484 三種の神器のお目見えにゃ~


 池田屋を立ったわし達は、御所に行こうと思ったが、朝から行くのも気が引けたので、寄席にて時間を潰す。本当はわし一人で行きたい所があったのだが、リータとメイバイが尻尾を離してくれなかったので、仕方なく落語を見て大笑いする。

 昼が近付くと寄席の近くのお店でランチ。三件ほどハシゴして、お腹がいっぱいになったら御所を訪れ、玉藻にあの話を切り出す。


「それで、急ぎの仕事は終わったにゃ?」

「ああ。取り急ぎは終わったぞ。しかし、話があるとは、なんの話じゃ?」

「関ヶ原に出た報酬の話にゃ~」

「関ヶ原の報酬……あ!!」

「忘れてたにゃ!? ひどいにゃ~!!」


 ヤマタノオロチ騒動で、玉藻はすっかり忘れていたようだ。しかも、いまさら渋り出す始末。「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~」文句を言いまくって、やっとこさ許可が出た。「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~」うるさかったんだって。


 それから場所を移し、御所にある神社にわし達は向かう。その神社は特別な施設なのか、キツネ侍やキツネ神職がウロウロしており、厳重に守られているように見える。

 玉藻に続き、ゾロゾロと神社に入ると、何部屋も通り過ぎて、ようやくとある物が保管されているという部屋に入った。

 そこには、二つの台座とその上に乗る桐の箱しかなく、わし達が入ったら木戸は固く閉じられた。


「御開帳すら、年に一回しかないのじゃからな……今回は、特例中の特例じゃからな……絶対に触るでないぞ……」


 ふ~ん。三種の神器は見る事すら許されないと聞いていたが、この世界では見てもいいのか。ダメ元じゃったけど、だから許可が出たんじゃな。


 玉藻はブツブツ言いながら桐の箱に掛かってある紐をほどき、御開帳となる。



 ひとつは、両刃の剣……


 ひとつは、勾玉まがたま……



 そう。わしが要求した報酬……三種の神器のお目見えだ。


 おお~! 天皇陛下ですら見る事を許されないのに、こんなわしが生で見れるとは……。なんだか、どちらの神器からも後光が差しているように見える……玉藻は何もしておらんよな? うん。しておらん。感動じゃ~。

 しかし、天叢雲剣あめのむらくものつるぎはもっと錆びていると思っておったけど、錆びひとつない白銀の剣とは、これ如何いかに? 白魔鉱?? 白魔鉱にしてはキラキラし過ぎな気が……

 八尺瓊勾玉やさかにのまがたまも、翡翠ひすいのはずじゃから緑色をしてないとおかしいんじゃけど、白銀……さすがに、全てが元の世界と一緒というわけにはいかんか。


 わしは近付いて一通りジロジロ見終わると、玉藻に顔を向ける。


「鏡は無いにゃ?」

八咫鏡やたのかがみは御神体として賢所かしこどころに奉置されておる」

「それも見せてくれにゃ~。どうせ複製品なんにゃろ?」

「複製品言うな! 形代かたしろと呼べ! 八咫鏡を忠実に再現した由緒正しき代物なんじゃぞ!!」

「ゴメンゴメンにゃ~」


 玉藻が超面倒臭くなったので、わしは謝りながら天叢雲剣に手を伸ばす。


 ドゴンッ!


 しかし、玉藻に手を叩き落とされてしまった。


「痛いにゃ~。にゃにするにゃ~」

「触るなと言ったじゃろう!」


 手をフーフーしながら文句を言ったら、玉藻にめちゃくちゃ怒鳴られた。


「え~! 報酬は、ちょっと見せてちょっと触ってちょっと持つだったにゃ~。それで了承したんにゃから、ちょっと振らせてくれにゃ~」

「どさくさに紛れてひとつ増えておるじゃろ!!」


 また「にゃ~にゃ~」喧嘩。天皇の名代が約束を違えるのかと「にゃ~にゃ~」騒いでいると、三人ほど耳を塞いでいたが、リータだけは八尺瓊勾玉をジックリと見ていた。


「シラタマさん……シラタマさん?」

「ウソつきケチキツネにゃ~」

「なんじゃと~!!」


 そしてわしを手招きしながら呼ぶので、わしは玉藻をののしりながらリータのそばに寄る。


「で、にゃんで呼んでたにゃ?」

「これ……白ダイヤみたいじゃないですか?」

「白ダイヤにゃ??」

「ほら、砂漠で買ったティアラの台座に付いていた宝石ですよ」


 あ~。そんな事があったな。あの時も、リータが一番先に気付いておったか。


「誰がウソつきケチキツネじゃ~!!」

「うっさいにゃ~。あとで遊んであげるから、静かにしてろにゃ~」


 うるさい玉藻は軽くあしらい、わしは【魔力視】を使って八尺瓊勾玉をよく見る。


 な、なんじゃこれ? 何百と文字が浮き上がって重なっておる。この勾玉、ひょっとしたら魔道具かも??


