか眠れなかったわしであったとさ。


「ゴロゴロゴロゴロ~~~」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る