632 奴隷と接触するにゃ~
はぁ……心が重い……
アメリヤ王都に戻って外壁から屋根に飛び移ったわしはため息を吐いていた。
こんなにも多くの原住民を
しかし、白人がちょくちょくおったけど、同じ人種まで奴隷にしておるのか……犯罪者なのかな? 奴隷解放の後には、その辺も考慮しなくてはな。
さて、次は街並みも確認しておくか。
わしは気持ちを切り替えると屋根をピョンピョン飛び交い、アメリヤ王国の暮らしを覗き見る。
屋根から道行く人を見ていたら探知魔法で人の集まる場所があったので、そこに向かうと多くの露店の並ぶ広場。美味しそうな匂いに誘われて、ドラ猫になる。
わしに掛かれば、見られずに盗むなんてわけはない。しかし、盗みは心情的に許せないので、串焼きとわしの持つ串焼きを交換しておいた。そうして屋根に戻ると、前脚で器用に持って串焼きを食べる。
匂い負け。いまいちじゃな。高級肉を置いて来たけど、払い過ぎたわい。まぁ売値はそのままじゃから、等価交換にしかならんか。
しかしこの味……ウスターソースっぽい匂いだったのに、なんだか生臭い味わいが残る。ひょっとして、魚が入っているかも?? 変わったソースじゃし、エミリのお土産にはいいかもな。
わしはもったいない精神で全て食べ終えると、広場を凝視する。
見た感じ、東の国の王都と変わらない食生活じゃな。お金も硬貨のみ。たぶん色から、銀貨と銅貨。金貨を使うなら、もう少し高級店のある所に行かないと見られないな。
おっ! あの行列の出来てる露店……タコスって書いてある。トウモロコシがあるし、たぶん昔に転生した者が流行らせたんじゃろう。うちよりうまいなら、作り方を知りたいんじゃけどな~。
交換するタコスの具が違っていたらバレそうじゃし、今回は諦めよう。奴隷を解放したあとに、リータ達とゆっくり食べ歩きすればいいしな。
さてさて、次はどこに行こっかな~? 向こうに大きな建物がいっぱいあるし、そっちに行ってみよっと。
またピョンピョン飛んで、大きな建物の前の屋根にて様子を窺う。
車工場っぽい……あ、原住民が働いておる。ここでも奴隷を使っておるんじゃな。あっちの建物は何かな~?
移動した先では、中を覗き見れなかったので建物に飛び移り、屋上の扉を鉄魔法で強引に開けて中に入った。
ここは白人しかおらんけど、何を作っておるんじゃ? 黒っぽい鉄製品……ああ。鉄砲か。組み立てをしてるって事は、金型は別の工場で作っているんじゃろう。
ふむ。危険な物は、奴隷に作らせないんじゃな。まぁ鉄砲の集まる場所なんて知られたら、反旗を
じゃが、奴隷解放を自分達でやらせるなら、それも手か……いやいや、鉄砲が拡散されてしまうと、罪のない者まで撃ち殺されてしまう。出来るだけその方向に向かないように考える必要ありじゃな。
銃の製造工場の見学も終われば、扉を施錠して次の目的地を考える。
もうそろそろ日暮れか……あっちの煙を上げてる建物や城も見ておきたかったんじゃけど、一度リータ達と合流するか。どこかな~……ん?
