188 女王誕生祭 四日目 1


「新年、明けましておめでとう」

「「「「「おめでとうございます(にゃ)」」」」」

「今年も皆が、良き年になる事を祈っている」

「「「「「ありがとうございます」」」」」


 年が明ける鐘の音が鳴り終わると、女王が挨拶をし、皆も応える。


 ふ~ん……。国を豊かにしろとか、国土を広げろとか言わないのか。国民の幸せを祈るなんて、天皇陛下みたいじゃのう。素晴らしい女王様じゃな。


 わしが女王の言葉に感心していると、リータとメイバイが声を掛けて来た。


「シラタマさん。おめでとうございます」

「おめでとうニャ」

「うんにゃ。おめでとうにゃ~」

「シラタマさんは何を願ったのですか?」

「私も聞きたいニャー」

「たいした事じゃないにゃ。去年より楽しく暮らせるように願ったにゃ」

「去年よりですか……」

「楽しくなかったニャー?」


 二人は心配そうな顔を向けるので、わしは笑顔で答える。


「逆にゃ。楽しかったにゃ! みんにゃと出会えて、すっごく楽しかったにゃ!!」

「私もシラタマさんと一緒にいれて、楽しかったです!」

「私もこんなに楽しい年は、初めてだったニャー!」

「にゃ!? ゴロゴロ~」


 リータとメイバイはわしを抱き抱え、優しく撫でる。


「ゴロゴロ~。二人はにゃにを願ったにゃ?」

「シラタマさんと、早く結婚できますように……」

「シラタマ殿の愛人に、早くなれますように……」

「にゃ……」


 聞くんじゃなかった。期待の目が痛い。


「アイさんから聞いたのですが、年の変わり目に思い人と過ごすと、必ず結ばれるってジンクスがあるんですって!」

「これで私達は結ばれるのは決定ニャー!」


 なにそのジンクス? まさかみんな、そのジンクスでわしの家に集まって来たのか? さっちゃんやローザなら有り得る……。他はペット希望かな? だからみんな、わしの事をキラキラした目で見ているのか。


「ジンクスにゃ。必ず叶うとは言えないにゃ~」

「そんな……」

「あんまりニャー」

「にゃ! ちがっ……今年にゃ! 今年に必ず叶うとは言えないって事にゃ。二人の願いはいつか叶うにゃ~」


 ちと苦しい言い訳じゃな。これでは無理かな?


「「シラタマ(殿~)さ~ん」」


 あれ? 大丈夫そうじゃ。嬉しそうに頬ずりしておる……いや。いま、わしは叶うって言ってしまった! これではわしが叶えるって事になっておる! しまった~!!



「さあ、中に入りましょう。冷えて来たわ」


 わしがゴロゴロしていると、女王が中に入ろうとうながす。皆は家に上がって行くが、わしは庭に残って空を見上げる。すると、わしの行動を不思議に思ったさっちゃんが話し掛けて来た。


「シラタマちゃん。どうしたの?」

「今日って、女王の誕生祭のど真ん中にゃろ?」

「そうだけど……」

「鐘が鳴るだけでおしまいにゃの?」

「こんなに暗くちゃ、何も出来ないよ~」


 そりゃそうか。元の世界では、花火やら、イルミネーションやらあったから、地味に感じるな。女王誕生祭なら、もっと派手でもいいと思ったんじゃが……


「何か面白い事してくれるの!?」


 ヤバ! 心を読まれたか?


「ちょっと、考え事してただけにゃ」

「何か思い付いた感じがしたよ~?」


 いまのは読まれてはいなかった。セーフ!


