483 出張先での仕事にゃ~
キツネ店主の開いた「万国屋」に入ったわしたち猫ファミリーは、再会に笑い合い、しばらくして奥の部屋へ通される。
「思ったより人が入ってないんだにゃ~」
「そうですねん……どうしましょ? このままでは、あっと言う間に潰れてしまいますがな~」
「嘘言うにゃ。関ヶ原で、問い合わせが多かったと言ってたにゃろ」
「コンコンコン。すぐバレてしまいましたわ。本当は、あっと言う間に品切れで、入荷待ちなんです~」
あら? けっこうな量を運んだと思ったけど、もう売り切れか。残っているのはサンプルなんじゃな。
「そんにゃに売れるんにゃら、もっと運ぶ量を増やさないとにゃ~」
「それですねん。シラタマさんが来たら、
「三ツ鳥居にゃ~……少量しか運べないのが問題だにゃ~。もっとドーンと運べたら解決するんにゃけどにゃ~」
「天皇家にお願いして、三ツ鳥居を増やす事は出来ませんかね~?」
三ツ鳥居を増やすか……そんな事をしても巫女の数が足りんから、根本的な解決にならんじゃろう。うちでも、輸出にそれほどの人数を避けんぞ。それをリータ達に知られたら、わしが運搬役にされてしまう。
何かいい案は……あ!
「ちょうど面白い研究をしてたにゃ~」
「研究?? シラタマさんの事ですから、面白そうでんな!!」
「リータ。収納袋を貸してくれにゃ~」
「えっ……何をするのですか?」
「ただの実演にゃ。見本があったほうがわかりやすいにゃろ?」
「そうですけど……中身を捨てないでくださいよ?」
「にゃんで捨てるにゃ~」
「ぜっ~たいに、捨てないでくださいね?」
「わかってるにゃ~」
リータの出し渋る理由に気付かないわしは、収納袋を受け取ると、手を突っ込んでひとつ目を取り出す。
「おお~。ぬいぐるみですか。その鞄と大きさが合いませんね。まるで、初めて毛皮を取り引きした時のようですわ」
キツネ店主が興奮する中、わしはようやくリータが出し渋っていた理由に気付いた。
ぬいぐるみ、ぬいぐるみ、猫又人形、ぬいぐるみ……また猫又人形に猫又人形……
出せども出せども、収納袋からはわしの姿をした物が次々と出て来るからだ。
「またにゃ!? いったいにゃん個入っているにゃ~~~!!」
「私のだけじゃないですって~」
どうりで家に少ないわけじゃわい。こんなところに隠して持ち歩いておったんじゃな。てか、リータには一番容量の大きい物を買ってあげたのに、宝の持ち腐れじゃ。必要そうな物は、リータ達の武器しか入ってなかったぞ。
「全部、質屋に引き取ってもらうってのはどうかにゃ?」
「「「「ダメ~~~!!」」」」
はい? なんでコリスとオニヒメまで……二人の物もあるのか??
「そうは言っても、ぬいぐるみや人形だけで収納袋をいっぱいにするのももったいないにゃ~」
「うっ……じゃあ、もうひとつ買ってください」
「「「買ってにゃ~」」」
「持ち歩く必要がないと言ってるんにゃ~~~!!」
説得しても皆が涙目で撫で回してくるので、結局わしが折れて、我が家の屋根裏にリータ達の至福の空間を作る事で落ち着いた。それ以降、日に日に数が増えていったらしいが、わしは入った事が無いので気付かないのであった。
わし達が揉めている横ではキツネ店主が目を輝かせ、猫又人形に触れようとしたが、メイバイに手を叩かれて「ドコンッ!」と、変な音が鳴っていたけど気にしない。
でも、その音でキツネ店主の存在を思い出したわしは、途中になっていた話を再開する。
「輸送に関しては、これで対応しようと思うにゃ」
「あれだけの物が詰まっているのなら、何個もあれば、運ぶのが楽になりそうでんな……でしたら、百個! 百個売ってください!!」
「にゃん人で行き来するつもりにゃ~」
「しかし、それぐらい無いと入荷が……」
「だから面白い研究があると言ったにゃろ? もっと楽に、大量に運べるようにしてあげるにゃ~」
「おお~。さすがシラタマさんです~」
それから人数調整や次回入荷の話を少しして、最後に思い出した事を口にする。
「あ、そうにゃ。近々徳川から連絡が行くと思うけど、厳昭に伝えておいてくれにゃ」
「徳川でっか!?」
「にゃんか不都合でもあるにゃ?」
「いえ……厳昭さんは、徳川と一度揉めて、それ以降付き合いはないのですが……」
揉めた? 将軍からそんな話は聞いておらんのじゃけど……忘れておるのかな?