わしがリータ達の所在地を探そうとしたら、サイレンのような音が聞こえて来た。
なんの音じゃ? まさか、わしが鉄砲工場に忍び込んだ事がバレたとか?? ……あ、仕事の終わりか。鉄砲工場から大勢出て来た。
隣の車工場からも奴隷が出て来たな。いちおう就業時間はあるようじゃけど、フラフラじゃ。どんな所に住んでいるかも気になるし、そこだけ見てから合流するか。
屋根からライフルを向けられる原住民をわしがつけていると、外壁に近い位置にある建物に入って行ったので、しばし様子見る。
そこそこデカイけど、ここに何人住んでるんじゃろう? 中に忍び込みたいんじゃけどな~……あの魔法を使えば余裕か。
わしは建物の屋根に飛び移ると、バルコニーに下りる。
窓は板で塞がれているけど、隙間があるからなんとかなるじゃろう。影魔法発動っと。
トプンッと影に落ちたわしは、影の中を移動して窓から侵入。部屋の中は暗く影しかないので、そのまま廊下まで移動してしまう。
さっきの部屋はめっちゃ二段ベッドが並んでいたから、20人ぐらいは入れていそうじゃ。ここはそんな部屋ばかりっぽいな。下の階にも移動して奴隷を探してみよう。
影の中をコソコソ移動し、原住民を発見したが、皆疲れているのか一言も喋っていない。食堂やキッチンを見付けると誰も居なかったので、影から出て漁ってみたら、食べ物はスープのような物しか無く、固形の物は少なかった。
酷い食生活じゃ。あんな水のような物で腹が膨らむわけがなかろう。てか、ずっと影の中におったから気付かんかったけど、くさいし蒸し暑かった。こんな所に居たら、夏なんて乗り切れないぞ。急がんといかんかもな。
建物の見学を終えて外に出ようとしたら、地下への階段を発見したのでそちらも見学。地下室は鉄格子だらけで、その中には怪我をしている原住民しか居ない。
拷問部屋か? 死に掛けている者も居る……くっ。あまり目立つ行動はしたくなかったが、見て見ぬ振りはできん。
あまりにも酷い惨状に、わしは影魔法を解いて廊下に姿を現す。すると原住民は
「に、肉……」
「肉だ……」
おおう……こんなかわいらしい猫を食おうとしておる。その目はちょっと怖い。よっぽど腹が減っておるのか。話が通じそうな人が居たらいいんじゃが……あのエロイお姉さんはどうじゃろう?
「猫ちゃ~ん。こっちおいで~?」
わしは半裸のお姉さんに呼ばれるままに近付く。
「にゃっ!?」
するといきなり頭を殴られ掛けたので後ろに飛んだ。
「に、肉が……ちきしょう!」
猫好きじゃなかったんか~い! わしなんて食べても……たぶん超うまいな。でも、頭を焼いて治してくれる人も居ないし、分け与えられん。
とと、エロイお姉さんのせいで変な事を考えてしまった。会話を成立させるには、食わせるしかないか。
わしは次元倉庫から水の入ったコップと串焼き出して、お姉さんの前に並べた。
「食べ物……」
「腹へってるんにゃろ? 早く食えにゃ」
「へ? 猫ちゃんが喋ってるの??」
「いいから周りにバレない内に食えにゃ~」
「う、うん……」
お姉さんはいきなり現れた食べ物と念話に驚いていてわしと喋ってしまったが、声はお姉さんからしか出ていないので、他の原住民には猫と喋っているから、気でも狂ったのだと思われている。
お姉さんはお腹はへっているらしく、わしが催促すると凄い勢いで串焼きを食べ、水を飲み干した。
「まだ足りないかにゃ?」
「え……ええ」
「いきなり多く食べると戻すかも知れにゃいから、このパンは隠してあとで食えにゃ」
「あ、ありがとう?」
お姉さんは首を傾げながら牢屋の奥に行くと、追加で渡したパンをぼろ布で巻いてから戻って来た。
「えっと……猫??」
いまさらか~。まぁわしの事は猫肉としか思っていなかったもんな。
「猫だにゃ~。てか、質問させてくれにゃ」
「うん……」
「この地下牢には、肌が白い人間と同じ言葉を使える人は居るのかにゃ?」
「私は少し単語がわかる程度。たぶんみんなもそうだと思う」
「そのみんにゃとは、言葉は一緒にゃの?」
「違う人も居るわ」
「じゃあ、ちょっとだけ大きにゃ声を出して、こう伝えてくれにゃ……」
わしの伝言に、お姉さんは「マジで?」って顔を向けたが、口に出してくれた。
「猫の肉食べたい人、分けるわよ。欲しい人は檻から片手だけ出して待ってて」
お姉さんの声に呼応するように、鉄格子からはザザザっと片手が出て来たので、わしは探知魔法使う。
ざっくり半分は同じ言葉ってところか。何人かあとから出て来たけど、マネしておるのかな?