「ねえねえ~?」

「揺らすにゃ~」


 またさっちゃんが、おねだりモードに入っておる。何かしないとこの揺れは止まらんのじゃよな~。

 う~ん。アレをしてみるか。でも、わしだけじゃ難しいから協力者が必要じゃな。さっちゃんと……


「ローザ。出て来てくれにゃ」

「はい」


 ローザはわしのお願いに、ふたつ返事で庭に出て来る。わしは次元倉庫から取り出した布を敷くと二人に寝転んでもらい、寒く無いように毛皮を掛ける。

 そんな二人の間にわしは潜り込む。すると、わしが何をするのか、ギャラリーが集まって来た。


「じゃあ、さっき言った通り、強く形を思い浮かべて、わしに伝えてくれにゃ」

「うん!」

「はい!」



 さっちゃんとローザはわしに伝える。そして、わしは魔法を使う。



「「「「「わああぁぁ~~」」」」」

「「「「「きれ~~~~い」」」」」

「「「「「ねこ~~~~」」」」」


 わしが魔法を使うと、ギャラリーから感嘆の声と歓声が起こる。



 わしがしていた事は、光魔法で作った花火だ。と言っても、空をキャンバスにした、ただのお絵描きだ。

 さっちゃんとローザには念話で形を伝えてもらい、その形をわしが光魔法で上空に描き、消える時には空からまばらに落ちるイメージを付け加えた。


 みんなには好評みたいじゃな。しかし、二人には花をイメージしてくれと言ったのに、途中から、なんでわしばっかり送ってくるんじゃ? 止めたいが、もう少しやらないとギャラリーが納得いかんしのう。


 わしは皆が落ち着くのを待って、やりたい人はいないか聞いて、代わってもらう。絵に自信がある者しか手を上げなかったが、猫ばかりが空に描かれる事となった。

 皆が程よく楽しめた姿を見ると、最後のフィナーレといく。


 皆が描いた猫を、周りに飛ばしながら中央に……




 ハッピーバースデー


   アンド


 ハッピーニューイヤー




 わしの魔法はそれを最後に、消えて行く……



「さあ、わしの芸はこれでおしまいにゃ。暖かい家に入ろうにゃ~」

「え~~~! もっとやってよ~」


 わしが終わりと言うと、さっちゃんが腕を掴んで来た。


「さっちゃん。こういうのははかないから綺麗なんにゃ。今日、この瞬間を、心に刻んで思い出すといいにゃ」

「う~ん。たしかに忘れられない誕生祭になったわ。でも、約束して! 私の時はもっと楽しませて!!」

「もちろんにゃ。立派になったさっちゃんを、楽しませてあげるにゃ~」

「やった~!」


 嬉しそうなさっちゃんはスキップで家の中に入って行ったので、わしも入ろうとしたが、女王が立ち塞がる。


「サティだけ? 私の誕生祭は、今年も来年も、ずうっとあるのよ? だからこれからも頼むわね」

「にゃ……」

「女王の私のお願いよ?」

「いや……この三日間、かなり頑張ったにゃ~! なんだかんだで、毎日女王に芸を見せてたにゃ~! もうネタが無いにゃ~」


 わしが「にゃ~にゃ~」文句を言うと、女王は三日間の出来事を思い出す。


「あ……そう言えば、毎日シラタマに会っていたわね。こんなにドキドキした誕生祭は初めてだったわ。ありがとう」

「まだ終わってないにゃ。もっと楽しませてくれる人がいるかもしれないにゃ~」

「そうだろうけど……」

「にゃんだったら、自分でやるにゃ。城にいっぱい魔法使いがいるんにゃから、わし一人より、大掛かりにゃ事が出来るかもしれないし、芸術に長けた者もいるかもしれないにゃ」

「なるほど……それは面白いわね」

「にゃ~? だから、わしにたからにゃいで~」

「それは追々ね」


 まだ、たかるのかよ!


 その後、夜も更けると、一人、また一人と眠りに就き、わしはせかせかと部屋割りを決めて、眠った者を部屋に運び込むのであった。


 女王……帰れよ!!