わらわの話を聞け!!」


 まだ怒っていた玉藻は、わしの肩をグイッと引くので、仕方がないから相手をしてあげる。


「ゴメンゴメンにゃ~」

「なんじゃその言い方は!!」

「それより、この勾玉、もしかしたら凄い代物かもしれないにゃ」

「はあ!? 神器なんじゃから凄いに決まっておるじゃろう!!」

「落ち着けにゃ~。わしが言いたいのは、凄い呪具かもしれないってことにゃ~」

「じゅ…ぐ……?」


 なんとか玉藻が落ち着いて来たので、【魔力視】を付与してある虫眼鏡のような物を渡して、八尺瓊勾玉を見てもらう。


「なんじゃこりゃ~~~!!」

「もう~。だから落ち着けにゃ~。ほい、リータ達も見たいにゃろ?」


 玉藻とは、もうしばらく話になりそうになかったので、予備の虫眼鏡をリータに渡し、順番に見させる。その間わしは、天叢雲剣の調査。【魔力視】を使って隅々までよく見る。


 おお~……こっちも凄い量の文字数じゃな。それに、漢文じゃから解読が難しい。わしの頭じゃ不可能じゃ。ここは、生き字引を頼ってみるか。



「天叢雲剣はどうじゃ?」


 わしが玉藻を呼ぼうとしたら、ちょうど声を掛けて来た。


「こっちも呪具で間違いなさそうにゃ」

「ほう……どれどれ」


 玉藻が虫眼鏡で覗く中、わしは質問してみる。


「これって漢文にゃろ? 玉藻にゃら読めにゃい?」

「普通の漢文なら読めるんじゃが、どうも法則が違っているみたいなんじゃ」

「どういうことにゃ?」

「そちに言ってわかるかどうか……返り点や読む順番が書いてないと言ったらわかるか?」

「あ~にゃるほど。それじゃあ、長文にできないにゃ」

「相変わらず理解が早いな」

「てことは、単語は読み取れるんにゃろ?」

「そういうことじゃ。じゃが、なにぶん遠い昔に使っていた文字じゃから、辞書が必要じゃな」


 チッ……使えんババアじゃな。


「いま、失礼な事を考えたじゃろう?」

「にゃんのことかにゃ~? ひゅ~」

「はぁ……所々の単語は読めるぞ」

「さすが玉藻様にゃ~!」

「はぁ……」


 玉藻は、わしが口笛を吹いてもため息。褒めてもため息しか出ないようだ。


「もったいぶらずに教えてくれにゃ~」

「天叢雲剣には、『空・時・斬』……これらの文字が多く使われておるな。あと、神の名も刻まれておる」

「マジにゃ!? 誰にゃ~??」

「天叢雲剣には、スサノオノミコト。八尺瓊勾玉には、アマテラスオオミカミじゃ」


 スサノオとアマテラスか~……これ、かなりヤバイアイテムかも? まさかとは思うけど、二人の所有物だったとしたら、すんごい効果が出るかもな。

 使ってみたいけど、使ったら使ったでヤバイ事が起きそうじゃ。でも、どんな効果か気になるんじゃよな~。強い魔法なら、魔法書さんで探せるし……


「なんじゃ? 二柱の名を聞いた途端、百面相なんかしよって」


 わしが腕を組んで考え込んでいると、顔がコロコロ変わっていたようで、玉藻が妙なツッコミをして来た。


「まぁにゃ~。あのアマテラスとスサノオの物だとしたら、かなり危険にゃ物だと思うからにゃ~」

「おいおい。二柱を友達みたいに言うでない。神じゃぞ?」

「わしは二人と会った事があるからにゃ」

「また大嘘を……」

「信じないのは自由にゃ。ちにゃみに三種の神器は、いつからあるにゃ?」

「さあな……妾の婆様の代にはすでに古い物だったと聞いているが、いつからまではわからん」


 どうやら玉藻は名代の三代目で、ざっくり三千年より古い事は確定しているが、それ以降は文字も少なく、さかのぼる事は難しかったようだ。


「ふ~ん……ま、玉藻の知識より古いんじゃ、性能にゃんかは知らにゃいか」

「基本、人が直に触れる事すらないからな。まさか呪具であったとは、こちらとしても初耳で驚いておる」

「それでにゃ……性能を確めてみるって事はしたくないにゃ?」

「うっ……そう言われると、見てみたい気もする……」

「にゃ~? 勾玉は壊れそうで怖いけど、剣にゃら頑丈そうにゃ~。わしじゃなくていいかから、玉藻が振ってくれにゃ~。にゃあにゃあ?」

「え~い! にゃあにゃあうるさ~い!!」


 うるさいと言われても、わしは「にゃあにゃあ」言い続け、耳に猫となった玉藻は渋々許可してくれるのであった。

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