お姉さんには、いまから水と肉とパンを支給するからパンだけは隠し持つように通訳してもらい、わしは手の出ている人に配って歩く。
手の出ていないグループは、一人の男に通訳を頼んで、仲間には足を出させる。このグループにも配れば、九割方終了。どうやらふたつの部族がほとんどだったようだ。
最後に手も足も出ていなかった檻の前に移動したら、白人の男と女が向かい合わせで牢屋に入っていた。
「「……猫??」」
この二人は英語を使っておるな。そんなに痩せておらんけど、最近奴隷になったのか? でも、怪我が酷い。拷問でも受けたようじゃ。
「あにゃた達はお腹すいてないのかにゃ?」
「猫が喋り掛けて来た……」
「お前にも聞こえるのか……もう長くないかもな」
「あなた……あの世では幸せに暮らしま……」
「あ、そういうのはいいんで、これ、食ってくれにゃ」
「「はい??」」
なんだか男と女は鉄格子越しにイチャイチャし出したので、水と肉を出してカットイン。二人とも腹はへっていたらしいので、お互いの事を忘れて
パンは隠すように指示を出して、二人が首を傾げながら戻って来たら、話を再開する。
「二人はアメリヤの人間にゃろ? にゃんでこんにゃ所で拷問受けてるにゃ??」
「そうだけど……猫??」
「時間がないんだから、簡潔に答えろにゃ~」
「猫に言ってわかるかどうか……奴隷制度に反対しているのがバレて、仲間の名前を吐かされていたんだ」
おお! いい人に会った。アメリヤ王国の反抗勢力は貴重な情報じゃ。
「その仲間の人数と、トップの名前だけ教えておいてくれにゃ」
「なんで猫がそんなことを知りたいんだ?」
「わし、こう見えて人間なんにゃ」
「「はい??」」
「たまたま奴隷狩りを見掛けてにゃ~。原住民に見てられないことをやっていたから、アメリヤ王国をぶっ潰してやろうと乗り込んで来たんにゃ」
「「アメリヤ王国を潰す!?」」
二人が大声を出したと同時に、ジャラジャラと鎖を引きずる音と大声が聞こえて来る。
「誰が声を出していいと言ったんだ~! 教育的指導してやるぞ~!!」
地下室に反響するその声に、原住民は頭を抱えて震え、白人の男と女も真っ青な顔をして壁に張り付いた。
なんじゃ? 世紀末に居そうな半裸でデブのモヒカンが歩いて来た。
「にゃんか変なのが来たけど、アイツはにゃに? あ、声に出さずに頭の中で答えてくれたらいいにゃ」
わしの質問に、女が震えるような念話で答えてくれる。
「拷問官よ。教育とか言っているけど、奴隷を
「それはにゃん人も居るにゃ?」
「私が知ってるのはあいつだけ。お供には必ず二人付けて、拷問のあとに食事を配ったり配らなかったり。気分次第よ」
「貴重にゃ情報、ありがとにゃ~」
「礼はいいから早く隠れて!」
女に隠れろと言われたが、時すでに遅し。モヒカンは悪役レスラーかってぐらい鎖を振り回して原住民を威嚇しながら進んでいたので、わしに気付いた。
「……猫? タヌキか?? ちょうどいい。こいつの糞を食べたい奴は居るか~!」
誰がタヌキじゃ……それに、わしはうんこを食べさせる趣味なんて持っておらん。よくもまぁそんなプレイを知ってるもんじゃ。こいつ、しょっちゅう食ってるんじゃないか?
わしが怒りの目から気持ち悪い物を見る目に変わった頃、モヒカンはわしの目の前にて止まり、ゆっくりと両手を近付ける。
「逃げるなよ~? おい! そっちに行ったぞ。捕まえろ!!」
モヒカンの足を潜って後ろに逃げたら、二人の男がわしを捕まえようとするのでネコパンチ。腹に一発ずつ入れてブッ飛ばす。
「このタヌキが~~~!!」
「ホ~ニャニャニャニャニャニャニャ……ホワニャー!」
鎖を振り回して向かって来たモヒカンには、キャット百裂拳。ぶよぶよの脂肪を
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ……」
しまった! 猫の口じゃ決め台詞が言えん!!
ただ単に殴りまくって吹っ飛ばしただけだが、「お前はもう死んでいる……」と決めたかったわしであったとさ。
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