「まぁこの際、仲直りして、商品を売り付けてやれにゃ」
「確かに徳川が顧客になってくれたら……コ~ンコンコン」
「販売国の猫の国も……にゃ~はっはっはっ」
「コ~ンコンコン」
「「「にゃ~はっはっはっ」」」
わしとキツネ店主が悪い顔をして笑うと、何故かコリスとオニヒメも悪い顔で笑った。どうやら、キツネ店主のマネをして笑っているみたいだ。
絶対わしのせいではないので、今度からキツネ店主と商談する場所に、二人を連れて来ないと心に誓った。
それから徳川の用件と、次回の入荷量アップの書類を受け取ると、次なる目的地に向かう。
「もうお昼ですか?」
「ちょっと早すぎないかニャー?」
時刻は十一時ともあり、リータとメイバイがわしを止めようとする。しかし、京でやる事も少ないので、コリス時計よりはちょっと早いが、時間潰しに強行する。
「うなぎとてんぷら、ハシゴしにゃい?」
「「「はしごするにゃ~!」」」
「メイバイさんまで……はぁ」
コリスとオニヒメを味方に付けようと思って言ったのだが、うなぎと聞いて、メイバイも猫になった。いや、味方になってくれた。メイバイに裏切られたリータは、ため息を吐きながらわし達の食事に付き合うのであった。
うなぎの特上を二皿食べ、てんぷらを山盛り食べたわし達は、団子屋に寄ってから、本当の次なる目的地に移動する。
「本当に仕事で来たのですね……」
「信じられないニャー……」
「ひどいにゃ~!!」
わしが入った屋敷は平賀家の屋敷。そこで源斉の奥さんと、楽しく商談した帰り道、リータとメイバイがわしを信じられない物を見る目で見て来た。
実際問題、関ヶ原で、王族から時計やカメラの発注が、わしの元に大量に来てしまったから対応しなくてはならなかった。ヤマタノオロチ騒動があったから忘れていて、かなり遅れてしまったから急いでやって来たのだ。
もちろん価格は、わしのハッキリした記憶で説明したので適正価格。それよりちょっと高くなる事は、手間賃として納得してもらった。
大量発注なのだからと言って、三割引いてもらおうと頑張ったのだが、奥さんがやり手で一割五分しか割引してもらえなかった。
まぁ奥さんとのやり取りは楽しかったので、わしも満足だ。一割五分でも、ピンハネ出来た事は有り難い。頑張った甲斐があるってものだ。
ただ、リータ達はわし達が喧嘩しているように見えたらしく、若干引いていた。最後に悪い顔で握手したのが悪かったようだ。でも、熱い値切り交渉をしたおかげで、わしが仕事をしに来たと勘違い……信じてくれたようだ。
わしが以前注文していた物と写真の現像液等も買い取ると、源斉の工房にもお邪魔したが、なんか爆発していたので今日は声を掛けるのはやめた。
しかし火が燃え広がってもアレなので、水玉だけぶつけて逃げて来た。どうせ話をしたところで通じないので、奥さんから完成したと聞くまでは放置だ。
それから夜にはちょっと早いので、また食べ歩きをしながら池田屋に帰るわし達であった。
「もうお帰りになるのですね……」
池田屋にて二泊し、朝食を食べ終えた頃にキツネ少女とキツネ女将が挨拶にやって来た。
「わしも忙しいからにゃ~。また京に来た際には寄らしてもらうにゃ~」
暗い顔をするキツネ少女の頭を撫でていると、リータとメイバイがよけいな事を口走る。
「よかったら、うちで働きませんか?」
「おハルちゃんなら大歓迎ニャー!」
