187 女王誕生祭 三日目 4
「ねこさん。来ました~」
「猫ちゃん。よろしくね」
「ねこさ~ん」
「ローザもにゃ!? ロランスさんやフェリシーちゃんまで! それに……」
第二回キャットカップが終わり、わしとリータ、メイバイで買い物を済ませ、家でアイパーティとまったりしていたら、続々と人が集まって来た。
まずはエミリ。食事を作りに来てくれるように頼んでいたので、これはいい。
次にアダルトフォー。仕事が終わったフレヤから順に、ガウリカ、エンマ、スティナとやって来た。これもいつもの事だから諦めている。
問題はここからだ。暗くなり、わし達が宴会をしていると、さっちゃんがソフィ、ドロテ、アイノと兄弟達を引き連れて来やがった。これはまだ許そう。
次に女王が双子王女と護衛のイサベレとオンニを連れて来やがった。王族が全て(王のオッサン以外)わしの家に揃ってしまい、やんわり追い返そうとしたが、夜の会食も終わったからいいそうだ。
それでも人数が多いから、料理が用意できないと諦めずに追い返そうとしたが、料理長と三人の侍女を連れて来たと強引に上がられた。
そして、最後にローザ親子とフェリシーちゃんと、もう一人の登場となった。
「迷惑でしたか?」
「いや……」
「ちゃんと食べ物も持って来たから入れてくれる? 猫ちゃんと年を越したいの」
「いや……」
「ねこさ~ん?」
なんでわしの家に来るんじゃ! と、追い返したいのも山々じゃが、こんだけ人数が増えたからいまさらか。それよりも、気掛かりなおかしな人物じゃ。
「つかぬ事を聞きにゃすが、そちらのリスの着ぐるみの人も上がるにゃ?」
「いや、私は……」
わしはリス女に質問するが、ロランスが答えてしまう。
「フェリシーが抱きついて離さなかったの。キャットカップで見たハンターだったから、そのまま護衛で雇ったのよ」
「いえ、これぐらい無償でかまいません」
「お金は受け取ってくれないか……。じゃあ、食事をご馳走するわ。猫ちゃん。この食べ物を出してあげて」
「えっと……」
わしが答えに困っていると、ローザが不思議そうに顔を覗き込む。
「ねこさん、どうしたのですか? 私達が入るのに、何か不都合があるのですか?」
あるよ! みんな、なんでわしの家に集まる? もう面倒臭い! ローザ達を家に上げてみよう。
「後悔しても知らないにゃ……」
「「「??」」」
と言って、ローザ達を家に上げてみました。
「なんで女王陛下が居るのよ!」
「「あわわわわ」」
居間の引き戸を開けて中に入ると、女王が目に入ったロランスに首根っこを掴まれ、引き戸を閉めて怒鳴られた。
「だから、後悔しても知らないって言ったにゃ~」
「女王陛下が居るなんて聞いてないわ!」
「まぁ言ってにゃいけど……」
「だからねこさんは、私達を家に入れようとしなかったのですね!」
「にゃ~? いまからでも帰るかにゃ?」
「目が合ってしまったから、もう遅いわ。ローザ、挨拶に行くわよ!」
「はい!」
再び引き戸は開かれ、ロランスとローザは女王の元へ向かう。残されたリス女とフェリシーちゃんは、女王オーラの避難先、離れに連れて行く。
離れには女王達が来た事によって、逃げ出したメンバーが守りを固めている。アイパーティとリータ、メイバイだ。アダルトフォーは日頃の行いが悪いので、逃がさなかった。今日は居間でおとなしくしている。
「アイ。二名追加にゃ」
「わ! リスさん!?」
「知ってるにゃ?」
「有名だから知ってるわよ。初めまして。このパーティのリーダーをしているアイです」
「何度か見た顔ね。よろしくね~」
「よろしくお願いします。それでリスさんの抱いてる女の子は……」
アイとリス女の挨拶が終わると、わしがフェリシーの紹介をする。
「フェリシーちゃんは貴族の娘さんにゃ。リスさんから離れないみたいだから面倒みてあげてにゃ」
「貴族様……」
「次期当主だから、いまの内に唾を付けておくといいにゃ」
「こんな子供に、そんなこと出来ないわよ!」
「にゃはは。居間のほうが落ち着いたら迎えに来るにゃ。これ、差し入れにゃ。ルウに……食べられないように調理してもらうにゃ」
「わかったわ」
差し入れと聞いたルウは、獲物を狩る獣のような目をしていたので牽制はしたが、どうなることやら……。差し入れも渡したので、わしは居間に戻る。