 部屋割りは王族と貴族をまとめてひと部屋。護衛の騎士達にひと部屋。アダルトフォーは離れ。侍女には悪いが、オンニと料理長の寝る居間で、パーテーションで仕切って寝てもらう。

 ちなみにエミリはわしの部屋で、リータとメイバイに抱かれて眠り、フェリシーちゃんはアイ達の部屋の空いているベットで、リス女に抱かれて眠っている。兄弟達も双子王女とローザ親子に抱かれて眠り、幼女と猫は抱き枕となっている。

 布団もベットも足りないので、だいたいがペアで寝て、毛布変わりの毛皮を出して寝ている。

 わしはどこで寝るかと言うと、最後まで起きていた女王に捕まって、女王とさっちゃんにゴロゴロ言わされて眠るのであった。



 そして翌日……


「みんにゃ、まだ帰らないにゃ?」


 王族、貴族、護衛の女性陣は、居間のコタツに住み着きやがった。


「今日はやる事が無いからいいのよ」


 わしの質問に、女王はこういう始末……


「ダラダラするにゃら、城に帰ってすればいいにゃ~」

「「「「「え~~~~!」」」」」


 宴会をするからといって、大きなコタツなんて作るんじゃなかった。そのせいで、誰も動かなくなってしまった。


「さっちゃんは部屋に、コタツを作ったんじゃにゃかったの?」

「作ってもらったけど、ここのほうが落ち着く~」


 まぁ和風の部屋のほうが、似合っているじゃろうけど……


「サティの部屋にあるの!?」

「言ったじゃないですか。部屋を少し模様替えしたいから、お母様に許可をもらいましたよ?」

「あ……あの時の? 魔道具を使っていたから気になっていたけど、コタツになっていたんだ。私も作ろうかしら」

「「お母様。私達も作りたいですわ」」


 なんか王族に流行ってしまっておる。魔道具は高いから、行っても貴族までかな? ロランスさんとローザもコソコソ話しているところを見ると、作る気じゃな。


「そんにゃ事より帰ってくれにゃ~」

「シラタマちゃん、ひどい~!」

「だって、ここに居ても暇にゃろ?」

「そんな事ないもん……あ! いい物持って来たんだった。ソフィ、出して」

「はい!」


 ソフィはコタツから出るのを一度、躊躇ためらったが、さっちゃんの命令なので渋々出て、居間に置いてある鞄に手を入れて何かを持って戻って来た。


 そして始まる羞恥プレー……


「嬉しそうに~~~」

「はい! ケーキを頬張るシラタマちゃん!」

「正解です」


 カルタ大会が始まってしまった。


「寝ているお腹をわしゃわしゃすると~」

「はい! ゴロゴロ言うシラタマ様ですね!」


 持って来ておったんか! ああ。恥ずかしい……。これが孫が言っていた黒歴史か? いや、わしが好きで書いた物じゃない。勝手に黒く染められてしまったんじゃ!

 しかし、コタツの上でやるなんて、やりづらくないんじゃろうか? 声を掛けると、わしまで参加させられそうじゃし、女王とロランスさんの会話にまざろう。


「にゃに話していたにゃ?」

「あの変な札は何かとね……」

「ああ。カルタにゃ」

「「カルタ?」」

「文章を全文と下の文に分けて、文章を読んで、下の文を早く取るゲームにゃ」

「「ふ~ん」」


 二人はわしの説明に、皆の遊ぶ姿を見ながら質問を続ける。


「それで、なんで文章に猫ちゃんが出て来るの?」

「文字や言葉の勉強ににゃるから、ことわざを書いてくれって言ったけど、思い付かにゃいから自由に書かせたら、ああなってしまったにゃ」

「あんなので勉強道具になるの?」

「ゲームだから勝ち負けがあるにゃ。多く取ったら勝ちだから、文字を覚えにゃいと勝てないにゃ」

「なるほど。子供には持って来いね」

「でも、あの文章じゃね~」


 わしの説明に、二人は納得はしたようだが、文章に不満があるようだ。


「素人が作ったから仕方ないにゃ~。言葉に詳しい人に作らせたら、ちゃんとした教材になるにゃ」

「たしかに……なんだかまた、シラタマに教えてもらっているけど、本当に猫なの?」


 あ、また疑われるような事をしている。言い訳も言い尽くしたしな~……たまには、逆に聞いてみるか。少し怖いけど……


「……にゃにに見えるにゃ?」

「「ぬいぐるみ」」

「猫って言ってにゃ~~~!」


 どうやらわしは、大人の女性には、ぬいぐるみに見えるようだ。


「わたしも~!」


 フェリシーちゃんは大人の会話に入って来ないで!

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