お春? このキツネの嬢ちゃんの名前か。初耳じゃな。メイバイはいつの間に聞いていたんじゃろう? てか、お春があたふたしておるし、止めておこう。どうせ猫の国に来ても、マスコットにされて撫で回されるのが落ちじゃしな。
「無理言うにゃ~。二人の事は気にしなくていいからにゃ?」
「「ええぇぇ~!」」
「だから~」
そうして二人を説得していると、キツネ少女お春は結論を出す。
「とっても魅力的なお話ですが、女将に迷惑を掛けるわけにはいけません。お断りさせていただきます。申し訳ありません」
「ほらにゃ~?」
土下座できっぱり断られたリータとメイバイは、納得できなそうだが、渋々受け入れていた。
「ま、女将にクビにされたら、うちを頼ってくれたらいいにゃ。食うには困らせないからにゃ~」
「こんなに働き者のいい子を、誰がクビにするんどすか」
「女将さん……」
「にゃはは。それは残念にゃ~」
キツネ女将に褒められたお春は、感動したような顔に変わっていた。もしかしたら、初めて褒められたのかもしれない。
その二人の信頼関係を見たわしは、口では残念と言いながらも笑う。リータとメイバイは、この世の終わりみたいな顔になっていたけど……
それから身支度も整えて、頭を下げ続ける二人に見送られ、池田屋を立つわし達であった。
* * * * * * * * *
シラタマの姿が見えなくなると、キツネ女将がお春と話をしている姿があった。
「奥様方から何かを受け取っていたようだけど、なんだったんだい?」
「えっと……紹介状と言っていたのですが……」
お春は恐る恐るキツネ女将に手紙を手渡す。
「これが紹介状……まったく読めないね。でも、このハンコはお侍様の顔だね」
手紙には、英語で「紹介状」と書いてあり、シラタマの顔をしたハンコが押されている。
土魔法でリータが作っただけのハンコではあるが、猫の国では何故か効力があり、一部の者には王の刻印だと受け取られている。事実は、リータ達がかわいいから押してあるだけなのだが……
「『万国屋』というお店に持って行けば、いいようにしてくれるらしいです……」
「ふ~ん……行きたいのかい?」
「い、いえ……」
「好きにしな」
「え……」
「それとも、クビにしないと動けないのかい?」
「ま、待ってください! 大恩ある女将を裏切るわけにはなりません!!」
お春が声を大きくすると、キツネ女将は優しく頬を撫でる。
「別にいいんだよ……お春の両親が早くに亡くならなかったら、もっと違った幸せがあったかもしれない。それをうちが、安い給金でこきつかってるだけさ」
「そんな事ないです! 行くあてのなかったわたしを、遠い親戚だからって引き取ってくれました。わたしは女将さんには感謝しかありません。だからクビにしないでください!」
「でも、行きたいんじゃないのかい?」
「い、いえ……」
「ハッキリしない子だね。あたしはお春を自分の子供のように思ってるんだ。その子供が巣立つんだよ? これほど素晴らしい事はないじゃないか」
「うっ……うぅぅ……女将さ~ん」
「あらあら。昔の泣き虫癖が戻ってしまったね」
「うぅぅぅ」
キツネ女将の優しい言葉に、お春は涙を流す。キツネ女将はそんなお春を抱き締め続けるのであった。
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