「それじゃあ、新しいメンバーも増えたし、改めてかんぱいにゃ~」
「「「「「かんぱ~い」」」」」
わしの音頭で宴は再開する。女王に緊張していたメンバーも、わしが撫でられたり、怒られたり、さっちゃんと口喧嘩していると、しだいに落ち着いて来たみたいだ。
皆、楽しそうに歓談している中、わしは気になる事があったので、女王とロランスが話し合っている間に入る。
「それにしても、にゃんでロランスさんより女王のほうが早く来たにゃ? 主役じゃにゃいの?」
「えっと……」
「そう言えば、気付いたら会場にいなかったわ。私は陛下に挨拶をしようと思って探していたら、他の領主との挨拶になったの」
「まさか、逃げて来たにゃ?」
「その言い方は何よ!」
わしの言い方が悪かったからか、女王は怒って髭を引っ張りやがった。
「髭を引っ張るにゃ~」
「ちゃんと他国の者には挨拶したから大丈夫よ。仕事は終わったから、あとは自由時間なの!」
「本当かにゃ~?」
「だから、その言い方は何よ!」
「にゃ~! そこは触るにゃ~」
「なるほど。ここが弱点なのね」
「ゴロゴロ~」
女王は、髭を引っ張っても痛そうにしないわしへの攻め方を変える。下半身をモゾモゾしやがった。そのやり取りを不思議そうに見ていたロランスは、わし達の口数が減ると会話に入る。
「猫ちゃんは凄いわね。陛下にこんな口を聞ける人なんていないわよ」
「猫だにゃ~。ゴロゴロ~」
「あ、そうだったわね」
「ロランスさんもさっきは驚いていたのに、それほど緊張してないんだにゃ」
「扉を開けて陛下がいたら、誰だって驚くわよ。まぁ私は、陛下には昔から良くしてもらっているから、みんなよりは緊張しないわ」
「ローザは大丈夫にゃ? 離れに行くにゃ?」
「いえ、サンドリーヌ様に会えて嬉しいので、こちらで大丈夫です。それよりあちらの方は大丈夫でしょうか?」
わしはローザが視線を向けた、とある人物を見る。その人物は……
「それで~。オンニ様は誰が好みですか~?」
「いや、俺は……」
「やはり私でしょうか?」
「いや、私でしょう!」
「私はどう?」
「玉の輿……あたしも参加する!」
と、アダルトフォーの、スティナ、エンマ、フレヤ、ガウリカに絶賛からまれている。女王に緊張していたアダルトフォーも、酒の力でいつものノリに変わっていき、ついに居間にいるたった一人の男、オンニに群がり始めた。
あらら? ガウリカまで女を使っておる。オンニはこの国のトップクラスの騎士だから、優良株なのかもしれんな。
しかし、オンニにベタベタ触って誘惑しておるのは、子供に見せるには目の毒じゃな。
「あれは教育に悪いにゃ。さっちゃんも、ローザも、あんにゃ女になったらダメにゃ~」
「わたしには許嫁がいるからならないわ」
「わたしもいますから大丈夫です」
「そうにゃの!? 初耳にゃ~。どんな人にゃ?」
「私の許嫁はね~。白くて丸くてモフモフしている殿方よ」
「にゃ……」
そんなヤツ……わししかおらんじゃろ!!
「偶然ですね。わたしの許嫁とそっくりです!」
「人じゃないにゃ~! 猫だにゃ~!!」
「「エヘヘ」」
二人して笑っておるよ。猫と結婚したがるって……正気か??
「まったく……。いつの間に許嫁になったんにゃ。女王もロランスさんも止めてくれにゃ~」
「……サティを信じているから、サティに任せるわ」
「陛下もですか? 私もローザを信じています」
「どういうことにゃ?」
「シラタマちゃ~ん」
「ねこさ~ん」
「ゴロゴロ~」
女王とロランスは含みのある言い方をし、それを聞いたさっちゃんとローザはわしに抱きつおて撫で回す。それを見た女王や双子王女、ロランスまで撫で回す。
しばらくわしはゴロゴロ言わされ、まったくやめる気配が無いので、イサベレの元へ逃げ出した。
「食ってるにゃ?」
「少し」
「どうしたにゃ? 体調が悪いにゃ?」
「城でいっぱい食べて来たから大丈夫」
なるほど。今日は少食だと思ったら、そういうことか。
「それにゃらよかったにゃ」
「シラタマが心配してくれる。嬉しい」
「にゃ!? にゃんでそこを触るにゃ~!」
「恋愛指南書には、男はタッチすると喜ぶと書いてあったから?」
「まだ読んでたにゃ~!」
タッチするにも場所がある。そう言うのは、肩や太ももじゃなかろうか? 下半身の突起物じゃない!
「そこは、まだ早いにゃ~!」
「お互いキスもした。お互い撫で撫でした。そろそろじゃない?」
「まだまだにゃ!」
まったく……逃げた場所が悪かったわい。イサベレは肉欲の権化じゃった。なんとか、バーカリアンにはイサベレに勝って欲しいもんじゃ。
「シ~ラ~タ~マ~ちゃ~~~ん?」
「ね~こ~さ~~~ん?」
わしがイサベレと話を……セクハラを受けていると、さっちゃんとローザが殺気を放ち、ドスの利いた低い声でわしに話し掛ける。
「にゃ!? 二人とも怖いにゃ。どうしたにゃ?」
「キスってどういうこと!!」
「お互いって言ってましたね。ねこさんからしたのですか!」
あ、ヤバイ。聞かれておった。だからこの殺気か。キョリス並みにあるぞ。それともうひとつ……もうひとつ? 誰じゃ? ……オンニか!?
なんじゃ、あの顔……怒ってるの? 泣いてるの? どっちかわからん。じゃが、これほどの殺気を放つとは……オンニもイサベレに惚れておるのか。
「どこ見てるのよ!」
「何かやましい事があるのですね!」
しまった! オンニの事を考えている場合じゃなかった!!
「にゃにもやましくないにゃ~。ほっぺにチュッとしただけにゃ~」
「してるじゃないの! 私だってしてもらった事ないのに~~~」
「ねこさん……ひどいです~~~」
「にゃ!? 泣くにゃ~」
さっちゃんとローザがわんわん泣くのであたふたしていたら、女王とロランスが後ろに立っていた。
「あらあら。もうそんな関係になったの! 祝いの品を用意させなくっちゃ」
「猫ちゃんはローザより、伝説卿を取るんだ~」
女王はまた親戚のおばちゃんみたいになっておる。ロランスさんは、怒ってる?
「「え~~~ん」」
「泣くにゃ~。さっちゃん。チュッ」
「あ……」
「ローザも。チュッ」
「ねこさん……」
わしは苦肉の策で、二人の頬にキスをした。
「これで機嫌直してにゃ~」
「「大好き! チュッ」」
「にゃ! ゴロゴロ~」
二人もお返しに、わし頬に同時にキス。それだけでなく、撫で回されて喉が鳴ってしまった。
カラ~~~ン……
わしが二人に撫で回されてゴロゴロ言っていると、突如王都に鐘が鳴り響いた。
「にゃ? この鐘はなんにゃ? ゴロゴロ~」
わしが不思議に思って口を開くと、女王が答えてくれる。
「シラタマは知らないのね。年が明ける五分前に鳴る鐘よ。さあ、外に出ましょう」
「にゃ~?」
わしはさっちゃんとローザに撫で回されていたが、女王に抱きかかえられ、庭に出る。それに続き、居間にいたメンバーも、料理を作っていたメンバーも、離れにいたメンバーも庭に出て来る。
「みんにゃ外に出て来たけど、にゃにが始まるにゃ?」
「次の鐘が、年が明ける鐘よ。目を閉じ、今年を振り返り、来年が良き年になるように、空に願うの。この国の風習よ」
「にゃるほど」
除夜の鐘のようなものか。子供のさっちゃんやフェリシーちゃんまで、遅くまで起きているのは、この為だったのか。
郷に入れば郷に従え。見よう見真似でやろうかのう。
女王はわしを下ろすと祈るように手を組み、目を閉じる。皆も、同じようにしているので、わしも女王を真似て目を
良き年か……去年はおっかさんを亡くし、兄弟を
キョリスに出合い、ローザに出合い、さっちゃんに出合い、兄弟達と再会し、リータ、メイバイに出会う。数多くの出合いのある年じゃった。
怒られる事も多かったが、振り返れば楽しい毎日じゃったな。森に居ては味わえない幸福じゃ。
願わくば、おっかさんにも味わわせてやりたかった……
おっかさん……おっかさんの分まで、わしが幸せに生きてやる。いつか輪廻の輪で再会した時には、話し尽くせないぐらい幸せな思い出を話してやるぞ。
まずは、来年。今年に負けないような、幸せな思い出を作る。おっかさん。いつまでも見守っていてくれ。
カラ~ン カラ~ン カラ~ン カラ~ン カラ~ン カラ~ン カラ~ン カラ~ン カラ~ン カラ~ン……
年は替わり、静けさの中、鐘の音だけが王都に鳴り響くのであった……
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